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星が近づく世界  作者: 藤苺めぇ


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5/7

消す側の人間

ミオは、静かな部屋で目を覚ました。


天井は白い。無機質で、装飾のない平面。光は柔らかく、どこから差し込んでいるのか分からない。音もない。外の気配も感じられない完全な密閉空間だった。


しばらく、動かなかった。


動き方を思い出すように、ゆっくりと指を動かす。次に腕。体を起こす。視界がわずかに揺れるが、すぐに安定する。


ここがどこなのかは、分からない。


だが、それに対して特に疑問も浮かばなかった。


ただ一つ、自然に理解できることがある。


自分は、ここにいるべきだからいる。


それだけだった。


ドアが音もなく開く。


黒いスーツの男が一人、部屋に入ってくる。無駄のない動き。足音はほとんどしない。


男はミオの前で止まる。


「起動確認」


短い言葉。


ミオはわずかに頷く。


「問題ありません」


自分の声が、やけに落ち着いていることに気づく。感情の起伏がほとんどない。必要なことだけを処理するための状態。


男はタブレットのような端末を確認する。


「記憶の欠損は正常範囲内」


「任務に支障なし」


ミオは何も言わない。


言う必要がない。


男が続ける。


「対象エリア、沖縄本島西側」


「異常現象の拡大に伴い、情報統制レベルを引き上げる」


その言葉の意味を、ミオは理解する。


情報統制。


つまり。


「排除対象は」


ミオが聞く。


男は視線を上げる。


「“理解した個体”」


曖昧な言い方だったが、それで十分だった。


理解した人間。


つまり、この世界の異常の“本質”に近づいた人間。


それを消す。


それが役割。


ミオはゆっくりと立ち上がる。


体の動きに無駄はない。迷いもない。


ただ、ほんの一瞬だけ、胸の奥に違和感が走る。


理由は分からない。


だが、それはすぐに消える。


男が端末を操作する。


空中に地図が表示される。沖縄本島。いくつかのポイントが赤く点滅している。


「優先対象はこの3点」


ミオは視線を向ける。


その中の一つに、見覚えがある気がした。


いや、正確には“感覚”だけが残っている。


具体的な記憶はない。


それでも、なぜか引っかかる。


男が言う。


「対象はすでに接触済み」


「現在、移動中」


ミオは頷く。


「追跡します」


男は最後に一言だけ付け加える。


「感情は不要だ」


ミオは答える。


「理解しています」


それは事実だった。


感情は、任務に必要ない。


むしろ邪魔になる。


だから消されている。


それが当たり前だった。


ミオは部屋を出る。


廊下は長く、同じ景色が続いている。どこまでも無機質で、現実感が薄い。外に出ると、夜の空気が肌に触れる。


その瞬間、ほんのわずかに呼吸が乱れる。


空を見る。


星が、近い。


異常だと分かる。


でも同時に、どこかで知っている気もする。


その感覚を振り払うように、ミオは視線を落とす。


任務を優先する。


それがすべてだった。


遠くで、街が崩れている。


光が落ちる。


地面が揺れる。


それでもミオの足取りは変わらない。


静かに、確実に、対象へ向かっていく。


そしてその対象の中に――


蒼たちが含まれていることを、


まだ誰も知らなかった。

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