本番開始とお使いと
いよいよ迎えた学園祭当日、開会式の後に僕はすぐに天文部の展示会場へと向かっていた。
この間まで準備していた写真パネルの他にも、みんなで作ったモデルロケットの実物展示。
更にはステラからのビデオメッセージや今年オーストラリアで観測された皆既月食の映像だったりと、見どころは沢山用意したつもりだった。
他ではあまり見られない展示だから、見てくれた人達はどんな反応をしてくれるのだろう。
そう考えると、まずは会場の雰囲気を確かめずにはいられなかったのだった。
「おはようございます」
「おはよっ」
「あれっ、おはよう」
会場には、この時間担当の少し緊張気味の矢口君と、普段どおりの様子の高塚さん、それに幸田部長も来ていた。
「そんなに人は来ないから、時間までゆっくり見て回ってくればいいよ」
笑いながらそう言ってくれる幸田部長。
去年も先生達や繋がりのある写真部の人達の他は、一般参加のお客さんがぼちぼちと見てまわる程度だったとか。
それを聞いて少し意外な気がしたけれど、「うちに興味があったらとっくに見学か、入部しているはずだしね」と少し寂しげに笑う部長を見て、なんとなく納得してしまった僕だった。
「あっ時間あるなら、紗英先輩の所見てきてくれないかなっ」
ん? 宮前先輩はこの時間、料理部の方に居るんだったっけ。
「限定販売の手芸部とコラボしたランダムキーホルダー付きのがあるんだよっ」
高塚さんから聞いた話だと、時間帯限定のセット版があるのだとか。
「ランダムとシークレットもあるんだってっ」
模擬店にしては、凝っているんだな。
「うんうん、さすが料理部は華があるねー」
部長の相槌がさっきよりも寂しげに聞こえてくる。
「それじゃあちょっと料理部の方見てきまーす」
返す言葉が見つからなかった僕は、そう言ってその場から逃げ出す事にした。
「楽しんでくるんだよー」
ああ、部長の声が更に寂しげに⋯⋯。
こうして僕はパンフレットを頼りに料理部の模擬店コーナーへと向かったのだった。
模擬店コーナーには、すでに人が集まり始めていた。
やっぱりコラボセットがお目当てだったりするのだろうか。
「は〜い。最後尾はこちらで〜す」
とりあえず、案内の声を目印に進んで行くと、行列を整理中の宮前先輩の姿があった。
「あれ〜。もしかして応援に来てくれたの〜」
「大人気ですね、先輩」
「毎年コレクションしている人もいるからね〜」
なんでも、元々は家庭部として1つの部活だった頃の名残りでずっと恒例になっているのだとか。
「今でも結構掛け持ちの娘が多かったりするんだけどね〜。そうだ、良かったらポップコーンもお勧めだよ〜」
そんな会話をしている間に列は進んでいき、やがて僕の順番が回ってきた。
「⋯⋯ロシアンポップコーン?!」
無事お目当てのコラボセットを手に入れた横に置かれていた怪しげなポップ。
『味はお楽しみのランダム6種類』
なんだか面白そうだけれど、本当に大丈夫なんだろうか。
そんな事を思いながらも、好奇心に負けた僕は、ついそちらも買ってしまったのだった。
「ただいまー」
天文部の方に戻ると何人かの女子生徒と、高塚さんが喋っているのが見えた。
どうやら友達が見に来てくれているみたいで、幸田部長と矢口君はその華やかな雰囲気に飲まれて、なんだか居心地が悪そうにしている。
「これ、差し入れです」
「悪いね。今年の新作かな?」
「宮前先輩にお勧めされたのですけど⋯⋯」
ポップコーンの説明をしながら机に置こうとした時、受け取ろうとして伸ばした部長の手とぶつかって、包みが床に落ちた。
「「あっ」」
その瞬間立ち上った、妙に刺激的なスパイシーさと微かな酸味。
「⋯⋯これって、ポップコーン⋯⋯だよね⋯⋯」
「あの⋯⋯味はランダムらしいですけれど⋯⋯」
そうだった、宮前先輩って新作パンの時みたいに時々ぶっ飛んだ料理を作るんだった。
とりあえず机の奥深くへとポップコーンを封印しながら、この調子で果たして無事に学園祭は終わるのだろうかと考え始めた僕だった。
次回『呼び出しと悪夢の再来と』は9月11日(金)21時頃更新予定です




