最後の準備
「よし、こんなものかな。みんなお疲れ様でした」
どこかほっとした様な幸田部長の声。
いよいよ来週末に迫った学園祭本番、展示用の写真と説明文のパネル作りの作業も、ようやく最終段階を迎えていた。
「今年は、盛り沢山になったわね」
結星先輩の言う通り、目の前に並んだ写真達を見ていると、入部してからの色々な思い出が蘇ってくる。
初めて参加したGWの観測会と、衝撃的だった3年生の先輩たちの引退。
入学して、偶然結星先輩と再会した成り行きで天文部に入ったばかりのあの時の僕は、まだ右も左も判らないのに、いきなり放り出された気がして、この先うまく仲間達とやっていけるのだろうかという不安と、春の夜空に描き出された星の物語に魅せられた期待感が入り混じった複雑な気持ちで夜空を見上げていた。
その後は、少しずつ星の勉強をしながら、モデルロケットを作って飛ばしたのだったっけ。
写真の中には、思い思いにデコられた3体のモデルロケットを囲んだみんなの笑顔が並んでいる。
飛ばした時間は一瞬だったけれど、また少し星との距離が近付いた気がした特別な一瞬だったな。
そして、初めて長い時間を一緒に過ごした、夏合宿。
思いがけないゲスト、オーストラリアからのショートステイで参加したステラを加えての濃すぎる3日間。
初めての流星群や星雲の観測に目を奪われたりもしたけれど、ある意味それ以上に強烈な体験だった、レクリエーションの数々。
普段は、いや、この天文部のみんなと一緒でなければ絶対に味わえなかった、特別過ぎる夏休み。
その締めくくりを飾った、オーストラリアの夜空と繋いだ合同観測会。
あの日、確かに長い距離を越えて日本の僕達と、オーストラリアにいるステラとその仲間達と同じ空気を共有していた数時間。
3年生の先輩達や、オーストラリアに帰ったステラ、そして自分の夢の為に部活を離れた佐藤先輩も今はここに居ないけれども、確かにみんなで作り上げてきた歩みと思い出がこうして並んでいる。
他のみんなも少し懐かしむ様な顔をしているのは気のせいではないんだろう。
「それじゃあ、次に当日の当番を決めたいんだけど」
幸田部長はそう言うと、簡単なタイムスケジュールを説明してくれた。
学園祭は、9時から15時までの6時間、会場の案内とサポートの為に2人ずつのペアを作って担当時間内の当番をして欲しいのだとか。
「去年も1時間半ずつで交代したのよ」
なるほど、万が一の時のサポートとかもあるし、責任重大だな。
「それで組み分けなんだけれど⋯⋯」
「あっ私、朝一は料理部の方が忙しくて〜」
宮前先輩も大変なんだな。
「俺はちょっと都合の悪い時間が!!」
遠山先輩は、どこかの運動部のデモンストレーションの手伝いでもするのだろうか。
「えっと、他に予定のある人は⋯⋯」
その他には特に希望がある人は無く、組み分けと担当の時間帯が決まったのだけれど⋯⋯。
「えっ、遠山先輩と」
若干顔を引きつらせているのは、大山君だった。
各組で、ある程度詳しい人とそうでない人のペアを作った結果、最初の9時から10時半までが矢口君と高塚さん。
その後お昼までが結星先輩と宮前先輩、12時から13時半までが幸田部長と僕、そして大トリが遠山先輩と大山君という事になったのだった。
「大山君なら佐藤君から色々聞いているだろうから」
聞いているというのは、天文知識の事なのか、それとも遠山先輩の操縦方法の事なのか、どっちの事だろう
「それに、担当時間外もなるべく僕はいるからね」
申し訳無さそうな顔をしながら説明をする幸田部長。
いや、この間もその遠山先輩と佐藤先輩のおかげでひどい目にあったばかりなんですけれど⋯⋯。
「よし!! しっかり腹ごしらえしてからゆっくり出来るな!!」
「遠山先輩、昼寝する時間じゃ無いですよ」
こんな調子で当日は大丈夫なのだろうか、そんな事を思いながらも最後の打ち合わせは進んでいくのだった。
次回『本番開始とお使いと』は9月4日(金)21時頃更新予定です




