謎のお楽しみタイム
佐藤先輩と久しぶりに再会した僕、大山君と矢口君の1年生男子組は、アルバイト終わりの遠山先輩と合流して、ご飯を食べに行く事になったのだけれど⋯⋯。
男だけのお楽しみタイムってなんだろう。
遠山先輩と佐藤先輩って一見全然違う性格に見えて、悪ノリする時は結構気が合うんだよな。
「おーい!! ここだ!! 」
そんな不安を抱えながら佐藤先輩の案内で歩いていくと、遠くからでもわかる遠山先輩の大声。
その先には、少し年季の入った1件のお店があった。
『大盛り歓迎!! 求む挑戦者!!』
それにいち早く気付いたのは、矢口君だった。
「⋯⋯なんですか。あの、のぼりは」
『2杯、3杯当たり前!! 』
よくわからないけれど、嫌な予感しかしない。
「どうした、お前達?」
佐藤先輩、そのにやけ顔は、絶対わかっていて聞いていますよね?
まるで遠山先輩の様に暑苦しい、謎ののぼりが立っているお店、近付いてみると、どうやらラーメン屋さんらしい。
他の2人はどうなんだろうと思って、そっと顔色をうかがうと、腑に落ちない顔の矢口君と、あきらめた様な顔になっている大山君。
佐藤先輩との付き合いは長いから、すでに色々と察しているのだろう。
「ねえ、大山君⋯⋯」
「うん⋯⋯」
「何をしているんだ!! 早く行くぞ!!」
こうして僕達は遠山先輩と佐藤先輩に挟まれて、逃げ場の無いままに、恐る恐る店の中へと足を踏み入れたのだった。
「いらっしゃい! おや、後輩かい!」
「おう!!」
店内に入るといきなり威勢の良い声と、それに応える遠山先輩。
声のした方を見ると、そこには店員さんらしい女の人が立っていた。
なんだかしゃべり方や雰囲気が遠山先輩に似ているけれど、もしかして、親戚だったりするのだろうか。
「なんだ!! 騒がしいと思ったら、渉か!!」
そんな事を考えていたら、奥から更に大きな声が聞こえてきた。
「おう!! 今日はいっぱい連れてきたぞ!!」
「よし!! 任せろ!!」
さっきから飛び交う大声のやり取りと、佐藤先輩が言っていた『男だけのお楽しみタイム』という言葉がフラッシュバックして、嫌な予感がどんどんと膨れ上がる。
そっと隣にいた矢口君の様子をうかがうと、どうやら彼も事態を察知した様だ。
「さあ、そんな所でぼやぼやしていないで、こっちへお上がり!!」
そう言って店員さんは奥にある座敷席を指さしている。
せめてテーブル席だったら、途中で逃げられそうな可能性もあったけれど、どうやら完全に逃げ道をふさがれたみたいだ。
覚悟を決めて席に着き、なるべく無難な物にしようと、メニューを探していると、遠山先輩の無情な声が響き渡る。
「伯父さん!! スペシャルで!!」
「おう!!」
伯父さんという事は、やっぱり遠山先輩の親戚なんだ。
いや、そんな事より、勝手に注文が終わっているのですけれど!?
「先輩、スペシャルってなんですか?」
「心配するな!! 味は天下一品だぞ!!」
恐る恐る尋ねた矢口君にサムズアップで返す、遠山先輩。
いや、心配しているのは味の事では無くて⋯⋯。
「お待たせ!」
やがて運ばれて来たのは、僕の頭がそのまま入りそうなボウル⋯⋯では無く、これでもかとトッピングが盛り付けられている、ラーメン丼(?)だった。
「これって⋯⋯」
「おう!! 心配するな!! ライスもおかわり自由だぞ!!」
いや、そちらの心配では無くて⋯⋯。
「ちゃんと食べて、スタミナつけるんだよ!」
更に追い打ちをかける様に運ばれてきたのは、小さな子供の手よりも大きな餃子が積まれた大皿。
「先輩⋯⋯」
「特製ニンニクマシマシスタミナ餃子だ!!」
目の前いっぱいに広がった料理の山を見ながら、僕は何故宮前先輩が行き先を聞いて、急いで帰っていったのか、その謎にやっと気付いたのだった。
「それじゃあ、久しぶりの佐藤と一緒に、学園祭の成功の前祝いだ!!」
その時の僕には前祝いでは無くて、ただの試練にしか思えなかったのだった。




