準備は順調?
「お疲れ様です」
「おかしいわね」
「うーん。確かこの辺に⋯⋯」
その日部室に顔を出した僕が最初に見た光景は、ノートを広げて何かを確認している様な結星先輩の姿と、部屋の片隅から返事だけ聞こえてきた幸田部長とのやり取りだった。
まさか、またもや問題が⋯⋯。
最近の流れで、またしても良く無い事を想像してしまう僕。
「はーくしょんっ!」
あっ、これはいつか見た光景。
「部長、大丈夫ですか」
「すぐ終わるからっくしょん!」
うん、またしてもホコリでくしゃみが止まらなくなっているらしい。
こんな調子だと、花粉症の季節には、一体どうやって過ごしているのだろうか。
そんな事を考えつつも、いつかの望遠鏡の時の大騒ぎよりも落ち着いていられるのは、僕がこの部活に慣れた証拠(?)なのかもしれない。
しばらくして、機材がまとめられている一角から出てきた幸田部長は、小脇に幾つかのボードみたいな物を抱えていた。
「前回の残りはこれだけみたいだね」
「備品帳の感じだと、もう少し残っていると思っていたのに⋯⋯」
どうやら2人で備品の在庫チェックをしていたらしい。
あらためて机の上に置かれた数枚のボードを見ると、どうやら薄い発泡スチロールの両面に、紙が貼られている様だ。
片面は剥がれやすそうな台紙になっているけれど、もしかしてこれが展示用のパネルなのかな。
「スチレンボードを見るのは初めて?」
不思議そうな表情に気付いたのか、幸田部長が説明してくれる。
「これを写真のサイズに合わせてカットするんだっくしゅん!」
あっ、まだ少しホコリが残っていたみたいだ。
「お疲れ様です」
「あれっ、部長風邪ですかっ」
「お大事に」
少し遅れてやってきた他の1年生達も、最初は少し部長の事が心配そうだったのに、理由がわかると、あっさりとスチレンボードの方に関心を向けていた。
久しぶりに部長が不憫だと思ったけれど、やっぱりみんなも部活に慣れた証拠⋯⋯、いやこれでいいのかな?
写真が出来上がってきたら、この台紙の上に糊付けをして、展示用のパネルに仕上げるのだとか。
「任せてっ。こう見えても、図画工作は5だったしっ」
「愛純、それは小学生の頃でしょ」
「うん、高塚さんも矢口君も、その時はよろしくね」
すっかり安心した顔の幸田部長。
去年はこういった仕上げに詳しい松井先輩も居たけれど、写真部との掛け持ちで忙しく、今の2年生達が中心になって作業をしたのだとか。
「多分これだけじゃ足りなさそうだから、写真部に聞いてみようかしら」
あらためてボードのサイズと枚数を備品ノートと見比べていた結星先輩が呟いた。
えっ、またしても写真部?
という事は、必然的に結星先輩が島本先輩と交渉する事になるわけで⋯⋯。
「あの、これってどこかで売っていますよね」
「そうね、去年は松井先輩に教わって、幸田君と佐藤君が買いに行ってくれたの」
「あの時は、松井先輩お勧めの画材屋さんまで行ったけれど、多分近くのホームセンターにもあると思うよ」
「ホームセンターなら遠山君が詳しいかもね〜」
確かに、遠山先輩なら色々知ってそうだ。
「それじゃあ、僕達1年生が買い出しに行きますよ。来年の為にも色々知っておかないと」
「牧田君、最近部活に熱心だね」
いや、違うんだ大山君。
まさか結星先輩と島本先輩を近付かせたくないだけとは言えるはずも無く、強引に話題を変えてみた。
「そういえば、高塚さんが工作系得意って意外だね」
「ああ、あれはね⋯⋯」
ある年、夏休みの自由工作でドール用のミニチュアハウスが作りたいと言い出した高塚さん。
結局は矢口君が色々と手伝わされる事になって大変な思いをしたのだとか。
「もしかして5を貰えたのは、矢口君の手伝いがあったからとか?」
そう尋ねた時の矢口君の複雑そうな顔を見た僕は、この先の計画に少しの不安を覚えつつも、買い出しの打ち合わせをするのだった。
次回『買い出しは危険がいっぱい?』は31日(金)21時頃更新予定です




