ひとりぼっちの百面相
「この写真綺麗だね」
「これ、私が撮ったのよ」
「上手に撮れてるね。良かったら今度うちの撮影会にも参加してみない?」
「たまたまだし、私はただ、星を見るのが好きなだけだから」
「もうすぐ紅葉の季節だし、倉野さんに似合うと思うけれどなー」
島本先輩?
学園祭の展示用の写真のチェックですよね?
結星先輩を誘っている訳では無いですよね?
画像の確認をしながら、雑談混じりのやり取りをしているだけなのに、次々と余計な事を考えてしまう。
お互いに天文部と写真部の副部長同士だから、元々交流も有っただろうし、社交辞令もあるのだろう。
うん、モニターを見ながら話しているから、距離感も近く見えるだけ。
思い過ごし、思い過ごし。
そんな事を考えながら、1人心の中で百面相をしていた時だった。
「お疲れ様で〜す。ひと息いれませんか〜」
「色々あるから好きなの選んでねっ」
差し入れのジュースを買って戻ってきた宮前先輩と高塚さんの声で現実に引き戻される。
「おうっ!! ありがとな!!」
いつもより少し大きく聞こえる遠山先輩の声。
やっぱり何か変に感じていたのか、どこか空気を変えたかった様にも感じる。
「まずは、特別講師の島本君からね〜」
少しおどけながら、島本先輩にジュースを差し出す宮前先輩だけれど、その笑顔がいつもより固い様にもみえる。
「悪いね。宮前さん」
にこやかにジュースを受け取るその姿は、良い人そうで嫌味が無い。
最近、少し悩み事が多かったから、変な方向に考えすぎているだけ。
そう自分に言い聞かせて、僕もジュースを手に取った。
「それじゃあ、良いパネルが出来ます様に」
「まだまだこれからだよ〜」
何故か乾杯の音頭を取り始めた幸田部長にすかさず宮前先輩の突っ込みが入りながらも、そのまま僕達は缶を軽くぶつけ合うのだった。
「これはうちも責任重大だなー」
「そのあたりは気にしないで、私達がお願いしている立場なんだから」
結星先輩、別にそんなに気を使わなくても。
またしても軽く百面相になりかける僕。
「実際、モニター上と実際に印刷で出る色合いって、微妙に違ったりするんですよね」
「うん、その辺りは経験と、やっぱり最後はテスト印刷をしてみて確認だね」
冷静に島本先輩に質問を始めた大山君を見ると、やっぱり僕が勝手に思い込み過ぎているだけなのだろう。
「後は、サイズ感とかも少しズレるし」
単純に印刷してもらえばいいと思っていたけれど、意外に細かい注意点が、色々とあるらしい。
全然知らなかった事を丁寧に教えてくれる島本先輩を見ていると、やっぱりただの気さくな先輩なのかもしれないな。
「あら、もうこんな時間」
ひと通り打ち合わせが終わった頃、結星先輩の声で顔を上げると、窓の外はすっかり薄暗くなりかけていた。
「遅くまでごめんなさいね」
「大丈夫。うちの部活も編集している時は、いつもこんな感じだから」
「それじゃあ、本番もよろしくお願いします」
「うん、良い仕上がりになるといいね。それじゃあ、また」
そう言って島本先輩は立ちあがり、軽く会釈をして出ていった。
「こんなに遅くなるの久しぶりっ」
「日の入りが早くなっただけだよ。合同観測会の時は、このくらいの時間からが本番だったでしょ」
「優、もう少し言い方とかあるでしょっ」
そうか、もう秋が近付いているんだ。
「それじゃあ、私達も帰りましょう。みんな気をつけてね」
「「お疲れ様でした」」
口々に挨拶を交わして部室を出ると、暗やみを増していく西の空に、少し目立つ白く輝く星が見えた。
「あれは⋯⋯」
「デネブね」
もう1度見上げると、少し前に合宿で見た時と同じ様に優しく輝いていたけれど、その姿は、今にも西の空に沈んでいこうとしている。
その姿はまるで、楽しかった夏が思い出に変わり、新しい季節の訪れを告げているかの様だった。
次回『準備は順調?』は24日(金)21時頃更新予定です




