答え合わせの時間
「先輩、これ原稿なんですけど⋯⋯」
「あら、もう出来たの。助かるわ」
久しぶりに見る結星先輩の笑顔。
だけれど、少し疲れている様に見えるのは僕の気のせいなのだろうか。
もしかして、佐藤先輩が抜けた分、色々と負担が大きくなっているのかもしれない。
そういえば、こうして結星先輩と、まともに話すのは、久しぶりな気がする。
この前の合同観測会の時は、機材のセッティングの手伝いで忙しかったし、2学期が始まったと思ったらいきなり色々ありすぎたし⋯⋯。
そして、最近の僕はといえば、学園祭用の原稿を仕上げる事に専念していた。
相変わらず真理恵ちゃんの事も、うやむやになったままだったけれど、まずは何よりも手薄になった天文部の事を優先して、少しでも力になりたかったからだ。
決して色々理由をつけて、結星先輩と顔を合わせるのを避けてきた訳では無い⋯⋯はず。
「この調子で順調に準備が進めばいいのだけれど⋯⋯」
ふと漏らした弱気な様子に、更に不安が募る。
何か問題でも起きているのだろうか。
「他に、僕に出来る事とかってありますか」
「うん、すぐにでは無いけれど⋯⋯」
結星先輩の説明によると、みんなで選んだ写真の画像を見やすい様に調整したり、印刷が終わった後は、展示用のパネルにする作業とかがあるのだとか。
去年は写真部も兼任していた松井先輩が居たから、スムーズに作業が進んで、幸田部長と佐藤先輩がそれをサポートする形だったらしい。
松井先輩は、今頃受験に専念しているだろうし、PC関係に強かった佐藤先輩も今は居ない。
「幸田部長や大山君が詳しそうだから、なんとかなりそうだけど⋯⋯」
確かに経験者の幸田部長や、佐藤先輩とも付き合いの長い大山君も、色々聞いているだろうからなんとかなるだろう。
でも、来年の事を考えれば僕や矢口君、高塚さんといった他の1年生も色々頑張っていかないと。
「あの⋯⋯、僕も頑張ります」
「ありがとう。大変だけど、あまり無理しなくてもいいのよ」
「大丈夫ですよ」
「部活も大事だけど、プライベートの方も大切にしてね」
「あっ、はい」
⋯⋯プライベート?
もしかして結星先輩、真理恵ちゃんの事を言っている?
考え過ぎだとは思うけれど、なんとなく気まずくなって、以前と変わらない様に見える笑顔が、まともに見られない。
思わず曖昧な返事をした後、なんとか話題を変えたかった僕は、気が付けば全然関係の無い事を口走っていた。
「そういえば、学園祭って、なんだか縁日みたいですね」
「えっ?」
「ほら、いつもと同じ場所なのに、全然空気感が違ったりしますよね」
戸惑う結星先輩を目の前に、自分でも何を言っているのかわからないままに僕は言葉を続けていた。
「だから、僕達も頑張って盛り上げましょう」
「そうね。今度は私達がやらなくちゃね」
そう言って微笑んだ結星先輩の顔はさっきよりも明るくなった様にみえた。
「そういえば、あれから、半年ぐらいになるのね」
「えっ」
「川ですれ違った時の事」
この間、友也と話していた時に考えていた事、まさか結星先輩も⋯⋯。
「まさか、こんな形で再会するとは思わなかったけれど」
「そうですね」
確かにあの時、こうして同じ部活をする事になるなんて思いもしなかった。
そして、ちゃんと覚えてくれていたんだ⋯⋯。
「あれ〜、また2人きりで何か話してる〜」
「何言ってるの、紗英。それより原稿進んでる?」
「もう少しだから。あのね、新しいお店見つけたんだけど、勉強に付き合ってよ」
「普通に食べたいだけでしょ」
「そんな事言わないで〜」
ちょうど顔を出した宮前先輩の登場で、そのまま会話は途切れてしまったけれど、あらためて今何が1番僕にとって大事な事なのか、その答えが見つかった気がした。
来週の更新はお休みさせて頂きます
次回は7月10日(金)21時頃更新予定です




