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成り行き天文部員牧田君の日常 〜愉快なセンパイを添えて〜  作者: 甘木 


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つないだ架け橋

 知っている星が見えるのに、知らない夜空。


 夏合宿で北斗七星を見上げていた時のステラもこんな気持ちだったのかな。



「ミナサン ミエマスカ」


 その光景に、声を上げるのも忘れて見入っていた僕達は、少し不安気なステラの声で我に帰った。


「ちゃんと見えてるよ」


「ありがとう、ステラ」


 口々に画面の向こうに声をかけるとほっとした様子と、聞き取れはしないけれど、盛り上がる現地の様子が伝わってくる。


「Alright,next is this one.(よし、次はこっちだ)」


 そんな声と共にカメラの視点が移動していく。


「あっ!」


 短く呟く結星先輩。


 その声につられて覗き込んだ画面には、左上がりに少し歪んだ平行四辺形みたいに並ぶ4つの星が映し出されていた。


「南十字星だねっ」


「本物だ⋯⋯」


 隣で呟いていた矢口君と高塚さんの言葉を聞いて、僕もその星座を思い出す。


 みなみじゅうじ座ーー1番小さい星座だけれど、南半球を旅した人達にとっては1番大切な目印。



 

 あの十字の縦軸を南に伸ばせば、天の南極だったっけ。


 もしかして、ずっと北に伸ばせば日本まで届いているのかも。


 少し子供じみた考えだったけれど、その時の僕には、その線が日本とオーストラリアを繋ぐかけ橋の様に思えたのだった。




「よし、そろそろこちらからお返しの番だ」


 佐藤先輩の声に顔を上げると、辺りはいつの間にか日が落ちかけて、薄い闇と茜色のグラデーションが空を彩っていた。


「いい感じだよ」


 セットされていた望遠鏡と、繋がれたカメラのモニターをチェックしていた幸田部長が返事を返す。




 しばらくして、画面上でも切り替わった日本の夕暮れが映し出された。


「もう少し、倍率下げれます?」


「少し焦点を絞って」


 映像をチェックしながら声をかけてくる大山君達の声に合わせて、ファインダーを覗き込む幸田部長と一緒に望遠鏡の角度や高さを調整していく。


「これでどうかな?」


 西の空に輝く金星は、日本では短い時間で沈んでしまう。


 肉眼ではしっかりと見えているのに、中々オーストラリアに届けられないのがもどかしい。


「OKだよ〜」


 やっと届いた宮前先輩からのその声に、思わず顔を見合わせて笑う幸田部長と僕。


「間に合って良かった」


 いつの間にか吹き出していた汗を拭いながらパソコンの前に戻ると、少し太った三日月みたいな金星が映し出されていた。


 オーストラリアの中空でもう1つの月の様にくっきりと輝いていたその姿よりは少しぼやけて見えるけれど、暮れ始めた西の空の中で、しっかりと存在を主張している。


「So cool!(いい感じ)」


「Really the same one?(本当に同じ星なの)」


 さっきまでの僕達を見ているかの様に聞こえてくる呟き。


 早口の少し耳慣れない発音、わからなくても伝わるその言葉。


「おーい!!こっちも使えるぞ!!」


 急きょ予備の望遠鏡をセットしていた遠山先輩からの声に合わせて映像が切り替わる。


「Oh!」


「Amazing」


「もらった物は倍返しだ!!」


 なんだか少し意味が違う気がするけれど、遠山先輩が映していたのは北斗七星だった。


「Not giving up!!(こっちも負けていられないぞ)」


 あれ、なんだか向こうにも遠山先輩みたいな人が居る?


 しばらくして映像がオーストラリアからの物に切り替わると、少し白味がかった黄色い星とオレンジ色に近い星が並んで映っているのが見えた。


「これは⋯⋯アルファ・ケンタウリか!」


 どちらかというと普段はクールな佐藤先輩が興奮気味だ。


「特別な星なのかな」


「太陽系から1番近い恒星系の1つだよ。」


 大山君の説明によると、宇宙へ進出出来る時代が来た時には最初の目標候補の1つなのだとか。


「よし、そう来たならこちらは⋯⋯」


 その日、時間の許す限りお互いの夜空を紹介しあった僕達には、夜空に浮かぶオーストラリアとのかけ橋が確かに見えていた。

長かった夏休みもこれで終わり、次回からは二学期なのですが⋯⋯

次回『波乱の始業式』は5月29日(金)21時頃更新予定です

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