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成り行き天文部員牧田君の日常 〜愉快なセンパイを添えて〜  作者: 甘木 


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つながる夜空

 まだまだ熱気の残る夏の終わりの夕暮れ、僕達は再び部室に集合していた。


「よし、テストはいい感じだ」


 自前のノートパソコンを持ち込んで、通信環境を設定していた佐藤先輩が満足そうにうなずく。


「こちらも順調、うまくリンク出来て良かったよ」


 こちらは望遠鏡とカメラの接続を担当していた幸田部長。


 僕はといえば、指示されるままにケーブルの接続を手伝ったりした程度だったけれど、これから始まる夏休み最後のビッグイベントに心を踊らせていた。

 



「ちょっとステラの方も確認してみるね」


 そう言ってスマホを取り出した結星先輩の手元から、久しぶりの声が聞こえてきた。


「ミナサン オヒタシブリ デス」


「なんだか美味しそうな挨拶だねっ」


「愛純、違うでしょ」


 退院して間もない三角巾姿が痛々しい矢口君だけれど、高塚さんとの相変わらずなやり取りを聞いて一安心だ。


「コンニチワ How's it going?」 


 続けて知らない声や、歓声らしい物音も聞こえてくる。


「ステラの友達も集まっているんだって」


 結星先輩が言うには、ステラが帰国してから向こうで日本での体験を話している間に噂が拡がり、イベントの参加希望者が集まってきたのだとか。


 予想外の盛り上がり方に驚いたけれど、こうして直接海外の同世代とやり取りが出来る経験なんて、なかなか出来ない事かもしれない。


「あとはこちらの回線から繋ぐから任せて」


 そう言って佐藤先輩がパソコンからソフトを立ち上げて操作を始めた。


「設定は間違っていないはずだけど⋯⋯」


 しばらく無言でキーボードを叩く姿に、少しだけ不安になる。


 やがて画面上に、すでに暗闇が広がっている空と、少し懐かしいステラや、その仲間達の姿が映し出された。


「本当につながっているんだね〜」


 宮前先輩の言うとおり、時差を感じさせる夜空と英語のやり取りが、リアルタイムで遠い場所と繋がっている事を実感させてくれる。


「なんだか寒そうだね」


 確かに大山君の言うとおり、みんな結構厚着をしているように見える。


「日本の2月くらいになるから、その分星は綺麗に見えるんだって」


「そういえば、季節が逆になっているんだっけ」

 

 この間オーストラリアについて調べておいた事が役に立つ。


 初心者の僕にも天文部の為に役立てる事があるっていいな。


「Hello everyone. アイ ラブ オージービーフ!!」


 遠山先輩、ちょっとそれはどうかと⋯⋯。 あっ、通じてる。


「Hi! I like トンコツ」


 向こうにもノリのいい人いるんだ⋯⋯って豚骨?!


 ラーメンってオーストラリアにもあるんだ。


 ちょっと意外な気がしたけれど、このやり取りをきっかけに、片言だけれど、ひとしきり会話が盛り上がる。


「あの⋯⋯そろそろ観測の方を⋯⋯」


 セッティングされた望遠鏡の前で1人さみしそうに佇む幸田部長。


 そういえば、今日の本題はこっちだった。


「ごめんなさい。そろそろ始めましょう」

 

 あらためて結星先輩がステラに伝えると、やがて画面にはオーストラリアの夜空が拡がった。


 すでに日が落ちた空の中に一際目立つ明るい輝き。


「あんなに高い所に」


「あれが金星なんですか?」


 確か金星って日が沈む頃に結構低い場所で見えた様な⋯⋯。


 思わず肉眼でこちらの西の空を見上げてみたけれど、そこにあったのは、沈みかけながらもまだまだ存在を主張している太陽だった。


 あらためて日本との距離を実感する。


「南半球とこちらでは、見える角度が違うから。他にもほら」


「あれはスピカでしたっけ」


 記憶を頼りに、夏合宿で観測したばかりの夏の大三角形を探してみる。


「あれっ」


 かろうじて見つけたけれど、日本とは違い、その姿は西の空に沈みかけようとしていた。


「こんなに見え方が変わるんですね」


 学校での知識としてだけでは無く、こうして体験してみて初めてわかる気付き。


 そこには確かに繋がっているはずなのに、知らない夜空が拡がっていたのだった。


 



次回ももう少しだけオーストラリアの夜空の様子を、『つないだ架け橋』5月22日(金)21時頃更新予定です

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