なやみごころ、はずみごころ
「はあ⋯⋯」
あの日、結星先輩とステラに会ってからの真理恵ちゃんの様子と別れ際の出来事。
自分の思い違いかもしれないし、それとも本当にただの偶然だったのか。
あの日の以来、真理恵ちゃんとはまだ連絡をとっていない。
変に意識するのも気恥ずかしいし、それに結星先輩に知られたら⋯⋯。
いや、結星先輩の事は一方的に憧れているだけで、別に片想いとかそんな訳でも無くて⋯⋯。
友也に様子を聞いてみようかとも思ったけれど、変に勘ぐられるのも何か嫌だし⋯⋯。
そんなわけで最近の僕はというと、落ち着かない気持ちのまま課題を片付けたり、ぼんやりと動画サイトを眺めたりして過ごしていた。
『無事退院しました』
矢口君からのメッセージが天文部のグループチャットに送られてきたのは、そんな日々を過ごしているある日の午後の事だった。
『退院おめでとう』
『お祝いだね』
『無理しないように』
久しぶりに賑わう画面を見ながら、僕も『お大事に』と返事を返す。
合宿以来、天文部のみんなとも会っていないけれど、こんな悩み事なんか抱えずに夏休みを満喫しているのかな。
そんな事を考えている間に、結星先輩から空港らしい場所で撮られたステラとのツーショットの画像が送られて来た。
何事も無いかの様に2人並んで微笑んでいる姿を見ると、遊園地での偶然の出会いが恨めしい。
『ステラも無事オーストラリアに帰りました。沢山の素晴らしい思い出をありがとうと言っていました』
ハプニングも色々あったけれど、楽しい夏合宿だったな⋯⋯。
そしてハプニングと言えば遊園地⋯⋯。
再び、考え事のループに入りそうな時に新着メッセージが届く。
『矢口君も退院したし、予定が合いそうだったらみんなで集まって集合写真をステラに送ってあげるなんてどうかな』
『どうせならネットをつないでオーストラリアと同時天体観測会なんかどうだ?』
『そんな事出来るんですか!?』
思いがけない発言は佐藤先輩からだった。
情報処理部も兼部して、PC関係に強いのは知っているけれど、そんな事が出来るのだろうか。
『こちら側の通信環境とかのセッティングは俺と大山がするし、高木先生に許可を取れば、校内のWi-Fiも使えると思う。ステラの方は最悪スマホでも何とかなるだろう』
『えっ、僕もですか』
毎度の事ながらナチュラルに巻き込まれている大山君。
『うちの機材で画像をリンクさせるには⋯⋯』
幸田部長も何か考えが思いついたみたいだ。
『この企画をまとめたら学園祭でも発表出来そうね』
『私達がオーストラリアとの架け橋になれるって事?』
今ひとつ話題について、ピンと来ていなかった宮前先輩や高塚さんも乗り気になって来ている様だ。
『校内だったらテントは必要無いか』
なんで遠山先輩はキャンプしようとしていたのか謎すぎる。
『素敵な話だけど1度ステラにも聞いてみるから。とりあえずそれまでに、観測テーマを考えておくという事でいいかしら』
こうしてその日の会話は一段落したけれどもずいぶんと面白そうな事になってきたな。
「⋯⋯観測テーマか」
今まではほとんど先輩たちに任せっぱなしだったけれど、そろそろ僕も何か考えてみたい。
「8月 天体 日本 オーストラリア⋯⋯」
とりあえず思いつくままに検索ワードを入力して記事を読み漁ってみる。
「えっ、オーストラリアでは日本と上下逆さまに星座が見える!?」
「なるほど、時間は向こうの方が1時間早いのか」
少し調べただけで次々と今まで僕の知らなかった情報が目に飛び込んでくる。
有名なスポットくらいしか知らなかったオーストラリアが、ステラとの出会いを通じてどんどん身近な国になっていく気がする。
「この計画、うまくいくといいな」
こうして、夏休み最後のビッグイベントの事を考えている間に、いつの間か真理恵ちゃんとの事は、頭の片隅に追いやられていた。
というわけで何やら始まるようですが、どうなる事やら?
次回『◯◯計画始動』は5月8日(金)21時頃更新予定です




