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WSS/1-異界冒険譚  作者: たかしモドキ
第8話「ああ、それは俺もやるわ」
72/80

-【8-9】-この男の強さは、常軌を逸している

この世界に来てから幾度となくリュンクを守り

絶対優位状態を作ってきた時間遅延が通用しない。


未曾有(みぞう)の脅威がそこには居た。


まるで土木重機の様な剛力により

気管を潰されたリュンクには、

この窮地に対応できる手札が無く、

呼吸もままならないこの状態では、

脚をバタつかせてもがく事しかできない。


喉元を握力により加圧され

顔面は血管を浮き出させ赤黒く変色、

目玉は今にも飛び出してしまいそうだ。


「オーケンさん。

 この子供は何ですか?」


物腰の低くい言葉と穏やかな声色、

大男は、行動に反して不気味なほど沈着で、

それが一層に底知れない危険性を感じさせる。


「その子を離してくれズヒー。

 これは不可抗力で起こった事なんだ、

 誓ってお前達を害するつもりはない」


ズヒーと呼ばれたその男の攻撃的な態度に対し

オーケンは、ひどく焦った様子で立ち上がり、

感情を押し殺しつつ出来るだけ慎重に言葉を紡ぐ。


本来のオーケンならば、問題を解決するにあたり

まず状況をフラットに整える質で、

言葉よりも先に、その腕を振り払って見せるはずだが、

彼は問答による解決を選んだ。


それは、このズヒーという大男が、

オーケンを持ってしても強引に場をいなせず、

慎重にならざるを得ない相手だと物語っている。


その巨体は2メートルに迫るオーケンよりも更に一回り大きく、

身につけた軍旗ほど大きなポンチョのフードの中に、

感情の読めない面が覗き、三角形の不気味な双眼が光っている。


オーケンの制止を聞いているのか否か、

大男ズヒーは、リュンクの喉元を締めつける力を一切緩めず、

尚も強烈に壁に押し付け続けた。


「オェ!!!ッ!!!!」


それも束の間、再度リュンクの背後から

ブワァっと遅延領域が広がり時間遅延の予兆が生じる。


リュンクは、状況が一切飲み込めなかったが、

「しめた!」と思い、今度こそ

時間遅延を有効に使おうと遅延領域の完成を待つ。


しかし大男ズヒーは、それを読み取るや否や、

素早い動きで自身の(ふところ)(まさぐ)り、

手の平に収まる何かを取り出す。


それは、生き物の鱗に酷似し、

黄土色で質感は陶器に近い。


ズヒーは取り出したそれを、ただちに握り潰すと、

その粉塵を(たちま)ちにリュンクに投げつけた。


「ッ!!??」


何を使って、何をされたのか全く分からないが、

粉塵を周囲に散布されてから、

時間遅延の気配は途端に消え失せ、

どれだけ待っても体感時間に変化は起こらない。



リュンクは、極限の意識化の中で、それでもなお

その事実に恐れ慄いてしまう。


大男ズヒーによって時間遅延は完全に無力化されたのだ。


先ほど遅延領域から引き剥がした時の強引な力技ではなく、

現象の根本にピンポイントに対処した、知的な処置。


遅延領域、ひいては時間遅延そのものを発動不能にされた。


これは他に表現しようもない、リュンクの完全な敗北であり、

自力でこの状況を覆すことは、不可能だと証明された様なもの。


「おう!!其処元を離さんかい!!デカブツ!!!」


その時、ようやく状況に対しての対応を決めたのか、

大男ズヒーに声を張り上げた篤丸は、臆する様子もなく

封を解いた長巻を手に取り、素早く抜刀の姿勢をとった。


「おぉぁっ!?」


しかし、篤丸の長巻、その鞘から白刃が抜刀される事はなく、

瞬く間に逆関節を決められ組み伏せられてしまう。


想定外の事に、目を白黒させた篤丸は、

地面に叩きつけられた顔面をくねらせ自分の背後に向けて叫ぶ。


「何をするんじゃ!!オーケン殿!!!」


その言葉を無言で受けるオーケン、

篤丸を組み伏せたのは彼だった。


オーケンの剛腕により関節を固められ、

更にその巨体で全体重をかけられた篤丸は、

まるで地に縫われた様にピクリとも動けない。


「やめろ」


「何でじゃ!!

 何で止めるんじゃ!!

 其処元が殺されても‥‥いっ‥!?」


荒ぶる怒声の途中、篤丸は声を詰まらせた。


それは今まで対峙した事のない

強烈な威圧をオーケンから浴びせられ

彼の生物的本能が理性を御したからだ。


「それを抜いたら、俺達はもう生きて帰れない。

 あいつには絶対に刃を向けるな」


篤丸に当てられたオーケンの威圧は、

怒りにより剥き出しにした野生の牙ですら

瞬時に攻撃性を損う程、桁違いのオーラを放っていた。


「昨日とは違う。

 お前も戦士なら理解しろ」


篤丸は、恐怖により全身から脂汗を滲ませ

体を硬直させたまま返事すら返せない。


「オーケンさん。

 この子供は何ですか?」


不気味な程に淡々と、

同じ声色、同じ言葉で

繰り返しそう告げた大男ズヒーは、

オーケンの驚異的な威圧を受けても尚、沈着で

もう今に、リュンクの首をへし折ってしまいそうだ。


「ズヒー、頼むよ。

 お前と敵対したくない。

 その手を離せ」


先ほどと異なり、オーケンの言葉は要求ではなく命令。


その強い言葉から何かが生じ、

目に見えぬ空間に鋭いプレッシャーが走る。


「いっ!!おぇっ!!」


緊張の張り詰めた室内には、

呼吸困難による苦痛に堪える

リュンクの発した濁音が無様に響いた。


「これは三度目になりますが‥オーケンさん。

 この子供は何ですか?」


無論、ズヒーはその手を緩める容赦はなかった。



「ズヒー‥‥‥」



その瞬間、場の雰囲気が明らかに変わる。



異変を一番ダイレクトに感じていたのは、篤丸だった。


既に場に満たされていた緊張を押し潰しながら、

急速に膨張し始めた背後のプレッシャー。


武士然として図太い性格をしてるはずの篤丸が、

目元に涙を浮かべて恐れ震えている。


その底知れぬ命の脅威を前に。


いつもの優しげで大らかなオーケンでは、想像もできない気迫、

まるでオーラの様にうねり膨張した彼の爆発的な闘志は、

本来感知できない視覚に影響を及ぼし空間を歪めて見せた。


ついさっきまで大男ズヒーよりも小さく見えたオーケンの体は、

今では同等かそれ以上に感じられる。


オーケンは【決意】を、行使しようと全身に闘志を(みなぎ)らせた。


両者間に生じる気迫の境界線がぶつかり合う

不可視の戦場は、今にも火花が咲き、血飛沫が弾けそうだった。



「やめな。

 ズヒー、手を離しておやり」



これ以上なく極まった緊張を解きほぐす優しげな声。


それは赤色に染まるロビーから聞こえた。


声の主人は、先ほど体をバラバラに飛び散らせたはずの

長耳の敏捷のものだ。


全員の意識がその発信源に集中する。


「長耳。無事ですか?」


言葉の主を確認してから、

ズヒーは変わらず穏やかな声でそう言う。


「良いから今すぐ離してやりな。

 その子等に悪意は無いよ。

 あたしが下手をこいただけさ」


「そうでしたか。

 それは失礼な事をしました」


大男ズヒーは長耳の言葉に従い、

すぐに腕の力を抜き、リュンクの拘束を解く。


長耳に従順で素直なズヒーは、

嘘の様に優しくなりリュンクを地面に下ろした後、

乱れ、皺の入った彼の衣類を丁寧に直している。


「ゲホっ!!オェ!!」


「大丈夫ですか?

 すいませんでした。

 どうぞ、原積水(アブリン)をお飲みください」


地に膝を付いてリュンクの視線に合わせたズヒーは、

腰の後ろから原積水(アブリン)のアンプルを取り出すと、

先端を砕き、その中身をゆっくりとリュンクの口に流す。


「ん!?んっ‥‥っはぁ‥はぁ‥‥」


朦朧とする意識の中で、あれこれ考えられないリュンクは、

口にあてがわれた液体を無意識に飲み込んだ。


口内にするりと流れ込んできた原積水(アブリン)は、

喉を通過して直ぐに、腫れ上がり気道を損なっていた気管に作用し

リュンクの喉に走っていた激痛を緩和させる。


「これで大丈夫だと思います。

 オーケンさんも失礼しました。

 どうぞ、無礼をお許しください」


オーケンに向き、謝意を告げる大男ズヒー。


「いや‥俺も迂闊だったよ。

 まさか長耳でも手に負えない紋印だったとは‥」


そう、平常と同じ様子で喋るオーケンだが、

全身には、まだ闘志や気迫が憑依している様に見える。


ズヒーを見つめるその目は、刺し殺さんばかりに鋭利だ。


一方で、リュンクは息も絶え絶えの状態から復帰しつつある。


その意識が制御下に戻るのと比例して、

目の前の大男が持つ純粋な強さに対して

言い表せない恐怖心が心に満ちていく。


この男の実力は、確実にサルホーガを超えている。


サルホーガは驚異的な身体能力とセンスで、時間遅延に対応したが、

それ自体に干渉し妨害する様な真似はできなかった。


だがこの大男は、時間遅延が発動するよりも早く、それを妨害し、

更には時間遅延に対して的確に対処し完全に無力化までして見せた。


リュンクはサルホーガとの死闘において‥


時間遅延を最大限に使い、

人間性を欠如させ、

保身を捨て、

怨嗟に従う(けだもの)と成り果てて、


仲間の必死と、奇跡の様な偶然が重なって

ようやく、ギリギリの勝利を掴む事ができた。


それを踏まえ考えれば分かる。


この男の強さは、常軌を逸している。


リュンクの脳裏にオーケンの言葉が蘇る。


『非道な事を言うが、お前さんがこのままの状態で、その道を進んで行けば

 きっと一年も経たずに命を落とすだろう』


まっことその通りだった。


紋印の異能だとか、死にづらい体とか関係ない。

もしもオーケンが居なければ、今ここでリュンクは死んでいた。


それが感覚的にも知的にも深く知れ

だからこそ全身を粟立たせる寒気が治らない。


「リュンク坊や‥‥すまないねぇ

 どうやら私は少々奢っていたみたいだよ

 怖い思いをさせちゃって悪かったよ‥」


長耳の声に、ハッと我に返ったリュンクは、

自分の持つ紋印で、彼女に怪我をさせてしまった事思い出し

謝罪を告げようと声の方向へ足を進め、


その先の光景に戦慄する。


球水晶のホールで横たわる長耳の敏捷は、

胸から下が欠損し、その周囲には彼女の脚や、

生々しく痙攣する臓物が鮮血に(まみ)れ散乱していた。


「ぁ‥‥ぁあ‥‥どうしよう‥‥

 っごめん‥ごめんなさいっ‥あっ‥あの僕っ」


心を揺さぶる光景、

罪の意識、

喉が渇き張り付いて、うまく喋れない。


「可哀想にねぇ‥でも恐れる事はないんだよ

 こんなになっても死ぬ事はないのさ。

 放っておけば時期に治る。

 リュンクだって知っているんだろう?

 この体の死にづらさをね」


「これで死なない?‥え?

 それって‥それじゃ‥」


「そうさ。

 私もリュンクと同じ、紋印持ちさ。

 幼く見えるだろうけどね、

 ここに居る誰よりも年長者なんだよ」


リュンクには、リュンクだけは、

それが絶対に真実だとわかった。


血溜まりの中で不気味蠢く臓物や、

主人を求めて逆行する血液、

そして何よりも、瀕死の重傷で悠長に喋るその姿。


紋印を所有しなければ知り得ない知識、

それは彼らだからこそ分かる血生臭い証明証だ。


「何事じゃこれは?」


球水晶のホールから、最奥へ続く穴ぐら、

そこから体の大きな老人が現れた。


傷だらけの体に、地方同盟のポンチョ、

リュンクも面識のある人物、老人コクラクだ。


コクラクは、ホールの中心で横たわり、

満身創痍な長耳の敏捷を見つけ、

ゆっくりと近づき怪訝な顔をした。


「長耳よ。どうした?

 えらいまた小っこくなりおってからに、

 あまり小さくなると踏んずけてしまうぞ?」


「バカ言ってんじゃないのさ。

 なぁに、私がヘマをやらかしただけの事さ」


「ヘマじゃと?」


「そうさ。

 ねぇ?リュンク?」


そう言いリュンクを見つめると悪事の同意を求める様に

意地悪くニヤつく長耳の敏捷。


リュンクは「へ‥へへ‥ははは」と、笑っては見せたが、

流石にこの凄惨な状況と、おっかない大男の前で

ふざけた態度を取れるほど器が大きくは無い。


老人コクラクは、長耳の言葉を聞いて腑に落ちない様子だったが、

バツの悪そうなオーケンと、うろたえるリュンクを交互に見ると、

何かを察したのか「ああ、なんとなく分かったわい」と、

珍しく呆れた顔をして額に手を当てた。




コツン。




その時、老人コクラクの後方、暗く先の見えない穴ぐらの奥から

木製の何かを小突く様な音が響いた。


「おお。(おきな)よ、大事はなかった様じゃぞ

 長耳のやつがヘマしただけじゃ」





コツン。コツン。





ゆっくりと軽い音を立てながら、

徐々にこちらに近づいてくるのが分かる。



どうやら、この音は杖を突く音の様だ。



杖の音が段々と近くなり、

やがてその音を出していた正体が姿を現す。


穴ぐらから登場したのは、背の高い華奢な老人だった。


それ以外は、どこにでも居そうなありふれた老人で、

連続した三角形の紋様をあしらった特徴的な着物のみが印象的だ。


勿体ぶった雰囲気の登場にしては、なんとも味気ない人物だ。


(おきな)すまなかったな。

 俺のせいで騒ぎを起こしてしまって」


オーケンが老人に向かい

申し訳なさそうに謝罪する。


いつもよりも腰が低く、リュンクには、

心なしか緊張している様にも見えた。

どうやらこの老人は、この巌包(いわぐるみ)

もしくはオミガジモンのえらい人の様だ。


リュンクは、この老人はそんなに凄い人なのだろうかと

彼を凝視していると、(おきな)の周りに、

無数に漂う小さな黒い点を見つける。


眉をへの字に曲げ「あれはなんだろう」と思った矢先、

老人の視線と、リュンクの目線が重なり合った。



そして【それ等】が姿を現したのだ。



(おきな)が球水晶のホールに足を踏み入れた瞬間、

空間いっぱい、溢れんばかりに黒い靄が出現した。


その(もや)は大小、様々な形をしており

中には、小さな輝きが瞬いて、まるで小領域の宇宙だ。


「うわっ!!なんだよこれ!!」


ホールに満ちる黒い(もや)は、

何処までも深く暗く黒く、

それでいて煌々と輝いていた。


言い得て妙だが、黒いのに輝いているのだ。


「どうした!?

 大丈夫かリュンク?

 まだズヒーにやられたのが痛むのか?」


リュンクの悲鳴に対して、

なぜか見当違いの返答を返したオーケン。


「何って!!この黒いのだよ!!!

 こ‥怖い!ねぇ!オーケン!!

 これ一体何!?紋術なの!!?」


「何って‥‥黒いの?

 どれの事だ?」


リュンクの様子に只ならぬものを感じたのか、

警戒する様に辺りを見渡すオーケン。


しかし、まるで何も見えていないかの様に、

周囲に視線を振るだけで一切、黒い光を見つけられない。


「ちょっ‥‥ちょっと待っとくれよ

 リュンク‥‥まさかあんた

 オミガジモン達が見えるのかい?」


満身創痍の長耳の敏捷は、

先程よりも少し再生した体を少し引きづり

やや慌てた様な声色でそう言う。


「まさか‥リュンク‥‥お主」


「‥‥‥‥」


老人コクラクは、顔中の傷口が開きそうな程、

目を見開き、口を大きく開けた。


また、先ほどの一件、オーケンとの睨み合いの中、

少しも感情をのぞかせなかった大男ズヒーさえ

やや驚いた様子で、リュンクを見つめている。


「みんな!!見えないの!?」


オーケンは次第に、周りの反応が何を意味するのかを理解し、

「冗談だろ」と、小さくこぼしてから

リュンクの頭を庇うように抱き寄せ、自分の後方へと押し込む。


篤丸は、篤丸だけは、未だ地に突っ伏したまま動いていないが、

どういう神経をしているのか、どうやらあのまま寝てしまった様だ。


「長耳、大丈夫だね?」


老人は長耳の敏捷を見て、穏やかな声でそう言い

長耳の敏捷が頷くと、続いてオーケンに向く。


「オーケン君。

 久しぶりだね。

 コクラクから話は聞いていたけど

 元気そうで何よりだよ」


「あ‥ああ。

 (おきな)それは良いんだが、その

 色々と説明したい事があるんだ‥とりあえず俺の話を‥」


「うん。

 でも、それは後回しにさせてもらうよ。

 まずは、その子供‥‥彼を見出したい」


「待ってくれ!!(おきな)

 俺は!そう言うつもりで

 こいつをここに連れてきたわけじゃ無いんだ!」


オーケンは、(おきな)の言葉に対して

口早に自分の意思を告げてから、

更に強くリュンクの頭を抱き寄せた。


明らかに何かを恐れ焦っている様子だが、

黒い靄が見えないのなら、何を恐れると言うのだろうか?


「無駄だよオーケン坊や。

 こうなった(おきな)は止められない

 黙って委ねるしか無いんだよ」


「こればっかりは‥‥

 儂にはどうしてもやれん。

 すまんのオーケン」


まるで覆しようの無い何かを(なだ)める様な、

コクラクと長耳の言葉。


リュンクには、さっぱり状況が読めない。


「さぁ。

 こっちにおいで。

 それと‥‥そこで寝ている君も一緒においで」


翁に言葉をかけられた事で、

ゆっくりと立ち上がった篤丸は、

大きなあくびをかまし、ボリボリと腹をかいた。


先ほどまで恐怖に当てられ、

ひどく狼狽していた筈だが

少し寝た事でリセットされている様だ。


「あっ‥‥篤丸も!?」


「なんじゃ?

 其処元よ。

 誰じゃ?この爺さん」


「驚いた‥翁が二人同時に見出すだなんて‥‥

 こんな事は初めてだよ」


事情を熟知しているであろう長耳は、

コクラクとズヒーに視線を飛ばし、

何か覚悟めいた表情で頷く。


それを見たオーケンは、

堪らない表情で、しばし目を瞑り

声にならない感情を押し殺してから

リュンクと篤丸に向き、二人の肩を強く低く。


「いいか‥二人とも。

 翁に着いて行って‥‥

 よく話を聞き、よく考え

 自分の思った事を話すんだ。

 どれだけ時間が掛かっても良い

 忖度も、偽善も、見え張りもするな!

 どれだけ稚拙でも最低でも良い

 お前等らしく、ありのまま

 ただ自分に直向きに‥‥」


そう言ってからオーケンは、二人の頭を強く胸元に引き寄せた。


オーケンは、少し震えていた。


「オーケン‥一体どうしたの?

 僕たち、何をされるの?」


「なんじゃ‥‥寝起きで頭が回らんのじゃが‥」


二人を離した後、オーケンは無言のまま

ホールの壁側に移動し、腕を組んで静かに佇んだ。



「さぁ。二人ともおいで」



すでに、穴ぐらの前まで移動した翁が、

二人を手招く。


リュンクと篤丸は、これから何が行われるのか分からず

不安げにお互いに顔を見合わせたが、

どうにも、(おきな)の要求に従う以外に、

選択肢が残されていない事を悟ると、

状況がつかめないまま穴ぐらの奥へと歩みを進めるのであった。

設定資料にキャラクターを追加しました。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

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