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WSS/1-異界冒険譚  作者: たかしモドキ
第8話「ああ、それは俺もやるわ」
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-【8-8】-なんでも知ってるババア

「こりゃあ、まぁまぁ。

 酷い言われ様だよ。

 これは由緒正しき、あたしの正装なんだけどねぇ」


長耳の敏捷がそう呟き、その長い耳を前後にしならせると

それに付随して、よく通る鈴の音がホールに響いた。


先程のオーケンの言葉の真意を確かめるべく

リュンクは、その場に体ごと伏せてから、

頭を地べたに近づけて長耳の足元を凝視する。


オーケンの語った神話が事実で、

影を持たない軍隊とやらが実在し、

この長耳がその一員だと言うのならば、

彼女の足元には、影がなく明るいままだろう。


「初めて見る挨拶だねぇ。

 あんたさんの国じゃ、そんなに低く頭を垂れるのかい?」


唐突に()(つくば)ったリュンクを見た長耳は、

両膝を折って縮こまり「服汚すとお母さんに叱られるよ」と、

その背中をポンポンと叩いた。


しゃがみ込んだ長耳の足元には、

濃い影がしっかりと膨らんでいる。


「影!ある!!普通にあるじゃないか!!

 オーケンの嘘つき!!!」


リュンクは顔を振り回してオーケンを睨みつけると

すかさず近づき「どぅくしッ!!」と、

効果音付きの攻撃で怒りを出力した。


「いてて。

 そりゃお前の早とちりだぞ?

 言っただろう?

 俺だってその軍勢を見たことが無いってな」


スネに肘打ちを当てられたオーケンは、

「骨に攻撃するんじゃない」と言い、足元のリュンク引き剥がす。


そして、ふと、隣でモゾモゾと動いている篤丸を見ると、

背負った長巻を下ろして包みの布切れを解いている。


「‥‥篤丸‥お前何してるんだ?」


「おお。英雄の軍勢の一員と言ったけぇの

 手合わせを挑もうと思うてな」


フンフンと鼻息を荒くしてそう言う篤丸。


それを見たオーケンは、大きなため息を吐き

二人に対し強めのゲンコツを喰らわせるのだった。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


「さぁ、子供達。

 こっちにおいで。

 飲み物を入れてあげようか」


ホールに隣接された小部屋、

長耳の敏捷の私室に通されたリュンク達は、

部屋の中央に置かれた、丸太の机に集まり

行儀よく小さな椅子に座った。


リュンクと、篤丸の脳天では、

ホカホカのたんこぶが疼いている。


長耳の敏捷は、背負ったままの荷物から

器用に木製のタンブラーを取り出すと

そこへ湯気の出る胡桃色の飲み物を注ぎ各々に手渡す。


「さっき入れたばかりだからね。

 まだ暖かいはずだよ。

 甘いくて美味しい特製ナロルだからねぇ‥‥

 きっとやみつきになっちゃうよ?」


リュンクは、長耳の敏捷が喋るのを聞いて

「前に図書館で読んだロボット三等兵みたいな喋り方だなぁ」と思った。


「それで一体どうしたんだいオーケン。

 コクラクのやつに会いに来たのなら

 今は(おきな)の所だよ?」


「いや、用事があるのはコクラクの爺さんじゃなくて(おきな)の方なんだが‥

 こんな明るい内にコクラクの爺さんが居るって事は、進展があったのか?」


「進展?‥‥ああ。

 コクラクが調べている属性の獣の話だね?」


「そうそう、それだ。

 まぁ話し中なら仕方がないな。

 取り敢えずコクラクの爺さんと(おきな)の話が終わるまで、

 長耳の相手でもするか‥」


「あたしが暇みたいな口ぶりはやめな」


オーケンの無礼な言い回しに対しての報復なのか、

長耳の敏捷は、机の上にあった豆菓子の殻を摘み上げると

オーケンの顔面に向けて勢いよく指で弾いた。


「おっと!危ない!」


「あいかわらず勘の鋭い子だよ。オーケン坊や」


俊敏に射出された硬い殻。

それをすんでの所で交わしたオーケンを見た長耳は、

いつの間にか手に持っていた二発目の殻を屑かごに放り投げる。


「まぁまぁ、どうどう。

 それで長耳は、属性の獣について何か聞いてるのか?」


「アマテオ帝国が属性の獣を狙っているって話かい?

 一応聞いてはいるけどね。

 なに、心配するような事は何も無いよ

 あの子らは人の手で、どうこう出来るもんじゃ無い」


属性の獣。


幾度か聞いたキーワードだが、

リュンクはそれが何なのか知らない。


「ねぇオーケン。属性の獣って何?

 口から光線吐いたりする?」


なんと、リュンクは怪獣の話が大好きだった。


「なんじゃ、物の怪の話か?面白そうじゃのう!」


そして、篤丸も妖怪の話が大好きだった。


「ん?ああ‥属性の獣って言うのはだな‥‥

 紋印を保有する獣達の事だ。

 なんか‥でかくて強い化け物なんだろうな‥知らんけど」


オーケンは、タンブラーから甘いのをズズズとやり、

なんとも適当な言い回しで茶を濁す。


「全くいい加減だよ。あんたは。

 子供にそんな言い方で通じるものかいね

 幼い好奇心を無下にするもんじゃ無いよ」


オーケンのいい加減な態度を見た長耳は、

体全体で大きなジェスチャーを作ってから怒っている。


リュンクは、長耳が動くたびにピョコピョコと揺れる

頭の飾りを見て「あの頭のやつ‥可愛いな」と思った。


「そう言われてもなぁ‥

 俺だって見た事が無いからよく知らん」


「なんと無学な事だねぇ嘆かわしい。

 仕方ないから長耳さんが簡単に教えてあげるよ」



~以下説明~【属性の獣】

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


属性の獣はね。


今は亡き属性の神アミネミアが創造した五体の獣の総称さ。


獣達は自然に溶け込み

史上に姿をあらわす事は殆どない。


紋印から生じて紋印を所有する獣だからね

竜族勢力が衰えた現代において、

その影響力は神族に次いでいる。


普通の人間にとっては、

文化省から災害指定生物に指定された、恐ろしい怪獣達だよ。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

~以上説明終わり~


「出た!!災害指定生物!!

 白銀竜アルポワンサーと一緒だね!!」


「おお?其処元よ!

 白銀竜とはなんじゃ?

 かっこええのう!!」


「篤丸知らないの〜?

 アルポワンサーは大雪原の王者なんだよ!!」


リュンクは、オーケンから受け売りの知識をひけらかし

田舎侍のマウントを取ってご満悦だ。


「なんと!竜で!王とな!?

 そりゃ凄いのう!!見てみたいものじゃ!!」


「かわいい反応だねぇ。

 あんた達子供はそういう反応でいいんだよ。

 ほら、焼きコンクでも食べるかい?乾燥豆もあるよ」


子供らしく伝説の怪獣達に興味津々の二人を見て

長耳はニコニコと上機嫌で、例の荷物から菓子を引っ張り出し

机の上いっぱいに広げている。


「甘味じゃ!!うまいのう!

 其処元!豆もあるぞ!」


篤丸は長耳おやつシリーズに大喜びで、

焼き菓子を鷲掴みにすると

そのまま口いっぱいに頬張り嬉しそうに咀嚼した。


どうやら篤丸は甘いものが好物らしい。


「よく噛んでいっぱい食べな。

 それでオーケン。

 あんたは何しに来たんだい?

 その口ぶりじゃ属性の獣の報告を聞きに

 ここへ来た訳じゃ無いんだろう?」


「んー。なんと言ったものか。

 色々と手に負えない事があってな‥‥助言をもらいに来た」


「助言ねぇ。

 解っていると思うけど

 翁は世事には干渉しないよ?

 あんたとコクラクが関わっている事で、助言はしないと思うけどね」


「分かってるさ。

 その世事以外の困り事があるんだよ」


長耳の敏捷は、その幼い顔についた

つぶらな両目を尖らせる。


先ほどまで幼女にしか見えなかった童顔に、

眼前の獲物をとらえた獅子の気迫が宿る。


「‥‥この子らが関係するのかい?

 どっちの子か分からないが‥少々厄介な匂いがするからね」


長耳の敏捷は、小さな鼻を鳴らして

焼き菓子を食べている二人を見た。


「‥何かわかるのか?」


「さて‥話を聞いてみない事には何とも言えないね

 どれ、私にも聞かせてみなよ」


「そうだな。

 取り敢えず見てもらった方が話は早そうだ。

 リュンク!ちょっとここに来てくれ!」


「ん?なに?」


突然名前を呼ばれたリュンクは、

ポリポリと焼き菓子を(かじ)ったまま、

食いこぼしを床に落としつつ二人に近づいた。


「行儀の悪いやつだなぁ‥‥

 長耳。この子見てくれ‥何かわかる事はあるか?」


「?」


突然呼び出されたリュンクは状況がさっぱりだ。


「‥‥そうねぇ‥なるほど‥

 この厄介な匂いは竜の因子だねぇ‥

 もしかして坊やはゲブニス人(竜人種)かい?」


「ゲブニス人?‥‥いや、違うと思うけど

 どうなのオーケン?」


「いや‥ゲブニス人とは違うな。

 こいつと風呂に入ったが、服も脱げるし

 抜け毛で出血もしなかった」


「あらね。

 外しちゃったねぇ‥‥ひひ!」


どうやら的外れな回答をした長耳は、

恥しのぎに小笑いを繰り出す。


「ははは!長耳!

 お前さんなんでも知ってるババアじゃ無かったんだな?

 うははは!!」


オーケンの嘲笑に対して、

長耳は張り付いた笑顔で受け止めていたが

明らかに目だけ笑っていない。


「そのなんでも知っているババアを煽ったりしていいのかい?

 ねぇ?‥‥オーケン坊や。

 加齢のせいで、あれやこれやあんたさんの恥ずかしい話を、

 うっかりこぼしてしまいそう‥‥なのら」


「ははは‥‥はは‥‥‥‥頼む‥‥やめてくれ‥‥」


長耳が意味深に付け加えた語尾。

それに対して苦い思い出でもあるのか、

オーケンは、珍しくマジな顔で余裕のない言葉を吐いた。


「しかしねぇ‥

 ゲブニス人じゃないとすると

 この竜の因子はどこで得たんだい?」


竜の因子。


そう言われて思い浮かぶのはひとつ。


サルホーガとの死闘。


その最中、白銀の鎧を無力化した時に、

鎧から原級素を吸い上げて吸収したが、

それの事を言っているのかもしれない。


リュンクは、この複雑な経緯を

どう答えたものかと悩んでいたが

そこから先に言葉を繋げたのはオーケンだった。


「長耳。もうぶっちゃけて言うとだな。

 どうやらリュンクは、紋印持ちみたいなんだ」


長耳の敏捷の顔に困惑が浮き上がる。


「紋印持ちだって?

 ちょいとお待ちよ。

 異界にある紋印は既に満員さ、

 もう新たに所有できる紋印は存在しないはずだよ?」


「コクラクの爺さんも同じ事を言っていたが‥

 俺はその辺の事情は無知でな。

 だから、目で見たものを信じる。

 こいつは、あの突貫騎士サルホーガを討ち倒した

 それはこの目で見た事実。

 こんな子供がだぞ?

 紋印持ち以外にそんな事ができるか?」


「なるほど‥‥この異様な原級素は、アルポワンサーの因子なんだね。

 どうりで厄介な匂いなのに懐かしいわけだ。

 つまり、その子から漂う竜の因子は、白銀の鎧から奪い取ったもの‥‥

 しかし‥紋印持ちと言えど、こんな子供が白銀の鎧に打ち勝ったとは、

 とても信じられないねぇ‥まさに英雄譚の一節を聞いている気分だよ」


長耳の敏捷は、その個性的な頭部の飾りを折り曲げ

鼻先まで持ってくると、その匂いを嗅ぎ

記憶の中の情報を引き出そうとしている。


「リュンク。その紋印は誰から継承したんだい?」


「えっと‥ウンコの!

 ‥じゃなくて‥なんだっけ‥

 その‥なんとかの女神マティテだよ!」


「マティテ?

 昼光の神マティテか‥‥

 異界神族末席の女神だね‥あれに関しては情報が少ないが‥」


長耳の敏捷は、そのまま長考に入る。

同じ姿勢のまま、微動だにしない。


気のせいか、彼女の背中から

ワサワサと何かが動く音が聞こえた気がした。


「神の息のかかった子供か。

 確かに世事の範疇を超えているようだねぇ」


「だろ?他にも色々と込み入った事情があるんだが

 とりあえずは、こいつの持つ紋印がどういう物なのか

 それが知りたい。あんたに分かるか?」


「そうだねぇ‥紋印には大きく分けて三種類があるが、

 そのうち神族の保有する紋印は上位紋印と呼ばれ

 人類には保有できないほど強大な影響力がある。

 だが、マティテはそれをこの子に渡し、

 リュンクはそれを受け取れた。

 興味のそそる話だねぇ。

 いいだろう、この長耳の敏捷が直々に見てあげようじゃないか」


その直後。


場にいる全員が、室内の気温が下るのを感じた。


長耳の敏捷を中心に、

まるで波紋のように広がる強いプレッシャー。


眼前に居る小動物じみた少女が、

これを放っているとは到底思えない。


長耳の敏捷は、背負っていた荷物を降ろし

ゆっくりとリュンクの鳩尾(みぞおち)に手の平を当てがう。


リュンクの腹部に、ジンワリと長耳の体温が移りはじめ、

やがて長耳の全身が眩く発光し始めた。


既視感。


リュンクはこの光に見覚えがある。

この輝きは、原級素を消費して紋術を行使する初動だ。


「少し‥‥お邪魔するよ」


その言葉の後、ジンジンとした感覚、

フロエの行使した【画送】によく似ている。


リュンクは自身の内側に干渉する気配の様な物を感じた。


ー・ー・ー・ー・ー・






『失せろ』






ー・ー・ー・ー・ー・


ガオン。という瞬間的な轟音の後、

水気のある破裂音が室内に響いた。


次の瞬間、長耳の敏捷は、

自身の臓物を撒き散らしながら吹き飛び、

部屋の戸を突き破って隣のホールまで至ると

その中心にある球水晶に叩き付けられる。


彼女の体から噴き出した鮮血は部屋中に飛び散り、

更に、ホールの水晶にドロドロとコーティングされた

赤黒い血液が、そのまま部屋を明るくする光に投影されると


ホール全面、空間全域が真っ赤に染まる。



「‥は?」



全員が現場を受け止められず、

呆気にとられる中。


リュンクだけは異なる感覚に支配されていた。



それは時間遅延だ。



全身を背中から包み込む、ねっとりした感覚。


突然の事を意識する間も無いまま、

時間遅延だけが、何かしらの脅威に対応しようとしていた。


しかし、それを遮るように

遅延世界と現実世界の継ぎ目に何かが迫る。



「うわっ!!いっ!?」



突如として眼前に出現したそれは、

目にも止まらない素早さを持って

一瞬の内にリュンクの胸ぐらを掴み上げると

背中から彼を包囲していた時間遅延の領域から

強引に体を引き剥がすと、そのまま岩の壁に叩きつけた。


「‥‥‥‥‥」


リュンクは、強く驚愕した。


この世界で時間遅延を経験してから、

その発動自体を妨害された事など無かったからだ。


リュンクは、喉を潰されそうな強烈な拘束に耐えつつ、

時間遅延を強制的に無効化した者の正体を視界に入れよう眼球を動かす。


それは、一体どこから現れたのか、

そこに見えるのは、見上げるほどの巨体を持つ大男だった。

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