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WSS/1-異界冒険譚  作者: たかしモドキ
第8話「ああ、それは俺もやるわ」
70/80

-【8-7】-犬スメルのドッグ臭を思い出した。

「これがケトアトか‥聞いてはいたが

 本当に建造物が赤いのだな」


ケトアトの大通りに出たミアキスは、

歩みを進めながら、ケトアト特有の景色に興味を示した。


アンガフとケトアトでは建築様式が大きく異なるので、

たとえ隣町だとしても、その景観は新鮮な様子。


そして、それ以上に興味津々なのは、篤丸とオトロだ。


初めてのケトアトが物珍しくて仕方がないのか、

感情のままに走り回る姿は、まるで首輪を解かれた小型犬だ。


ミアキスは、それを見て少し厳しい表情をしているが、

口元だけは僅かに笑って見えた。


「ん?‥おぉ‥‥さすが金物の町、

 こんなに精巧な鉄細工は見たことがないな」


不意に立ち止まったミアキスが、

街の一角に飾られた複雑な鉄製のオブジェを見てそう言う。


「ミアキスはケトアトに来るのが初めてなの?」


まるで、未界人である自分の様な反応を見せたミアキスに、

リュンクは思わず質問をぶつけた。


「そうだよ。私はアンガフ出身だが、

 幼い頃に父と共にこの地を離れて旅をしていたんだ。

 戻ってきた時には既にアマテオによって征服された後だったからね

 ケトアトに来るのは初めてなのさ」


ミアキスは質問に答えつつ繁華街の両サイドに展開された

様々な出店を物珍しそうに物色していたが

小型犬達があまりにも忙しないので「少し落ち着きな!」と、

あちらこちらに走り回る篤丸とオトロの首根っ子を押さえつけた。


「おぉーい!!お前ら!こっちだ!こっち!!」


遠くの方で、一行を呼ぶ声がある。


巨体により繁華街の人混みから

頭一つ飛び出たオーケンが、

こちらに向けて大きなジェスチャーでアピールしている。


数分前。オーケンは、ケトアトに近づいた所で

「用事があるから少し暇を潰していてくれ」と、

リュンク達を置いて、一足先にケトアトに戻っていたのだ。


あの様子を見ると、どうやら用事とやらは終わった様子だが、

オーケンの事だ、何やらキザったい【仕込み】をしていたのかもしれない。


リュンクは、そう思うと

「今度こそは、してやられるものか」と、

オーケンの仕掛けを警戒した。


人混みを分けてオーケンの近くまで進むと、

リュンクは見え覚えのある顔ぶれを見つける。


オーケンの周りに居たのは、ハキホーリと地方同盟の戦士達だ。


「紹介しよう。こいつは地方同盟戦士団のまとめ役のハキホーリ。

 立場上は、アンガフ戦士団を率いるあんたと同格になる」


「やぁお嬢さん。

 ハキホーリ・ジョーフルだ。

 よろしく頼むよ‥‥フッ」


「お初にお目にかかる。

 アンガフ戦士隊、戦士長のミアキス・イネヌコだ」


二人は、互いの肘に拳を当て合い挨拶を交わす。


ハキホーリは、緊張しているのか

もしくは、下心があるのか、

ミアキスの前でニヤニヤしていて気持ちが悪い。


ハキホーリが、ミアキスにも横柄な態度をとろうものなら

今度は左手をへし折ってやろう思っていたリュンクだが、

流石に【気持ちが悪い】という理由だけでお仕置きする事は出来ない。


「よし、顔合わせも済んだ所で、後の打ち合わせは任せるぞハキホーリ。

 ミアキスとオトロ。俺たちは少し席を外すがアジトでゆっくりしていてくれ」


「ん?オーケン。あなたは同席しないのか?」と、ミアキス。


「ああ。俺はリュンクと篤丸を連れて野暮用だ。

 なに。用事が済んだら合流するよ。

 それまでに‥‥アレを見ておくと良い」


「‥ああ‥‥そうだったな。

 よし。ではハキホーリ殿、案内を頼む」


ミアキスの催促に、紳士ぶったジェスチャーで応じたハキホーリは、

オトロと戦士団を引き連れ、(すす)の舞う工房街方面へと歩みを進めた。


すれ違い際、ハキホーリが一瞬キツくリュンクを睨んだので、

リュンクもやり返す様に小馬鹿にする顔を捏ねてやった。


「全く‥大人気ない奴だな。

 まぁいい。

 それじゃ世界の脅威を暴きに行くとするか!」


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


鋼材がごった返す資材街を西方面に抜け、海側まで進み

半壊したケトアト港の木製デッキから

2〜3人乗りの小舟に乗り換えたリュンク達は、

そのまま海上を進み始める。


オーケンが操る小舟の後方には、

簡単な形状をした紋術装置が取り付けられ

それが原動機となっているのか

オーケンがそれに触っている間、船はゆっくりと前に進んだ。


「ねぇオーケン、これどこに向かってるの?」


リュンクの疑問は当然だった。


海に出たはいいが、目の前に広がるのは

広大な海と、所々海面から飛び出している

藻の生えた大岩ばかり。


昨晩の話の通りなら、

リュンク達の事情に関して

詳しい知識を持つ人達に会いに行くはずだが。


このまま進んだ所で人と会えるとは思えない、

それどころか陸地にたどり着くかさえ怪しい。


「わしは船酔いするんじゃ‥‥

 あんまし揺らさんで欲しいのう」


ベクトルは異なるが篤丸も、心配している。


「行けばわかる事さ。

 それより到着まで、少し時間がかかる。

 その間に、一つ伝説の類を聞かせたい」


「伝説?またいきなりだね?」


と、言いつつも。


リュンクは大好物の匂いにワクワクと胸を躍らせた。


暇つぶしと言うならば、そういう話は持ってこいだ。


篤丸は難しい話になると、

いつも上の空で知らぬ顔だが、

伝説と聞けば聞く気満々だ。


オーケンは、二人の期待を感じ取り

うんうんと(こうべ)を揺らし語り始めた。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


これは民族、国家間の隔たりを超え

異界全土に普及する英雄軍の伝説。


雷炎の双手が率いる自治の軍勢。


黒き(むしばみ)

有翼の槍。

(けだもの)の暴力。

長耳の敏捷(びんしょう)


あれらは属性の獣を従え

影の無い兵団を率い現れる。


そら、安寧(あんねい)を欠く者共よ。


門を閉ざし、体躯(たいく)を丸め、息を潜めよ。


慈悲あれど、絶望を御するあれらに

決して逆毛を立ててはならぬ


あれらは抵抗の権化にして人にあらず。


見よ、大帝の額を割るぞ。

見よ、聖人の喉笛を裂くぞ。

見よ、神の核を穿(うが)つぞ。


そら、背徳の排泄者共よ。


頭を上げ、(まなこ)に映せ。


亡者(えいゆう)の行進だ。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


「これはオミガジモン伝説の一節、英雄軍の(うた)だ」


リュンクは、てっきりアルポワンサーの様な

ドラゴンに纏わる伝説が聞けると思っていたので

内容の知れない伝説に少しがっかりした気分になる。


「よくわかんないなぁ

 オミガジモン?なにそれ?人の名前?」


「オミガジモンは英雄軍の名前だよ。

 伝説の通りなら、影を持たない軍隊だそうだ」


「影を持たんとは、どういう事か?

 幽霊の兵でも雇っておるんか?」


オーケンの言った伝説を聞いて、

リュンクも篤丸の表現と同じ様な印象を持っていた。


影がないという言葉で思い浮かべるのは、

やはり透明人間の様なイメージだ。


「さあ‥‥俺も見たことが無いからな

 このオミガジモンに纏わる伝説は異界中に溢れている。

 リシュモン教団の守護聖人を殺害した。だとか、

 人に害をなした神族とやりあった。だとか、

 他にも、異界各地の土地によって様々な伝記が残っている。

 そのほとんどは、確証の取れないまさに伝説の類だがな」


その話を聞く限り、オミガジモンとは、

まさに神話に登場する超常の存在に思えてならない。


神様やら聖人やらが活躍するのは書物の中だけだ。


それらが現実世界に居るのなら、

世界は瞬きするほどの速さで滅亡するだろう。


そしてオーケンは続ける。


「だが、このオミガジモンについて

 不明瞭な伝説ではなく、歴史として残る事実もある」


「伝説じゃなくて事実?

 お化け軍団が何かしたの?」


「幽霊じゃからのう‥‥

 夜な夜な悪さするんじゃないんか?

 奴ら人を驚かせるのが生業じゃからのう」


篤丸の幽霊ジョークに、リュンクは一緒になって笑い、

オーケンは、そんな二人を見て口角を上げる。


「どちらかというとその逆だな。

 今より千年ほど前、オミガジモンの英雄軍は、

 今回の様に侵略戦争を起こしたアマテオ帝国と真っ向から戦い打ち倒した」


さらっと、とんでもないことを言うオーケンに

リュンクと篤丸は目を丸くした。


「‥‥え?アマテオ帝国が負けたの!?

 だって!アマテオ帝国には白銀騎士隊が居るし!

 今だって存在しているじゃないか!」


「そうだな。

 それでもアマテオ帝国は敗北した。

 千年も前のことだからな。

 当時の状況やら、経緯(いきさつ)やらは分からないが

 歴史の中にポツンと、その事実のみが存在する」


大昔にも、今と同じような構図が世界にあり、

その発端が同じアマテオ帝国だとすると

何やら、キナ臭い陰謀じみたものを感じさせる。


アマテオ帝国には、他国家の侵略以外に何か目的があるのだろうか?


「ほう‥やはり上には上がおるんじゃのう

 しかし、オーケン殿。

 なんでまたその話をされたんじゃ?」


そういえば確かにそうだ。

どうしてオーケンは、リュンク達に

今この話をしたのだろうか。


退屈しのぎならば、他に選択肢はたくさんあったはずだ。


「それは‥‥ん?

 ああ、話をしている間に着いてしまったな」


と、そう呟いたオーケンは、

水面から暗礁(あんしょう)が薄っすらと見える場所で停泊した。


無論、人もいなければ陸地もない。


リュンクは、どうするのものかと見ていると

荷物をまとめ始めたオーケンは、

とんがった岩の先端と船頭をロープで結び始める。


「いやいや!オーケン!こんな所に船を止めてどうするの!?」


「まぁ見てな」


と、そう告げたオーケンは、

海面にギリギリ頭を出している岩場に飛び移ったかと思えば、

岩の一部をスライドさせてどかせて見せた。


「え!?」


自然の中に出現した人工的な物体。


そこに現れたのは、

水面に浮かぶ大きな鉄の扉だった。


そして、それを踏まえて今一度、

海面から奥を覗くとその正体が認識できた。


それは、海中に潜水する巨大な船の入り口だったのだ。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


例の扉から中に入ったリュンク達は、

オーケンの背中を頼りに薄暗い潜水船の中を進む。


そこはリュンクの想像していた

未界の潜水艦とは、かけ離れている。


その内装はゴツゴツとした岩でできており

リュンク達を洞窟の中に居るような感覚に陥らせた。


しかし、岩に包まれているにも関わらず

船内に微量の明るさがあるのは、天井が水晶でできているからだ。


無骨な岩ではなく、光を透過する水晶を天井にする事で、

海面から入り込む陽光を取り込み光量を得ており

それは、まるで岩の裂け目に溶けた水晶を流し込んだ様だ。


その見た目は、人工物らしからぬ自然的な美しさを感じさせた。


岩壁には、海面のうねりが水晶を通して投影され

連続した波紋が止めどなく映し出される様は幻想的だった。


「この船の名前は【巌包(いわぐるみ)】見ての通り

 岩で作られた奇妙な船さ」


「すごいね!!こんなの見た事ないや!!

 ねぇ!これ動くの!?ねぇねぇ!!」


「こりゃ綺麗じゃのう!

 岩の船とは恐れいったわ!」


遊園地のアトラクションを体験する子供の様に大喜びの二人。


「ここから分かれ道が多くなるぞ。

 絶対にはぐれるなよ?

 俺だってあまり道を覚えていないんだ」


はしゃぐ二人を制しながらも、

オーケンは得意そうな顔をしていた。


子供が喜んでいると大人は嬉しいものなのだ。


巌包の船内をしばらく進むと、

やがて開けたホール状の場所に辿り着く。


ホールの真ん中には、球体に磨かれた巨大な水晶が置かれていて

天井からその内部に注がれた光は、乱反射してホール全体を明るく照らし

先程までの薄暗い道とは大違いだった。


「なんだ‥ここ」


ホールの岩壁は無骨な岩肌ではなく

河原の丸石の様に滑らかに磨かれ、

更にそこへ書物や食器を整頓する棚や、

衣類などを掛けるポールハンガー、

簡易的な作業場などが増設されている。


それは明らかに、この巌包の中で

何者かが生活を営んでいる証拠だった。


そして、それを感じたと同時くらいに、

リュンクは、水晶の向こう側で歪にうねる人影を見た。


「っ!?オーケン!!誰かいるよ!!」


その気配に身構えるリュンクだが、

オーケンは驚いた様子も無くいつも通りだ。


「なんだい。何やら騒がしいと思えば

 オーケンの坊やだね?」


「長耳よぉ‥いきなり出てくるもんだから

 うちの坊主がチビリそうになっているぞ?

 元気してたか?」


「あたしはここに居ただけさ。

 あんたさんが勝手にビックリしたんじゃないのさ。

 それになんだい?ゾロゾロ子供なんか連れて‥

 ここは社会見学する所じゃないんだよ?」


水晶の向こう側から現れた声の主人。



それはリュンクよりも幼く見える

異様な風貌の子供だった。



自身と同じくらい大きな荷物を背負い、

身を包むのは、寒色の民族衣装。


その印象として一番特徴的なのは、

フードの頂点から天井に向かって伸びる

体の半分以上はありそうな長い耳を模した飾り物だ。



声色からして女の子の様だが、

喋り口調が年寄り臭い。


リュンクは、おのずと犬スメルのドッグ臭を思い出した。

 

「二人とも紹介する。彼女は長耳(ながみみ)敏捷(びんしょう)

 変な名前で、おかしな格好をしているが悪いやつじゃない」



そして、頭をかいて少し間をあけてからオーケンは再び話し出す。



「そして言いそびれたが、

 この巌包は、例の【オミガジモン】の本拠地で、

 彼女こそ伝説のオミガジモンの一人だ」

設定資料にキャラクターを追加しました。


挿絵(By みてみん)

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