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WSS/1-異界冒険譚  作者: たかしモドキ
第8話「ああ、それは俺もやるわ」
67/80

-【8-4】-ああ、それは俺もやるわ

シアンの天井が、朱を差し始め

やがてその境界を溶かすと

もう、少しもしないうちに濃紺の(とばり)が天井を覆い隠した。


自然光が失われつつある北アンガフ街だったが、

高層の建築物が立ち並び、渓谷の断面を一望できる

とある一角だけは様子が異なる。


まるでその区画だけ、夜になるのを忘れている様だ。


「なかなかに不思議な光景だろう?

 これがアンガフ名物の【暮れそびれ】だ」


「わぁ!本当に凄いよ!」


リュンクは目の前に広がる情景に、

目を爛々と輝かせては、前のめりに景色を見つめた。


天空は確かに夜が支配し、少し遠くを見れば

暗闇に室内の灯りを溢した民家の立ち並びがある。


時刻は確かに夜なのだ。


それにもかかわらず、目の前には

昼間とそう変わらない陽光が降り注ぎ、

手の平をかざせばその温もりを肌の表面にジリジリと感じる。


「かつてはこの稀有(けう)な景色をひと目見ようと

 異界全土から人が集まってきていたらしいぞ。

 このレストランは観光客向けに作られたものだから

 特に見栄えが良いな」


「ねぇオーケン!どうして!?

 どうしてこんな事が起こるの!?」


「んー。それは蓄陽石のせいだな」


「ちくようせき?」


「そう、その名前の通り

 太陽の光を蓄える事のできる特性を持った

 珍しい鉱物の事だよ」


「へぇ〜!そしたらさ!

 もうずっと明るいの?

 夜中の間ずっと?」


「いんや、日の強い時季でも1時間が限度だな。

 もう30分程すれば、穏やかに暗くなって

 やがて放光しなくなる。

 その暮れ様がまた感慨深いのさ」


「へぇ〜それにしても凄いなぁ‥

 こんなものが自然にできたなんて信じられないよ」


「あー‥それはちょっと語弊があるな‥‥

 天然で露出しているのはごく少量の蓄陽石で、

 その他多くは、別の場所で発掘されたものを

 あそこにぶっ差しただけだ」


「あ‥そうなの?‥なんかあれだね‥‥うん

 でも‥‥なんでわざわざそんな事を?」


「まぁ‥寂れた採掘の街に観光地が欲しかったんだろうよ

 お?よしよし!!お前ら!飯が来たみたいだぞ?」


オーケンは、両手を擦りながらそう言うと、

ウェイトレスが持ってきた皿を受け取り机に並べ始めた。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


残留したアマテオ兵ケサブロを巡る悶着の後、

遅れて登場したミアキスとアンガフ決起隊の面々に、

オーケンは事情と、腹づもりを話し場を完全に収めて見せた。


件のケサブロは、決起隊に連れられ何処かへ消えたが

ドダウ爺さんがそれに付き添っているのを見ると

そう悪い事にはならないのだと思える。


リュンクは、ドキドキとした心持ちでオーケンに近寄り、

興奮を隠さず賛美を送くったが、オーケンは何も言わぬまま

人目につかない様、こっそりとリュンクに何かを手渡した。


それは、何も書かれていないクシャクシャの紙。


最初何の事か分からず、リュンクの頭の上には疑問符が浮かび上がったが

時期にその意味を理解し、水あげされた魚の様に口をパクパクとさせ

周りにバレないうちに自分のポケットにそれをねじ込んだ。


慌てる様子のリュンクを見たオーケンは、

さも嬉しそうに白い歯でニヤリと笑うと、

彼の背中をバンバンと叩き膝を折り小さく告げる。


「前に言っただろう?

 どんな事柄にもカラクリがあるのさ」


そういって未だ留まり会話しているアンガフの民衆に向けて顎で傾注を誘うと、

リュンクはその先に見覚えのある顔を数人見つけ、

それが地方同盟の面々であると気付くと

先ほどの逆転劇が仕組まれたものだと分かる。


思えば、興奮で気が付かなかったが、

先ほどのアンガフ市民の喝采には、やや扇動的な部分がある。


最終的に場の雰囲気を大きく変えたのは、

誰のものとも判らない肯定的な声が発信源になっていた気がする。


要するにあれは、地方同盟によって仕組まれた茶番だったわけだ。


リュンクは「またしてやられた!!」と、

膝から崩れ落ち落胆してから、

キッと大男の顔を睨めつけた。


悪態のひとつでもついてやろうかと

鋭利な言葉を選んでいるリュンクに、

それを察するオーケンが口を開く。


「まぁ言いたい事は分かるが、

 ハッタリひとつで、人の命を拾える事もある

 これはその勉強だと思うと良い。

 それに、完全に当てずっぽうでもないのさ

 現に、事実だったみたいだしな?」


‥‥確かに。


と、そうリュンクは納得すると共に、

それを踏まえて尚「憧れ」の感情は、

彼の心を温めていた。


だから、その場で告げたのだ。


「オーケン。僕、オーケンに話したい事がある

 とても大事な事なんだ」


今まで秘めていたとは思えない程、

すんなりと口から出たその言葉に、

リュンク自身は、やや、たじろぐ様な後悔を覚えたが

オーケンは、少し遠くを見てから


「ようやく話してくれる気になったんだな」


と、見透かした様な言葉で受け止めてくれた。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


そうこうしてリュンク達は「良いもの食わしてやるって言ったからな」と言う

オーケンに連れられるまま【暮れそびれ】を一望できるレストランで

晩飯にありつこうとしている次第である。


ふと、リュンクがレストランを見渡すと

侵略解放の興奮、未だ覚めやらぬと言った様子で、

ケトアトに滞在し、この情景が久しい者も多いのか

レストランには歓喜の声が湧き上がっている。


だが、視界の端にどんよりとした

陰のオーラを感じて視線を目の前に戻す。


「篤丸‥‥ほら‥ご飯来たしさ、元気だしなよ」


「‥‥‥うぅ」


色々な展開に揉まれ忘れてしまいそうだったが、

例の一件の後、良くない事もあった


歯に衣着(きぬき)せず簡潔に言ってしまえば



篤丸はアンガフ決起隊を除隊させられたのだ。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


決断を下したのは、状況を把握したミアキス戦士長で、

件の一悶着の折、決起隊の戦士ハケロに対して

篤丸が武器を手に取ろうとしたのが問題となった。


荒れた問答でならばどれだけ殴り合おうが問題はないが、

仲間に向けて獲物をチラつかせる行為は許されない。


それがミアキス戦士長の言い分だ。


篤丸自身、自ら語っていた様に、

獲物を使い無思慮に威嚇する行為を嫌悪していたので、

尚更その言葉が刺さり、落胆しながらも

除隊を受け止める他なかった。


オトロだけは、強くミアキスに食って掛かっていたが、

本人がそれを認めている以上、覆す事はできず

篤丸は除名された後、その足でトフォン町長の元に出向き

「御免」と、凛と美しい所作で首を垂れた。


トフォン町長に拾われ、決起隊に所属した篤丸が、

恩を返さぬままに隊を去る事になってしまったからだ。


リュンクは、篤丸の勢いを見て

「本物の土下座を見る事になるのか!?」と

やや不謹慎な期待を持っていたが

実際に見たのは、まるで芝居のワンシーンの様な、

美しい一礼だった。


もしかすると昔の日本人は謝る時、

土下座などしないのかもしれない。


現代人が構築した、古代日本人の印象に風穴を開けるネタを手にしたリュンクだが

そのカードを叩きつける場はきっと暫くやって来ないだろう。


篤丸の謝罪について、その理由を聞いたトフォンは、


「恩とやらを気にするのなら先日の活躍で十分返している。

 これからは決起隊ではなく

 友人として接してくれれば良い」


と、下げた篤丸の頭を上げて

強くワイルドに抱擁した。


男泣きする篤丸へ優しい言葉をかけたトフォン町長は、

オーケンに向かい、地方同盟に篤丸を託すと告げ

彼はそれを受け入れたのだった。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


「まぁ、ミアキスも立場上こうする他なかったんだ

 その辺、わかってやろうじゃないか。

 それに彼らとは協力関係にある仲間には違いない。

 何はともあれ地方同盟にようこそ。

 歓迎するぞ篤丸」


オーケンが、皿の料理をわしづかみにしながら

気さくな言葉で歓迎を告げると

肩を縮め陰鬱なオーラを放ていた篤丸は、

はっと顔を上げて背筋を伸ばした。


「やや‥これは礼のある‥

 無様な成り行きで恥ずかしいばかりじゃが

 オーケン殿、若輩者ゆえ足りぬ面も多いと思うが

 宜しく頼むでござる」


篤丸が流れる様に自然に放ったフレーズに、

リュンクは「ついにござるが出たぞ!!」と息巻いた。


「よし!篤丸!

 とりあえず飯だ!今は飯食ってガッツを蓄えろ!」


「おう!!」


オーケンの言葉を聞くや否や、

篤丸は、目の前の分厚い魚のローストを手で掴み

皮ごとムシャムシャと食べ始めた。


空元気でも篤丸が調子を取り戻したのを見てから

リュンクも料理に手をつけたが皿に盛られた料理に、

ケトアトで見た食材が多い事に気づく。


この料理ひとつを見ても川魚や備蓄で(まかな)っていたと聞く

アンガフの食糧事情がケトアトとの交流により改善しつつある事を物語り

リュンクは、その一端に自分が関わっている事が少し誇らしかった。


「今日は気候も良い。こりゃ最高だな」


オーケンが、例のビールの様な飲み物をぐびっとやる。


蓄陽石から発せられる日差しに目を細めたオーケンの顔が、

ひときわ優しい表情に思え、それをきっかけに

リュンクは胸中に詰まっていた話を切り出す事にする。


「オーケン‥その話したい事なんだけどさ」


しかし、いざ話すとなると何を言えば良のか

途端に分からなくなる。


口を開いたは良いが

まごつく様子のリュンクにオーケンは言う


「よし!聞こうか!!」


オーケンも察しているであろう

大変な話を打ち明けると言うのに

なんて安心感のある言葉だろうか。


リュンクは思う。


きっとオーケンなら、

このオーケン・アクテオールならば

どんな奇天烈な話でも

きっと顔色一つ変えずに受け止めてくれるんだ。


「もう気づいているかもしれないけど、実は僕」


「ああ」


この人なら、

この男なら。


「僕、異界の人間じゃなくて‥‥

 違う世界‥未界からやってきたんだ!」


ああ、ついに言ってしまった。


でも大丈夫。


オーケンなら、にこやかに笑って「知ってるさ」って‥‥


‥‥‥‥‥‥‥‥


‥‥‥‥‥‥‥


‥‥‥‥‥‥


‥‥‥‥‥


‥‥‥


‥ん?


返事がないぞ?


「………えっ?」


「‥オーケン?」


「はっ!?未界!?えっ‥えっ

 えぇえええ!?え?……ええっ!!???」


リュンクの言葉を聞いたオーケンは、

右手に持つクルクアン酒を持ったまま

ガタガタと震え中身を撒き散らしながら

狼狽を一切隠さずに騒ぎ始めた。


「まっ!!マジで!?うううう!嘘だぁああ!!

 えっ!?えっ!!!はぁ!?

 本気で?本気で言ってんのか!?ぇえ!?」


大男が大きな声で大騒ぎする様は、

大いに大衆の目を引き大勢の大人がオーケンに大注目する。


こんなに「大」ばっかりの一文を君は見たことあるかい?


「ちょっ!オーケンやめてよ!

 恥ずかしいから椅子に座ってよ!

 オーケンってば!!」


「いやいやいや!!!

 おちおち!落ち着けるかハゲミソ!!!

 お前さん!そりゃあ本気で言ってんのか!!?」


リュンクは「恥かかせんなやボケ脳筋が」と、

心の中で強くオーケンをなじった。


オーケンをなだめ、周りのアンガフ市民に愛想しながら

大男を椅子に座らせるとリュンクは話を続ける。


「オーケン聞いてよ!

 本当なんだって!

 僕らは未界から来たんだよ!」


「そう言ったってお前!

 そんな方法どうやって‥‥おい

 ちょっと待て‥‥ら?

 今、僕らって言ったか!?」


複数形を意味する「ら」に反応したオーケンは、

これでもかと言うほど目を見開いては、

篤丸を恐る恐るゆっくりと見つめる。


篤丸は、よほど腹が空いていたのか

騒ぐオーケンを意に介さず、なおもムシャムシャと魚を食している。


「何だと!!バカな!!!

 さ!魚を食べている!?

 未界人が魚を食べている!?」


「落ち着いてよオーケン!!

 別にそれはおかしな事じゃないよ!」


その時だ。


(おもむ)ろに立ち上がった篤丸が、キョロキョロと辺りを見渡し

店の飾りとして柱にかけられた、木の枝を使ったオブジェの前に立つと

その一部を拝借し箸の代わりとして使い始めた。


魚の背骨に残った魚の身が取りにくかった様だ。


「なんだ…なんだその器用な枝の使い方は!!?

 一体何をしようってんだ!!?」


篤丸は、枝を使って背骨から丁寧に身を離し、口へと運ぶ。


「なっ!なんだって!??

 た…食べただと!?

 魚を!!

 食べている!!!!」


「もういい加減にしてよオーケン!

 よく見て!篤丸は魚を食べているだけだよ!」


「あっ…ああ

 そうか‥そうだな。

 いやすまん。

 お前があまりに驚くこと言うもんだから

 冷静さを失ってしまった」


いやあんた「ようやく話してくれる気になったか」って言ってただろ、

思わせぶりにもほどがあるぞ筋肉大男が。


リュンクがさっきまで抱いていたオーケンに対する安心感は、

もはやゼロを超え振り切り、マイナスにまで至っていた。


その後、今度は篤丸が枝を爪楊枝にし始めたので

またオーケンが大騒ぎするとリュンクは身構えたが

「ああ、それは俺もやるわ」と普通に言うのだった。

エルデの王になるべく

長い旅に出ていたのでまたしばらく間が空いてしまいました。


すみませんでした。


本当に長かったが良い旅でした‥


だがあの腐敗女‥俺はあいつだけは許さない。

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