-【7-10】-単眼の大女
異界の管理を担う、異界管理局の総本山、
異界核神殿の紋術省部署棟の頂上には、本省の守護者であり
異界神族の一柱【意識の神オゲリア】が鎮座する御殿【心の宮】がある。
心の宮を閉ざす巨大な扉を目の前にした神官ボルボンは、
その厳格な佇まいに当てられてしまい
神聖な領域に踏み込んだ緊張感に固唾を飲んでいた。
神々の住まう領域を前にして、
そこへ踏み込もうとする者を弾く仕組みが無いのは、
偏に、この施設事態が一般に公開された場所では無く
その行いを断罪するシステムが他に設けられ皆がそれを重々に理解しているからだ。
言い方を変えれば「罰を恐れぬのであれば進め」と言う意味合いにも取れ
そういう捉え方も、一概に稚拙な揚げ足取りとも言いきれない。
神々に関与する物事は、常に計り知れない因子を内包しているのだ。
本来、宮中の神を拝見する為には、
【神関省】に申請し、賢者衆による
数ある厳重な審査を超えなければならない。
更に謁見するに至った経緯を念密に吟味された後、
宮中の神による許諾が降りてようやく御目通りが叶う。
この回りくどい様式は、神族崇拝に付随した
省の承認をこじつける為の【神関省】による、
印象操作じみた部分が大半であったが、
ものの在り方を定め、その様式に神聖さと畏怖を宿らせる事により
秩序として転用するのは、人間社会ではしばしば見られる
一種のコントロール技法であり、疎ましくあるものの
簡単はに否定できない部分がある。
無論、神官であるボルボンにおいても、
その秩序の影響下にあり、諸々の様式を無視した
独断による神族拝見に、神を冒涜する様な恐怖を感じていた。
それでも、その扉に向かうのは、
秩序を天秤にかけても、なお、底を叩かない
相応の重責があるからだ。
ボルボンは、意を決し、冷たく分厚い扉を強く押し込む。
【心の宮】に設けられた巨大な扉は、
視覚から連想される質量に見合わない軽さで、
円滑に稼働し大口を開いた。
広大な領域が眼前に広がる。
長きに渡り、神官職を務めてきたボルボンですら、
宮内を見るのは初めての経験だ。
「‥これは」
ボルボンに備わる五感の内、
一番最初に反応を示したのは、
常人よりも鈍化しているはずの嗅覚であった。
「むっ‥酒臭い」
鼻腔を抜けた宮中の大気には、
強いアルコール気が含まれており
想像したいかなる情報にもそぐわない。
神官ボルボンは、その異臭に視界がチカチカと揺らいだ。
『あら、やけにばっちぃのがやって来たわねぇ』
ダダ広い宮中にそぐわない、ねっとりとした淫猥な声が響く。
「貴女様は‥」
声の主人に覚えのあるボルボンは、
素早く神官服で口元を隠しては、
腰に悪そうな姿勢で首を垂れた。
どうやら敬意を払う意味合いを持つ格好の様だ。
『萎縮してるとこ悪いけど、さっさとその扉を閉めなさいな。
こんなとこ賢者の連中に見られたら小言を言われちゃうわ』
言われるまま催促に従った神官ボルボンは、
そそくさと扉を閉じたが想像だにしていない光景を前に、
内心では、アワアワとたじろぐばかり。
ボルボンは一度冷静になる為、
冷たい扉に額を押し付けてから
深呼吸を数度繰り返しては、
穏やかな心で今一度宮内を見渡す。
天井の高い広大な室内は、煌びやかに装飾されており、
建築物の壁面にツタを伸ばす植物と見紛うばかりに
壁には金や宝石をあしらった複雑な装飾が施されている。
また、天井からは金の刺繍が描かれる高級なカーテンが降り、
視界の端を覆う事によって額縁の様な役割を持たせ、
この宮内を高貴な領域だと知らしめている。
そして‥‥。
宮中の中心から放射線状に転がる酒瓶の数々と、
そのあてにされた様々な品々の食べかすが散乱し、
今まで引き合いに出した宮内の貴い要素を著しく損なわせている。
その空間の中心、【心の宮】の本殿たるテント状の祠に、
撫子色の際どい衣装を着用した身の丈三メートル程の単眼の大女。
女は、栗色の丸いクッションを抱き、
祠の中で塒を巻く様に、
肉付きの良い女体を卑猥にくねらせ寛いでいる。
先ほどの声の主であり、
神聖な【心の宮】を酒盛り会場として扱い
空の酒瓶を散乱させる、この神聖な場所を穢す元凶、
彼女こそは、異界神族の一柱【血脈の神ペサトン】である。
「ペサトン様。お初に拝見致します。
私は、紋術省所属の神官、ウド・ボルボン・エルゲンであります。
この度、早急の事案により独断にて意識の神オゲリア様を拝見に上がりました」
『早急の事案?ふ〜ん‥面白そうね?
あたしが聞いてあげる。喋ってごらん』
口では面倒見の良さそうな事を言いつつも
ペサトンは大きな単眼を眠そうに半開きにしたまま
口内から長い舌を滑らせては、何かしら高級そうな食物を捲り上げ食した。
「それは‥ありがたき幸せですが‥オゲリア様は何処へ?」
『あら‥自分とこの神官なのに、
理解が浅くてオゲリアちゃん可愛そう』
ペサトンは、相変わらず気怠そうに振る舞い、
手元の栗色のクッションに頬を預け、
その表面をスリスリと優しく撫でた。
神官ボルボンは、つかみどころの無いペサトンの言動に、
どうしたものかと思案を捏ねたが、
所詮は人族の範疇でしか物事を捉えられない自分が、
神族の振る舞いに理解を重ねる事が叶うとは思えなかった。
「何分にも神族の営みは寡聞ゆえ、
理解が足らず恥ずかしいばかりでございます。
宜しければオゲリア様を拝見する御指南をば頂ければ幸いでございます」
『見たいの?』
血脈の神は、思考の読みにくい大きな目を湾曲させて
嫌らしく笑うとゆっくりと胸元からクッションを持ち上げ手を離す。
すると、それは宙に浮いた。
よく見れば栗色の丸いツヤツヤとしたクッションからは、
何やら蛇腹状の紐のような物が生えており
それが地面に繋がる事で空中に浮遊している様だ。
ペサトンが手放したことにより
球体を覆っていた栗色の繊維が解け始め
その正体が露になる。
「!?」
ボルボンは、そこで自分が見損なっていた事に気付く。
ペサトンが体重を預けていた球体状の物体は無機物ではなく
本体を包み込む異常に伸びた頭髪であり、それがはだけた事によって
その内部から現れたのは、臀部を突き破る背骨を
地面に繋ぎ浮遊する四肢のない裸婦。
神官ボルボンは、その稀有な特徴から、
そのクッションもどきこそ
自分の所属する紋術省の守護神【意識の神オゲリア】だと察する。
「これは‥なんという失礼を。
まさかすでにオゲリア様を拝見していたとは。
紋術省の神官として有るまじき失態」
ボルボンの慄いた様子を見たペサトンは、
さも嬉しそうにケラケラと笑い地面から生える背骨を引っ張ると
再びオゲリアを胸元に引き寄せた。
『寝る時にこの子を抱いてると、
ぬくぬくで、フカフカして
すんごく寝付きが良いの』
神官の中では、血脈の神ペサトンの戯れ癖の悪さは有名であり、
そのエピソードの数々はボルボンの耳にも入っていた。
正直な所、異界窮地に関わる相談を聞かせる相手としてベストとは言えないが
しかし、この状況において選り好みしている余裕はない。
破壊の神、復活の予兆と
最高神が営みを損なった理由と事実
神族はそれらをどう受けとめているのだろうか。
「オゲリア様。
この度、拝見に参じたのは、異界の均衡に関わるやんごとなき事ゆえ
どうか、神託による一助を願いたい」
『‥‥‥‥』
オゲリアは、ボルボンの呼びかけに対し、
その顔面を蓬色をした瞳で瞬きもせずに見つめるばかりで
一向に応答する様子は無い。
しかしながら、その様子は無視や拒絶といった印象と異なる。
意識の神としてあるまじき事だが、
意識の有無が疑われる程の虚無に支配されている。
『あくびが726回、くしゃみが352回』
「‥なんです?」
『この子が見せた生理現象の回数よ。
生まれてから2億年以上一緒にいるけれど
それ以上の自発的行為を見たことが無いわ
だからこの子に何言っても返事は返ってこないわよ』
ペサトンは、長い指を交差させながらそう言う。
「2億年‥‥神族とはそれほどまでに長命なのですか‥」
その言葉を鵜呑みにすると
紋術省の頂点に位置する存在は、
一切コミュニケーションを無くして
省を統括している事になるが
そんなことが可能なのだろうか?
しかし、先程から微動だにせず、
瞬きすらしないオゲリアを見ればその話は真実味が強い。
『だから言っているじゃない。
あたしが聞いてあげるって‥‥
と言ってもだいたい察しはついているけど』
「では‥ペサトン様は、事情を把握しているのですか?」
『最高神である【呼吸の神アブニアール】と【罪罰の神トトジトト】の失踪、
それに伴う【断罪録】の弱体化‥もしくは均衡の揺らぎ。そんな所じゃない?』
「案の定でございます」
『そうねぇ‥神関省の賢者衆からは、口止めされているんだけど
断罪録に違反するリスクを顧みないとこを見ると
貴方、けっこう面白そうだから話しちゃおうかしら』
ペサトンは、手元の酒瓶に舌を伸ばし絡め取り、
そのまま手を使わずに器用にそれを飲み干して見せた。
その大きな口の端からは、朱色の果実酒が線となって滴る。
〜以下説明〜【血脈の神が語る、異界神族の事情】
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
あれは5年前の事ね、アケマ地方の神殿に居る最高神アブニアールとの交信が途絶した。
あの規律に厳しいアブニアールが務めをおざなりにす訳がないと、
神関省は、直ぐにアブニアール神殿の神官、巫女へ事情を聴取する為、
戦争省から【大力僧】を派遣したの。
けれど、どれだけ待てども誰一人として戻ってこなかった。
全容のしれない不測の事態に堅物のトトジトトが動いたわ。
彼は、一度目的を見据えると見境がなくなる所があるから
賢者衆も内心とは裏腹に彼を送り出す他なかった。
あたしはね、見ての通り為体な性格だから
別にこれと言って危機感の様なものは感じていなかったのだけど
流石にこればっかりは驚いた。
アケマ地方へと向かったトトジトトも同じく失踪したの。
罪罰の神トトジトトは、現行9柱からなる異界神族の中で、
こと戦闘能力だけは随一。
そのトトジトトが何者かの手によって無力化されたとなると
物理的な対処法が断たれた事に等しいわ。
同時に管理者を失った【断罪録】は、弱体化し
秩序の理り事態に亀裂が入る。
言ってしまえば、異界神族が構築した均衡は、
既に崩壊している様なものなのよ。
でもおかしな事に、現在においても
その秩序下の元で異界の営みは継続している。
普通に考えてアブニアールとトトジトトを無力化したにも関わらず、
その後で誰も何のリアクションも起こさないのは不可解。
そうかと思えば、アケマ地方のアマテオ帝国が
急な征服戦争をふっかけ始めた。
まるで、神の不在と【断罪録】の弱体化を知っているかの様に。
アブニアールとトトジトトを無力化した存在と、
アマテオ帝国を進軍させている大元は同一だと考えるのが妥当ね。
けれど、それが分かったところであたし達では対処できない。
この異界神殿には、異界均衡を制御する神族があたしを含めて3柱居るけど
あたしもオゲリアもここから離れられないし、戦い向きじゃない。
もう一柱も、同じく自由に身動きが取れない。
元凶が何をやろうとしているかは、不明瞭だけど
最終目的だけはよく分かる。
相手は、異界の主導権を奪い取り
新たな均衡を築きたいのでしょうね。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
〜以上説明終わり〜
神族代表として語られたペサトンの言葉に、
神官ボルボンは顎鬚を汗で湿らせていた。
自ら語った異界の危機が、
他ならぬ神の言葉によって肯定されてしまったからだ。
「神関省はこれを?」
『もちろん知っているわよ。
今はトトジトトの手駒【断罪の化身】と【大力僧】に
事情の把握を急いているみたいね』
【大力僧】とは、異界管理局の内部組織の一つで
断罪録違反を取り締まる為の実働隊でもあり
強力な紋術を行使できる僧侶集団の名称である。
「悠長な‥すぐにでもアケマ地方へ出向き
アマテオに「戦争省休戦令状」を叩き付けるのが先決では?」
『もうちょっと頭を使いなさないな。
これから均衡を上書きしようとしている連中に
前時代の法制が効くと思う?』
ペサトンの言い分は最もだった。
法律や制度といったものは、
法治の元でこそ有力なカードだが
その制約の先へ至ろうとする開拓者達にとって
それらはただの言葉に過ぎない。
『アケマ地方への進行も現状では無理よ。
神族特効を持つ未知の紋術による妨害があって
【断罪の化身】も神族もアケマ地方へは行けない』
「‥と言う事は人の出入りは自由という事ですか?」
『そういうこと。
恐らく、アブニアールとトトジトトを無力化しているのも
この紋術によるものね』
解せない。
何やらモヤモヤとする歯切れの悪い感覚、
神官ボルボンがその感覚に陥っているのは、
主犯たる存在が明言されていないからだ。
ここまで来て、受動的な情報だけ得ても仕方がない。
ボルボンは、毒を食らわば皿までの精神で
重要なキーワードに手を掛ける。
「‥‥最高神様とトトジトト様を害し
世界を混沌に飲ませようとしてるのは
破壊の神ゲゲブアーロでは無いのですか?
全ては破壊の神復活の予兆では?」
『‥‥‥‥』
血脈の神ペサトンは、その大きな単眼を見開き
複雑な色合いをした虹彩を光らせた。
そして。
『キャハハハハハ!!!おもしろー!!』
おおよそ神がすべきで無い
大きな声で高らかに爆笑した。
『全く。恐れに囚われた人間は突拍子もない事を言う。
ゲゲブアーロが復活するだなんてあり得ないの
アレは復活するだとかしないだとか‥‥そういうんじゃ無いの』
ペサトンの様子を見て、ボルボンは更に頭を悩ませる。
どうにもケムに巻いてごまかそうとしている様子では無い。
「では‥元凶はわからないのですか?」
『‥‥そんなもの、最初っからわかっているわ
あの2柱を相手にできるのも、あんな紋術を行使できるのもアイツらしかいない。
ただし。お前がそれを聞く権利も、あたしがそれを話す権利もない。
神族最大の恥部に関わる事、異界神族の尊厳にかけて公言できない』
なるほどと、ボルボンは納得を示す。
のっけから、あえて元凶を伏せる言い回しを多用していたのは、
神族の威厳が損なわれるからであるなら納得できる。
つまりは、神族に関与する存在が起こした不祥事なのだ。
「ですがペサトン様。ひとつ辻褄が合わない事があります」
そう言ってボルボンが懐から取り出したのは、
巫女ルンルンテより手渡された原級素の測量標。
それを見たペサトンは、指のジェスチャで接近を許し
ボルボンが差し出す測量標を受け取り
ギョロリと全体を見渡す。
『‥‥これは‥どういう事?
破壊の原級素が増えている‥?』
「そうです。私が断罪録違反を承知したうえで
オゲリア様を拝見に上がったのもこれが発端なのです」
『‥あり得ないわ‥一体何が‥』
これまで気怠そうな振る舞いで、ものを話してきたペサトンだが、
測量標をみてからの彼女は、ピンとして綺麗な姿勢に正した。
神官ボルボンは、その膨よかで妖艶な体躯が、
しなやかに整った姿に神々しさを感じずには居られない。
「本日までの原級素変動から考察した憶測があります」
『‥‥聞かせてちょうだい』
「その原級素の測量地はキンビニー地方なのですが、
今まで数十回にわたり、特異な原級素の消費と増加が多くみられおり
調査によりウニウラで行われている
アマテオの紋術実験の影響との結論が出ておりました」
『なるほどね‥話の筋道はわかったわ
要は、アマテオ帝国が紋術研究の結果
人工的に破壊の原級素を生み出したと言いたいわけね?』
「その通りでございます」
「あり得ないと言いたいけれど‥‥
人工的に原級素を生み出す事も‥あるいは‥
もしそうなら‥‥」
その後に続く言葉をボルボンは直感で閃く。
「世界の終わり‥‥ですか?」
破壊の原級素とそれから行使する破壊の紋術は、
紋術回路のレシピも、その存在すら後世に残さぬように
強く秘匿された禁止紋術である。
その真の名称を知る者は神族と複数の賢者のみである。
かつて異界人類は、この禁術の絶対的な暴力性能に惹かれ
竜族の怒りを買い一晩の内に3つの都市と文明を滅ぼされた。
今は大森林となっているその地も、
かつては軍事国家ウピポーギが存在していたが
この時、竜のによって文明ごと焦土に帰したのだ。
これは、均衡の狂いを案じた神々の執行とも言われている。
つまり、親族においても内々で制御できない程の高位の紋術であり、
それを秩序を欠いたこの異界に蘇らせる事は世界の終焉と同義とも思えた。
『ハハハ‥飛躍しすぎね。
残念ながら世界は終わったりなんかしないわ』
「‥‥残念ながらとは?」
『ただ、世界の統治者が変わるだけ
残念ながら人類には絶望の未来が待っているだろうけどね』
「‥‥‥なるほど、よくわかりました」
ボルボンは、踵を返し入口へと引き返した。
これ以上、有力な情報は得られず
次の手を打つしかないと確信したからだ。
このまま神々に依存し、その対応に全てを委ねていては、
恐らく多くの人間がこの窮地を超えられず命を落とす。
その前に、切らねばならないカードがある。
『お待ちなさい。
お前はこれからどうするつもり?』
「英雄省へ出向きます」
異界管理局【英雄省】
それは異界管理局結成当初から、神関省と共に設けらた部署であり、
神関省が神々との共存を目的とし、
その神託に従い、神に命の守護を乞う為のものとするならば、
英雄省は、その逆。
人が、人の手で人として生きる為、
人類の中で英雄たる存在を見出し
超常の脅威を振り払う為に存在する。
その性質上、英雄省にはあらゆる脅威を退ける為の切り札があった。
異界史上、一度も使用された事はなく
その実態も、効能も一切が不明な
異界人類最後の一手。
ボルボンは、その脅威が今であると、そう確信していたのだ。
『英雄省に出向いても無駄よ』
しかし、ペサトンはそれを否定した。
「なぜでしょうか?」
『英雄省は動かない。
というよりも動けない』
「それは‥」
『それよりも、神官ボルボン。
あんたに二、三頼みたい事がある
無駄に英雄省で燻るよりもずっと有意義だと思うけど
どうかしら?』
ペサトンは、今までにない真剣な眼差しでボルボンを見つめた。
自ら為体と述べた彼女が、
神の立場として強い意志を持って託す事柄とは
如何なる内容なのだろうか。
ボルボンは、これから巻き起こる未曾有の事態を予見し
今はただ、その実態のない影を恐れながら
自ら脅威に近づく為、その問いにゆっくりと頷くのだった。




