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WSS/1-異界冒険譚  作者: たかしモドキ
第7話「実にエッチである」
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-【7-4】-こんなややこしい奴見た事ねぇな

リュンクの頭の中に「ん?ん?ん?」とゲシュタルト崩壊しそうな疑問系が溢れかえり、

今にも耳や鼻から吹き出しそうな圧迫感を持って思考をパニック状態にした。


アツ。


改め、篤丸(あつまる)と名乗った奴は、

硬派な武士っぽいどころか、本物の武士だった。


明らかに日本人然とした本名と、

やたらと柄の長い日本刀は、

篤丸がリュンクと同じ未界人である事を証明しているが‥


(にわか)には、その事実を受け入れられそうもない。


言うまでも無い事だが、敢えて言いたい。


篤丸の言動なり、外見なりを見ては、

どう考えてもリュンクと同じ現代人と思えない。


分かりやすく言えば、


「自分とは異なる時代からこの世界に呼ばれた人間」


という言い方がしっくりくる。


リュンクは「こんなややこしい奴見た事ねぇな」と思った。


一方、脳みそが沸騰してしまいそうな情報量を孕む「名乗り」を、

ひと叫びで表現した篤丸は、過演算によりオーバーヒート気味のリュンクを、

意に介する事も無く、両腕で長柄の日本刀を構え、摺足(すりあし)でジリジリと

アマテオ兵ににじり寄っている。


リュンクが物思いに耽り惚けているのを見たオトロは、

それが篤丸の仰々しい名乗りの所為だと思ったのか

顔を赤くして、たじたじと言う。


「あの‥兄貴よ。あれはアイツんとこの国では、

 開戦のルールと言うか、礼儀らしいんだよ。

 だからさ‥‥あんまり気にしないでやって欲しい‥」


可哀想な人を哀れむような言葉で、

やんわりとフォローするオトロに対して

「今そんな事どうでもいいんだよ!」と、

吐き捨てそうになるリュンクだが、

「開戦」と言うフレーズに、意識の方向を正す。


篤丸の正体や、実態を知る前に、

この場を収める事に集中しなければ。


竜剣を背負うように構えたリュンクと、

その気概を嗅ぎ取り、武器を構え直したオトロは、

二人して目を尖らせてアマテオ兵に睨みを利かした。


対峙するアマテオ兵は、互いにアイコンタクトを取り、

篤丸の持つ武器の間合いを読みつつゆっくりと陣形を整えている。


ドダウ爺さんの道具屋で聞いた情報では、

逃亡した四人のアマテオ兵の内、一名は隊長クラスの手練れ

もしかすると紋術の心得があり、紋術攻撃を繰り出してくる可能性もある。


更に、先ほどまでのイレギュラーな戦域と異なり、

今、この状況は戦士が互いの命を賭けて

ぶつかり合う純粋な殺し合いのリング。


以上の要素を念頭に置いて考えれば、

こちらの方が、分が悪い様にも思えるが

アマテオ側のマイナス要素がその均衡を整えている。


アマテオ兵達は、脱走の際、装備を奪還できなかったのか、

打ち合いに不向きなダガーや、矢の無い紋弓、

刃こぼれの酷く先端も折れたロングソードなど、まともな装備が見えない。


リュンク達は、人数でも練度でも劣っているかも知れないが、

畳み掛ければ一方的な戦いに持ち込める。


「よし‥一気にかましてやろう!いくぞ二人共!」


「わかった!!こっちは任せてよ!」


オトロの意気込みにリュンクは、帽子のツバを上下に揺らし、

竜剣の柄を握りしめ、攻撃に備えた。


「あいや待った!!」


互いに気迫を練り上げつつある現場に、

横槍を指すような叫びが上がる。


声の主は篤丸だ。


篤丸は、先程まで捻じり上げるように構えていた

長柄の日本刀を下ろして、アマテオ兵に向かって

いけしゃあしゃあと喋り始める。


「主ら、まともな兵具も無しに打ち合おう言うんか?」


その言葉を受けたアマテオ兵は、身構えたまま返答を返さず、

敵対する相手を警戒している様に見えるが、

おそらく純粋に言葉の意図がわからず混乱しているのだろう。


「仕様が無い。一騎打ちじゃな。

 オトロ。其処元でも良い。誰か獲物を貸してやれんか?」


その言葉で場が凍てつく。


「‥‥うっ」


この現場に既視感を覚えるリュンク。


リュンクは、異界に来てから、無知や文化の違いで

幾度か場を凍らせる発言をしてしまった事を思い出していたが

「こんなにも、如何しようも無い気分になるものなのか」と、顔が赤くなった。


「な?こう言う奴なんだ。困っちゃうだろ?」


思い出し赤面に顔を伏せるリュンクに対して、

すでに慣れているのか、オトロは呆れた様にそう言う。


その言葉対してリュンクが素直に頷く事が出来ないのは、

同意する事で自分の恥部を認めたくない彼のプライドなのかも知れない。


それを誤魔化す為なのか、リュンクは「僕のを貸すよ」と

篤丸に竜剣を差し出すが、手を離した後に

竜剣が普通の人には持てない事を思い出す。


「あ」


「おぉ!?ふんぐッ!!あぁあああああ!!なんと重い得物か!!!」


篤丸は、辛うじて竜剣を受け止め、

切っ先が鉄橋に当たらない様に異様な姿勢で踏ん張り力んだ。


それを見たオトロが叫ぶ。


「バカ野郎!!ふざけすぎだ!!!」


その言葉とほぼ同時に、アマテオ兵達は一斉に動き始め

全速力でこちら側に走り寄ってくる。


リュンク達を避ける様、放射線状に疾走する四名のアマテオ兵、

はなから彼らに闘争する気は無く、どう逃亡しようかと隙を見計らっており

篤丸の奇行がこれ以上ないタイミングとなった。


篤丸は、それに気づくや否や「すまん!」と言い放ち

竜剣を手放すと、素早く長柄の日本刀を軽く浮かせ

柄の先端に近い部分を握り、ひと薙ぎする。


「いやぁ!!」


長柄の柄端を握る事で、篤丸は元々長い武器の間合を延長し

大きく空間を横薙ぎにした刀身は、2名のアマテオ兵を牽制する。


オトロは、迫るアマテオ兵に応じてバックステップで踏ん張った後、

ショートソードで刺突を繰り出そうとしたが、

アマテオ兵がそれを交わす様に低い姿勢をとったのを見て

咄嗟に身をよじり、円盤投げの様な動きで小盾を振り回してから

その顔面に打ち食らわせた。


二人の俊敏な対応により、3名の足止めに成功したが

武器の無いリュンクの方に来たアマテオ兵だけは、彼を突き飛ばし

北アンガフ方面へ逃げてしまった。


リュンクは、竜剣を拾い上げてから走り去った男を追いかけたが

身体能力が向上しているとはいえ

全速力で走る大人の足には、なかなか追いつけない。


「くっそ!!逃げられちゃう!!!!」


足を前に出す事に必死になりながら考えるリュンク。


無尽蔵な体力を持って、このまま追いかけていれば、

いつかは、その背に手が届く事だろうが

このまま北アンガフの街に逃げ込まれると具合が悪い。


一度も足を踏み込んだ事のない街で人を追いかける自信は無い、

どうにかして、この場で相手を捕まえなくては。


こんな時に、時間遅延が使えれば。


「そうか!時間遅延だ!!」


ピンと閃いたリュンクは、

走りながら竜剣を逆手に持ち

剣先を喉元に向けたかと思うと

何を考えているのか、飛び込む様に前に倒れこんだ。


地面と衝突した竜剣の柄頭(ポンメル)は、

リュンクの喉元に密着した剣先を突き上げ

その皮膚を貫こうとするが、


その瞬間、ブワァッと時間遅延が発動する。


リュンクは、瞬時に首を(よじ)って剣先を交わすと

遅延が解けるまでの数秒間、前方でもがく様に走る

アマテオ兵に向かい全速力で疾走する。


これを繰り返す事で、アマテオ兵の背後に迫り

手に触れられる距離まで来ると、竜剣で切りつける事もできたが

流石に(はばか)られるので、タックルをかまして相手を転ばせる。


自分とは違う時間を過ごす相手に対して行う、

本気のタックルが、どれほどの衝撃に相当するのか、

物理に詳しく無いリュンクは知らぬ事だが

吹っ飛んだ挙句、激しく地面に打ち付けられ

唸り声をあげる男を見ると、子供のタックルで転んだとは思えない。


「‥‥‥」


リュンクは「動けなくしておかないと」と思い、

無感情のまま、地に伏せる男の両足に竜剣を横面にして振り下ろす。


数十キログラム相当の刀身は、

刀身の腹を用いた峰打ちであっても容易に両足の骨を砕いた。


大きく短い悲鳴をあげてから、アマテオ兵の男は体を丸めて動かなくなる。


先ほど「情が湧いた」などと言っていたにも関わらず

それを見下ろす瞳には、感傷の欠片も伺えない。


リュンクの胸中は、隙間風が通る様に冷え乾いている。


本人には自覚が無く、故に気付くことが難しい事実だが。


この行為と言い、時間遅延の発動方法と言い

リュンクがあの時、激昂のまま

無思慮に手放した人間性の一部は、

確実に彼の性格に影響を及ぼしていた。


リュンクは、目の前の敵を無力化した事で

意識を後方に向け、二人の様子を確認する。


三体二の構図で立ち回る、篤丸とオトロだが、

まともな武器を持たないマテオ兵は、確実に押されており

その内一人は、オトロ渾身の盾殴りが効いているのか

鼻から血を流しフラフラとしている。


オトロがその動きに気を払うと、

それを察した篤丸は、大振りな攻撃を仕掛けて

敵同士の距離を離してみせ、そのタイミングを使い

素早く間合いを詰めたオトロは、フラフラと頭を揺らすアマテオ兵に

再び盾殴りを打ち込むと、今度こそ男は地に伏せ動かなくなった。


更に、篤丸は長柄の日本刀で、わざと豪快な突きを放つと、

それを交わした相手は、反射的にその柄を掴む。


まんまとブラフに誘われた、その腕に組み付いた篤丸は、

腕の関節を決めてから、相手を背負い投げ飛ばし

硬い鉄の地面に頭から落す。


腕をへし折りながら投げられたアマテオ兵は、

受け身も取れずに顔面を強打し、伸びてしまう。


インベルから聞いたアンガフ決起隊で実力ありとされる、

傭兵育ちのオトロと、未界の武士篤丸の実力は目を見張り

有利な状況とは言え、少年兵とは思えない圧倒的な戦いだ。


篤丸に至っては、おそらくリュンクと

そう歳が離れて無い事を考えると尚更に感服する。


「もう良い!!やめてくれ!!」


一人残ったアマテオ兵は、震える手で持つダガーを捨て

逃亡も戦闘も投げ出して降参を告げたので、

リュンク達は、それを受け入れた。


誰も負傷せず戦闘を終えた事に安堵した三人は、

鉄橋を補強修理する為に建設された木製の足場に移り

作業場に積まれていたロープを使い、

鉄橋の柱にアマテオ兵達を一纏めに縛り付けた。


篤丸とオトロに伸された男達は、時期に意識を取り戻したが

諦めた様子でぐったりと首を垂れ、リュンクに足を折られた男は、

尚もぐぐ持った声で苦しんでいる。


その様子を見たオトロが言う。


「ちらりと見たけどさ、風の紋術使っただろ?

 確か【順風】だったか‥兄貴の歳で紋示2の紋術が使えるなんて、

 地方同盟はレベル高けぇな!」


オトロからしてみれば、時間遅延の事など知る余地もないので

尋常を超えたリュンクの走りを、紋術を使用した加速として捉えたようだ。


「さては、トロッコで見せた攻撃も紋術だろ?

 あんな太い根を一撃で切れるわけないもんな」


「へへ!!まぁね!!」


リュンクは、上手く答えられない類の質問だったので

ニヤついた相槌でごまかした。


その受け答えに、小さく納得するように頷いたオトロだが、

次にゆっくりと両足を負傷した男に目をやる。


「しかし兄貴、意外と容赦無いよな

 両足の骨を折るなんてさ」


その言葉にドキっとするリュンク。


確かに、やり過ぎだったかも知れないと

自分の行為に罪悪感を覚えたが、

あの時、どうして躊躇しなかったのか

考えてもわからなかった。


「いや。殺さなんだだけ慈悲があるわ。

 こいつら一騎打ちじゃ言うとんのに逃げよった。

 人に刃向けといて逃げるんじゃから無礼な奴らよ

 ワシなら両足落としてやるわ」


篤丸は、リュンクに賛辞を告げるように

ドシッと肩に手を置いてくれた。


「いや、アツ。あれはお前が悪いよ。あの変な自己紹介どうにかならない?」


「そう悪く言うな。オトロは知らんじゃろうが、ワシのお里は古き礼儀が大事、

 合戦ならまだしも、対面での打ち合いなら名乗らんと気が済まん」


篤丸は再び武器を生地で包みながら、眉間に皺を寄せながら言う、

それを聞いたリュンクは、ついに居ても立っても居られない心持ちだ。


篤丸の事情が聞きたくてウズウズしてしまう。


オトロが北アンガフの決起隊を呼ぶ為に

リュンクと篤丸に見張りを任せ、北アンガフ市街に向かったので

ついにリュンクの、武士武士質問責めタイムが始まる。

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