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WSS/1-異界冒険譚  作者: たかしモドキ
第7話「実にエッチである」
55/80

-【7-2】-プスコファ〜ブペッ!!!

「渡りに船事だ」と、意気揚々とした様子のオーケンを見て、

気分が良くなったトフォン町長は、無言でグラスを並べ、

翡翠色(ひすいいろ)の蒸留酒をチョロロと注ぐと、

不思議な道具で煙を焚き、酒の上に被せた。


「クコカキンス材の(いぶ)り酒です。アマテオ産ですが上物ですぞ」


「う〜ん。いい香りだ。呼ばれよう」


まるでビールの泡の様に揺蕩(たゆた)う煙を、

酒と共に飲み込んだオーケンは、

「くぃ〜」と漏らしながら、鼻から煙を抜いた。


「こりゃあ!具合の良い!」


リュンクは、そのタバコと酒が合体した様な

業の深そうな趣向物に、アダルティな魅力を覚えながらも、

ここにギャンブルを合わせると三大ろくでなし要素が揃う事に気付き、

大人とは得てして体に悪いものが好きなのだとしみじみ思う。


「リュンクさん。良ければアンガフの少年兵と顔合わせでもしませんか?」


呆れた顔のリュンクを見兼ねたのか

ワワロの息子のインベルが、その肩を叩き提案する。


どうしたものかと隣を見ると、

オーケンは、2杯目の燻り酒を

器で受け止めながら少し考えている。


「まぁ‥これも良い経験か。観光がてら行ってみたらどうだ?」


「観光が寺?」


「言葉を知らんやつめ。

 とにかく戦士にとって同年代の仲間は、

 朽ちず研がれ続ける至宝の武器だ。

 いつぞ背を守られるかも知れん、しっかり面を覚えてもらえ」


どうやらオーケンのとるリュンクへの接し方は、

戦士という事で変わっていない様だ。


「わかった‥行ってみるね」


思うところは多少あるが、

この会議を退屈に感じていたリュンクは、

いう通りにしてみる事にする。


インベルの後に続いて部屋を出ると、

扉の向こうには、いつ間にか屈強な男達が大勢控えていた。


皆、ケトアト工房街の鍛冶職人の様に太くたくましい腕をして、

オーケンや、老人コクラクの様に軸のブレないドッシリとした佇まい。


リュンクは、直感で男達がアンガフの戦士なのだと分かる。


男達は、可愛いげに弟を小突く様な接し方でインベルに話しかけ

彼はそれを困り顔でいなしながらも、そこには温かな信頼が見て取れた。


こんな人達が仲間になるのなら、

単純な戦力だけでなく気持ちの意味でも心強い。


「ねぇインベル!強そうな人達だね!」


「まぁ、少々野蛮というか、

 思慮に欠けますが気の良い人達ですよ。

 地方同盟の方達と、馬が合えば良いのですが」


その言葉で真っ先に思い浮かぶのは、

横柄(おうへい)な態度でデウムをいびっていた

ハキホーリとその仲間。


「そうだね‥うまくやっていけると良いけど」


「あっ‥リュンクさん。あの人達が中に居るってことは、

 きっと外に彼らが居ますよ」


「彼ら?言ってたアンガフの少年兵の事?」


「はい僕は、あの二人を是非とも紹介したい」


会議用のビルを降りた所で、

出入り口付近に、二人の子供が見える。


彼らがインベルの言う二人の事だろうか?


「オトロ!アツ!いい所に居てくれた!

 地方同盟の仲間を紹介するよ!!」


リュンクは、その言葉を引き金に

用意していた元気の良い挨拶を繰り出す。


「こんにちは!!僕はリュンク!!よろしくね!」


「おう!元気が良いなぁ!兄貴よぉ」


最初に返事を返したのは、オトロと呼ばれた少年で、

紺色の髪を覆うミット帽の様な被り物に

短いポンチョ、動きやすそうな軽装備と、

自分の得物らしき、ショートソードと丸い小盾を腰にぶら下げている。


其処元(そこもと)が、勇敢な地方同盟の戦士か。

 年端もいかん見た目じゃが、やるんかの?」


続いてアツと呼ばれた少年が反応する。

短くボサボサの髪に、喉元が守られたランニング(タンクトップ)タイプの上衣、

膝で絞られた分厚い下穿きと、甲付きの脛当て、

背中には、布で覆われた長い槍の様な武器を背負っている。


剽軽(ひょうきん)な様子のオトロを軟派とするなら、

まるで武士の様な様子のアツは硬派な印象を受ける。


「二人は、アンガフ決起隊の少年兵の中でも

 一目置かれてるんですよ!」


「へぇ〜!感心しちゃうな!」


「へへん!兄貴に言われちゃ、少しビミョーだけどね

 その嫌に分厚い武器、例の大剣操縦者(アクテオーラー)とか言う

 剣技で扱う武器だろ?」


「あ〜。これは少し違うんだよ。

 なんと言うか‥‥ダサさを代償に頑丈な武器と言うか‥」


「そうじゃな。其処元(そこもと)の体格、戦士と言うには貧相な」


「そこもと?なにそれ?」


「ん?知らんのか?同格の呼び名よ。

 わしなりの敬意じゃ」


リュンクは、二人の話し方に対してふと思う。


疎通の紋術で成立しているこの会話だが、

この喋り方の癖は、何を基準にしているのだろうか。


例えば方言や、訛りと言った個性は、

どこで判断され表現されるのか

考え出せば、少し実験してみたくなる。


「ねぇ三人共、頭がウニになるって意味わかる?」


「なんだ唐突に‥‥頭がウニ?」


インベルとオトロは、首をかしげアツは口を曲げる。


と言うのもこの言葉、リュンクの居た未界で

最近よくテレビで使われている流行語。


要は、流行り廃りで消えて行く

その時限りの言葉は、疎通の紋術に

どう扱われるかの実験だ。


「わかんないね。ケトアトの(ことわざ)?」


「僕も聞いた事がないです。アツは?」


「ウニはしょっぱいけん好かんわ」


「頭がウニなるっていうのは、頭の中がぐちゃぐちゃになるくらい

 混乱している事だよ」


三人は揃って「へぇ〜」と返した。


どうやら、未界の流行語は疎通の紋術では翻訳できない様だ。


そういえばフロエが「全く無知な概念は無理」と言っていたが

察するに方言や独自の言い回しも同様に翻訳できないのだろう。


時には例外もあるのだろうが。


また、訛りは言葉の雰囲気で調整されているのか、

もしくは、喋り手の見た目、印象が関係しているのかも知れない。


真面目で清潔感のあるインベルは誠実な言葉使い。

それなりに身なりを整えているオトロは気取った感じに、

無骨で見た目に無頓着そうなアツは田舎臭い感じにまとまっているのやも。


リュンクは不意に、あの時ゼオが最初に言った

「田舎もん」という言葉を思い出し

その言い表せない複雑な感情を丁寧に心の中へしまった。


「諺か。なら俺からも兄貴に質問だ。

 アンガフには「同径の穴を穿つ」っていう諺があるけど‥意味わかる?」


「同径の穴を穿つ?」


しばし思案するリュンクだが‥‥残念ながら良い回答は出てきそうに無い。


「わかんないや。どういう意味なの?」


「事の理解が足りてない、実力不足って意味があるのさ」


「んんん??どうしてそうなるの?」


「工作してる時にさ、穴を開けて棒状の物を差し込む時に、

 差し込みたい棒と同じ太さの穴を開けても綺麗に入らないだろ?」


「‥‥あ‥確かに」


そう言われて、図画工作の時間に作った竹トンボを思い出す。


あの時、キリで開けた穴に、同じ太さの竹串を刺し込んだのに

上手く入らず、少し穴を削った覚えがある。


「昔、採掘現場の頭領が、弟子に梯子(はしご)を作らせた時、

 持ち手棒の太さと、柱の板に開けた穴を同じにして叱られたって

 そういう話からきてるんだってさ、これ工具屋のドダウ爺さんからの受け売りね」


リュンクは、「どこの世界でも言葉のルーツは似た様なものだな」と、

国語の時間に登場する、数多のアンポンタン達の失敗談を想いだしては、

そうしみじみと思った。


そんな雑談の節目に、インベルが両手を叩いて話を区切る。


「さて、紹介も済みましたし立ち話もなんですから、

 そろそろアンガフを案内しますよリュンクさん。

 とは言え、時間的に南アンガフを回るくらいしか出来ませんがね」


「なんだいインベルの兄貴。これからどっか行くの?」


「ああ。リュンクさんにアンガフを案内しようと思ってね」


オトロは、被り物をずらし前髪を正しながら、やや心配そうな顔する。


「それは結構な事だけど、まさか製鉄所の工場なんか見せるつもりじゃないよな?」


「え?そうだよ。第一製鉄所から、第六製鉄所まで案内しようと思ってさ

 だって南アンガフは工場地帯なんだから他にないだろ?」


「バカバカ!あんなもん永延と見せられたんじゃ、たまったもんじゃない!

 なぁリュンクの兄貴よ!あんたもそう思うだろ?」


工場地帯の見学と聞いて、リュンクが少しげんなりしたのは事実、

社会科見学で一番楽しいのは、行き帰りのバスと昼食で

見学の部分は退屈と相場は決まっている。


「そうだね‥‥他に‥何かあるかな?オトロのオススメは?」


パンパンッグッ!!


その言葉を聞いたオトロは、手を叩いた後、いつかオーケンが

ケトアトの区間を隔てる壁の上でやった様に

高速で見た事もない踊りを舞った。


「そらきた!兄貴には俺たちの寝ぐらに招待しようじゃないか!」


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


オトロの誘いに乗ったリュンクは、

アンガフの工場地帯を北に向かった。


話を聞くと、採掘の街アンガフは、

深い渓谷を境に、北アンガフと南アンガフで別れ

南は採掘源のある工場地帯とそれに付随する施設が多く

北は、居住区や娯楽施設が立ち並ぶ街になっている様だ。


リュンクは、あれやこれやと建築物の説明を受けながら

三人と肩を並べ列を成しフラフラと南アンガフを歩いてる。


「その緊張の瞬間!‥‥アツの奴がいきなりに屁をぶちかましたってわけよ」


「はっ!!あはっはは!!やめて!!お腹痛いよ!!」


「いいや!やめないね!!

 ほれ、アツ!あの時の音どんなだが兄貴に教えてやんな」


「そうじゃの。プスコファ〜ブペッ!!!このような音よ」


「ちょっ!ひふッ!やばい!おしっこ漏れそう!!」


「下品な話だよ。本当にさ」


南アンガフの工場地帯を抜けて、市街地に近づいた四人は、

子供然とした最高に稚拙な話題に夢中。


アンガフ少年兵の訓練で巻き起こった面白いエピソードを

話し上手なオトロが繰り出し、要所で絶妙な補足を入れるアツに、

ひたすらそれに笑い続けるリュンクと、呆れながらも楽しそうなインベル。


なかなかに気の合いそうな四人組だ。


「いやぁ〜これだけ笑ってくれると気分がいいねぇ

 気に入ったぜリュンクの兄貴よ、寝ぐらに着いたら良い物見せてやるよ」


「ふぅ〜っ‥いやぁ‥もう腹筋がくたくただよ。

 で、いい物って何さ?」


「それは付いてのお楽しみってね〜」


「其処元よ、気ぃつけんとオトロの「いい物」は、

 大概(たいがい)下劣(げれつ)じゃ。この間なんか小姓(こしょう)が騙されて

 戦士長の下穿きを嗅がされよったけぇな。

 わしもやられたが、ありゃ相当臭いけぇの」


「まぁまぁアツさん、お待ちなさんな。

 そりゃそういう事もあるだろ?」


「いや!ないだろ!普通は!!

 何をやってんだい!オトロ!!」


「ひひはははっ!!

 いやぁ〜興味本位で持ってきたけど、あれは失敗だったな。

 なぁアツ、戦士長の下穿きは、どんな匂いだった?」


オトロのした悪質な質問で、アツの言動に全員が傾注する。


「そうじゃな‥‥例えるなら‥‥痛んだ瓜の様な匂いじゃ」


「きっつぅ!!相変わらず辛辣だなアツは!!」

「オェエッ!!!汚ったねぇ!!!」


「もうやめろよ〜戦士長が可哀想だろ!

 疲れが溜まってんだよあの人はさ!」


アツの言葉に、リュンクとオトロは鼻を押さえながら

嫌悪感を丸出しにし、インベルだけフォローを入れる形になったが

彼の言い草の方が、かえって残酷な気もする。


地方同盟の戦士団の長であるハキホーリも、

少年兵の間では、口が臭いだの足はもっと臭いだの

酷い言われ様だが、戦士はある程度の地位を持つと

悪臭を放つ様になるのだろうか?


リュンクは、もし強くなっても

体臭には気を使おうと密かに固く決意した。


「そら、見えてきたぜ兄貴」


オトロが指差す方向を見ると、(つた)の這うボロい建造物が見える。


彼らの寝ぐらは、二つの大きな施設に挟まれ、

見た目からギュウギュウで窮屈な印象を受けたが、

オトロの話では、そこへは少年兵達だけで暮らしていて、

毎日がお祭り騒ぎだと言う。

そんな修学旅行チックな毎日にリュンクは憧れを抱いていた。


建物の入り口は、何を考えてそうなったのか知れないが、

以上に狭く、物が散乱している事もあって非常に歩きにくい、

下手をすれば、家の中でも迷子になりそうな勢いだ。


「ここが俺の部屋。

 中は散らかってて狭いからさ

 少し待っててくれよ。すぐにブツを持ってくるからさ!」


そう言い暗黒の室内に消えたオトロ。


その後、彼の姿を見たものはいない。

などと言う語りを付け加えたくなる程、

オトロの部屋はカオスな状況で、室内に入るだけで

ガランゴロンと様々な音が鳴り響いている。


なるほど、アツの言う通り

例の「良い物」とやらには期待しない方が賢明だ。


「ねぇ、アツの部屋はどこなの?」


「来るか?こっちじゃ」


暗黒の世界に消えたオトロを置いて

3人は、アツの部屋に向かう。


「ほれ、ここじゃ。履物は脱ぐけぇな」


辿り着いたアツの部屋は、ガランとして殺風景。

何とも面白味の無い空間で、まさに「寝るだけ」と言った様子。


「はぁ〜オトロにも見習わせたいものですよ」


そう溢すインベルの横で、リュンクも、うんうんと首を振る。


「見ての通りわしの部屋は、なんもなし

 面白いもんも無い」


「アツは几帳面なんだね」


「言い方じゃな。わしは関心が(すく)のうて物がないだけじゃわ」


「ふ〜ん」


そう語るアツの背中を見たリュンクは、

背負っている武器に疑問を感じ

暇潰しがてら質問を投げかけてみる。


「ねぇ、アツの武器はどうして布で巻いてあるの?」


これは当初から気になっていた事で、

オトロは、武器を簡易な鞘に収め、いつでも抜剣できる状態なのに対し

アツのは武器を布で巻いて背負う形で持ち運びしている。

これでは、いざという時、直ぐに武器を構えられない。


リュンクの竜剣も、背負っている状態では抜剣しにくいが、

鞘の片側に大きな切れ込みがあるので、抜くだけなら割とすんなりできるのだ。


実際には、無理やり背負ったまま剣を抜こうと練習して、

鞘を閉じている紐を切ってしまっただけだが。


「確かに、僕も前々から気になっていました」


インベルも同様の考え。


「おお。これは故郷の風習じゃわ。

 武器というのは人間の立場を表す勲章じゃが、

 剥き出しにしておくと無意味に民を威圧する凶器に他ならん。

 わしは胸を張って戦士を名乗るが、

 それをこじ付ける様な振る舞いはしたく無いんじゃ」


「す‥すげぇ‥‥」


同年代とは思えない、しっかりとした考えと気高い思慮。


リュンクは、関心で心が震える思いだ。

いや、同年代というのは少し違うか。


「ん?‥‥故郷の風習って事は、アツはアンガフの出身じゃ無いの?」


「あちゃ〜痛い情報を知られてしまいましたね。

 そうなんです。アツもオトロもアンガフの人間じゃなく

 二人とも違う国の出身なのです」


インベルは、額に手を当てて分かりやすくマズイ顔をした。


「そうなの!?」


「確かオトロは傭兵団の産まれで、アツは剣術家だったかな?」


「そうじゃな」


なるほどポンッ!とリュンクの中でイメージが合致した。


アツから感じた硬派な印象は、お家の影響だとすれば、

武士武士した彼の言動も納得がいく。


この時、リュンクは「しぶしぶと語る武士武士」という

しょうもないギャグを、放とうと思ったが、

先ほどの会議で滑り散らかしたオーケンの様子を思い出し

「ああはなるものか」と思いとどまった。



その時。



「誰かぁー大変だよぉ!!!!」



と、幼く情けのない叫び声が、

突然とオンボロ寝ぐらにこだます。


ガラガラダダダ!と、屋内に散らかる

あらゆる物を撒き散らしながら

何者かが疾走する音が聞こえる。


「なんじゃぁあああああ!!!」


「「!?」」


突如として張り上げられた

アツの信じられない声量の返事に

リュンクと、インベルは度肝を抜かれた。


その声を聞き付けた声の主が、アツの部屋まで

一直線に駆け抜けて来る。


「アツ兄ちゃん!!!大変なんだ!!

 オトロは一緒じゃないの!?」


「奴は、今部屋じゃ」


「二人とも早く来て!!

 工具屋のドダウ爺さんがやらかしたんだよ!!!」


騒ぎ出す子供を落ち着かせ聞いた話を要約すると

南アンガフで道具屋を営むドダウという老人が、

普段から交流のあった数名のアマテオ兵に情けをかけ

先日のアマテオ兵一掃から守る為に、

自分の店の地下に匿っていたらしく

そのアマテオ兵達が、地下から逃げ出し

北アンガフへ向けて逃亡を図ったという話だ。


付け加え、アンガフの自警団を兼ねる戦士達の多くは、

オーケンとトフォン町長の会合に同席しており

迅速な対応を望めず近場の少年兵を頼ってきたらしい。


「無理もねぇよ。ドダウ爺さん‥家族が居ないってんで、

 寂しさ紛れに絡んだアマテオの若造と意気投合してたんだ‥」


騒ぎを聞いて自室から跳んで来たオトロは、

件の老人の事情に詳しいのか(うれ)う様子でそう言う。


リュンクは、朝方に見かけた

思いのある弔われ方をした

アマテオ兵の遺体の事を思い出す。


危機感が鈍化し、寝首をかかれたアマテオ兵と同じく

アンガフ側の人間にもそう言う油断があってもおかしくは無い。


リュンクは、同じ心を持てる人間同士が争う虚しさを感じた。


「でもでも!あのアマ兵達!逃げるときにドダウ爺さんを

 紋弓で射ったんだよ!!‥死んではないけどさ!酷いよ!!」


「なりふり構ってられないってか‥奴ら何をしでかすか分からないぞ。

 アツ、どうする?戦士隊を呼びに戻るか?」


「いや。ドダウ爺さんの道具屋は、北アンガフ行きの貨車(トロッコ)乗り場に近い

 もたついておると北に逃げられるぞ」


「リュンクはどう思う?」


当然の出来事に対し、いきなり意見を

求められたリュンクは、少したじろいだが、

この世界に来てからこういった緊張感のある場面に

多く関わった事もあり、一旦心を落ち着けてから、

支離滅裂にならない様、意味がある情報を冷静に選ぶ。


「僕とオーケンは二人でアンガフに来たんだ。

 アンガフの戦士と同じく地方同盟の戦士達も直ぐには来れないよ。

 急ぐんなら、動ける人間で追いかけるしかないと思う

 でも、北アンガフから他の街に行く事はできないんでしょ?」

 

「そうだね。逃げる事はできないけど、北アンガフの市街地は

 かなり密集してるから、そこに潜伏されると探す出すのに

 えらい時間が掛かる、その間に町民に被害が出るのは避けたい」


オトロの言葉で、自分の視野の狭さを痛感するリュンクだが、

今は傷心に構っている暇はなさそうだ。


「ではこうしよう」


そこで、年長者であるインベルが声を上げる。


「僕は、急いで戦士隊の元に報告に行く。

 どっちにしろ戦力外で足手まといにしかならないからね。

 アツとオトロは、このまま逃げたアマテオ兵を追ってくれ

 奴ら紋弓を持っているらしいから気を抜かないように」


「よし。賛成だ」


「うむ。任されよう」


そう答えるや否や、別れの挨拶も無く

二人は足早に部屋から飛び出していった。


「リュンクさんは、僕と一緒に戻りましよう」


「あ‥‥うん」


リュンクの心の中に葛藤が起こる。


自分が戦いにどう関わるべきか、まだその答えは出ていないが、

ポルシィや、オーケンが自分の保護者として居場所をくれた今、

気乗りのしないウンコ女神の事情など無視してここで生活する事もできる。


何より、ポルシィに言われた

「自分の意思とは関係ないなら止めればいい」と言う言葉が

頭の中から離れない。


でも。


「ねぇ君、逃げたアマテオ兵は何人くらいかわかる?」


「えっと‥確か五人だって」


オトロとアツの二人に、アマテオ兵5人を相手にさせるのは、

なんだか見殺している様な気がして胸くそが悪い。


もし、ゼオやアーテリスの様に殺されてしまったらと思うと‥‥。


リュンクにとって死という状態が、

フィクションで演出される様な美しく

ただ感動するだけの他人事では無くなった今。


たとえ数時間の僅かな間だったとしても

くだらない会話で笑いあったり、日常を共有した人間が、

冒涜と孤独の中に沈んでしまうのはもう耐えられない。


それがもし、自分が関わる事で

回避できる可能性があるのなら尚更だ。


あの時、声を掛けられなかった

少女と老人の後ろ姿が脳裏に蘇る。


リュンクは、胸の中の深い場所にあるアーテリスの存在に祈った。


「今度は、きっと助けるから」


「リュンクさん?どうしましたか?」


「インベルさん!!俺もオトロ達と行くよ!!!」


「え!?それは困りますよ!!

 あなたは地方同盟の客人なのでっ‥」


「ごめん!!オーケンに「行ってきます」って伝えといて!!」


「ちょッ!!待ッ!!あっ!!」


その行動を遮る様に、叫び声をあげたインベルだが、

リュンクは、もう既にそこには居なかった。


「は‥‥速ぇ〜!!インベル兄ちゃん!!あの人何者なの!?」


「うぇ‥ああぉ‥お父さんに殺される!!!!」


残されたインベルは、一人、最悪の未来を想像し頭を抱えた。

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