表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WSS/1-異界冒険譚  作者: たかしモドキ
第6話「あなたに何も期待しない」
46/80

-【6-1】-逃げてごめんなさい

残酷な表現があります。

注意してください。

オーケン率いる戦士団は、部隊を三分割し

各々、分断監視塔を構成する主要施設となる宿舎、訓練所、塔内に侵入。


その内の宿舎への奇襲を指揮したオーケンは、

早速に宿舎内のアマテオ兵を殲滅し、分断監視塔内への侵入部隊へ合流しようとしていた。


そこへ現れる老人コクラク。


「おう。爺さん、くたばってなかったか」


「流石にここの寄せ集め供ではのう」


「そうかい。そりゃ結構、それならここの寄せ集め供も頼むかな」


「あ〜心労祟って腰が痛てぇわい」


「心労と腰痛は関係ねぇよ」


「で?上はどうじゃ?塔の攻略をハキホーリに任せてええのか?」


「上は順調だろう宿舎の窓からアーテリスの紋術が見えた。

 案の定、塔内の奴ら塔の中層へ籠城したみたいだが、

 ハキホーリが2番組の発破隊と準備を進めてる。

 俺の部隊も合流した、そろそろアーテリス達のプレッシャーも効いてくる頃合いだな」


「ふむ。儂等の方は、訓練場からアンガフ方面の関所へ向かっておる。

 訓練場は、予想通りもぬけの空じゃったわ。使えそうな武器も殆ど残っておらんかった」


会話の継ぎ目で、オーケンは、難しい顔をして老人コクラクに問う。


「‥‥全員無事か?」


「見張りの紋弓で打たれて二人死んだ。

 マスアとラジュじゃ。こんなしょうもないとこで死におって馬鹿供が」


「こっちは一人。コゥンニだ、ダガマを庇って死にやがった。」


「‥上では死者は出したくないのう」


「ああ。せめてあの子等には誰一人死んで欲しくない」


ふと、オーケンは思う。


あの子は、上手く初陣をこなせているだろうか。

なんの活躍も、成果も出せないだろうが

せめて、戦場の理想と現実だけでも得られれば良い。


別れ際、あの子の視線を感じたが、それに応を返すことはしなかった。


あの時、彼は自分の意思で甘えを断ち切った。

その選択を鈍らす様な扱いはするべきでは無いと考えたからだ。


だが、どうにも()()ない感情がチラつく、

こんな感情を持った事はないが‥‥誰か一人を特別扱いする様な考えは捨てるべきだ。


「アーテリスもおるしの、大事ないじゃろ。

 冷静で度胸もある。経験も技術も熟達。あれは良い戦士じゃ」


オーケンの心境を慮ったのか、老人コクラクが珍しく励ます様な言葉を掛ける。


「‥良いおっぱいでもあるがな」


「おお。あれは良いおっぱいじゃ」


「ボスッ!!ボスぅ!!!」


その時、アンガフ方面から同盟兵士が血相を変えて二人の元へ走ってくる。

オーケンは、それに対してこめかみに青筋を立てた。


「馬鹿野郎!!そのボスってぇのやめろ!!

 俺の見た目でそう呼ばれたら山賊っぽいだろうが!!!」


「すいやせん!!でも、見張りのアマ兵がとんでもねぇ事を!!党内には、しろっ」


ドッ!!ビチャァ!!


同盟戦士の報告を遮る様に

二人の眼前を通過して、何かが地面にブチまけられる。


それは、屋上で揺動作戦を行っているはずの、

二人の同盟軍少年兵の遺体だった。


「うぁあ!!なんだ!?」


突然目の前に自軍の兵が落下してきた事により驚愕する同盟戦士に対し、

オーケンと老人は、冷静にその光景を観察して、何か不測の事態に気付く。


「既に手遅れか‥‥見ろオーケンよ。こいつら両足がない」


「‥‥両足の負傷‥脛骨(けいこつ)腓骨(ひこつ)ごと両断している。

 しかも、一撃で。こんな芸当‥普通の人間には‥‥

 おいッ!!!戦士団全員戦闘態勢だ!!一分以内に動ける様に準備しろッ!!」


オーケンは、同盟の戦士たちに対し怒声混じりに

早急な指示を仰ぎ出した。


何か、想定していない緊急事態が起こっている。


それを自覚したオーケンの顔には焦りが見え

老人は、その様子を見て宥めるように「落ち着いての」と言う。


その時、更に大勢の悲鳴が谷合にこだました。


「なんだ!?」


「‥これは‥‥岩場の方じゃ!!」


老人コクラクは、眉間にしわを寄せ反響する悲鳴の発信源を辿る。

いつも掴み所がなく冷静な老人もこれには動揺を隠せない。


監視塔の裏側、岩場の方へ急ぐと

少年兵達がぐったりと1箇所へ集まっていた。


「!?お前達!!大丈夫か!!」


そばへ駆け寄り安否を尋ねるオーケンに、

少年兵達は顔を上げたが、

目を白黒とさせ怪訝な表情をしている。


「無事なのか!?上から落ちたのか!?」


虚空の紋術が展開していると思わしき上空を仰ぎ

そう言いながら、全員の様子を見渡したが

怪訝な事に誰一人怪我をしていない。


「これは‥‥」


「アーテリスがぁ‥助けてくれて‥っ‥自分が死にそうなのにぃ‥

 虚空の紋術でぇッ!!受け止めてくれたんですよぉ!!!」


「アーテリスが負傷したのか!?どうして‥‥!!」


話の途中で、少し離れた場所でうずくまる少女を見つけ

オーケンは、飛び込む様にその場に急ぐ。


他の少年兵と異なり、少女は体の関節を在らぬ方向へ曲げて頭部からの出血も酷い。


「なんという事だ!急いで水の紋術に心得があるものをここへ連れてこい!

 ジョラピオ隊も急げ!!本気で急げよ!!」


「オーケン‥様」


「喋るな!意識をしっかり持つんだ!!絶対に死ぬんじゃない!!!」


「ゼオとカテバが死んで……アーテリスと…リュンクがっ」


「もう良い!無理して報告しなくても良いんだ!安静にしてろ」


「うぁ‥白銀‥‥騎士隊」


「!?」


「白銀騎士隊の‥‥突貫きっ‥サルホー‥が‥‥私‥逃げてごめんなさい」


「もう‥良いんだ」


オーケンの心臓が跳ね上がり、

崖崩しの特攻戦で植え付けられたトラウマが蘇る。


落下してきた少年兵の欠損した両足、

一撃で人間の両足を切断できる存在の証明。


血の気が引く。


サルホーガ・イデラケウス。


あの男が、今ここに居るのなら最早、自分たちに勝ち目は無い。

だが、だからと言って全て見放し降伏する事など出来ない。



オーケンは、駆けつけたジョラピオ隊に後を任せ、

愛用の大剣を背負いロングソードと丸盾を手に取る。


挿絵(By みてみん)


「1番組は俺と来い!!2番組はハキホーリの支持を待て!!

 3番組は、塔の下層で待機し、手筈通りに動けッ!!」


そこへ、2番組の準備に追われていたハキホーリが駆け寄って来る。


「オーケン!!なんだ!?これはどういう事だ!?」


「アイーロン・ゲルサウスの置き土産だ。

 塔の上層に白銀隊のサルホーガ・イデラケウスが居る!

 アーテリスと少年兵がやられた。

 全くの予想外だぞ!!!くそったれがぁあッ!!!!」


怒りを張上げるオーケンの横で、顔色を変えるハキホーリ


「ま‥まさか‥そんな‥‥本当だったのかよ‥‥」


ハキホーリは右腕がジクジクと痛むのを感じた。


「ハキホーリ‥‥お前、心当たりがあるのか?」


「あっ‥いや、その‥」


「いや、今はいい!落ちた人数が合わないんだ!!まだ何人か上にいるかも知れん!急ぐぞ!!」


動揺するハキホーリを見て何かを察したオーケンだが

今は、それを言及する時間はない。


「オーケンよ!!」


1番組を引き連れ、塔内へ入ろうとするオーケンを老人コクラクが引き止める。


「爺さん、緊急事態だ。上にとんでもない大物が居やがる」


「その様じゃのう。しかし残念ながらワシからも嫌な報告じゃ」


「なんだ?」


「アンガフ方面の関所を掌握した部隊から報告があった。

 一人、ここからの逃亡を許したそうじゃ」


「一人くらいほっておけば良い!後でなんとでもなるだろう?

 それにアンガフに向かった密偵が、あちらの勢力を刺激している。

 今頃、アンガフ内でも反抗運動が起こっている筈だ。

 無事で本国へ戻れはしないさ」


「それがのう。報告で聞いた逃亡兵の身なりを聞いた限り

 普通のアマテオ兵とは違う様じゃ。

 逃亡した兵士は白銀色の甲冑を着込んで居たそうな」


「それは‥まさか‥白銀騎士隊の騎士が逃亡したのか?」


「白銀騎士が逃亡するとはワシも思えんが‥

 もしそうなら話は変わって来るじゃろ?」


「ああ‥本当に逃亡したのが白銀騎士ならかなりマズイ。

 迎え撃つ用意の無いアンガフの奴らにはキツイ駒だ」


白銀騎士隊の構成員が普通のアマテオ兵と異なるのは、

純粋な戦闘力や装備だけでは無い。


アマテオ帝国内で騎士の爵位を与えられるものには、

単純な戦力能力だけで無く様々な責任を伴う。


戦士ならば、皆知る通り、白銀騎士隊はアマテオ帝国の最精鋭部隊であり、

その名前に付与された印象を汚す様な行為は絶対に許されない。


これは騎士の誇りや、自尊心などという不明瞭なものを守る為では無く

武闘派ブランドとしての白銀騎士隊の価値を大きく損なう事となるからだ。


そもそも敵前にして敗走する様な未熟な自意識を持つ者が

構成員、数百人の少数精鋭で構築された白銀騎士隊に所属できる訳が無い。


「爺さん。任せて良いか?足早かったろ?」


「ふむ。どうじゃろうなぁ」


「老いぼれにはキツイか?」


「そうじゃの‥キツイかどうか‥やってみようかの」


そう言うや否や、ゆっくりと歩みを進めた老人は、

段々とその速度を上げて行き、とても老体とは思えない脚力で

アンガフ方面の谷合に消えた。


それを見送ったオーケンは、塔に向き直す。


老人コクラクと会話したことで、少し冷静さを取り戻したオーケンは、

ゆっくりと深呼吸した後、様々な感情を丸め込み塔へと向き直す。


「よし!!野郎ども!!()して行くぞ!!」

設定資料に資料を追加しました。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ