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WSS/1-異界冒険譚  作者: たかしモドキ
第4話「コントかな?」
32/80

-【4-3】-自分で脱ぐからやめてぇ!

岩壁に隣接する朱色をした、三階建ての建物、

その土壁は触るとほんのり温かく、まだ日中の温度を中に蓄えている様だ。


ここの最上階が、オーケンの住居と言うが、

振り返れば、まだ賑やかなケトアトの繁華街が見えた。


リュンクは、秘密裏に活動している同盟軍のリーダーが

こんな人通りの多い場所に、住居を構えて良いものかと考えながら

右手に作った拳に顎を置いたが「はっ」と、犬スメル(フロエ)の事を思い出し直ぐにやめた。


「おーい!置いてくぞ?」


階段を登り3階の中頃まで来ていたオーケンが、そう叫ぶと

物思いに(ふけ)っていたリュンクは「待って!」と言い、階段を駆け上がった。


「ねぇ、オーケン。どうしてケトアトの建物は土で覆われているの?」


「お。さすが旅人だ、良い所に目をつける」


オーケンはその場で壁に手をつき、ポケットから鉄製の小物を取り出し

ガリガリと削って見せた。


「ほれ、その粉を指でこすってみな」


言われるがままに、乗せられた土壁の一部を指先で磨り潰してみる。

土は粘土質で少し湿気ていた。


「なんだか思ったよりも水っぽいね。もっとサラサラしているのかと思ったよ」


「そこが肝だ。ここケトアトは金物の街、どこもかしこも鉄ばっかりだろ?」


「うん。デウム達に連れられて資材街に行ったからよく分かるよ」


「その鉄の天敵は水気だ。水気は鉄を錆びさせるからな」


「ああ!なるほど、土壁が水気を吸うんだね!!」


「ご名答!ケトアト名物の防錆土壁(ぼうせいつちかべ)だ!賢いじゃないかリュンク」


大きな手で、頭を撫でられる。


なんだか照れくさいし、蟹くさい。

そういえばこのおっさん手ぇ洗ってたか?


「さぁ着いた着いた!酒が抜けて体が冷えちまったよ」


階段を登りきった先の扉の前で

オーケンが先ほど土壁をほじっていた

鉄の小物を近ずけるとドアノブ周辺が一瞬光る。


どうやら、あの小物は鍵の様な役割があるアイテムの様だ。


「さぁ、リュンク。ようこそ我が家へ」


オーケンは、勢いよくドアを開ける。


開口一番(かいこういちばん)、ならぬ邂逅一番(かいこういちばん)


ドアを開けた直ぐそこに、意味深に笑う線の細い女性が立っていた。


「ぉぁあ!?ポルシィ!!?居たのか!!」


「ふふふ。お帰りなさいオーケン」


オーバーリアクションで驚愕(きょうがく)するオーケンを見て、

嬉しそうに笑うその女性は、オーケンの後ろへ

隠れる様に身を隠したリュンクを見つけ首をかしげる。


「隠し子?」


「そんな訳あるか!こいつはリュンク。新しくうちの少年兵として活躍してくれる若き戦士だ」


「リュンクさん?」


「こんばんは…お邪魔します」


リュンクは、帽子のつばを下げ、チラチラとポルシィに目をやる。

それを見たポルシィは先ほどの意地悪そうな顔とはまるで別人の様に和やかに微笑む。


「まぁ、お行儀の良い。それに剣まで背負って勇ましいわ」


ポルシィのおっとりとした喋り方と

優しい声にリュンクは照れてしまった。


招かれるままにリビングへと移動したリュンク。


オーケンは、リビングに入って直ぐ、寒い寒いと暖炉の前に陣取り

ポルシィはキッチンと思わしき場所で家事をし始めた。


キョロキョロと部屋の中を見渡す。


室内は例の土壁と木が主に使われた簡易的な作りだったが、

清潔感のあるインテリアでとても居心地が良い空間に仕上がっている。


これは絶対にポルシィのアイデアだ。

この大男にこんな繊細なセンスがあるなどとは思えない。


「リュンクさん。机にいらっしゃい」


ポルシィに呼ばれ、食卓の席に座るリュンク。

テーブルも椅子も元の世界では見ない、斬新な意匠だ。


「これで温まってね」


そう言いながら食卓に置かれた木製のコップには

湯気の漂う赤茶色の飲み物が注がれている。


リュンクは「頂きます」と良い、ズズズとそれを口にする。


「あ!美味しいね!」


ナッツ系の香りとくど過ぎない甘みでさっぱりとした飲み物だ。


「んー?まるでナロルを飲むのが初めてみたいな口ぶり」


「ぁ…うん。初めて飲んだけど、とっても美味しいよ!」


「………………」


ジーっとリュンクを見つめるポルシィ。


深みのある紫紺色(しこんいろ)をした綺麗な瞳に覗き込まれ

リュンクは耳まで真っ赤になる。


「変わった被り物ね。リュンクさんはどこの街の出身なのかしら?」


「えっと…その」


「そいつは旅人さ」


質問に対してまごついているリュンクを助ける様に言うオーケン、

暖炉の火で照らされ、堀の強調された顔でニヒルに笑う。


「旅する男子は、故郷の事なんて頭にないのさ。なぁリュンク?」


どう言うつもりか解らない。

だが詮索する旨の話題にオーケンが助け舟を出してくれた事は確かだ。


「ふふ。浪漫に詮索はご法度なのね?わかりました…でも、その被り物は見せてくれる?」


どうやらリュンクの帽子に興味を持った様子のポルシィ、

リュンクは「いいよ」と、お気に入りの黒革の帽子を手渡す。


「待って待って。この被り物、凄く丁寧に作られているわ。

 ここまで狂いのない縫目は見たことがない。リュンクさんの故郷にはいい職人さんが居るのね?」


リュンクは「おそらく機械を使って大量生産された物のひとつだけど」と思ったが

説明するのが非常に難しいので愛想笑いではぐらかす。


「あら!待って待って!よく見れば貴方の髪、凄く綺麗な黒色なのね」


そう言うや否や、ポルシィは手櫛でリュンクの髪をさらい、

毛並みを整える様にリュンクの頭を撫で始めた。

女性特有の細い指と、柔らかな指の腹で優しく撫でられ、

リュンクは胸の中から恥ずかしさが込み上がってくるのを感じた。


挿絵(By みてみん)


ポルシィはリュンクが照れてガチガチになっているのを知りながら

お構い無しに甘やかしてくる。


猫可愛がりとはこの事だろうか?


「…………………………ッ!!!!」


一部始終を傍観(ぼうかん)していたオーケンが、突然立ち上がり

食卓の前へとズシンズシンと足音を立てながらやって来た。


こうやって改めて目の前に立たれると、オーケンの体は規格外のサイズだ。

その身長は200cmに迫る、大きいと言うよりもデカい。


「うおぉおお!!!」


「!?」


目の前の巨大な男が奇声を上げ始めたかと思えば、突然ポンチョを剥ぎ捨て

上着からズボン、ブーツまで脱ぎ散らかし始める


「ちょっ!?オーケン!?何して」


「おらッ!!!」


最後にオーケンは、下着を勢いよく脱ぎ、西部劇のガンマンがする様に

脱いだそれを指元でクルクルと回し始める。


それを見たポルシィは、ガタッと急いだ様子で何処かへ向かい

帰ってきたその手には、編まれて作られた大きなカゴがあった。


「フンッ!!」


その掛け声とともに無造作に放り投げられた下着は、天井スレスレに飛んでいき

それを足早に追いかけたポルシィのカゴの中へストンと入った。


「キャッチ♪」


なぜか満足げに喜ぶポルシィ。


「あ…あぁの…」


テンションについて行けないリュンクは、目をまん丸に剥き

ワタワタと状況の着地点を探す。

その流れで、視野に入ったオーケンのイチモツは、信じられない程に巨大であった。


「グッ……グレート!!」


「風呂だッ!!風呂に入るぞリュンク!!」


大男は、大きな口を開け距離感のズレた大きな声でそう言う。


何の脈絡も無いその要求によだれを垂らす程に開いた口が塞がらない。


「また、えらく…い…いきなりだね?僕はいいかな〜」


そう言い、目を逸らしながら「ははは」と乾いた笑いで

場をいなそうとするリュンクを、オーケンは細い目で見つめる。


「やかましい!!さぁ!服を脱げ!!」


「えぇ!?ちょまつ!?うぁ!!やめてよ!!!」


そう大きな声で言うオーケンは、リュンクの服を強引に引っぺがそうとするが、

その際に、ビヨーンと伸びる小学校指定のストレッチ素材のシャツに驚く。


「おお!?なんとよく伸びる服だ!どういう生地で作られているんだこれは!?」


「し!知らないよ!!!伸びちゃうから引っ張らないで!!」


「えーい!男同士の馴れ合いは裸で対面するもんだ!!脱げ!!リュンク!!!」


「何でだよ!引っ張らないでっ!わかったよ!!脱ぐから!!!自分で脱ぐからやめてぇ!!!!」


女々しい声でそう叫ぶリュンクを見たポルシィが、


「待って待って、そんなに引っ張ったら服が破けちゃうわ」


と、そう言ったが、決してオーケンを止めはしなかった。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


オーケン宅の浴室で、湯に浸かるリュンク。


ざらついた分厚い陶器で作られた浴槽、

そこになみなみと張られたこのお湯は、オーケンの帰宅に合わせて

ポルシィが沸かしておいてくれたのだろうか?


何ともありがたい事である。


疲労感も眠気も強くならないので、すっかりと忘れていたが

風呂に入るのは3日…いや、4日ぶり、

肩まで湯に浸ればジンワリと体がほぐれていく。


疲労していないと思っていた体だが

それなりには疲れが溜まっていた様だ。


「湯加減はどうだぁ?」


そこへ送れてオーケンが浴室に入ってくる、

すでに全裸なのに何を用意する物があるのかと思っていたが、

その手には、円錐状の花瓶の様な容器と、手の平サイズのコップが握られている。


それを見たリュンクの脳裏にテレビドラマや、

邦画に見る温泉に浸かりながらお酒を飲む俳優の姿が連想される。


「よいこらせっとぉ!!」


ザッバァ!!!!と、津波に弾かれた岩場かと言わんばかりに暴れ狂う浴槽の水面。


溢れ出た水の量から察するにオーケンが湯に浸かった事で、

もしかすると浴槽の中身は半分以上失われたのでは無いだろうか?


「ぉお〜うぅぃいいいい〜あ”あ”あ”〜うぅ〜〜んむっ」


リュンクは思う。


どうして湯に浸かった大人は、こうやって情けのない声を上げるのだろう。

自分もいつか自然にそうなるのだろうか?

待てよ?大人がみんな同じなら

あのまいっちんぐお姉さんのアーテリスや、ポルシィも声を上げるのだろうか?

…………………………それはエッチだ。


ビシャッ!


「うぶっ!なにするのさ!?」


オーケンは突然、リュンクの顔に湯をかけた。


「いや、何か(ほう)けていたから…なんかやっちまった」


なんかやっちまった。なんて大人が言うもんじゃ無い。


オーケンは、豪快に風呂の湯で顔を洗った後、

「そうだそうだ」と呟き、持ち込んできた例の容器に手を伸ばし、

円錐状の容器から細い線をして流れ出てくる中身をチョロっとコップに注ぐ。


「お酒ってさ、お風呂に入っている時まで飲みたくなるものなの?」


「酒?…そうだな。気分の良い時に飲みたくなるのが酒だからな。風呂に入って気分が良ければ酒も美味いだろう」


「へぇ〜」


「まぁ、俺は飲まんがな」


と言った直後、オーケンはコップの中身を浴槽に全部流し込む。


「ええ!!?嘘でしょ!?なんで入れたの!?」


オーケンは、何食わぬ顔で流し込んだそれを湯に馴染ませている。


「何だ?嫌なのか?薬湯は良いもんだぞ。肌にハリが出るし、腰痛にも効くんだこれが」


まさか。


あの液体は入用剤だったのか、このガサツそうな大男が、

入浴剤を嬉れしげに浴室に持ち込み嗜むなど意外すぎる。


待てよ。


もしかすると、リビングのインテリアもオーケンの趣味なのか?

それはなんだかとてつもなく腑に落ちない。


何だかイラついたので無意味にオーケンの腕を殴るリュンク。


「何だ何だ?はは!!そんな貧弱なパンチじゃ、このオーケン・アクテオールは倒せんぞ?」


そう言って、得意げに腕を組んで見せるオーケン、その腕はまさしく豪腕。


リュンクの居た未界で出会った人間でこんなに逞しい腕の大人はいなかった、

ふと、オーケンの腕に深々と残る傷跡に目が行く。


いや、腕だけじゃ無い。


オーケンの体には、首筋や胸板にも多くの傷跡が付いていた。


あの老人コクラクも凄かったが、オーケンも負けず劣らず

浴槽の中で見えない胸から下の体にも多くの傷跡が残っている事だろう。


その中でも一際大きく残っている傷に目がいく。


それは胸の中央から、鎖骨に至るまで続き

ケロイド状に塞がったその負傷痕は、当時は相当な重症だったはずだ。


「気になるか?」


リュンクの視線に気づいたオーケンが傷跡を強調する様に胸を張る。


「痛かった?」


「多分な」


「多分?」


リュンクはその回答を不思議に思う。


痛みとは、人の体に生じる感覚の中でも上位の刺激だ。


それは、痛覚が生物としてその命を全うする為には不可欠なもので

苦痛を伴う行為を通し、致死に至る状況を学習するからだ。


その刺激に対し「多分」とは、聞き捨てならない。


「そうだ。その時の俺は、痛みに対し反応する暇もないくらいの窮地に立たされていた」


痛覚が送り出すシグナルに反応できないほどの状況。


そんなもの、リュンクには全く想像もできない。


「その時の事、聞かせてくれる?」


「ああ。あれは5年ほど前の事、今では「崖崩しの特攻戦」と呼ばれている戦場での事だ」


オーケンは、会議の時に見せた威圧感の乗った表情で語り始めた…。

挿絵(By みてみん)


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