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WSS/1-異界冒険譚  作者: たかしモドキ
第4話「コントかな?」
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-【4-2】-ばっちぃのう

屋内に入ってすぐ、リュンクは鼻腔を刺激する香ばしい匂いの消息を探る。


室内を見渡すと、二階のない長家の店には、

まるで押し込められたと言わんばかりに人がごった返し

人々の前には、同様にゴツいテーブルがドスンとぶっきら棒に置かれ

その上に所狭しと置かれる大皿にぶち撒けられた巨大な生物の殻のような部位から

身をバリバリと引き裂いては、ムシャムシャと旨そうに食べている。


この胃袋への攻撃性能Sの匂いは、アレが発信源に間違いないと見た。


「ねぇ。これは何ていう食べ物なの?」


「んー?殻焼きを知らないのか?ああ。出身は大森林…サジカンタン地方の辺か?あのへんは甲殻獣が居ないらしいじゃないか」


「あー。まぁ、うん。バナナとか食べてるよ。多分ね」


「ばなな?聞いたことのない食い物だな。まぁいい、あっちに座んな」


オーケン達は、わざわざ店の奥へと進み、入口と向かい合わせになる席に座り

通り掛かりの店員と思わしき女性を呼び止める。

女性の身に着けているエプロンは、その端々が黒く焦げていた。


「殻焼きの大皿を一つ頼もうか、身が良く詰まってるのにしてくれよ?」


「今年はどれも身詰まりが良いの。期待して良いわ」


店員は、エプロンから筆記用具を取り出し注文を書き取ろうとするが

老人コクラクがそこに割り込む。


「待て待て。モエンじゃないだろうな?アレは身が硬い、儂はガンガしか食わんぞ」


それに対し「何でも良いんじゃなかったのか?」と悪態をついたオーケンは

やれやれと言った表情でガンガというものを注文した。


「あとは…少年はどうする?ほら、これ見て選びな」


そう手渡された古びた皮紙には、カクついた文字が書かれているが

無論、読めない【疎通の紋術】は視覚には作用しない様だ。


「え〜っと。僕は良くわかんないから二人に任せるよ!!」


「そうか?それじゃ、イカヌ米を2つ」


店員がそれを書き取るのを待つ間、

オーケンは「粉物よりも米が合うんだこれが」と笑いながら言う。


まさか、異世界に来て米が食べられるとは意外だ。


注文が済んで、あまり間を空けず店員はとんぼ返りし、机の上に小さな樽を置いていく

おそらく、注文終わりに頼んでいた酒だろう、リュンクも誘われたが、さすがに断ったのだ。


二人は、その小さな樽を何の躊躇も無く、両手で掴んで上下によく降ってから

上蓋を金具で剥がすと、ジュワァと泡が噴きこぼれた。まるでビールだ。


二人は、それをグビグビと喉を鳴らして飲んでゆく。


「「っかぁーーッ!!!!」」


同時に吐き出される激しい吐息。うん。やっぱりビールだね、これは。


リュンクは、そんな二人を見ながら、例の殻焼きと言うのが楽しみで仕方がない。

そわそわと落ち着きの無いリュンクを見てオーケンが楽しそうにその脇を突く。


「おわっ!ちょ!」


「おう少年!名前は何と言ったか?」


「ああ…名前?えっとリュンクだよ」


「リュンクか。変わった名前だな。出身地は大森林(だいしんりん)だと聞いたが苗字は?」


まずい流れだ。


このまま根掘り葉掘り聞かれると、

すぐに話題で追い詰められるのが容易に想像できる。


「えーっとね、苗字とか…その、あまり人に話さない主義なんだ!!ご勘弁!!」


絶望的だ。


この全く、不器用な文句での切り返しは最早、絶望的である。

もっと幾らでも言い様はあるはずだ。


しかし、オーケンは(いぶか)しむ素振りも無く言う。


「良いねぇ。少年の一人旅は浪漫よなぁ…ガキの頃に冒険に出た時の事を思い出すな」


遠い目をして酒をゴクリと一飲み。

頬が赤いが、もしかすると既に酔っぱらっているのかもしれない。


(かたわら)で、老人コクラクは一人だけ小皿で頼んだ、揚げた魚類のヒレみたいなものを

ガジガジと咀嚼(そしゃく)している。

癖なのかコクラクは、咀嚼(そしゃく)の度に下唇を突き出していた。

ふと視線に気づき目があったが、思い出した様に通りがかった店員に酒の代わりを頼んだ。


「いかんいかん」


オーケンが、急に頭を掻き毟り言う。


「ガキの頃の思い出を懐かしむなんて爺さんじゃあるまいし!」


「あー。オーケンは何歳なの?」


「えー…確か今年で72だ」


リュンクは心の中で「うわ。酔っ払いのおっさん面倒くせー」と

唐突なオーケンの小ボケを(なじ)った。


「そうだ!そうそう!リュンク!ちょいとその剣を見せてくれないか?」


「剣?」


そういえば、あのハキホーリとか言う人と揉めた時に、オーケンは竜剣の事を気にかけていた。

確かにこれだけ意匠のエグい剣も珍しいだろう。


リュンクは、特に断る理由もないので、背中から剣を下ろし

逆手で鞘から抜いてからオーケンに差し出す。


「改めて見ると凄い見た目だな…」


オーケンが、その大きな手で

力強く柄を握るのを見てからリュンクは手を離した。


ドダンッ!!!


大きな音と同時に、オーケンが視界から消える。


「え!?」


驚いて席から立ち上がるリュンク。


突然消えた大男の謎を説き明かさなければならない。

そう思い下方向を見ると床に転がるオーケンと目があった。


「何をしとんのじゃお前、恥ずかしいから早う立て」


老人コクラクは、床に転がった大男に冷ややかな目をやりながらも肩を貸す。


「いや〜参った。酔いが回ったかな。リュンク、悪いがこいつはしまってくれ」


「あ、うん」


リュンクは床に深々と直立している竜剣を回収し再び背負う。

ふと「今のは笑うところだったのか?」と、杞憂するも、さすがに

酔っぱらった大男の悪ふざけに乗っかるのは危険すぎると考え直した。


「何やってんの?あんた等」


その時、大皿を両手に店員の女性が現れる。


「あんまし店の中で悪さしてると、親方にどやされちゃうよ?ただでさえアマ兵のせいで売り上げが下がってんだからさ」


店員はオーケンに文句をつけながら大皿を乱雑に置き、

腕に引っ掛けたカゴから赤黄青の三色三種類のツボを取り出す。


「来た来た!めちゃウマなんだこれが!」


大皿にはこんがりとローストされた、

丸太のように大きな生き物の一部がドドんと乗せられている。

匂いはそう、蟹や海老などの甲殻類に近く、大雑把に切断された

甲羅の断面から覗く繊維状の身が実に美味そうだ。


オーケンは、両手で皿に横たわる身をガシッと掴み自分の目の前にドスンと置く、

そのまま「熱ちち」と言いながら甲羅の中から素手で白い身をかき出し皿の上でほぐす、

それから、店員が置いて行ったツボの1つを手に取り、たっぷり山盛りになったプリプリとした身の上に、

赤くて粘度のあるタレをトロロと上から垂らし、オレンジ色になった拳大の身を口いっぱいに頬張る。


ーモジュ、モジュ。


オーケンの口内から弾力のある身を咀嚼(そしゃく)する音が聞こえ。


「ああ!!んめぇなぁッ!!!」


口から繊維状の身を撒き散らしながら咆哮(ほうこう)した。


「ばっちぃのう」


オーケンの口内から散った身の一部を拭いながら老人オーケンが言う。


リュンクも、オーケンに習い丸太を掴んで目の前の皿に迎える。

その身は、力一杯でないとよろけそうな程に重かった。


熱々と思われる、身に恐る恐る指を入れ、甲羅の内側に詰まった身を剥ぎ取ると

糸状にバラける身の外側はホクホクと火が入り柔らかく、

中心は生焼けでプリプリと少し弾力がある。


「リュンクよ。赤は辛いぞ。その黄色いツボが酸っぱいタレで、青いツボが甘いタレじゃ。ほれ黄色いツボを取ってくれ」


老人コクラクは、リュンクにタレの種類を説明しながら、自分は酸味系のタレを小皿に取り

丁寧にほぐした身をくぐらせ口に運ぶ。


「う〜む。うまいのう」


リュンクはそれを見て堪らなくなり、オーケンと同じ赤いタレをたっぷりと身に垂らし

その手に掴めるいっぱいを口に詰め込んだ。


咀嚼に合わせモシャモシャと身がほぐれる度に、身にうつった香ばしい焼けた甲殻類のフレーバーと、

独特で上品な甘みが口の中に広がる。大きな蟹のほぐし身を口いっぱいに放り込まれた気分だ。

舌で押しただけでほどけて旨味を滲み出させる火の通った柔らかい身と、

咀嚼の度に僅かに歯を押し返す、食感の良い弾力のある半生の身、

辛めのタレも、素材本来の風味を損なわない程度に香辛料が効いていてよく合う。


しばし、リュンクの口から味わい尽くすような咀嚼音が聞こえ。


「ぁあ!!うんまいなぁッ!!!!」


口から繊維状の身を撒き散らしながら咆哮した。


「ばっちぃのう」


顔面に付いたリュンクの口内から散った身の一部を、

まぶたから剥がしながら老人コクラクはそう言い、酒を煽った。


それを見たオーケンは、炊かれたイカヌ米を掻き込みながら大笑いするのだった。


挿絵(By みてみん)


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


殻焼きなる料理を平らげた3人は店を後にする。


支払いの際に、オーケンと彼に負けじと体格の良い店主が固い握手を交わしていたが、

オーケンはこの街ケトアトでは、有名なのだろうか。


「なんだかご飯食べさせて貰って悪いなぁ…」


「子供がそんな事気にせんでもよい。ワシなんか毎日人の金で食ってるもんねぇ〜いいじゃろう?」


老人コクラクは少し酔っぱらっているのか、赤い顔をして嬉しそうに笑う。


「全く、酔ったジジイほど、鬱陶しいもんは無いな」


「あ!オーケン!ご馳走様!美味しかったよ!」


「おう!なかなかイケるだろ?焼いても美味いし、煮込んでも美味い、甲殻獣は最高だぞ」


甲殻獣。


おそらくそういう異界生物が何処かに居るのだろう。

見た目や、その生態などは一切想像できないが、殻焼きから考える身の大きさを考えると

相当大きな生物だと考えられる。


老人コクラクが言っていた「モエン」だとか「ガンガ」とかいうのは、品種の名称か?


「ワシゃ、そろそろ帰るぞ。長い事出歩いとると長耳の奴に愚痴を言われるからの」


老人コクラクは、後ろ姿で淡白にそう言うと、ポンチョのフードを被り

トボトボと提灯(ちょうちん)の照らす街路の人混みに消えた。


オーケンと二人きりになるリュンク。


少し気まづい。


「リュンク。お前さん泊まる場所はあるのか?」


と言う質問に「いや…えっと」などと言葉を濁していると

オーケンは、再びその大きな手で背中を叩いた。


「そんな事だろうと思ってたさ。うちに来な」


「いいの?」


「構うもんかよ!着いて来な!」


ご飯を食べさせて貰った上に、家にまで泊めてくれるなんて

なんて良い人なんだ!っと思った矢先。


そういえば、その対象がムキムキのおっさんという所以外は、

だいたいこういう首尾だったと思い出すリュンクだった。

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