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WSS/1-異界冒険譚  作者: たかしモドキ
第3話「本当に殺されると思った」
25/80

-【3-7】-本当に殺されると思った

「見ろデウム。ハキホーリだ」


男達を見たゼオが、デウムにそう耳打ちする。


デウムは口の端を下げ不快な心情を乗せて言う


「気に入らない。あいつ、アイーロンが来ているのが分かってたんだ」


「嘘だろ!?知ってて、教えずにわざわざ俺たちに偵察に行かせたのかよ」


「くそ。やられた、コクラク様からの指示だと‥‥すっかり騙された」


リュンクは、二人の会話に聞き耳を立てていたが内容はさっぱりだ。


ただし、入り口で門番とのやりとりで見せたデウムの腑に落ちない様子は

どうやら、連中の一人、ハキホーリなる人物に原因があると見て間違いないだろう。


「おい!偵察隊はまだ帰らないのか!!」


静かな室内に大きな声が響く。


明らかにデウム達が見えているにも関わらず

大げさに声を荒げて叫ぶ辺りに陰湿な人間性が垣間見えて

リュンクは、嫌な気持ちになった。


帰りの会があるなら糾弾(きゅうだん)待った無し。


デウムは、浮かべた不快感を誤魔化すようにゆっくりと目を閉じてから

勢いよく腰掛けた木箱から立ち上がり返事を返す。


「偵察隊のデウムだ。とっくに戻っている」


それは勇気ある行動だと、リュンクは素直にそう思い目を見張る。


彼に不利益な事柄が降りかかろうとしてるのは

誰が見ても明らかで、それに堂々と向き合うデウムに同年代として関心しかない。


「とっくに戻っている?ならなんで俺たちに報告にこない?」


「確かに俺たちは偵察から帰ったが、その指示を出したのはコクラク様でお前たちじゃ無い」


「おいおい。お前なにを勘違いしてるんだ?

 別にお前等の実力を見込んで「お願い」した訳じゃねぇ

 他にできることが無いから役が回ってきただけだ。

 お前等半端者が判断する領分じゃねぇんだよ」


このデウムに突っかかる戦士の男が、ハキホーリで間違いないだろう。


ハキホーリの態度は、側から見ても不愉快なものだったが

威圧するようにデウムの前に壁を作る連れの戦士たちも相当たちが悪い。


「他にも報告があったからオーケン様を待ってたんだよ!!」


デウムの助け舟にゼオが口を荒げる。


だが、デウムの表情が一瞬強張り、バツの悪そうな表情でリュンクを見た。


あまり賢い方ではないリュンクだが、その表情の意味合いを秒速で理解、

自分に危害が及びそうな気配、そういうのに頭の善し悪しは関係しない様だ。


「待てゼオそれは後だ。とりあえず偵察の報告を済ませよう」


「あ。そっか‥‥そうだな」


ゼオも失言に気づきチラリと横目でリュンクを見たが

リュンクは「今、あんまこっちみんなクソボケカス」と心の中でゼオをなじる。


「どうでもいい。それで、資材街の様子は?」


「ああ。資材街に降りた気球に乗り込んだのは」


「アイーロン・ゲルサウスか?」


ハキホーリは、デウムがしゃべり終えるのを遮るように話に割って入る。


「っ!‥‥ああ!そうだよ!!知ってたんだろ!?」


「まあな。確証が得られた。アマテオ皇帝の遠征は事実という事だ、これで今日の会議で否定派の連中を黙らす事が出来るぞ。

 後は、ブリウトン将校駐在の可能性だが‥‥」


ハキホーリは、デウムにあれだけ突っ掛かったにも関わらず、

欲しい内容だけを聞き出した後は、(ねぎら)いの言葉すらなく、

「もう用済みだ」と言わんばかりに背中を向け再び奥に部屋に戻ろうとした。


「待てよ!!まだ報告は終わってないぞ!」


「ああ。まぁ後は他のやつに聞いてもらえ」


「宰相のアイーロンと一緒に居たのは、白銀騎士隊のヤンク・カルシャンだぞ!」


ざわっと、室内の雰囲気が変わる。


デウムの出した名前の人物は、よっぽどのビッグネームだったのだろうか?


「おい」


デウムの発言から、(またた)く間に距離を詰めたハキホーリが、

その胸ぐらを強引に掴み、ねじり上げた。


挿絵(By みてみん)


「黙れ」


「ぅ‥っく!なにをするんだ」


「お前が勝手に妄想するのは自由だがな。不安を煽るようなマネするんじゃねぇ

 大事な作戦の前だぞ?士気が下がったらどうするつもりだ?」


「作戦の前‥だから‥こそ‥大事な情報だろうが‥‥」


「アイーロンに護衛が着くのは当然だ。アマテオ帝国軍の将校や、

 腕利きの戦士が護衛に着く事もあるだろう。何も不思議じゃ無い。

 百歩譲って白銀騎士隊の騎士が来ていたとしても納得はいく。

 だがな‥‥わざわざ白銀騎士隊の隊長が!!

 自衛軍すら解体された亡国で!こんな田舎に着いて来るわけねぇだろうが!!」


ハキホーリは、デウムを強引に突き飛ばす。


それを受け止めるゼオだが、バランスを崩し

二人して壁端に積まれた物資を崩しながら不器用に転げた。


リュンクは、心拍数を上げながら、どうしてハキホーリがあんなにも

激昂しているのかを考え、その原因は、

デウムが嘘をついたからだと思ったリュンクは

それを証明する方法はないかと思案する。


だが写真でも無い限り口で説明しても信じてもらえるとは思えない

もしすぐ現像できるカメラでもあれば簡単な話だったのだが。


リュンクは、帽子をずらして

汗ばんだ額の汗を拭いた時、はっと気がついた。


「あ!そうだ!あの紋術を使えばいいんだ!」


リュンクはフロエが使った例の紋術【画送】を思い出した。


あれを使えばイメージを相手に見せることができるのだから

写真もなにも必要ない。


例の銀色の鎧を着た人物ならリュンクもその目で見ている、

それがわかった今、リュンクもデウムの手助けに向かう。


「待ってよ!!デウムが言っているのは本当だよ!!」


リュンクの急な登場に、ハキホーリは一瞬硬直する。


「あ‥‥なんだお前?」


「僕も見たんだよ!信じられないなら【画送(がそう)】で僕の頭を見てよ!」


「‥‥‥」


ハキホーリが、再び硬直する。


ハキホーリだけではない。


連れの剣士たちも、

周りで傍観(ぼうかん)する者達も

皆一様にリュンクの発言で硬直したように見えた。


だが、一時的な興奮状態であるリュンクには、その異様な空気を読むのは難しい。


「ほら!おでこを付けてみてよ!さぁ!!ほらほら!遠慮しないでさ!」


リュンクは帽子を脱いで、ピカピカの額を露出しながらハキホーリに迫る。


「に‥‥」


ハキホーリのこめかみに血管が浮き出て、

見る見るうちに顔が赤くなっていく。


そこで初めてリュンクは、何かしらの失言があった事に気づくがすでに遅い。


「20やそこらしか生きてないクソガキがぁ!!舐めた口効きやがって!!!」


ハキホーリは怒鳴り散らし、

リュンクを威嚇する様に眼前まで顔を近づけた。


彼だけではない、連れの剣士連中も一斉にリュンクに接近する。


だが、リュンクは臆した様子もなく、また心情も穏やかだ。


不自然な事だった。


普通この歳の子供が、大人に怒声を張り上げられ、多勢に詰め寄られれば

肩を(すく)め、視線を逸らすのが通常で、いつもは、リュンクもそれと同じ様に狼狽(ろうばい)したもの

調子に乗りすぎて祖父母に叱られ、口をへの字にして涙をこらえていた事も記憶に新しい。


なのでリュンクは、この状況で自分の心が平穏であることが不自然だと自覚した。


そうこうしていると、アテテロに手を貸してもらい立ち上がったデウムが、

大きな声を上げて場を収めようと慌て出す。


「待ってくれ!!別に馬鹿にしたわけじゃない!

 そいつは大森林が故郷で紋術の事をよく知らないんだ!」


それを聞いたハキホーリは、眉の中端を上へ釣り上げ

睨みを利かしたままデウムとリュンクを交互に見る。


「大森林!?この!‥このガキが!大森林から来たって!?

 お前馬鹿じゃないのか!?大森林からどうやってキンビニー地方までやってくるんだ!!!」


「僕にだってわからないさ!!でも本人がそう言っているんだ!!」


「このマヌケが!!そんな話を鵜呑みにして、アジトまでのこのこ連れてくるバカがいるか!!

 子供だからってなんでも許されると思うなよ!!遊びじゃないんだぞ!!」


これには、ハキホーリだけではなく、取り巻きの大人達も同じ旨の説教を口にした。

確かにこれには、大人達の方に正当性がある。


デウムもゼオも、それが分かったのか口を閉じて、言葉を無くした。


そして、ここから話が脱線し始める。


ハキホーリ達は、この一件をきっかけに

少年兵全体の態度が普段から悪い事や、

地方同盟としての意識の低さ、実力の低さから

作戦立案が困窮(こんきゅう)している事などの説教をし始め


更には、若年層を侮辱する内容の愚痴などをネチネチと垂れ流し始める始末。


リュンクは、自分には関係のない話だとその内容は一旦置き。

何故誰もハキホーリの横暴を止めようとしないのか、それが気になっていた。


ハキホーリ自身が言っていた事だが、大事な作戦とやらが直ぐにでもあるのなら

こう言う仲間内でのいざこざは、御免被りたいはずなのに誰一人止めようとせず

複雑な面持ちをするも黙って様子を見ている。


「あっ」


しかし、ここで、この部屋に入ったときから感じていた雰囲気の悪さと

今見ている周りの態度が一致して、リュンクの脳内でひとつの答えとなって閃く。


要するに、デウム達とハキホーリの口喧嘩は止めちゃいけない部類の喧嘩なのだ。


自分たちの期待に対して、(ともな)わない少年兵達へ抱くエゴからくる大人達の不満と、

自分たちの行動に対して、評価を得られないプライドからくる子供達の不満。


それが、ここでぶつかり合っている様だ。


皆がこれを傍観しているのは、お互いの相違が表面化した瞬間だったから

自分たちの感情を代弁する彼らに何かを期待している事に他ならない。


だが、これでは一方的すぎる。


と言うかハキホーリ達の個人的な愚痴のはけ口にされている様にしか見えない。


「ネチネチ。ネチネチ。気持ちが悪いなぁ。いいよな大人って

 子供に当たり散らしても説教っていう便利な言い訳ができるんだから」


うっかりと、そう言ってしまった後、

その言葉を本当に自分が言ったのだと信じられなかった。


リュンクは、再度自分が発信源となり空間が凍てついていく感覚を味わう。


しかし、これは先ほどとは違う。


彼も流石にこれは言ってはダメな事だと気づいていた。


「お前、自分の立場がわかってないのか?部外者」


以外にも、ハキホーリは怒声無くして返答を返す。


リュンクは、どう答えたものかと考えてみたが、

上手い言い訳が思いつかず直感のまま返事を返す。


「部外者なのは本当だし、立場とかは良くわからないよ」


「なら教えてやる」


瞬間。ハキホーリの腕がリュンクの喉元に向けて素早く繰り出された。


が、それは空を切ってしまう。


どうやら、ハキホーリはデウムにした様に強引な行為で

リュンクを屈服させようとしたが、失敗に終わる。


「危ないじゃないか!いきなりそんな事するなんて大人気ないよ!」


ハキホーリは、その言葉を無視し、眉間にしわを寄せたまま、再びリュンクに迫る。


だが、いくらやってもハキホーリは、リュンクの体に触れることすらできない。


この状況に一番驚いたのはリュンク自身だった。


リュンクは、小学校の学年でも

クラスでも運動神経が良い方ではなく


50m走で走れば、7秒代後半、

ボールを蹴ろうとすれば後ろにすっ転び、

鬼ごっこでは、いつも序盤で追い詰められる。


そんなリュンクが、大人を。


しかも剣を帯刀した、歴とした剣士を相手に

立ち回りで翻弄している。


この世界に来て感じている体の軽さは感覚ではなく、

事実としてリュンクの身体能力を確実に向上させている。


この状況は、女神が彼に託した紋印とやらの恩恵

それ以外に説明がつかない。


「くっ!!このガキっ!!あっ!!?」


ーバタン。


そういう、あからさまな擬音がしっくりくるほど、ハキホーリは綺麗に転んだ。


決してリュンクが足をかけてわざと転かした訳ではなく、

逃げ回るリュンクを無理な態勢で深追いしたハキホーリが

バランスを崩し受け身もすら取れない格好で転けたのだ。


ゆっくりと立ち上がるハキホーリ。


煤だらけの床に前から倒れたものだから、

顔や服に、メイドイン工房街の真っ黒な煤が塗されている。


先程まで高圧的だったハキホーリの横柄な態度からの、

この有様はちょっと目が当てられない。


アジトの至る所から失笑したときの空気が漏れる様な音が聞こえる。


「……ぼ…僕のせいにしないでね」


後ずさる様に距離をとったリュンクは、

転んだ事で起こった二次災害を、自分への怒りに付与しないでほしいと直感的にそう言った。


ーシィインッ


突然。


室内に響く、薄くて硬い金属の振動音。

ハキホーリの右手には帯刀してあったショートソードが握られていた。


「自分がいかに矮小(わいしょう)で愚かなのか。お前はここで勉強しろ」


そう言ったハキホーリの声色は、明らかに先程までと違う。

だが、どうも激情に駆られて抜剣したのとは、やや異なる様にも見えた。


しかし、これには傍観を決め込んでいた大人から制止の声が上がる、

誰からみても、流石にこれはやり過ぎだ。


それに聞く耳を持たないハキホーリは、ショートソードの切っ先を、

3メートルほど離れたリュンクの顔へ突きつけ微動だにしない。


挿絵(By みてみん)


大人達の中には気付いて居る者も多いが

この白刃は、刃ではなく教鞭、

ハキホーリは、この脅しで舐めた態度を矯正しようとしていた。


誰だって刃物を突きつけられれば狼狽する。


子供なら尚更だ。


だが普通に考えてこの状況、この流れで

本当に殺されるとは思わないだろう。


路地裏で1対1ならまだ知れず、

これだけ人が居るこの状況がある、

なおかつ、大勢の大人がそれを止めようと声を上げている。


それでも殺傷能力のある真剣の凄みは

そのまま説得力のある恐怖を叩きつける。


だからこその意識の矯正になる。


少し冷静に考えれば、ハキホーリ自身が望んで

この状況を作った事にも気づくかも知れない

つまりは、これが勉強の一環であると。


ここでリュンクが謝罪をして収まりをつけるか、

ハキホーリが十分だと納得するか、

周りが強引に引かせるか、


どちらにせよ、このいざこざはとりあえずの収縮を迎えるはずだった。


「い…嫌だ。死にたくない」


しかし、リュンクは違った。


本当に殺されると思った。


今ここで、この男は自分を始末しようとしていると、本気でそう思った。


ブワァという感覚が、背中からリュンクを抱きしめる様に広がり、

それの感覚は体全体を覆い隠す。


リュンクは、視界がわずかに歪むのを感じた。

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