表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WSS/1-異界冒険譚  作者: たかしモドキ
第3話「本当に殺されると思った」
24/80

-【3-6】-炎とかボワァアア

「え…ここに入るの?」


どこもかしこも(すす)で真っ黒に塗りつぶされた工房の一角。


見た事のない大きな装置がけたたましい音を立てて稼働している。


その真下に、点検口と思わしき入口が見えるがどうやら、今からここに入る様だ。


例の、デウムの男前宣言の後、

リュンク達は、工房街と呼ばれる区域に向かった。


資材街でゼオが言っていた「工房街よりはまし」と言うセリフは

全くもってその通りで、この区域は、あり得ないくらいの(すす)が舞い散り

足元は暗闇を歩いているかの様に真っ黒で汚い。


その原因は、あちこちに設置された火を吹く炉だ。


デウムは骸炭(コークス)炉と呼んでいた。


鉄を熱して鍛造(たんぞう)するための炉らしく

何かしらの方法で送風された空気で、

炎を吹き上がらせ(くだん)の煤を撒き散らしている。


腕っ節の強そうな半裸の男達が汗を撒き散らしながら

一心不乱に大きなハンマーで鉄を打っているこの

工房街は街並みも絵面もばっちい。


デウム達は、その中の何気ない工房の一つに、

遠陵なく入ったかと思えば、炉の下側にある点検口に入れと言うのだ。


「こんなところに入ってどうするのさ!?危ないよ!!」


「いいから早く入れ!田舎もん!!」


送風装置から産み出される空気の流動音とまわりで打ち響く金属を打ち付ける打音。


四方向から騒音が生じているので普通ならまともに会話ができそうにないが

ゼオの罵倒が上手に聞こえたので例の【疎通の紋術】が作用しているのを思い出した。


ゼオがせっかちな悪態を吐きながら点検口を開けると、

真下に伸びるしっかりとした金属の梯子が現れる。


なるほど、ここが秘密基地の入り口というわけか。


秘密基地。


この言葉は小学生男子を狂わせる魔性の言葉……


その片鱗を見たリュンクは、先程とは正反対でニヤケ顔が治らない。


子供が作る秘密基地など、たかが知れている。


だが、ここは大人たちが本気で作った本物の秘密基地、

そんなもの、期待しない方がおかしい。


下の階へ降りると、そこは体育倉庫ぐらいの空間で、天井には小さな光源と

何やら見たことのない複雑な形をした装置が並んで壁に埋め込まれており

更に奥へ続く扉も見える。


どうやらその奥が秘密基地の様だ。


「驚いただろ。もとは骸炭(コークス)炉の送風装置のメンテナンスをする為の地下室なんだ」


後から降りてきたデウムは、壁に備え付けられた大きな装置を触る。


「これがその送風装置なの?」


スイッチもなければ、電源コードも何も見当たらない

どうやって動かすのか見当もつかない。


「ああ。原級素(アブニア)を消費して【原動(げんどう)の紋術】-【回転】が作動する様に紋術回路が組まれているんだ

 あまりどこにでもあるものじゃ無いから珍しいだろう?特に大森林じゃお目にかかれない代物さ」


リュンクは、再び、自分の常識が否定される感覚を得る。


当たり前の様にこれらの機械は電気で動いてると思っていた。


そういえば資材街で見た、巨大な鋼材の数々は

普通に考えて人間が手で運べる様な重量じゃ無い。


あれ等も例の紋術を使って運ばれたのだとしたら、それは是非とも見てみたい。


「デウムも何か紋術が使えたりするの!?どんなの!?見せて見せて!」


「無茶言わないでくれよ。僕は紋術師じゃない、装置を動かす事はできても

 紋術を行使するなんてできるわけないだろ?」


「え〜デウムかっこ悪」


「酷いじゃないか。そう言う君だって紋術を使えないんだろう?」


「……そういえば」


そうだ。フロエが言うには女神から与えられた【紋印】というのが

リュンクに与えられているらしいが、それはどうやって使うのだろう?


呪文とか魔法陣とかそういうのが必要なのか

そもそも【紋印】は【原級素(アブニア)】とかいうものの源泉だと言っていたが、

その【原級素(アブニア)】を使って紋術を使うと言うのは理解できた。


だが【紋印】と紋術の関係がいまいち解らない。


解らないものは使えない。


でもせっかく異世界にきたのだから魔法の一つでも使ってみたいものだ。


「ねぇデウム。紋術ってどうやって使うの?こう…なんか唱えたりするのかな?」


「使い方か…それは紋術の用途によって違うよ。さっき言ったみたいに紋術を行使するっていう意味なら

 僕よりもアテテロだな、あとで聞いてみなよ」


「え!?アテテロは紋術使いなの!?」


意外。偶然出会った人間が魔法使い……もとい、紋術使いだったなんてさすが異世界、

ただの出会いもあなどれない。


計った様にちょうど良く梯子から降りてきたアテテロは

熱くなったリュンクを見て「何の話?」と、首をかしげた。


ゼオが降りてくるのを待って、奥の部屋へ向かう。


リュンクは、(はや)る気持ちを押さえきれず、ドアノブに手をかけようとしたが

アテテロそれを止める。


「見てて合図があるの」


ゼオは、デウムに視線を送り、頷くのを待ってから木製のドアを5回ノック

更に一呼吸間を開けてもう3回ノックした。


これ以上ない程あからさまな合図だ。


すると、ドアの小窓が開き室内の誰かがこちらを見つめた。


「デウム・サヌワム。コクラク様に頼まれた調査の報告と会合の出席だ」


「デウムか。ご苦労だ、すぐ開ける」


野太い声でそう聞こえた後、重そうな扉がこちら側に開き

想像した通りの強面の男が、扉から半分身を出す。


「オーケン様は?もう来ているのか?」


デウムは、明らかに歳上の強面に堂々とした口調で質問したが

リュンクは、それにドキッとしてしまう。


10歳やそこらの子供が大人に対してそんな口調で話しかける所など

リュンクのいた世界では見たことが無いからだ。


「いや。アマ兵の動きが少し読めなくてな。念のため下水道から迂回してくるそうだ」


「例の気球、物凄い大物が乗っていたからな。哨戒(しょうかい)の類いかもしれない」


「ふむ。宰相(さいしょう)のアイーロンが視察に来ていたと聞いたが、本当か?」


「え?‥‥あぁ‥まぁ、そうだ」


簡単に、強面の男との会話を終えたデウムは

何か負に落ちないと言った顔で、リュンク達を招き中へと入る。


中の様子を見たリュンクは、帽子のツバをあっちこっちに振り落ち着きを無くす。


大人たちが作った「秘密基地」だけあって、室内はしっかりとしている。


工房街の煤で黒く汚れた床は、古いが分厚く丈夫そうな木材が使われていて

木材同士の隙間から、下の階が見えるが水路でもあるのか、水音が微かに聞こえた。


天井にはいくつも大きな穴が開けられ、そのすべての穴に沿うように金属製の梯子がかけられている。


室内には、想像していたよりも大勢の人間に溢れていて、

年齢も実に様々で、40〜50代と思わしき大人も居れば

リュンクよりも年下、小学1年生、もしくは

まだ幼稚園児ではないかと疑わしい子供まで居る。


ふと、大勢を見渡した時、リュンクは違和感を感じた。


決して、年齢層で固まっているわけではないのだが

大人たちと子供たちとの間には、そういうルールがあるかのように

意図的に距離が開けられている気がした。


なんというか、学校の音楽発表会で

男子と女子が喧嘩した後のクラス内の様な、居心地の悪さに似ている。


「オーケン様が来るまでここで待とう。リュンクの事も話さないといけないし」


デウムは、室内中央の広場に向かい

壁側の机の下から木箱を引き出しそれに座った。


アテテロとゼオも同じように簡易的な椅子に腰かけたが

この室内に入ってから、この2人は口数が少ない。


リュンクは、あまり話しかけない方が良い空気を感じたが

あえて読まず、アテテロの横に木箱を置き腰かけると

暇つぶしがてら、さっきの話をほじくり返す。


「ねぇ!アテテロはさ!紋術使いなの!?」


「ちょっ!‥‥声が大きいって!」


「ああ。ごめん」


不意に無下(むげ)にされて少し傷ついたリュンク。


それがわかったのか、アテテロは少し困った顔をして

リュンクの膝を優しくポンポンと叩いた。


「デウムに聞いたの?えっと、少し誤解があるみたい。

 私は少し水の原級素(アブニア)と相性が良いだけで

 紋術使いだなんて名乗れるほど、紋術の行使はできないよ。

 精々、紋示(もんし)1の水の紋術を扱えるくらいなの」


紋示(もんし)。聞いた覚えがある言葉だ、フロエが言っていた気がする。

どうにも単位の名前で、恐らく紋術の難易度を示すのではないだろうか。


「ん?でもさ、紋術を使える人を紋術使いって言うんじゃないの?」


「まぁ、それはそうなんだけど。程度というか、レベルが違うというか‥‥」


「ふーん。それでさ!!その紋術ってどうやって使うの?」


「えっと‥‥あなた、紋術が使いたいの?」


「そうそう!炎とかボワァアアって出せたら格好いいでしょ!?そういう紋術とかないの!?」


ジェスチャーの混じるリュンクの発言に対し

アテテロは心底困ったように顔を引きつらせる。


「え〜っと、そのね。馬鹿にするわけじゃ無いんだけど、気に障ったらごめんなさい。

 大森林には紋術を使える人が居なかったのかな?

 あなた、まるで紋術の知識が無いみたい」


「あ」


そうだった。


この人たちの中でリュンクは、名前は忘れたが

バナナをモリモリ食べていそうな森の民の一員だった。


「ぼくたち、もんじゅつ、あまり、つかわない、ばなな、たべる」


「ばなな?‥‥でも、そっか‥そうなのね。

 紋術を使わずに生活している人たちが居るだなんて知らなかったわ

 変な事言ってごめんなさいね?」


「いい。ゆるす」


「ありがとう‥‥でも、どうしてそんな喋り方なの?」


リュンクは自分の引き出しにある材料で、

出来るだけ近似値の「森の民」を目指して演じてみたが

本気属性としても

ギャグ属性としても

アテテロには伝わらなかった様子だ。


「まぁいいや!ねぇ!アテテロはどうやって紋術を使っているの?僕にも使えるかな?」


「使い方か、君は、自分の【適合原級素(てきごうアブニア)】とか、【三管紋腺(さんかんもんせん)】の開け方とかは知っている?」


急に難しい言葉が出てきた。

疎通の紋術が、理解に導かないと言う事は

フロエの言っていた「全く知らない概念」に該当する言葉の様だ。


「いや、ごめん。全く知らない意味もわからない。なんなら聞いたこともない」


「じゃ、じゃあ紋術媒体(もんじゅつばいたい)とか、紋術回路の構築とかも…分からないね?」


しばし頭を抱えたアテテロは、再びリュンクの足を優しく叩き、言う。


「うーん。ごめんなさい。紋術の基礎知識がない人に紋術の使い方を教えるのは……

 私には無理だと思うの、私にはね?だから本気で、紋術を一から学びたいって言うなら、私よりアーテリスに頼んだ方がいいわ」


「アーテリス?誰その人」


「地方同盟唯一の紋術師よ。元は学園都市ビッショウで紋術学の教師をしていた人で、

 紋示3の火の紋術と不視(ふし)の紋術を扱える、本物の紋術師よ。

 とっても優しい人だから、きっと丁寧に教えてくれると思う」


挿絵(By みてみん)


リュンクは、室内を見渡しながら、おそらく女性であろうアーテリスを探す


「へー!凄い人なんだね!その人はどこにいるの?」


「今は奥の方だと思うけど‥‥

 その、あの……今は少しタイミングが悪いから、また今度にしよ?ね?」


「?」


アテテロの歯切れの悪い喋り方から、

やはり、リュンクが感じた室内の

ピリピリとした居心地の悪さは勘違いでは無いようだ。


しかし、その原因は一切わからない。


例の気球の様な物に乗って去った男たちに関係するのだろうか?


リュンクが訝しみながら面々を観察していると

部屋の奥から難しい顔をした大人達がゾロゾロと現れた。


どうやら、リュンク達とは別ルートでこの場所へ来た様だ。


男達の腰からは、皆一様に棒状の物がぶら下がっている、

リュンクはそれに強く反応した。


「‥‥剣だ」


その言葉は、誰に言うでもなく自然と唇から漏れ出した。


剣。


リュンク。()いては全国の少年たちのロマンのシンボル。


決して、木の棒の様に軽く、訳のわからないドラゴンの顔が付いた

持っているだけで生き恥を晒す様な、クソみたいなおもちゃではなく。


装飾のない、実用性だけを求められた

大きすぎず、長すぎない、本物の剣。


彼等は同盟軍の剣士なのだろうか?


その時、心なしか室内の雑音が減り、

場の雰囲気が一層重苦しく感じられた。

挿絵(By みてみん)


設定資料にキャラクターを追加しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ