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WSS/1-異界冒険譚  作者: たかしモドキ
第3話「本当に殺されると思った」
22/80

-【3-4】-バナナ食ってウァォオオ!!!

異世界の山道を三日と半日間、孤独に放浪したリュンクは人恋しさに溢れていた、

よしんば、そこに居るのがサーティン的なダンディだったとしても

彼は、ニヤニヤと笑いながら元気な挨拶を繰り出した事だろう。


「ばっ!!なんだお前!!」

「良いからそいつを黙らせろ!」

「私が行くわ!!」


案の定。


それはもう、本当に案の定な反応で慌てふためく三人組、

その内、リュンクの元へ足早に近づいてきた少女が彼の口を塞ぎ並木の影に押し込む。

(まと)め上げられた少女の濃い茶色の髪が、リュンクの顔面をサワサワと撫でる。


挿絵(By みてみん)


リュンクは目を白黒とさせたが内心では、人恋しさが満たされてゆくので

この状況も満更ではない。

少女は、右手でリュンクの口をふさぎながら、

左手の平をハタハタさせて首を(ひね)っているが

どうやら「静かに!」のハンドサインらしい。


「全く、なんだってこんな時に」

「見ろ。動いたぞ」


二人の少年は、小声で悪態をつきながら再び向こう側に視線を戻す。

それにつられる様に、リュンクもその方向に意識を向けた…。



<以下〜ケトアト資材街の広場にて〜>

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-



暖色の強い街並み、

土をふんだんに使用して建設されたであろう角張った建築物。


それを意図的に交わすようにできた、

だだ広い空間は、さしずめ公共の広場か何かだろう。


その空間を埋め尽くす仰々しい様子の大勢の大人達。


みな、緊迫した様子で整列し

気球に似通った乗り物へと一直線に道をこさえてる。


人間達で作られた道の中心を歩くのは、意味深な5人の男女。


そのうち前を歩くノッポで鼻のとがった男は、

早足で乗り物に近づき昇降口の入口を開ける。

その所作には、腰の低さが、しとどに出ている。


乗物へ向かい続いて歩く2人が、昇降口の目の前で立ち止まった。


艶やかな白っぽい銀色の鎧と紅色の生地をアクセントとした

全身甲冑(フルプレートアーマー)を装備した、見た目では男か女かわからない人物と


正装と思わしき黒を基調とした衣装に身を包み

腰に独特の意匠の長い剣を帯刀しているその男。


男は、距離が離れていても

圧迫感を感じる程に鋭い眼光をしている。


この二人は、この仰々しいシュチュエーションにおいて

違和感が無いくらいに別格のオーラを放っていた。


その後、少し間隔をあけてから、明らかに平服とは異なる

特殊な格好をした二人の女性が続いていた。


昇降口の入り口に手を掛けたまま

静止するノッポに対して眼光の鋭い男が言う。


「抜き打ちで視察に来て正解だった。分断監視塔(ぶんだんかんしとう)の警戒が甘すぎる。あまり現地の民を舐めるな」


「は、取り(つくろ)う言葉もありません」


怒鳴り声。ではなく、

重たい低い声で淡々と、強い口調で喋る男の威圧に

ノッポは顔を上げられない。


「それと、ウニウラでの実験は早々に中止せよとピクンニとやらに伝えておけ」


「は!了解致しました」


「直ぐに、その件の対応案を帝都へ送る様、プディウム公にも伝えろ」


「はい、直ちに」


腰を折り目線を下げたままで硬直するノッポを見下す様に睨んだ男は

ただでさえ鋭い眼光を更に研ぎ澄ます。


「究極の紋術とやらも結構な事だが、その身の振り方がプディウム公を(おとし)める事になる

 お前もよく考えておく事だ」


粒になった汗が、ノッポのとんがった鼻先からボタボタと落ちる。


「まぁまぁ…アイーロン様。それくらいになさっては如何(いかが)ですか?

そんなに目と(あご)を尖らせては、萎縮(いしゅく)してしまい逆効果ですよ。

それとも、そのままイズオを睨み殺すおつもりですか?」


見るに見かねたのか、鎧の人物が説教に割って入る。


「いや。私にそういう能力ははない」


挿絵(By みてみん)


軽いジョークにお堅い問答で返したアイーロンと呼ばれた男は

眼光と同じくとがった顎をさすりながら視線を逸らす。


「そう思っているのはアイーロン様だけですよ。ねぇ?イズオ」


「あ…いや……はい」


ノッポは、命辛々といった様子だ。


「何にせよ。分断監視塔(ぶんだんかんしとう)の件は、私にお任せください」


「ああ。サルホーガであれば心配はない。少なくとも皇帝の遠征が終わるまでは様子をみてくれ」


「仰せのままに」


話を終えたアイーロンと言う男は、後ろを振り返り

後に控えた二人の女性に手を差し出し昇降口へエスコートする。


黙ったまま、エスコートに応じた女性のうち

背の高い、金髪に青い目をした、見るからに冷酷そうな女が

すれ違いざまにノッポのイズオに告げる。


「カロマオ様の指示通りに紋術回路の正常な発動を確認しましたが、念の為、誰も近付けさせない様になさい」


「はいっ!現地民を含め厳重に管理させます。遥々の出向、感謝いたしますケルケィン修道女殿…いでっぃ!?」


その時、ガッ!と背の高いイズオの姿勢が崩れる。

もう一人の女性にすれ違いざまに脛を蹴られたのだ。


「ねぇねぇ」


「ぁ…は、はい」


「おっさん、風呂入れよ。真面目にくっせぇんだよ」


「すっ…すいません」


イズオを蹴り飛ばした女性は、暴言を吐きながら

振り向きもせずに乗り物へ乗り込む。


独特の形をした被物で顔が見えないが

声と立ち振る舞いから年端もいかない少女の様だ。


一部始終を見ていた、アイーロンと鎧の人物は、

少し、お互いに見つめ合い、自分の匂いを嗅いだ。


「…私は大丈夫か?」


「……ええ。大丈夫ですよ。私はどうですか?」


「……む。私達は問題ない様だ」


二人は、互いの体臭を嗅ぎあい納得した後、続いて乗り物に乗り込み、

ノッポで臭いイズオがそれを見送る。


その姿を見下す様に見たアイーロンが言う。


「イズオ」


「は、はい!!」


「次の支給品に、帝都で流行りのコロンを同封しておく」


「は……あ、ありがとうございます!!!」


一瞬、微妙な表情したイズオだが、急に取り繕うにそう叫んだ。


気球の様な乗り物は、周りに気流のぶつかり合う轟音を

響かせながら、離陸の準備を始めた。



-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

<以上〜ケトアト資材街の広場にて〜>




内容までは知れないまでも、その一連のやりとりを見ていた3人組は、

やや興奮した様子で小声で会話する。


「冗談だろ…あいつ…白銀騎士隊、隊長のヤンク・カルシャンだ。ウルムで本隊奥の騎乗した奴を見た覚えがある」


二人の少年の内、小柄の方が、

眉間にしわを寄せながらそう言う。表情は強張り酷い汗だ。


もう片方の眉毛の太い少年は(いぶか)しむ様に親指を噛む。


「そうか、お前は崖崩しの特攻戦に居たんだったな。いや、それよりも驚きなのは…あの眼つきの悪い男、

 宰相(さいしょう)のゲルサウスだ。あんな大物がどうしてこんなしがない征服地に」


「ゲルサウス?あれがアイーロン・ゲルサウスなの?……じゃあ、あの腰の武器は……」


「武器?」


「あ、ちょっと!動かないの!」


3人の会話を流し聞きしていたリュンクは、興味のある武器の話になったので

眼つきの悪いアイーロンとか言う男の腰に視線を向ける。


男たちは、何やら互いの匂いを嗅ぎあっている。


「うっ」


アイーロンと言う男の剣と白銀の鎧を着た人物を見た途端、

形容し難い、なにやら気持ちの悪い感覚になるリュンク。

道端に落ちているふやけた犬の糞を見た時の気分だ。


「もう‥‥それで、あの背の高い男は誰かしら…あれ?蹴られてない?」


少女の問いかけに眉の少年が答える。


「あの服装は、軍人じゃなくて刑務官だな。

今度、ビッショウに配属になるイズオとかいう奴じゃないか?

ほら、ビッショウの諜報隊のあいつが言ってた‥‥あの‥名前はど忘れしたけど、あの丸顔のあいつ」


「ポポエの事?でもさ、あそこはウィフフとか言う大男がいるんじゃないの?」


「わからない。さしずめプディウム公もアマテオから完全に信用されてはいないのだろう」


「後ろのあの二人は、リシュモン教団の修道女みたいだが……」


リュンクは、全く内容の入ってこない話に入っていこうとチャンスを狙っていたが

3人はヒソヒソと耳打ちしているので、それは難しい。


なんだか、休日に友人と出かけていて

友人が町で偶然あった他校の友達と話し始めた

その(かたわ)らに置かれている気分だ。


いや、全員他人だからこの例えは違うか?

ねぇどう思う?


5人の男女達が見えたのは、ほんの少しの間で、直ぐに気球に乗り込み

どこかへ飛び立ってしまった。

それを見送ったノッポの男は、仰々しい様子の大人達に大きな声で怒鳴り散らしながら消え

一団は、先程とは打って変わり気だるそうに列を崩し、トボトボと何処かへ向かい行ってしまう。


その様子を終始息を殺し眺めていた少年少女達は、一行が視界に

映らなくなるまでその姿勢を崩さず、本来の静寂をその空間が取り戻し

野鳥らしき動物のさえずりが聞こえるようになってからようやく、肩の力を抜いた。


しばしの沈黙の後、3人はゆっくりとリュンクの方を向いた。

一番最初に口を開いたのは、艶やかな茶髪の少女だ。


「君ねぇ〜普通この状況で話しかけてくる?

 ビックリして紋腺(もんせん)(ねじ)れるかと思ったわ」


少女は、よく分からない比喩(ひゆ)狼狽(ろうばい)を表現する。

なんとなくだが「腰を抜かすかと思った」的な言い回しをしたのはわかった。


「お前、どうやって俺たちの裏を取ったんだよ?

 南から下山してきたのか?田舎もん」


次に喋ったのは背の低い少年で、自分より身長の高いリュンクを

威嚇するように睨みながら見上げて、人差し指で胸をつついた。


「それはあり得ないだろう。ケトアトより南には集落なんてないぞ?

 大昔の漁船工場の残骸があるくらいのもんだ」


眉毛の太い少年は、再び(いぶか)しみながらにリュンクを見てそう言う。


「そうね…それに今はマウテラの養育期よ?山なんか子供1人で越えられるわけないわ。

 この間なんか、アマテオの哨戒兵がダイヅツロと遭遇したらしいし」


「よぉ〜そんな、ダサいおもちゃの剣なんか背負って、同盟軍の少年兵に入りたいのか?田舎もん」


「顔立ちも…この辺の人間と違うな…」


まずい。


3人の意識が一斉にリュンクに向いたことで、まずい流れになってきたが

トンチンカンに見えるリュンクにも一応算段があった。


ケトアトの子供と仲良くなる。

家に招待される。

ご飯を食べさせてもらう。

北東の港町ササン、ひいてはキマセ離島について教えてもらう。

一晩泊めてもらう。

和かに分かれ次の町へ……。


こういう流れで行きたい!!


これを繰り返して目的地まで行くのだと

リュンクはそう思い込んでいる


まずは信用してもらい、仲良くしたい。


だから元気に挨拶をかましたのだ、

なのでこの状況は非常にまずい。


今のリュンクは、この世界では何者でもない、

家もなければ、故郷も家族もいない。


正直に「ぼくは、いせかいからきたんだよ。こんにちは」


と言って、信じてもらえるはずもなし

状況がさらに悪くなるのは目に見えていた。


リュンクは、グルグルと思考を回したが何も浮かばず

小柄な少年がリュンクを小馬鹿にしながら吐いた

「少年兵」というキーワードを足がかりにしてみる。


「いやぁ〜あの、あれだよ!そう!少年兵なんだ!流離(さすらい)の少年兵!なんか〜

 その、僕を呼んでいる気がして〜はるばる来たぜ!!ケトアト!!」


リュンクは自分で喋っていて、途中から訳が分からなくなり

アホみたいな嘘をついた。


流離(さすらい)の少年兵って何だ?


兵士が流離(さすら)ったら

それはもうただの野伏(のぶせり)だろ。


しばしの沈黙の後、太眉の少年が喋り出す。


「キンビニー地方の外からやってきたって事か?この時世に?…故郷はどこだ?」


「えーと、すごく遠くだよ!誰も名前も知らないくらい遠くの方!」


「方角は?」


「えと…あっちの方かな」


焦りながらそう言うリュンクは、おざなりに方角を指差す。


「東?キンビニー地方よりも東で…アマテオの侵略を受けていないのは…サジカンタン地方か?」


「このままではまずい!」地名を名指しで言われたリュンクは、そう思い誤魔化しにかかる。


「もっと遠くだよ!もっともっと!」


「いや…サジカンタンより東となると…大森林になると思うが、君はウピポギの民なのか?」


「えっ……まぁ、はい。」


これ以上先がないと言われたら、もう何も言えない。

リュンクは質問を肯定をする。


ふと、リュンクは、サジカンタンとやらの出身にしとけばよかったと考えた。


よくわからないが大森林の民で、名前がウピポギとなると

「バナナ食ってウァォオオ!!!」みたいな印象を受けたからだ。


「やっぱ田舎もんかよぉ!!」


すかさずヤジをとばす背の低い少年。

だが「田舎もん」という言葉がすでに田舎臭いという事に気付かないのか。


「まさか…冗談だろ?大森林からここまでどうやって……」


「オーケン様の噂を聴いてきたんじゃないの!?」


まゆげの少年の質問を遮る様に、茶髪の少女が声を上げる。


オーケン。


人の名前なのは間違いない。

さらに言えば、言葉の抑揚(よくよう)からこの少年少女らの慕う人物の様だ。


「そうそう!!オーケンさんのすごい噂を聞いてね!

 少年兵の血が騒いだんだよ!!」


「やっぱりオーケン様はすごいね!…大森林にまで噂が届くなんて!」


茶髪の少女は興奮した様子で

小柄な少年に同意を求めると

少年は、ウンウンと頭を揺らした。


「待つんだアテテロ。幾ら何でも大森林にまでというのは…」


と、眉毛の少年はあり得ないと言った様子でそう言う。


「なんだよ!デウム!!お前オーケン様の事を疑うのか!?」


「いや…ゼオ。そう言う話じゃないだろ?」


リュンクはここでようやく3人の名前を知る。


髪の長い茶髪の少女アテテロ

背の低い少年ゼオ

眉毛が太いデウム


3人は、何やらモチャモチャと話している。


どうやらなんとか、話を続けることが出来そうだ。


リュンクは、これからどうにかして

この3人のうちの誰かの家でお世話にならなくてはならない。


できるならアホっぽいゼオか

優しそうなアテテロの家でお世話になりたい所だ。


3人は、密談を終え再びリュンクに直る。


リュンクは恥じる様子もなく

「ここいらで一度、やんわりと今日の寝床がないことを匂わせて同情を誘う様な感じを出していこう」

と考えた。


デウムは、一歩前に出てリュンクの肩をたたきながら言う。


「君が、同盟軍に入りたいというガッツはよく伝わったよ。

 でも僕らだけでは決めかねる内容なので保留にする事になった」


一瞬、頭がフリーズするリュンク。


「……ん?……え、いや。同盟軍?…同盟軍!?いやいや!それはちがっ!!」


「安心するといい。僕たちはこれからアジトへ戻る。一緒に来ればオーケン様とも会えるよ」


言い訳する間も無く、リュンクは、ゼオとアテテロに

両腕をガッチリと捕まれ、そのまま連れていかれてしまった。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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