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WSS/1-異界冒険譚  作者: たかしモドキ
第3話「本当に殺されると思った」
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-【3-3】-相当クレイジーなボーイ

この3日間で、リュンクはある事に気付いた。


自分の体に起こっている謎の症状、

それに気付いたのは歩き始めて最初の夜。


感覚が無いものだから全く気が付かなかったが

丸一日山道を歩いたと言うのに


腹も減らないし。

眠くもならない。


全くそう言う欲求がないのかと言われればそう言う訳でもなく。


食べようと思えば、食べられるし

眠ろうと思えば、眠れる。


今までこんな感覚になった覚えはない。


それに付け加えて全身の血管…と言うか

おそらく血管と思われる部分がギンギンと(うず)

全身がフワフワと軽い。


こちらの感覚もリュンクの短い人生の中で経験した覚えはない。


この体の異常は、状態と言うよりも症状と言うべきだろう

明らかにこの「異界」に来たことが原因だと考えられる。


リュンクは最初、小学生の浅知恵(あさぢえ)()ねまわし

空気中の成分が違い、血中の酸素がおかしな事になっているのかも、とか

月と地球の様に重力が違う事で、体にかかる負荷が変わった、とか

既に悪神の手先による術中に(はま)り、何かしら攻撃されている、とか


諸々(もろもろ)、色々、考えてはみたのだが

最終的にこの思案は


「女神が授けた力が、何かしら作用している」


と言う答えに着地した。


それ以外の思考がその考えをやや強引にそこへ着地させた

と言った方が正しい。


異世界の違和感に対するワクワクや

自分の体に起きている不思議よりも

険しい山道をひたすらに歩かされている現状に対する

誤魔化しようのない怒りが思考の割合を占めたからだ。


その後、野生動物との邂逅(かいこう)

カナブンとの出会いやらで

体の事は完全に意識から離れていたが

リュンクはこの3日間

殆ど飲まず食わず不眠で歩き続けているというのに

食欲も睡眠欲も強くなっていない。


しかし、リュンクは、ここで声を大にして言いたい。


空腹もない、眠気もない

だからと言って疲れていないわけじゃない!


もう、そろそろ精神が限界だ。


リュンクの周りには、物心ついた時から

大人であれ子供であれ、常に1人は誰かが側に居た。


にも関わらず、この数日の間、リュンクは誰とも一言も話してない。


もう心細くて気が変になりそうだ。


「!!」


空想の最中、目線の先、木々の間から

急に現れた灰色の毛むくじゃら。


山の中でよく見かける、猫背のドーベルマンの様な四足歩行の生き物だ。

よく見ると、子供と思わしき小さなやつも一緒、

子供は成体に比べてつぶらな瞳が実に可愛らしい。


「っ!」


途端、ドーベルマンもどきは、リュンクの方向を一目見たかと思うと

子供を置いて一目散に逃げていった。


リュンクは酷く驚いた。


山犬が子供を連れていた場合

絶対に引き下がらず、こちらが身を引かなければ

非常に危険な事になると知っていたからだ。


しかし、先程の生物はあろう事か

自分の子供を置き去りにしてまで必死に逃亡した。


この世界の自然界は勝手が違うのだろうか。


「アホウドリもあれくらい臆病なら、そんな名前付けられなかったのに」


昔、図鑑で読んだアホウドリ命名のルーツを思い出し

真顔のままボソボソと掠れた声で

独り言を吐く彼は既に気が変になっているのかもしれない。


いや、割といつもこんな唐突も無い事を考えるタイプだった様な気もするが


「ほうら、わんころ。怖くないぞ〜」


置き去りになれた子供は、アタフタした様子でこちらを見ているので

安心させてやろうと手を差し伸べるリュンク。


たまに口が汚く、下品な事ばかり考えてるリュンクだが

基本的には心優しい男児、いたいけな小動物に

情けをかけることもやぶさかでは無い。


少し警戒が解けたわんころは、鼻先で彼の指を嗅ごうと近づいてくる。

「かわいい奴め」と思いながら、ふと逃げ出したドーベルマンもどきが

走りさった方向を見る。


「ん…んん!?」


その先、鬱蒼と生える草木のその先に何やら自然界には無いものが見える。

そう、所謂、人の匂いというやつだ。


挿絵(By みてみん)


「んぉあぁああああああッ!!ケトアトォオオオオオオッ!!!」


「ギャァアアンっ!!!」


「うるせぇ!どけろ犬公!!!」


突然の絶叫に恐れ(おのの)いたわんころを払いのけ

思わず奇声をあげながら走り始める彼は

側から見れば相当クレイジーなボーイなのだろうが

そういう他人の視線も今の彼には嬉しいものになるだろう。


木々の隙間から段々と姿を現したのは

朱色の土を、四角く積み上げた様な街並み。


見覚えがある。


フロエが【画送】で頭に置いていったイメージと一致する

間違いなくここは「金物の街:ケトアト」だ。


ケトアトに近づくにつれ、山道の勾配(こうばい)がなだらかに、木々の間隔は広くなる

ガサガサと枝や枯葉を踏み散らしながら進んでいたリュンクは、進行方向の先を見て

急いた行動を落ち着かせる。


ドキドキと高鳴る鼓動。


リュンクの目線の先で、木陰に座り込んでいる3つの影。


それは人間だった。


膝を折って屈めば、背の低い並木の木陰にスッポリと体が収まってしまう

その人影は、リュンクとそう歳の変わらない少年と少女達。


三人組は、まだリュンクに気付いておらず、皆一様に並木の上端から

向こう側を見ては、コソコソと耳打ちし、難しい顔をしている。


その有様は、


子供の悪戯(いたずら)の算段だったにしても、

隠密(おんみつ)の偵察だったにしても、


どこからどう見ても、あまり人に話しかけられたくない、

そういう類の用事をしている様にしか見えない。


そんな誰が見てもあからさまな三人組に背後から声を掛けるなど

どう考えても面倒な事にしかならない事は明白。


普通なら、誰だってわかる事だ。


無論、リュンクにだってそんな事は分かる。


ーだが。



「こんにちは!!!僕はリュンク!!よろしくねぇ!!!」


「!!??」


ーだが、残念ながらリュンクは今、普通じゃなかった。

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