-【3-1】-ガムの存在感
取り止めもなくドバドバ垂れ流される高揚感と、
喉の奥からこみ上げてくるどうしようもない充実感に
リュンクは、今にスキップのひとつでも踏み始めそうだ。
こういうのを浮き足立つというのだろうか?
……ちょっと違うか?
何にせよ今のリュンクは高性能マイクだ。
現象、事象。
感情、感覚。
それに当てられ、トクトクと動く細やかな心の様子を
全て取りこぼすことなく拾いまくっている。
まず一番に感じるのは、先にも言ったが「匂い」だ。
若干の冷気と一緒に、鼻の奥を刺激するのは、
薄甘い匂いと、香辛料に好まれそうなクセのある香り
近くに、そういう類の香木が自生しているのかもしれない。
木々といえば、世が明けてからわかった事だが、
こちらの世界の植物は、色合いこそ似ているもののリュンクの世界の植物とは少し違う。
葉の形状や生え方、
幹が分岐する節目や枝の分かれ方
樹木同士が土から生える間隔。
少しづつどこか違って、何ともいえない不自然さを生み出している。
不自然といえば、自然音にも違和感がある。
風の音は、木々の風切音。
樹葉の形が違うのだから違和感も納得だが
小石や砂利を踏みしめた時の音、
ジャリジャリというよりショリショリしている
そう思えば、少し沈むと思い踏んだ地面がやたら固かったり。
安心して身を預けた岩が、足跡が残るほど脆かったり。
リュンクの常識でズンズン進んでいると
危うく足をとられて怪我をしてしまいそうだ。
こういう、世界に対する自分の経験値が全否定される感覚。
これがたまらなく楽しい。
リュンクは、「ゲームの主人公が新しい土地でレベル1なのは意外とリアリティがあるのかも」と思った。
紛れもない異世界での冒険に大興奮のリュンクだったが
その抑揚する感情の外側から感じる、理性の視線に気付かないふりをしていた。
例えるならば靴の裏にガムがへばりついている時の、ガムの存在感。
無視する事はできるが、無意識の境界線を超えてはくれない
そういう類の引っ掛かり。
フロエは、この先、この山を北にひたすら進めば
ケトアトという町にたどり着くと言っていた。
それに加えフロエが使った紋術【画送】で、世界地図を抜粋した様な
この付近の立地をみせてもらったので、それ自体は間違い無い
たしかに山一個分超えていた。
位置関係に不安は無いのだが、
航空写真で距離感が読めないように、あの【画送】で見せてもらったイメージでは
いまいち距離感がわからない。
フロエの口ぶりでは「2、3時間はかかるけどね〜」みたいな言い方だったが
しかし。なんにせよ、道を歩き出したのだ。
ここでうだうだ考えても仕方がない。
日はまだ昇ったばかり
リュンクは「暗くなるまでには、ケトアトにつければいいな」くらいの
のんびりとした姿勢で異世界を楽しみながら進むことにした。




