-【2-7】-犬的な匂い
「よし、これだ」
そう言って、フロエが背中から引っ張り出したのは
粉の吹いた、古い生物の皮でグルグル巻きにされた1メートルほどの何かだった。
リュンクは直感的に、それが武器であると解る。
そして、それは明らかに、彼女の背中をゴソゴソとした程度で取り出せる様な代物ではないが
例の紋術の一環という事にしておこう。
「これは尊主の神官であったゲロングラ殿の得物だ
この先、障害を打破する際にも必要な物だろう」
そう言いながら包みを開いていくが、その都度古い革はパリパリと砕け
もう、元に戻せそうにない…この有様、相当年代物の様だ。
「見よ。これが尊主が与えたもうた聖剣である!」
「!!」
剣。
冒険譚に欠かせない、必需のシンボル。
「………うわぁ…」
この流れで、男子が興奮しない訳が無い。
だがしかし、リュンクの反応はいまいちだ。
「これは…キツイな」
肉厚だが鋭く鋭利な諸刃の刀身。
実用性のない、角の装飾。
ディフォルメされた鋭い目をした青いドラゴンの顔が造形のガード。
明らかに使用時に手に干渉するであろう、謎の牙。
完結に言って、この剣。
くそだっせぇ!!
小学生が某遊戯用のカードゲームなどを参考にして自由帳に描いた
「僕の考えたオリジナルの剣!!!!」を
現実にしたのではないかという疑念すら湧いてくるダサさだ。
これは酷い。
これを背負って歩くのは正直ちょっと勘弁してほしい。
「あの…一応聞きたいんだけど、せめてこの青い顔の部分だけでも取れない?」
「顔の部分?ふむ、どうだろうな。えっと…ここに隙間があるが…
えー取れたりは………ん?…せめて?せめてとはなんだ!!」
「いや、それの存在感がエグいから、それさえ無ければ…」
「くぅ〜!!これは尊主が作り上げた最高峰の聖剣だぞ!!手を加える必要などはない!」
フロエは「それがやや不都合な意匠であってもだ!!噛むぞ!!」と付け加え、プンプンと口を尖らせる。
どうやらこの剣に対して全く何も感じないわけでは無いようだ。
しかも、リュンクはフロエがその聖剣とやらを手に持つ、その佇まいに非常に違和感があった。
リュンクの弟は、西洋剣術を習っており
その道場に、リュンクも何度か足を運んだ事がある。
そこで鉄製の模造剣を構える門下生たちを見たり
リュンク自身も、トレーニング用の模造剣を携えた経験がある。
その記憶から察するに、フロエの持つ聖剣とやらは大人たちが持っていた剣よりも分厚く
その重量は、結構なものになるはずだが、フロエは、か細い腕で楽々と持ち上げている。
「フロエ、ちょっとそれ持たせてくれる?」
フロエは、少し拗ねたような仕草をしたが、鞘を握ったまま剣の柄を、リュンクの方へ差し出した。
柄を握り、鞘から引き抜いた瞬間、リュンクは確証を得た。
「軽っ!!これおもちゃだ!!」
まさに羽のように軽いとはこの事だ、木の棒を振り回しているのとそう変わりはしない。
感覚的に、これは本気で叩きつけたら一瞬で根本から折れるだろう。
「ちょっとフロエ勘弁してよ!!こんなのじゃ戦えないよ!」
「ふむ。やはり、そうか」
「当たり前じゃ無いか!せめてダサいだけにしてよ!使えなくて、ただダサいだけだなんて業が深いよ!」
「あ、いや。違う違う。やはりそうかと言ったのは、そう意味じゃないぞ」
フロエは、再び拳に顎を乗せて、見慣れたポーズに戻る。
そしてダサいというキーワードを、それが真っ当だと言わんばかりに聞き流した。
「その聖剣はな、何がどうかと言う原理は知らないのだが、尊主の加護がなければ鞘から抜けないらしいのだ」
「あー…よくあるパターン……うーん。で、この剣名前とかあるの?」
せめて名前くらいは格好の良いものであってほしい。
「無い。だが、強いて銘をつけるならば、尊主の名前をもじるのが筋か…」
フロエがそれを言い終える前に、リュンクの頭の中でギュルギュルと思案が巡る。
尊主の名前、確かあの女神はマティテとか名乗ったがそれをもじるという事は……
マテテソード、マテイソード、ソードオブマテテ……マティテの剣。
だめだ!あのウンコ女神の名前は、剣の名前に全く合わない!
下手な銘を付けられるくらいなら、当たり障りのない名前を出して納得させるしかない!
リュンクは、安直だが当たり障りのないドラゴンの部分に因む事にする。
「竜剣!!竜剣がいいよ!!ほら!見た目も竜に似てるでしょ!?」
「竜剣?うむ……だが、それでは語呂がな…ぁいや……竜か。なるほど。それはいい名前だな!」
フロエは、少し悩んだ様子も見せたが、竜という部分に納得があった様で
柔らかい笑顔でにこりと笑って見せた。
なんだか、それは、なんとも無邪気な笑顔で
初めてフロエの年相応の表情をみた気がした。
でもその時、体臭なのかフロエから犬的な匂いがしたのが、すごく嫌だった。




