-【2-6】-酒飲んでテンション上がったアメリカ人
「でさ!その悪神はどこに居るんだろうねぇー!!今何してるのかなー!?」
リュンクは、言葉の抑揚と選び方が間違っている事を知りつつも
強引に話を進めようと試みる。
曲がりなりにも、真っ当なのだから不器用でも納得して欲しいところだ。
「うむ。そこなのだがな…実はよく分からんのだ」
「えー……わかんないの?」
「というのも、尊主が未界に行かれてからと言うもの、私もそれなりに大変だったのだ」
「あー…フロエも逃げまわってたの?」
「む。逃げまわっていたとは心外な…私は養生していたのだ!深手を負ったのだ仕方がないだろう!!噛むぞ!!!」
そうは言うが、こう悠長に喋っている様は深手を負っている様には思えないのだが
リュンクは程の良い言い訳だと、思う事にする。
彼もよく、体調が悪くて宿題ができなかったと言う
今時は、小学低学年ですら使わないバレバレの言い訳を、
大人の先生に堂々と豪語する口だ
人のことは責められない。
だが、その考察はおおよそ正しい様だ。
その証拠にフロエは少し仰け反り威張った格好をしたが、薄目でリュンクの顔色を伺うのが見えた。
「だ、だがな!信用ある消息筋によると、どうも今は身動きが取れない状況だと、そう聞いている!」
フロエは、少し焦った様に口早にそう述べた。
うしろめたい人間の有様は、万国もとい万界共通なのか。
「身動きが取れないって言うことは、封印されているとか?」
よくあるパターンだ。
悪い神は皆、一度は封印されて然るべきと言うことか。
「どうだろう…封印されているかどうかは断言できないが、北のシーバ…いやアマテオ帝国の領地内に留まっているらしい」
アマテオ帝国。
聞くからに悪そうな名前の国だ。
帝国はいつも悪役だが、リュンクにはその理由が分からなかった。
だが、もし自分が国を建てるとしたら共和国にしようと、密かに決意した。
だってその方が正義っぽくない?
「そのアマテオが、奴の沈黙に関係しているとは、長耳の敏捷の情報だ。間違いはないだろう」
「ふむふむ。と言うことは、そのアマテオ帝国は味方って事になるの?悪神を封じ込めてくれてるんでしょ?」
「いや。それは無い。結果的にそういう見方ができるだけだ。アマテオ帝国は脅威であれ、味方とは程遠い」
「やっぱり悪い国なのか。でもさ、その悪神を倒すんだったら、そのアマテオ帝国に行く事になるんじゃ…」
「そう……それがだな…ある意味、奴よりもやっかいなのが、そのアマテオ帝国なのだ」
フロエは顔を曇らせる。
なんだか話がややこしくなってきた。
適度にスペクタクルのある冒険を繰り広げ、最後の地に待ち受ける悪神を一騎打ちで仕留める。
そういう分かりやすいプロットを思い描いていたリュンクだったが、どうも小難しい方向に進みつつある。
「正直言って、私は状勢に疎い。ことさら、最近の事を話すならばリュンクとそう変わらないだろう」
流石に、そんな訳は無いと思うのだが…まるで何年も隠居していた仙人かのような口ぶりだ。
そう言い終えた後、フロエは、眉間にシワを寄せ端整な顔を崩した。
また何にかが琴線を弾いた様だ。
リュンクは、昔、母親に「眉間にシワを寄せるのをやめなさい!不愉快よ!」と
叱られた事があったが、なんとなく意味がわかった。
「しかし、このアマテオ帝国。どうやら見過ごせない禁忌を犯そうとしている」
「禁忌?」
「尊主と、我らにしか行使を許されない聖なる紋術を穢そうとしているのだ。
これだけは何としても阻止しなければ」
右手の拳を、顎にゴンゴンとぶつけ不満を出力しながら「これは早急さが求められる由々しき事態」と
独り言の様に漏らすフロエ。
聖なる紋術というのも大いに気になるが、それを穢すというのは、つまり
アマテオ帝国が私利私欲の為に、神聖な女神の力を悪用しようとしている、という事になるのだろうか。
「しかも、私が養生している間に、異界各地で様々な思惑が動いている様に思える」
「うーん?」
リュンクの倒すべき悪神は身動きが取れない状態であり。
その悪神を封じているのはアマテオ帝国。
だが聖なる紋術を悪用しようとしているのもアマテオ帝国で…
という事は……どうすればいいの?
こんがらがっててよくわからない。
一体どこから攻略していけばいいのかさっぱりだ。
これなら分数の計算の方がずっと簡単だ。
あれはあれで未だによくわからないのだが。
どうして割り算になると逆立ちし始めるのだろうか
酒飲んでテンション上がったアメリカ人かよテメェー等。
「……そう。まずはキマセ離島に向かうのが良いだろう」
目的の選別と現実逃避に苛まれているリュンクに対し、
フロエは、あらかじめその手に持っていたように
その言葉を話の隙間にポンと置いた。
「離島?島なんかに何があるの?」
「……これは尊主様も知らぬ事。教えておいて問題はないだろう」
「なんかすごい秘密なんだね!」
「うむ……少し待て」
フロエは、そう言いながら背中の辺りをゴソゴソといじり出す。
後ろ手にやりづらそうにするフロエだが、
服の構造上、後ろ手にするとポンチョの隙間から腋が見える。
リュンクはその先にある未知の山岳が、
ちらりと見えないものかと
西武開拓時代のカウボーイの様な面持ちで鼻の下を伸ばして待つ次第。




