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WSS/1-異界冒険譚  作者: たかしモドキ
第2話「犬的な匂い」
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-【2-5】-洋画の吹き替え版を見ている時の違和感

「朝夜の門を!?それは本当なのか!」


「うわ、声がでかいよ!話の流れでわかるでしょ!」


「では、向こう側から朝夜の門を開いたと言うのだな?」


「まぁ…うん。僕が開いたんじゃないけど」


この話の停滞には、何かの理由がある様だが

何分にも知識が足りていないリュンクには、さっぱり話がつかめない。


辻褄の合わない様子のフロエは再び、顎と右手を引っ付けて物思いに耽っている。

どうやら、リュンクが未界からやってきた事が腑に落ちないらしい。


「…それも(はかりごと)の一環なのでしょうか…尊主(そんしゅ)


「あの、フロエ……女神は…あれ?」


ふと、リュンクはフロエの口の動きと声が、若干合っていない事に気づく。

洋画の吹き替え版を見ている時の違和感に近い。


そして、ドタバタで気づいていなかったが

フロエとの会話が成立しているのはどう考えても不自然だ。


「ねぇフロエ。どうして僕らってさ、違う世界の人間なのに会話できてるの?」


「…ん?…会話?…ま、まさか、尊主(そんしゅ)はそんな事すらお前に教えていないのか!?」


「そうだよ!だから、全く何にもだってば!」


「何とな…では、未界人は疎通(そつう)の紋術を使わないのか?」


「いやいや、その疎通(そつう)の紋術どころか、紋術なんていう言葉すらないよ」


「なぜだ?ならどうやって会話すると言うのだ?」


「喋るんだよ!声出して!」


「何と……鳴き声で意志の疎通(そつう)を?何とも器用なのだな未界人は」


「いや…でもほら、フロエだって口を動かしてるんじゃないか」


「当たり前じゃないか。疎通の紋術の出力先は唇と舌だからな…しかし、尊主(そんしゅ)にも困ったものだ」


そこについてはリュンクも同感である。


それにしても、会話を成立させる必要なものだとすれば、

この世界では、その「紋術」というのは生活に欠かせない大事な役割を持っているに違いない。


生活の補助などを担う便利なもので、

火を放ったり、電撃を繰り出す魔法の類とは少し違うのかもしれないが、未だ全容は掴めない。


「ねぇ、フロエ。紋術っていうのは、いったい何なの?それくらい教えてよ」


「うーむ。そうだな、いくら(はかりごと)の一端とはいえ、そこまで無知では話にならない」


挿絵(By みてみん)


フロエは、腕を組み(くま)の濃い目を呆れた様に細め、少しトゲのある言い方をした。

彼女自身、女神のワンマンっぷりに鬱憤(うっぷん)があるのだろう。


紋術(もんじゅつ)とは、紋印(もんいん)が生成する原級素(アブニア)を使用して行う行為、もしくはその学術の総称だ」


フロエの性格なのか、彼女はやや面倒な言い回しで簡潔に説明を終える。


この「紋印」という言葉は先ほど聞いた。


なるほど、話を要約すると「紋術」というのは原級素(アブニア)というのを消費して使う魔法みたいなもので

「紋印」とはその原級素(アブニア)を生み出す源という事らしい。


「なるほどね。という事は、さっき言ってた(疎通の紋術)って言うのは会話を行う紋術なの?」


「いかにも。疎通の紋術は意識あるもの同士がコミュニケーションを行う際に使われる。

 誰に教わるでもない、ほんの僅かな原級素(アブニア)でも扱える、生きていれば自然に身につく紋示(もんし)0の紋術だ」


紋示(もんし)。また新たな名詞を自然と入れてきた。


だが、あまり(つつ)くと訳が分からなくなりそうなのでリュンクは一旦聞き流す。


「疎通の紋術は、ある程度ならば知らない事でも意味合いも含めて自然と伝達できる。全く無知な概念は無理だがな」


「すごいね!知らない事でも理解できるなんて……あ!」


リュンクは、女神と会話していた時の違和感を思い出した。


あの時女神が喋っていた小難しい言葉の数々を、小学生のリュンクが、すんなり飲み込めたのは

件の疎通の紋術が作用していたからの様だ。


それにどうやらフロエの話す内容をすらすら理解できているのはそれの恩恵なのかもしれない。

心なしか、この世界に来てから頭の回転も速くなっている気がするが

そういう作用もあるのだろうか。


「ん…じゃあさ、僕も疎通の紋術を使っているの?今、会話できてるし」


「さぁ、どうだろうか。特に意識して使う様なものではない。一方が使えれば機能する。赤子にすら作用するからな。

 まぁ、(つたな)い頭脳でそれを理解できるかどうかは別の話なのだが」


そこまで話して、フロエは再び手の平をポンと合わせて会話を区切る。

このサインは、この世界特有のものなのだろうか?


「さて、この話はここまでだ。どこまで話していいか分からないのだ、私はボロが出そうでやぶさかだ」


フロエは、女神が(くわだ)てている(はかりごと)とやらを台無しにしない様に精神を使っている様だ。

リュンクからしてみても、ここで洗いざらい吐露されても

理解できるものとも思えないので文句はない。


彼女は、目を瞑り一呼吸置いてから今一度話し始める。


「さて、尊主(そんしゅ)の使者にして勇者を名乗るリュンクよ。尊主(そんしゅ)は、お前にどの様な使命を与えなさった?」


「使命…」


女神の与えた使命。


それを言うならば、リュンクには一つしか思い浮かばない。


「悪神とその手下を倒し、家族を救って欲しいと、そう言われた」


フロエの言う通り、女神が何かしらの(はかりごと)(くわだ)てているにせよ

悪神の討伐は必ず達成しなければならない目標に変わりはないはずだ。


「家族……尊主(そんしゅ)は、家族と、そう言ったのか?」


「うん。自分のせいで追い詰められている家族を救いたいって」


「……嬉しい」


フロエの大きな瞳は潤み、端に雫を溜め始めた。

低い鼻先を紅くし、スンスンと嗚咽(おえつ)を漏らす。


尊主(そんしゅ)が、私達の事をその様に思ってくれているとは。至極至上の喜びだ」


「…あーうん。……よかったね!!」


リュンクは、目端を赤くする女子に、どの様に対応すれば良いか分からず

全く不器用な返事を返す。


こう言う気まずい空気にあてられると

無思慮(むしりょ)な返事でしか相槌を返せなくなるのは彼の悪い癖である。


「御自身が、一番辛いではずだろうに…おいたわしい事だ」


「そう……まぁ…うん、元気だったよ。二回も頭突きされたし」


「そうかそうか…お元気なら何よりだ…ん?…頭突き?」


「でさ!例の悪神ってなんなの?暗黒の神とか?」


「悪神……。我々がそう呼ぶべき者は奴しかいないだろう」


フロエは「名を呼ぶのも(はばか)られる」そう付け足し

コケた顔で嫌悪を剥き出しにした。


その表情は、最初にリュンクを見つめていた無機質なものとは真逆。


胸中(きょうちゅう)、憎悪にて(とこ)しえに煮詰められた怨嗟(えんさ)

抉り出し、まじまじと見せつけるかの様な(おぞ)ましい形相だ。


「うっ……えっと……色々あったみたいだね!!よくわかるよ!!」


リュンクは、またもや不器用な相槌で、なおかつ茶まで濁した。


と言うか、目の前でいきなりガチギレ怒り顔を見せられ

気まづさを通り越して引いてしまった。


正直、ここまでキレている人間の側には余り居たくはないものだ。

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