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WSS/1-異界冒険譚  作者: たかしモドキ
第2話「犬的な匂い」
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-【2-4】-知らずうちに卑猥なハンドサイン

「えっと、それで君は?」


尊主(そんしゅ)は私の話はしていないのか?」


パニック状態で挙動不審になっていたリュンク以上の

ハイテンションで前のめりだった娘は、少し落ち着いた様子で

体勢を立て直してから、ちょこんと座り、心なしか寂しそうな顔でそう言った。


「君の事どころか、殆ど何も聞いていないのさ」


「何と…しかし、それは何とも不可思議な話…使命を与え、しかしその全容を明かさないとは」


癖なのか、少女は右手の握り拳に顎をのせてぶつぶつと思案を漏らしている。


リュンクは「見た目に反して、この子喋り方が絶望的に可愛くないな」と思った。


()えて教えない方法をとっている。そう見るのが妥当か。尊主(そんしゅ)らしいやり方だな」


「んん?()えて教えない?」


「そうだ。尊主(そんしゅ)は知略に長ける。何か意味があるのだろう」


娘はそこまで独り言のように、目線を落として喋っていたが

「あっ」と小さく声を漏らし、リュンクに向き直る。


「失礼した。尊主(そんしゅ)から聞いていないのなら混乱させてしまったな」


どうやら、少女も本調子を取り戻してきた様子だ。


本来、この娘は真面目で冷静な性格なのだろう

丁寧に喋ろうとしているのが声色で伺える。


「私は、フロエ=フーマ=サンサー。尊主(そんしゅ)の巫女だ。君の名前は?」


巫女。というと、あの神社とかにいる紅白の着物が特徴的で

衣装だけでキャラクターが完成しているあの巫女さん。

ではなく、この場合は神様に仕えている女性と(とら)えるのが相応しいだろう。


「僕は、雨永呂久」


「アメナガ、リュー……ん?すまないもう一度」


「呂久」


「りゅんく?」


「呂久!!」


「何が違う?私にはリュンクとしか聞こえないが」


「あぁー!!じゃぁもうそれでいいよ!!そっくりだなお前ら!!」


あの女神にして、この巫女ありといったところか

それよりもフロエだとかフーマだとか、やたら名前が長い。


リュンクはとりあえずフロエと呼んでおく。


「えっと、フロエは…」

「ちょっ!何を言う!やめないか!」


何に反応したのか、娘は色の白い頬を赤く染め

眉をVの字に、立腹を示した。

何かまずい事を言ったのだろうか?


挿絵(By みてみん)


「い…いくら同く尊主(そんしゅ)の命を受けた同志とはいえ!いきなり幼名から呼ぶ奴があるか!噛むぞ!」


「よ…幼名?」


どうやら、娘の反応を見ると、名乗った最初の名前で呼ぶのは非常識らしい。


面倒臭いが、こういう文化は頭に入れておいた方が良い事をリュンクは知っている。

海外でも宗教や文化の違いで常識が異なると言うのを社会の時間に習ったからだ。


言ってしまえば、リュンクは知らずうちに卑猥なハンドサインで

恥じらいもなく挨拶を交わしたのと、そう変わらない様だ。


「ごめんごめん。フーマ!そう呼ぶよ」


途端。


恥じらう顔から、悲しそうな表情になり

そわそわと慌て出す。


「そ……そんな、急によそよそしいじゃないか」


「え?」


「そんな…急に突き放すような言い草…酷いぞ」


「?」


「さっきのは…少し距離の詰め方が急だったから…その……」


「は?」


「私の事はフロエと呼ぶのだ……噛むぞ」


「めんどくさいな!」


フロエの言う「幼名」なる呼称が何を意味するのか良くは分からないが

どうにも親しい間柄で使う名前のようだ。


リュンクは、フロエの拗ねた様な照れ隠しに僅かな苛立ちを覚えた。


「しかし、尊主(そんしゅ)(はかりごと)は予想もできないが、よくもまぁ人の身体にその力を授けたものだ」


「その力?……!」


リュンクは、はっと、おでこに手を当てて、即座に思い出す。


フロエの言い回しでは、どうやら女神がくれた「特別な力」は消えたのではなくて

きちんとリュンクに備わっている様だ。

例の剥がれたシールみたいなのは、用が済んだから剥がれたという事なのかもしれない。


「フロエは知ってるの!?この力の事!」


「もちろん。その【紋印(もんいん)】を知らない訳がないだろう」


「もんいん?何それ?」


確か、カンチョー岩の間に門を開いた時、女神が「紋術(もんじゅつ)」がどうとか言っていたので

リュンクは(紋術=魔法的なもの)なのだろうと、たかを括っていたが

その場合、紋印(もんいん)とは何だろうか?強めの魔法とかだろうか?


「何と!紋印(もんいん)の事も伏せられていたのか?これはしまったな…」


フロエは、再び右手に顎をのせながら、含んだ様にそう言った。


どうやら女神が「()えて教えていない」という事を念頭に入れ

リュンクにどこまで話したものかと思案しているのだろう。


「よし」


と、何か筋が通った様に小さく頷いたフロエは、リュンクの目を見ながら

ポンっと手の平を合わせ、会話を仕切り直すサインを出した。


「?」


「リュンク。色々聞きたいとは思うのだが、まずは私の方から質問させてもらえないだろうか?」


「…あー、うん、それは良いけど、何が聞きたいのさ」


「兎にも角にも、尊主(そんしゅ)の事が聞きたい。尊主はやはり未界に?」


未界。


そう言えばあの女神は、リュンクの元居た世界を「未界」と呼んでいた。


そしてここは「異界」


「よしよし良いぞ」と、リュンクは、無知のこの世界において

理解できる名詞がある事に手応えを得た。


「そうだよ。今は未界に居る。朝夜の門とかいうのを使ってやってきたんだ」


「ああ。それは知っているのだが……ん?ちょっと待て、という事は、リュンクは未界からやってきたというのか?」


「うん。そうなるね」


「未界から?…何と…そんな方法があるのか?いったいどうやって」


「いや、だから朝夜の門を使ってきたんだよ」


特筆して見易い内容の会話が滞る。


リュンクは「こいつ。話の飲み込み悪いな」と心の中でフロエをなじった。

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