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WSS/1-異界冒険譚  作者: たかしモドキ
第2話「犬的な匂い」
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-【2-2】-ダック的な感じになる

ここにきて、真っ暗闇の海岸が無意味にリュンクの不安を煽る。


それもそのはず。小学生の彼が真夜中に誰もいない海岸にいたケースなど、今までに無い。

急に、波の音がざわめき、冷ややかな風がさわがしく聞こえ、例えようの無い圧迫感が彼を襲う。


無意識に室内に入りたくなったリュンクは、それに相応しい物はないかと

帽子のツバを落ち着きの無い鳥の様に左右に振る。


すると、しばらく向こうの海岸に、丸太を枕木にして寝かせてある

数台の朽ちかけた小型船が目に入る。

それが分かるや否や一言も発する事なく、そこへ全速力で走り始めた。


枕木の丸太を足がかりに小型船上へ飛び乗ったが

急いた拍子に転げ、背中から船上に落ちる。


直後、ベッドの様な感触が背中を柔らかに包み込んだ。


船上には保護用と思わしきテントの様な生地が、張った状態で被せられており

朽ちかけてはいるが、それがハンモックの様な状態を作り出している。


「……悪くないね」


ブワブワと沈み込み包まれる感覚に、じんわりと安心感を抱き、今はその感覚に気を任せる事にする。


ここまで、大いに慌て騒ぎふためいたリュンクだったが

帽子のツバを下げて、ようやく冷静さを取り戻そうと外側ではなく内側に対し答えを模索し始めた。


全くもって一切無知なこの世界で、リュンクは一体どうするべきなのか。


あの女神に関係する人物を見つけ出し面倒を見てもらうというのはどうだろうか?前提としては悪くない。


明言して託されたわけではないので微妙なところだが、

事の発端は女神の命を狙う悪神とその手下の所業で

それを解決する為にここに来た、と言うのも間違いではない。


その問題の解決を目標にする場合。


言ってしまえば悪神の討伐になるわけだが…

目標がそれならば、自ずとどこかで女神の関係者と会う事になるだろう。


関係者に会ってしまえば、何かしらの援助は期待できる。

むしろ、そいつらの義務といっても良いだろう。


ならば、悪神どうこうよりも、先に女神の関係者に会ったとしても問題は無いはず。

と言うか、向こうから来るぐらいの心意気がほしいところだ。


「ん……いや、待て待て」


ここに来て、自分の腹積もりに出てきたフレーズに不信感が集まり始めた。

つい今しがた自分で思案したにも関わらずどうにも引っかかる。


—『明言して託されたわけではない』


思い返してみる。


女神はリュンクに一度でも「助けてほしい」と言っただろうか?


勝手に前のめりに考えて救世の使命を妄想したが

女神はリュンクの「遠くに行ってしまいたい」と言う願いを愚直に叶えてくれただけでは無いのか?


話の直前、リュンクの現実逃避に共感するとまで言っていた女神が

ただ単に自分の心情と照らし合わせ願いを聞き入れてくれただけでは?


「いや…それは…怖すぎる」


なんの役割もないまま異世界に放り出されるなど

それは冒険ではなく、追放である。


「そもそも、女神がくれた特別な力とか言うやつも変じゃないか?

 だってそれが悪神に効く力なら自分達でどうにかするだろうし!

 それをすんなり子供に渡すのもおかしい!」


創作物なら子供に命運を託す展開など、そう珍しくも無いが

現実となると誰がどう考えてもあり得ない。

身の丈2メートルのマッチョマンに頼る方が理にかなっている。


何にせよ。その力とやらも、ふやけた絆創膏の様に取れてしまったわけだが。


一度、マイナスな思考をすると、次々とそれを肯定する証拠の様なものが湧き出てくるもので

リュンクは、ネガティブの混沌に迷い込みつつあった。


「もしも…それが事実だったら……」


こう考えればどうだろう。


ここは言葉も通じない外国。

人種も文化も違う、その場所において

夜中の砂浜に一人取り残された子供。

しかも、知り合いもいない、お金もない、ここかどこかもわからない。


というか、人間が居るのかもまだわからない。

怪物ばかりの世界だったらどうしようか。

でも呼吸できるという事は、空気はあるんだ。

食べ物は体に合うのか…

陽が昇らないかも…


ネガティブの混沌は、ひっきり無く都合の悪いキーワードを投げつけ

リュンクの頭の中をグチャグチャに混ぜこぜにした。

黒紫色のドロドロが耳から溢れんばかりだ。


「………そうだ…寝よう!!」


寝てしまおう。


睡眠は一番の現実逃避。


寝てしまえば不安からも解放され面倒な事を考えなくても良い。


それに、陽が登るとして、明るくなれば気分も変わり、何か打開策が浮かぶかもしれない。


よし、寝よう。寝てしまおう。


奇しくも背面はベッドとも似ついたそれなのだから。


「…………」


—が、無論、眠れる訳が無い。


辺は夜だが、体内時計では17時もきていない。

一切眠くない。

というか怖くて眠れない。


ゲームや漫画なら、こういう時は、都合良くすぐ時間が経つのに、現実はそうはいかない。


リュンクは、アニメやゲームのキャラが一晩を明かした次のシーンでも

同じテンションを維持したまま居られるのが不自然だと思った。

まぁ、排便などと同じく描かれていないだけで実際は色々しているのだろうが。


混沌の名残なのか、そんな取り止めもない事を空想している時だ。


巻き起こった現象を正しく認識するのに時間がかかるほど

それは、信じられない程大きな打音と衝撃をうち響かせながら

海から飛び出してきた。


「ぃッ!!!」


その衝撃で舞い上がった砂が、ザーっと雨の様にリュンクに降り注ぐ

驚きすぎて彼の心臓は変なリズムで脈打っている。


ここは異世界だ。


地球にいた頃ではあり得ないことが起こっても何も不思議じゃない。


よしんば、巨大な海洋生物が存在し夜な夜な獲物を求め陸地に這い上がってくるなんて事も十分にあり得る。


ならば、この衝撃を起こした正体が気になるところだが

それ以上に、下手に身動きをとって、それに見つかるリスクを考えると

とても動こうとは思えない。


砂の雨を降らせられる程の衝撃を繰り出せるのは、余程巨大な生き物。

見つかれば命の保証は無いだろう。


「………………?」


しかし。


最初の豪快な登場に対し、その後は砂利を踏みしめる音すら聞こえない。


海から飛び出したまま静止しているとでも言うのだろうか?

それはある意味、バタバタ動かれるよりも怖い。


しかしながら、こうなると心持ちの天秤が、微量だが正体を暴きたいと言う気持ちに傾く。


「………っ………っ…」


リュンクは、生地を(きし)ませない様に

尚且つ、舞い上がって船上に散らばる砂利を鳴らさない様に

ゆっくりと、転がる様に体重を移動させ船の縁からその正体を捉えようと試みる。


頭ひとつ船上から出すわけだから、気付かれるリスクもグンと上がるが

視認している対象への恐怖と視認していない対象への恐怖では、後者の方が圧倒的に勝る。


暗闇では、枯葉を踏み締め走る子猫の足音が、猪にも熊にも化けるのだ。


「……とはいえ……どれどれ…」


木製の船の縁が下まぶたの位置に来る位置、ギリギリ視界が確保できる状態で海岸の状況を確認するリュンク。


挿絵(By みてみん)


そこに見たのは、ガッツリと目線のあう、二つの目玉だった。


「っくきぃぃぃぃっ……!!!!」


某、有名ランドのダック水兵さんのような、声にならない声で後ずさりするリュンク。


覚えておくと良い。


人間は本当に驚くと悲鳴と食い縛りが同時に起こり、ダック的な感じになるのだ。

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