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俺の名は坂本龍馬(AI漫画)  作者: MOKOTA
第二章 将来に悩む龍馬

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第37話 坂本龍馬は土佐に帰る

挿絵(By みてみん)


 その夜、龍馬はいつものように千葉家で夕食を取っていた。

 最近は土佐藩の中屋敷より、こちらで飯を食う方が多い。そのまま泊まっていくことも珍しくない。

 もはや客なのか居候なのか、自分でもよく分からなかった。

 まあ飯はうまいし、佐那もいる。

 問題ない。

 そんなことを考えながら箸を動かしていると、佐那が不意に口を開いた。


「龍馬さん、土佐にお帰りになってはいかがでしょうか」


 龍馬の手が止まった。

 重太郎も飯を口へ運ぶ寸前で固まった。

 定吉まで湯呑みを持ち上げた姿勢のまま動かない。

 数秒間、誰も何も言わなかった。

 何だ、この空気。

 誰か何か言え。

 頼むから俺を見るな。


「は、ははは。佐那、何を冗談を言っているのかな」


 最初に口を開いたのは重太郎だった。


「坂本君も留学延長の願いを早く出さないから、佐那が不安になるのだよ。なあ、坂本君」

「はあ……」


 目が笑っていない。

 重太郎。

 お前、完全に焦っているな。


 定吉が静かに湯呑みを置いた。


「坂本」

「はい」

「お前は、どう考えているのだ」


 逃げられない。

 龍馬は箸を置いた。

 ここで適当なことを言えば、たぶん佐那には見抜かれる。

 というか、もうとっくに見抜かれている。


「……迷うちょります」


 それが正直な答えだった。

 おそらく、自分の幸せはここにある。

 小千葉道場。

 剣術。

 定吉。

 重太郎。

 そして佐那。

 このまま江戸に残り、剣を極め、いずれ道場を支える。

 それはどう考えても悪い人生ではない。

 むしろ相当いい。

 龍馬自身、そういう人生を望んでいたはずだった。


 だが時代が、それを許してくれない。

 幕府は朝廷の勅許を得ぬまま通商条約を結んだ。

 志士たちは怒り、各藩も揺れている。

 外国との貿易が始まれば、日本の富が流れ出すという話まである。

 このまま何もしなくて本当にいいのか。

 そんな思いが、稽古中にも、酒を飲んでいる時にも、佐那と一緒にいる時でさえ頭を離れなくなっていた。


 正直、不本意だった。

 龍馬は元来、そこまで立派な人間ではない。

 天下国家のために身を捧げたい。

 民のために生きたい。

 そんな高尚な男ではなかった。

 好きなことをして、剣を振って、酒を飲んで、女に好かれて生きたい。

 それで十分ではないか。

 なのに日本が滅んだら、その暮らしも全部なくなる。

 それは困る。

 非常に困る。

 ただ一方で、自分ごときが動いたところで何が変わるのかとも思う。

 武市や桂ならともかく、俺だぞ。

 そんなものに国の命運を背負わせるな。

 重すぎる。


 思考の迷宮にはまり込んでいる龍馬へ、佐那が静かに言った。


「ですから、土佐へお戻りになるのがよいと思います」


 龍馬の胸が一気に冷えた。

 え。

 待て。

 もしかして、愛想を尽かされた?

 罵られるのはいい。

 冷たくされるのも、まあいい。

 むしろ最近は少し癖になっている。

 だが捨てられるのは違う。

 それは嫌だ。

 断固として嫌だ。


「佐那、わしは――」

「私は、明るくて、自信家で、前向きな龍馬さんを好いております」


 龍馬は口を閉じた。

 佐那の声は静かだった。

 怒ってはいない。

 だからこそ、余計に胸に刺さった。


「ですが、今の龍馬さんは違います」

「……」

「自分をごまかして、無理にここへ残ろうとしている龍馬さんは嫌いです」


 きつい。

 竹刀で面を打たれるより痛い。

 だが言い返せなかった。

 その通りだったからだ。


「例えそれがどれほど困難でも、何年かかろうとも、龍馬さんには自分の信じた道を進んでいただきたいのです」


 佐那はまっすぐ龍馬を見つめていた。


「それが、私が愛した坂本龍馬という男の生き方です」


 龍馬の喉が詰まった。

 重太郎は黙って俯いている。

 定吉も何も言わない。

 佐那の目から、一筋だけ涙がこぼれた。


「私は待ちます」

「佐那……」

「何年でも。何十年でも」


 佐那は涙を拭おうともせず、微笑んだ。


「佐那は、すでに坂本龍馬の妻でございます」


 龍馬は何も言えなくなった。

 ずるい。

 そんなことを言われたら、残るなどとは言えないではないか。

 自分よりずっと覚悟が決まっている。

 それが悔しくて、嬉しくて、情けなかった。


 龍馬はしばらく黙った後、深く頭を下げた。


「……待っちょってくれ」

「はい」

「必ず戻るき」

「はい」


 その夜、龍馬はようやく決めた。

 剣を捨てるわけではない。

 佐那を捨てるわけでもない。

 ただ一度、外へ出る。

 自分が何をするべきなのか、それを確かめるために。





 安政五年九月。

 坂本龍馬は江戸を離れ、土佐へ帰国した。

 手には北辰一刀流の目録。

 胸には佐那との約束。

 そして、まだ形にもならない一つの志があった。

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