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俺の名は坂本龍馬(AI漫画)  作者: MOKOTA
第二章 将来に悩む龍馬

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第28話 坂本龍馬の父・八平、没す

冒頭にAI漫画があります。ページ右上の表示調整/挿絵を表示で表示されます。苦手な方はOFFにしてください。

挿絵(By みてみん)


 坂本龍馬(さかもとりょうま)が砲術を本気で学び直そうと思ったのは、浦賀(うらが)で見た黒船の仕組みを、河田小龍(かわだしょうりょう)の話で少しずつ理解したからだった。あの巨大な船は、海に浮かんでいるだけで人を威圧(いあつ)した。だが、その力は大きさだけから生まれるものではない。

 蒸気で船を動かし、大砲で遠くを狙い、それらを扱う人間が技術を積み重ねている。


 江戸(えど)では佐久間象山(さくましょうざん)の講義についていけず、途中で塾を辞めた。土佐へ戻ってから書物を調べても、文字だけでは分からないところが残る。今度は実際に砲を扱い、聞いた話と目の前の動きを結びつけてみたかった。

 そう考えた龍馬は、徳弘孝蔵(とくひろこうぞう)のもとで、西洋式の砲術(ほうじゅつ)を学び始めた。


 もっとも、最初から景気よく大砲を撃たせてもらえたわけではない。

 砲の各部の名称、火薬と砲弾(ほうだん)、装填(そうてん)の手順、発射前の確認。覚えることは多く、龍馬は説明を聞きながら、目の前の砲を何度も眺めた。


「先生、わしはいつ大砲を撃てるがです?」

「手順も知らん者に撃たせられるか」


 孝蔵に即答され、龍馬は少し口を尖らせた。

 大事なのは分かるが、いつまでも名前を覚えているだけでは面白くない。つい、難しいところを省いて言ってみた。


「大筋は、火薬入れて玉入れて、火をつけるがでしょう?」

「おんし、その大筋だけでやったら、自分ごと吹き飛ぶぞ」


 孝蔵の顔が険しくなり、龍馬は口を閉じた。

 面白くないなどと言っている場合ではない。撃つ前に吹き飛んでは修行にならないので、素直に手順を覚えることにした。


 さらに標的までの距離、砲身(ほうしん)の角度、火薬の量まで考えなければならなかった。

 見た目は豪快なのに、実際にはひどく理屈っぽい武器である。

 大砲まで学問の側だったとは、少々裏切られた気分だった。


 やがて仁井田浜(にいだはま)での実地の稽古にも加わった。砲を扱う者たちとともに指導を受け、発射までの役割を順に経験する。自分の手順が遅れれば、ほかの者も待つことになる。大砲は、剣のように一人で構えて振れば済むものではなかった。

 標的には、土を盛った場所に板が据えられていた。龍馬が照準を任された最初の一発は、大きく外れた。着弾(ちゃくだん)した場所を確かめ、孝蔵の指示を受けて砲身の角度を直す。次も外れたが、今度は標的との隔たりが少し縮まった。

 失敗したら、その理由を考えて直す。剣の稽古でも同じようなことはしていたが、遠くへ飛んだ砲弾の跡を見て考えるのは、また違った面白さがあった。龍馬はいつしか、撃つことだけでなく、どこへ落ちるかを見るのにも夢中になっていた。


「おおっ! 今のは惜しいぜよ!」


 一発が標的の近くへ落ち、龍馬は声を上げた。孝蔵も着弾した場所を確かめ、小さくうなずいた。


「最初よりは、ましになったな」

「ましやなくて、才能があると言うてつかあさい」

「当ててから言え」


 褒め方が渋い。もう少し若者を伸ばす気はないのかと思ったが、確かにまだ当たっていない。

 龍馬はぶつぶつ言いながら、指導に従って砲身の角度を調整した。

 次の発射で、轟音(ごうおん)とともに白煙(はくえん)が広がった。龍馬が煙の向こうへ目を凝らすと、少し遅れて標的の板が砕け、背後の土が跳ね上がった。


「当たった!」


 思わず声が出た。孝蔵の顔を見ようとしたが、まずは発射後の確認だと促される。

 喜ぶにも順番があるらしい。龍馬は言われた手順を済ませ、それからもう一度、遠くの標的を見た。


 浦賀で見た黒船は、ただ大きく珍しい船ではなかった。

 蒸気で動き、遠くから砲撃し、その力を使うために人が学び、手順を守っている。

 小龍から聞いた、強さを支える仕組みというものが、手を動かしてみて少し分かった気がした。

 剣では届かない距離を、自分たちの扱った砲弾が飛んでいった。その事実を目で確かめると、刀だけでは軍艦に対処できないという話にも、以前よりはっきりした重みが生まれた。龍馬は標的を眺めながら、まだ知らなければならないことが多いと思った。



 だが、その頃には、砲術どころではない日も増えていた。

 父の坂本八平(さかもとはちへい)の具合が、目に見えて悪くなっていたからである。八平はすでに兄の坂本権平(さかもとごんぺい)へ家督(かとく)を譲り、家の采配(さいはい)からも少しずつ退いていた。

 それでも龍馬は、どこかでまだ大丈夫だと思っていた。父はいつも家にいて、息子が馬鹿なことをすれば叱り、遊び歩けば小言を言う。それが当たり前で、これからも続くような気がしていた。

 ところが、寝ている時間が増え、小言も少なくなった。家の中が静かになるほど、龍馬は落ち着かなくなった。休んでいるだけだと考えたいのに、顔を見るたび、その言い訳が難しくなっていった。


 安政(あんせい)二年十二月四日、八平の容体(ようだい)が悪化し、家族が枕元(まくらもと)へ集まった。龍馬も父のそばに座ったが、何を話せばよいのか分からなかった。江戸のことも、剣のことも、小龍の話も、砲術で標的へ当てたことも、聞いてもらいたいことはあった。だが、どれも長い話になりそうで、弱った父に聞かせてよいのか迷った。


「龍馬」

「……うん」

「権平の言うことを、よう聞け」

「分かっちゅう」

「家族に……あまり心配をかけるなよ」


 こんな時まで、自分のことを心配している。

 普段なら、もう子供ではないと言い返したかもしれない。今は、その言葉を受け取るだけで精いっぱいだった。


「分かったき」


 龍馬が答えると、八平はわずかに笑った。龍馬はその顔を見つめ、ほかにも何か言おうとしたが、うまく言葉にならなかった。

 それから間もなく、父は静かに息を引き取った。


 龍馬は、父の顔から目を離せなかった。明日になれば、また小言を言われるような気がする。寝過ぎだ、遊び歩くな、権平の言うことを聞け。そんな声が、いつものように飛んできそうだった。

 だが、父は何も言わなかった。


 江戸へ行き、剣を学び、昔は苦手だった学問にも興味を持つようになった。

 砲術まで学び直している。少しは成長した姿を見せられただろうか。少しくらいは安心してくれただろうか。

 それだけは、もう父に聞くことができなかった。



 葬儀(そうぎ)を終えた後もしばらく、龍馬は家を離れなかった。

 剣を振らず、砲術の稽古にも行かず、小龍のところにも顔を出さない。出かけようと思っても、父の部屋の前を通ると足が止まった。

 家は、権平を中心に動いていた。もともと兄が取り仕切っていたことは多かったが、父へ確かめに行く姿は、もう見られない。食事も片付けも、必要なことは毎日続く。その中に父だけがいないことを、龍馬は少しずつ思い知らされた。


 いずれは剣も握り、学問にも戻るつもりだった。聞きたいことも、試したいこともなくなったわけではない。だが今だけは、立ち止まっていたかった。

 龍馬は静かな部屋へ座った。父に話せなかったことを思い返しながら、もう少しだけ喪(も)に服(ふく)していようと思った。

 馬鹿息子なりに、父を送る時間が必要だった。



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