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俺の名は坂本龍馬(AI漫画)  作者: MOKOTA
第二章 将来に悩む龍馬

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第27話 坂本龍馬は大地震に慄く

冒頭にAI漫画があります。ページ右上の表示調整/挿絵を表示で表示されます。苦手な方はOFFにしてください。

挿絵(By みてみん)


 嘉永(かえい)七年十一月五日。土佐(とさ)を、凄まじい揺れが襲った。


 最初、坂本龍馬(さかもとりょうま)は少し大きな地震だと思った。土佐では地震そのものは珍しくない。しばらく待てば収まるだろう。

 そう考えた次の瞬間、家が横から殴りつけられたように大きく傾いた。

 棚から器が落ち、柱が軋み、梁から埃が降り注いだ。家族の叫び声まで重なり、家の中は大騒ぎとなった。


「うわぁぁぁっ!」


 龍馬は思わず叫んだ。

 足元がまともに立てないほど揺れ、慌てて柱へしがみついた。


「親父! 兄貴! みんな無事か!」


 坂本八平(さかもとはちへい)や坂本権平(さかもとごんぺい)たちの安否を確かめようと叫ぶと、あちこちから返事が飛んできた。

 どうやら家族は無事らしい。


 やがて揺れが収まると、龍馬は柱にもたれたまま大きく息を吐いた。

 坂本家では器が割れ、家財が散乱していたものの、建物そのものに大きな被害はなかった。


 運がよかった。本当にそう思った。


 しかし、被害は坂本家だけで済む話ではなかった。

 城下へ出た龍馬は、さすがに言葉を失った。道沿いの家々が傾き、完全に潰れている建物もある。

 瓦礫(がれき)をどかす者、家族の名を呼び続ける者、水を運ぶ者が入り乱れ、遠くでは火の手まで上がっていた。


 さらに海沿いからは、津波が押し寄せたという知らせが届いた。

 家も船も田畑も、人までもまとめてさらわれた場所があるという。

 後に判明した土佐藩(とさはん)内の死者は三百七十人を超え、流失した家屋も数千軒に及んだ。


 黒船どころではない。異人を追い払うだの、幕府が弱腰だの、攘夷(じょうい)だのと騒いでいた人間たちを、大地はまとめて揺さぶった。

 自然相手では剣術も役に立たない。龍馬がいくら北辰一刀流《ほくしんいっとうりゅう》の剣を振るったところで、地震から一本取れるはずもない。さすがの龍馬にも笑えない話だった。


 翌日、龍馬は武市半平太(たけちはんぺいた)の家へ向かった。嫌な予感はしていた。そして、その予感は見事に当たった。


「……こりゃあ酷いのう」


 武市の屋敷もひどく傷んでいた。塀は崩れ、柱には亀裂が入り、庭には瓦や板が散乱している。その前で、武市が腕を組んで立っていた。


「……見事にやられたのう」 「また直せばえい」 「簡単に言うなや」 「おんしなら直すろう」 「人の家じゃと思うて気楽に言いゆうな」


 武市は龍馬を睨んだが、すぐに小さく笑った。


「まあ、生きちゅうだけでもましか」 「そういうことぜよ」


 龍馬も笑った。家を失った者がいる。家族を失った者もいる。それに比べれば、傷んだ屋敷なら直せる。武市なら本当に直すだろう。

 龍馬には妙な確信があった。こういう時の武市はしつこい。いい意味で、かなりしつこい。


 生きている。今はそれだけで十分だった。



 地震の後、年号は嘉永から安政(あんせい)へ改まった。

 そして年が明け、安政二年となった。土佐の町は少しずつ復旧へ向かっていたが、坂本家には別の心配事ができていた。

 父の八平が体調を崩したのである。


 震災後の片付けや心労も重なったのだろうと、最初は龍馬も軽く考えていた。

 八平自身も、年寄りが少し疲れただけだと言っていた。


「親父、具合はどうぜよ」

「大したことはない。少し休めばえい」

「ほんまか? 無理しちょらんか」

「お前に心配されるほど耄碌(もうろく)しちょらん」


 口だけはまだ元気だった。そこは少し安心する。親父はこうでなくてはいけない。


 ところが、八平が床に伏す日は少しずつ増えていった。以前なら家のことに口を出し、龍馬がごろごろしていれば小言の一つも飛ばしてきた。

 それがなくなると、家の中が妙に静かに感じられた。


 家のことは以前にも増して権平が取り仕切るようになった。

 兄が坂本家の中心になっていく。当然といえば当然の話だったが、その様子を見るたび、龍馬は父の衰えをはっきり意識した。


 龍馬は江戸へ出て剣を学び、北辰一刀流の千葉道場で一年あまり腕を磨いた。

 土佐へ戻ってからは河田小龍(かわだしょうりょう)に出会い、子供の頃には大嫌いだった学問まで面白いと思えるようになった。


 馬鹿息子なりに、多少は成長したつもりだった。親父も少しくらいは安心してくれただろうか。


 もっとも、土佐へ戻ってから家でごろごろし、五日に四日は無駄飯を食らっていた件については忘れることにする。

 そこまで計算に入れると、安心させた量と心配させた量の収支が一気に怪しくなる。都合の悪い過去は封印する。人生には、ときに必要な技術である。


 しかし、布団に横たわる父を前にすると、そんな軽口も浮かばなくなった。


「親父、何か欲しいもんはないか?」

「何もいらん。お前がしっかりしてくれたら、それでえい」

「……そりゃあ、なかなか難しい注文ぜよ」


 龍馬が苦笑すると、八平もわずかに笑った。その笑顔を見て、龍馬は胸の奥が少し痛んだ。


 もう少しだけ、安心させてやりたい。

 江戸で学んだことも、これからやりたいことも、まだ何一つ形になっていない。親父に胸を張って見せられるものが欲しかった。


 龍馬は父の布団を直し、静かに部屋を出た。兄の権平が家を守っている。

 ならば自分は、自分にできることを探さなければならなかった。


 もっとも、その答えが何なのかは、まだ龍馬自身にも分かっていなかった。



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