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俺の名は坂本龍馬(AI漫画)  作者: MOKOTA
第二章 将来に悩む龍馬

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第24話 坂本龍馬は河田小龍に会う

冒頭にAI漫画があります。ページ右上の表示調整/挿絵を表示で表示されます。苦手な方はOFFにしてください。

挿絵(By みてみん)


 土佐へ戻って半年ほどが過ぎた頃には、坂本龍馬(さかもとりょうま)の生活は、すっかりだらけていた。江戸帰りという看板も、最初こそ武市半平太(たけちはんぺいた)の道場でありがたがられたが、黒船の話も剣術修行の話も、何度か聞けば珍しくなくなる。桂小五郎(かつらこごろう)との付き合いや、吉田松陰(よしだしょういん)の密航計画を耳にした経験まで、いつまでも話の種にはできなかった。

 龍馬も、分からないことを分かったようには語らぬよう気をつけていた。その結果、異国をどう退けるべきかという話になると、口を挟めなくなる。黒船は確かに大きかったし、大砲も恐ろしかった。だが、追い払えばすべて解決するのかと問われれば、そこから先は分からない。

 最近では武市道場へ行く回数も減り、坂本家の縁側(えんがわ)で昼寝をするか、庭の蟻(あり)を眺めるかという日が増えていた。再び江戸へ出る相談も、なかなか進めていない。蟻は毎日働いているというのに、自分はその仕事ぶりを見ているだけである。感心している場合ではないが、眺め始めると案外面白かった。


 そんなある日、武市が坂本家を訪ねてきた。帰り際、縁側に寝転がる龍馬を見つけ、足を止める。

 龍馬は蟻の行列が小さな虫を運んでいくところを、真剣に眺めていた。


「龍馬、河田小龍(かわだしょうりょう)いう絵師を知っちゅうか?」

「いや、知らんのう」

「土佐の絵師じゃ。人を集めて、異国の話なんぞをしゆう」

「へえ。面白そうじゃのう」

「わしは、あの男が嫌いじゃ」


 龍馬は顔を上げた。武市は頑固だが、誰かを嫌いだと真正面から言うことは、それほど多くない。

 蟻の仕事より、こちらの方が気になってきた。


「開国派ながか?」

「それなら、まだ話は分かる。あの男は攘夷か開国かを決めずに、異国の仕組みや技術を面白そうに語るばかりじゃ」

「それの何がいかんがぜよ」

「異国は、珍しい玩具を見せに来ちゅうわけやない」


 武市は眉間に皺(しわ)を寄せた。龍馬は身体を起こした。いつもの長い話になりそうだったが、今日は少し聞いてみたくなった。


「黒船は大砲を向けて、国を開けと迫ったがじゃ。そこで蒸気船は面白い、商売は面白いと喜んじょったら、相手の思う壺(つぼ)じゃろう」

「けんど、知らんまま追い返せ言うても、無理があるろう」

「じゃから、学ぶなとは言うてない。何のために学ぶかが大事ながじゃ」


 武市にとって、異国を知ることは国を守るための手段なのだろう。

 小龍という男は、異国を知ること自体を楽しんでいるらしい。

 本人に会ってみなければ分からないが、その楽しみ方なら、龍馬にも少し覚えがあった。浦賀で黒船を見た時など、脅威より先に船の大きさへ目が行ったものだ。


「わしが見に行ったら、怒るかのう」

「いや。むしろ行ってこい」

「嫌いながやろ?」

「嫌いやき、間違うちゅうとは限らん。おんしは、わしとは物の見方が違う。わしには分からんものが、おんしには分かるかもしれん」


 龍馬は少し驚いた。自分の気に入らない相手でも、人を会わせることはためらわない。

 武市のこういうところには、昔から頭が上がらなかった。


「ただし、面白い、珍しい、それだけで物を見るなよ」

「分かっちゅう」

「それとな、龍馬。このまま寝転がっちょったら、人間として腐るぞ」


 ありがたい忠告の締めが、それだった。

 龍馬は庭へ目を戻したが、働き続ける蟻が目に入り、少々居心地が悪くなった。




 数日後、龍馬は河田小龍を訪ねた。

 出迎えたのは、武市のような鋭さも、桂のような隙のなさも感じさせない男だった。

 年はずっと上だが、どこか茫洋(ぼうよう)としている。異国や国難を語る者には張り詰めた顔が多かっただけに、その気負いのなさが珍しかった。


 龍馬が名乗り、武市から話を聞いたと伝えると、小龍は穏やかにうなずいた。


「武市君がねえ。私は攘夷か開国か、その旗を選ぶことには、あまり興味がなくてね」


 いきなり、武市から聞いた通りの話になった。龍馬は腰を下ろし、少し身を乗り出した。


「異国を追い払うにしても、国を開くにしても、まず異国が何者なのかを知らないと、話にならないだろう」

「武市は、知るのは国を守って追い払うためじゃ言うちょりました」

「なるほど。武市君らしい。だが、最初から結論を決めて学べば、見たいものしか見えなくなる」

「それは、開国でも同じやないですか?」

「もちろん同じだよ」


 あっさり返された。外国は進んでいるから何でも真似しろというのも、外国だから嫌えというのも、考えるのをやめてしまえば同じことだと、小龍は言う。

 どちらの旗にもつかず、両方を疑う男らしい。武市とは話が合わないだろうが、龍馬には少し面白かった。


「それで、君は何を聞きに来たのかな?」

「暇じゃったき、何か面白い話でも伺えんかと思いまして」

「君は正直だねえ」

「武市とは、よう話されるがですか?」

「何度かね。毎回、だいたい言い争いになるけれど」

 

 小龍は笑った。

 武市は国を守るために答えを急ぎ、自分は急ぐほど見落としが増えると思っているのだという。龍馬は二人の話を頭の中で並べてみたが、どちらが正しいのかは、やはり分からなかった。


「先生は、どうすればえいと思うちょります?」

「まだ分からない」

「分からんがですか」

「だから調べるんだよ」


 龍馬は思わず笑った。分からないと答えたのに、小龍は少しも困っていない。

 武市道場で同じことを言う時の自分とは、ずいぶん様子が違った。


 その時、外から大きな声が響いた。


「小龍先生! まだ間に合いますか!」


 若い男が駆け込んできた。

 肩で息をしており、挨拶をしようとしても、なかなか言葉が続かない。小龍は驚く様子もなく、空いている場所へ手を向けた。


「長次郎(ちょうじろう)君か。まだ始めていないよ」

「よかった。今日は最後まで、お話を聞きとうございます」


 男は龍馬に気づくと、慌てて頭を下げた。

 饅頭(まんじゅう)屋の長次郎と名乗り、小龍に教えを受けているのだと話す。龍馬も名を告げ、座るよう促した。


「おんし、そがに走ってまで聞きたいがか?」

「もちろんです。先生は、ジョン万次郎どのから直接、アメリカの話を聞かれた方ですき」

「万次郎いうたら、中浜万次郎(なかはままんじろう)か? 漂流して、アメリカへ渡った土佐の漁師の」

「そうです。その方です」


 その噂なら、龍馬も知っていた。

 ジョンとは異国での呼び名らしい。武市から聞いた話では遠い国から帰った男だったが、その本人を知る者が目の前にいる。龍馬は姿勢を正した。暇つぶしに来たにしては、ずいぶんよいところへ当たったらしかった。


 小龍が語り始めたのは、アメリカの商売の仕組みだった。カンパニーというものがあり、一人の金だけではなく、大勢から金を集めて大きな仕事をする。船を造り、工場を造り、商売を広げ、儲(もう)かれば金を出した者にも利益を分けるのだという。


「待ってつかあさい。それは、自分に大金がなくても商売できるいうことですか?」

「信用があって、金を集める仕組みが整えばね」

「人の金を使うて?」

「そう。もちろん、うまくいかなければ損もする」


 龍馬は膝へ手をつき、身体を前へ傾けた。

 大きな船を造るには、大金持ちが一人で金を出さなければならないと思っていた。皆で出し合えるなら、できる仕事も変わってくる。


「けんど、金を持っちゅう者ばかり得することになりませんか?」

「そうなることもある。誰が金を出し、誰が働き、誰が利益を取るのか。そこを見ずに、よい仕組みだとは言えないね」


 小龍は、便利な話と同じ調子で危うさも語った。異国を褒めたいわけではないらしい。

 龍馬はもう少し詳しく聞こうとしたが、話は国の仕組みへ移っていった。


 アメリカには将軍がおらず、国を治めるプレジデント、つまり大統領は、決まった家から出るのではなく、選ばれるのだという。


「農民の家に生まれても、なれるがですか?」

「可能性はある」

「町人でも?」

「生まれた家だけで、その役が決まるわけではないんだ」


 龍馬には、すぐには飲み込めなかった。

 土佐では上士と郷士(ごうし)の間にさえ高い壁がある。その国では、どうやって人を選ぶのだろう。考え始めたところで、隣の長次郎が身を乗り出した。


「先生、そのプレジデントは、どこまで自分で政治を決められるがでしょう?」

「長次郎、ちょっと待て。わしのカンパニーの話も、まだ途中ぜよ」

「坂本さん、今は国の仕組みの話ですき」

「わしは武士じゃぞ」

「学問の質問に、身分は関係ないでしょう」


 言われて、龍馬は口を閉じた。

 話を聞いているうちに、つい普段の調子が出てしまった。

 相手の言うことはもっともで、小龍まで面白そうにこちらを見ている。龍馬は先を譲ったが、次の質問は逃すまいと決めた。


 ところが小龍は、二人の質問をひとまず預かり、蒸気船の仕組みを語り始めた。

 火で水を沸かし、蒸気の力で機械を動かして船を進める。

 風を待たず、大きな船を走らせられる理由が、龍馬にもようやく少し分かってきた。


 浦賀で見た黒船を思い出した。あれは、ただ大きな船ではなかった。造る技術があり、造らせる金があり、それを集めて動かす仕組みがある。大砲を追い払おうという話だけでは、船を海の向こうから運んできた力まで見えてこないのかもしれない。

 面白い。だが、そこで武市の忠告も思い出した。

 珍しがっているだけでは済まない。その船が日本へ来て、幕府に迫ったことは、自分も知っている。


「先生。こんだけ異国にできることがあるなら、日本はどうすればえいがでしょう」

「それを私が決めてあげることはできない」

「また、分からんがですか」

「知った上で、自分で考えるしかないだろう。そのために、まだ知るべきことがある」


 龍馬は黙った。武市なら、国を守るために何をするかという話へ進むだろう。

 小龍は、その前に足を止めさせる。先ほどまでは少し頼りなく感じたが、今は逃げているようには見えなかった。分からないことを放っておくのと、分かるために調べるのは、同じではないらしい。


「では、今日はこれくらいにしようか」

「もう終わりですか?」

「まだ聞きたいことがあります!」


 龍馬と長次郎の声が重なった。互いに顔を見合わせたあと、二人はそろって小龍へ向き直った。


「次は、いつ伺えばえいでしょう」

「先生、ご都合を教えてつかあさい」

「また話せることがまとまったらね」


 小龍はそう言って立ち上がった。はっきりした日を教えてもらえず、龍馬は困ったが、もう一度来るつもりになっていた。家で蟻の仕事を眺めるより、こちらの方がよほど面白い。

 帰ったら、武市にも今日の話をしてみよう。カンパニーの話から始めれば、いきなり言い争いにはなるまい。もっとも、自分にはまだ説明できないところも多かった。龍馬は長次郎へ向き直り、小龍に教わったことを、最初から確かめ直すことにした。



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