↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の名は坂本龍馬(AI漫画)  作者: MOKOTA
第二章 将来に悩む龍馬

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/50

第22話 坂本龍馬は武市道場へ行く

冒頭にAI漫画があります。ページ右上の表示調整/挿絵を表示で表示されます。苦手な方はOFFにしてください。

挿絵(By みてみん)


 土佐(とさ)へ戻った坂本龍馬(さかもとりょうま)は、家族への挨拶を済ませると、江戸(えど)で剣の腕を上げた話を始めた。

 父の坂本八平(さかもとはちへい)がうなずいてくれるので、つい調子がよくなる。強い相手が多かったことも、他流の剣を学んだことも本当だが、何度も転がされた話まで律儀に報告する必要はない。


「もう、出ていく前のわしとは違うぜよ」

「ほう。なら、立ち会うてみようか」


 坂本乙女(さかもとおとめ)が立ち上がり、龍馬は口を閉じた。

 姉は昔から、弟の自慢を聞いて褒めるより、確かめる方を好む。久しぶりの帰宅なのだから、今日くらいは言葉だけで喜んでくれてもよさそうなものだった。


 庭へ出ると、乙女は竹刀(しない)を構えた。

 龍馬の腕を試すつもりなのか、遠慮のない打ち込みが来る。以前なら力で受け止めて押し返したところだが、今はその剣の行き先が見えた。

 竹刀を合わせ、押し合う前に身体をずらす。

 乙女の打ち込みを流したまま、空いた小手へ一撃を入れた。

 姉が構え直しても、次の勝負はほぼ同じだった。江戸で散々打たれた甲斐が、こんなところであったとは思わなかった。


「何じゃ、その気持ち悪い剣は」

「腕が上がったと言うてほしいのう」

「力任せに振り回すだけやなくなったがか」


 乙女は手首を確かめながら、口元を緩めた。

 文句の割に嬉しそうに見えるので、龍馬も胸を張った。|

 佐那に教わった技が役に立ったと思うと、再び江戸へ行きたい気持ちが強くなる。




 家、藩、親戚への挨拶を一通り終え、龍馬は武市半平太(たけちはんぺいた)の道場を訪ねた。

 江戸へ行っている間に、半平太は自分の道場を開いていた。

 二十六歳で道場主、しかも妻もいる。同じ昔馴染みなのに、こちらは姉へ自慢して竹刀を向けられている。ずいぶん差がついたものだった。

 もっとも、半平太には昔から世話になっている。長い顎(あご)まで立派に見えてくるのは少々面白くないが、妬んでばかりでは男が小さくなる。

 龍馬は愛想よく挨拶し、集まっていた仲間の輪へ入った。


 望月清平(もちづきせいへい)・亀弥太(かめやた)の兄弟、池田寅之進(いけだとらのしん)、吉村虎太郎(よしむらとらたろう)、那須信吾(なすしんご)。

 懐かしい顔が次々と寄ってきて、最初に飛んできた問いはこれだった。


「それで、江戸の女はどうじゃった?」

「さすがに江戸の商売女は、土佐とは違うぜよ。競争が激しいきに、客を喜ばせる工夫がすごい」

「吉原(よしわら)へは行ったんか?」

「吉原は高い。もっと安う楽しめる穴場が、江戸にはようけあるき」


 龍馬が声を落とすと、皆が身を寄せた。

 剣の修行より熱心に聞いているのではないか。江戸帰りの威厳というものは、案外こういう話で保たれるらしい。


 輪の向こうには岡田以蔵(おかだいぞう)もいた。足軽の子で、以前は龍馬について回っていた男だ。

 それが今は、何かあるたびに半平太の顔をうかがっている。自分の舎弟だったはずなのに、留守の間にすっかり飼い主を替えた犬を見るようで、少し悔しかった。


「おまんのことじゃ。素人娘にも手を出しちょったろう」

「いや、土佐で懲りたき、何もしてござらんでありんす」

「語尾がおかしいぞ、龍馬」


 しまった。余計な言葉が出た。佐那のことまで探られ、師匠の娘に手を出して逃げ帰ったなどと言いふらされては、悪名ここに極まる。

 龍馬は笑って手を振り、別の土産話を持ち出した。


「そんなことより、黒船(くろふね)を見たぜよ」


 途端に、笑い声が途切れた。皆の後ろで困ったように笑っていた半平太まで、顔を引き締めている。

 龍馬は軽く切り替えたつもりだったが、話題の選び方を間違えたらしい。


「龍馬、この道場では尊皇攘夷(そんのうじょうい)を掲げちょる」


 半平太は静かに言った。天皇を尊び、異国勢力を退ける。そのために剣だけでなく学問も修め、国のために働く者を育てたいのだという。

 龍馬は仲間の顔を見回した。つい先ほどまで江戸の女の話に食いついていた者たちが、揃って真剣な顔をしていた。


「江戸の様子を聞きたいと思うちょった。おんし、直接黒船を見たがか?」

「ああ。長州(ちょうしゅう)の桂小五郎(かつらこごろう)と一緒に……」

「桂だと!」


 龍馬は肩を跳ねさせた。普段物静かな男が叫ぶと、こちらの驚きまで倍になる。

 半平太は膝を進め、龍馬の顔を覗き込んだ。


「尊皇攘夷を唱える、あの桂殿か。知り合いじゃったのか?」

「まあ、一応、親友というか。吉田松陰(よしだしょういん)いう人にも会うたような……」

「松陰先生にまで!」


 会った、は少し違う。

 襖の向こうで声を聞いただけだったが、訂正する前に皆の目が集まった。

 龍馬はその勢いに押され、つい続きを口にした。


「アメリカへ密航する計画の話を聞いたき」

「そこまで深い話を聞かされちょったがか。おんし、いつの間にそんな大物になったがじゃ」


 背中に嫌な汗がにじんだ。仲間たちは感心したように見つめ、以蔵まで目を輝かせている。

 こんなことで以蔵の尊敬を取り戻しても嬉しくない。事情を説明したいが、襖の外で盗み聞きして逃げたと白状するのも、今さら格好がつかなかった。


「頼む、龍馬。江戸で聞いた話を、わしらに聞かせてくれ」


 半平太に頭を下げられ、龍馬は慌てて止めた。

 この男の頼みを無下にはできない。だが、桂たちの会合で何度か耳にした話も、難しいところは聞き流している。皆が期待するほど立派な考えなど、どこを探しても出てこなかった。


「わしも詳しゅうはないぜよ」

「それでも、ここにおる者より江戸を知っちょる」

 

 逃げ道が塞がれた。龍馬は上座へ押し出され、膝の上で手を握った。知っていることだけ話せばよい。そう決めて、記憶に残っている言葉を拾い始めた。


「異国は軍艦で幕府を脅して、無理やり国を開かせたきに。幕府は腰抜け揃いで、怖じ気づいて開国したぜよ」


 皆がうなずくので、声に力が入った。江戸で聞いた誰かの言葉が、次々と自分の口から出てくる。


「けんど、帝は開国に反対しておられる。なら、帝のために異人を追い出さにゃならんぜよ!」


 歓声が上がり、龍馬はようやく我に返った。言いすぎた。どう追い出すのかも分からないのに、勢いだけで話を締めてしまった。


「龍馬……ようそこまで考えてくれた」


 半平太の目が潤んでいた。龍馬は笑顔を引っ込め、膝の上の手を見つめた。

 自分は聞きかじりをつないだだけなのに、この男は本気で受け取っている。

 女の話を大げさにするのとは、どうも勝手が違うらしかった。


 質問が始まれば困る。だが今度こそ、分からないことは分からないと言わねばならない。

 龍馬は茶を一口飲み、皆が静まるのを待った。江戸で覚えた柔らかな剣でも、この期待をするりと流すのは難しそうだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。