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俺の名は坂本龍馬(AI漫画)  作者: MOKOTA
第一章 青春を謳歌する龍馬

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第10話 坂本龍馬は女剣士に惨敗する

冒頭にAI漫画があります。ページ右上の表示調整/挿絵を表示で表示されます。苦手な方はOFFにしてください。

挿絵(By みてみん)


 江戸へ着いた翌日、龍馬はさっそく小千葉道場(こちばどうじょう)の門を叩いた。

 土佐を出た理由には少々、いや、かなり情けない事情があったが、ここから先は本気の剣術修行である。


 土佐の日根野道場(ひねのどうじょう)では小栗流(おぐりりゅう)の目録(もくろく)を受けた。

 小栗流の腕にも、それなりの自信がある。乙女との稽古でも、簡単には負けなくなった。龍馬には、それなりの自信があった。

 正直に言えば、それなりどころではない。かなり天狗(てんぐ)になっていた。


 門をくぐると、人のよさそうな若い男が出迎えた。

 身なりは整い、物腰(ものごし)にもどこか品がある。下男には見えないので、内弟子(うちでし)の一人だろうと龍馬は思った。


「土佐から来た坂本龍馬(さかもとりょうま)ぜよ。今日から世話になります」

「お待ちしていました。私は千葉重太郎(ちばじゅうたろう)です。父の定吉を助け、この道場で門人たちの稽古を見ています」


 龍馬は一瞬固まった。

 いきなり道場を指導する側の人間だった。第一声から相手を見誤った。


「こ、これは失礼しました」

「遠慮はいりません。今日から坂本君も同じ道場の仲間ですから」


 重太郎は気さくに笑った。龍馬も笑い返した。

 正直なところ、あまり強そうには見えない。柔らかな物腰で、乙女のように立っているだけで相手を威圧する感じもない。

 北辰一刀流《ほくしんいっとうりゅう》といっても、千葉周作の玄武館とは別の小千葉道場は案外こんなものなのか。そう思った。


 数時間後の龍馬が過去の自分を見られたなら、後頭部を殴っていただろう。

 日根野道場で目録を受けた程度で、何を天狗になっているのか。

 もっとも、その鼻は間もなくきれいにへし折られる。


 重太郎に案内されて道場へ入ると、龍馬は思わず足を止めた。

 広い。そして人が多い。激しい気合と竹刀(しない)の音が道場いっぱいに響いている。

 日根野道場とは比べものにならないほど門人がいるように見えた。しかも江戸には各藩から腕に覚えのある者が集まっている。龍馬の腹の底から、ぞくぞくするような高揚感(こうようかん)が湧いてきた。


 やはり江戸へ来てよかった。女から逃げるためだったことは、この際忘れよう。


「稽古止めい!」


 上座(かみざ)から一喝(いっかつ)が飛んだ。

 竹刀の音が一斉に止まる。門人たちが素早く道場の端へ並び、正座した。龍馬まで反射的に背筋を伸ばした。

 声の主は千葉定吉(ちばさだきち)だった。小千葉道場の主。龍馬がこれから師事(しじ)する人物である。

 促されるまま道場の中央へ進み、正座して頭を下げた。


「土佐藩より参りました。このたび入門させていただきます、坂本龍馬と申します」

「坂本君。今日から君も我が道場の一員だ。存分に励むがよい」


 龍馬は思わず見入った。落ち着いた声。堂々とした姿。いかにも剣豪という風格である。

 格好いい。自分も四十年ほど修行すれば、こんな渋い男になれるだろうか。

 その前に女癖を直した方がよさそうだが、本人はまだそこまで考えていなかった。


 定吉が龍馬を見つめた。


「では、君の腕を少し見せてもらおう。佐那、相手をしなさい」

「はい!」


 龍馬は目を瞬いた。明らかに女の声だった。

 道場の端から、一人の少女が立ち上がる。

 龍馬は少しむっとした。初日に少女を相手へ出すとはどういうことだ。面で顔は見えないが、その体格や声からして十代であるのは間違いない。

 土佐者だからとなめられているのではないか。


 防具を着けながら、龍馬は相手を観察した。佐那と呼ばれた少女は華奢(きゃしゃ)に見えた。

 少なくとも乙女とはまるで違う。乙女は女という分類に入れてよいのか悩むほど大きく、力も強い。

 それに比べれば、目の前の少女は普通の娘にしか見えなかった。

 

 いや、油断はいかん。女だから弱いと思って痛い目に遭うのは、乙女で十分学んでいる。

 龍馬は自分へ言い聞かせた。


「準備はできました。お願いします」

「こちらこそ頼むぜよ」


 二人が竹刀を構える。審判役の重太郎が間へ入った。


「始め!」


 龍馬はまず軽く面を狙った。佐那の竹刀がすっと動き、簡単に弾かれる。

 予想の範囲内だった。見たところ、力任せに戦う剣士には思えない。

 ならば押し切れる。

 龍馬は踏み込んだ。竹刀を強く振り下ろす。佐那が合わせてくる。

 だが龍馬は力を緩めなかった。小細工ごと押し潰す。そう考えた。

 ところが、竹刀が床を叩いた。佐那がいない。

 いつ動いた。見えなかった。


 龍馬が混乱した瞬間、佐那がするりと間合い(まあい)へ入ってくる。龍馬は反射的に体当たりした。

 体格差なら圧倒的にこちらが上だ。まともに当たれば弾き飛ばせる。

 次の瞬間、龍馬は床に転がっていた。


 何が起きた?


 突進する力を横へ流され、そのまま足を払われたらしい。柔術(じゅうじゅつ)だった。

 北辰一刀流では剣だけでなく、組み打ちの技も学ぶ。だが龍馬は、いきなりそれを食らうとは思っていなかった。


 剣術なのに柔術まで飛んでくる。聞いていない。いや、聞いていたとしても避けられた気はしない。

 佐那の竹刀が迫る。龍馬は格好も何もなく床を転がって逃げ、間合いから外れた。どうにか立ち上がる。

 今度こそ油断しない。女だからどうこうという考えは完全に消えた。

 目の前にいるのは、ただ強い剣士である。

 龍馬は構え直した。大振りはしない。相手をよく見る。小さく鋭い一撃を入れる。そう決めた。


 その瞬間、小手(こて)に衝撃が走った。

 速い。そして、重い。


 細腕からは信じられない重い一撃だった。

 もちろん、乙女ほどの力はない。那須慎吾のような大人の男と比べると一段落ちる。だが、見た目とのギャップによる衝撃で体が固まる。


 気づいた時には面にも一撃。

 龍馬は反撃した。竹刀が空を切る。

 次の瞬間にはまた面。


 一撃。二撃。三撃。


 まったく間合いが読めない。


 佐那は力で受けない。龍馬が踏み込めば外し、追えば離れ、わずかな隙だけを正確に打ってくる。

 まるでこちらの動きが先に分かっているようだった。

 龍馬は歯を食いしばった。悔しい。だが、それ以上に面白い。土佐では見たことのない剣だった。

 さらに踏み込む。かわされる。面を打たれる。

 駄目だ。何をしても一枚上を行かれる。


「参りました」


 龍馬は肩で息をしながら降参した。


「それまで!」


 重太郎の声が響いた。完敗だった。

 言い訳の余地すらない。むしろ清々しい。

 ここまで一方的に負ければ、妙な意地を張る気にもならなかった。


 龍馬は道場の隅へ移り、面を外した。稽古は再開され、再び竹刀の音が響き始める。

 だが龍馬の頭の中には、さきほどの立ち合いしかなかった。

 速かった。間合いが読めなかった。体さばきも見事だった。

 力を正面から受けず、こちらの勢いまで利用する。

 あれが北辰一刀流なのか。それとも、あの娘が特別なのか。

 凄い。あの技を覚えたい。あんな剣を自分のものにしたい。


 龍馬は道場の反対側を見た。佐那もちょうど面を外すところだった。

 現れたのは、凛(りん)とした目をした、思いのほか可愛らしい娘だった。

 年の頃は十五、六。龍馬より少し年下だろうか。

 凄い。可愛い。あんな娘を自分のものにしたい。


 土佐を女絡みで逃げてきたことなど、この瞬間の龍馬の頭からきれいに消えていた。


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