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断罪竜と片翼の巫女  作者: 磯路れゔーる
第4章 ユティーの作戦

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――再会――

 「そうそう。ひとつ言い忘れていました。アナタとテンゴン少佐とのやり取りについてデス」


 船内に入りながら、ジェスター中佐はアンヌ少尉に話しかけた。


 「何でしょうか?」


 「今回、エド君を手に入れるなど、いい仕事をしました」

 「ありがとうございます」

 「ですが、あれは危なかったデス。相手がああいうレベルの者だから良かったものの、もう少し油断ならない相手でしたら、今回のようにはなりませんでした。そうデスね……、もし、ワタシがテンゴン少佐の立場でしたら……」

 「中佐でしたら?」

 「アナタをその場で射殺、周囲の兵も皆殺しのうえ、この船を捕縛、あるいは沈めろと命じましたね」

 アンヌ少尉は蒼ざめて立ち止まった。


 「たしかに、この船は戦列艦の倍のスピード。ですが、シィナ軍には船虫による高速機動隊がいるんデスよ。あの部隊なら、この船に容易に追いつけマス。彼らに外輪、特に支える軸をライフル銃で集中攻撃させれば、さすがに不具合を起こして操船不能になるでしょう。動かなくなった外輪船一隻に、戦列艦三隻の艦砲射撃は耐えられません。ひとたまりもなく沈むことになるでしょうね。味方を攻撃した証拠など、このまま砂海に沈みますから誰にもバレません。もし、テンゴン少佐がそこまで考えられる人物であれば、そうしたでしょう。アナタは、いえ、ワタシたちは運が良かった。それだけデス。そのことは理解してください」


 「……はい……」

 アンヌ少尉は消え入りそうな声で応えた。さすがにジェスター中佐の指摘はこたえたのだ。


 「勘違いしないでください。これは、説教ではありません。さきほど説明した状況は、回避できたわけではないのデス。もし、何かのきっかけで、テンゴン少佐がさっき説明したことを思いついたら、あるいは、そう進言する者が現れたら、テンゴン少佐はワタシたちを攻撃する……。そのことを理解していただきたいのデス」


 アンヌ少尉の顔つきが変わった。消沈したものから厳しさを感じる、戦う者の顔つきへと。


 「つまり、もし、思いついてもそうすることができない状況にしなければならない、ということですね」


 「さすがデス。もうワタシの意図をわかってくれましたね」

 ジェスター中佐はアンヌ少尉を褒めたが、アンヌ少尉の顔つきは変わらなかった。


 「中佐。さきほど風読み族の少女の捕縛をお命じになりましたが、その命令に少々変更を加えてもよろしいでしょうか?」


 「どうしたいのデス?」


 「こちらで捕縛できるならばそれでよし。ただし、シィナ共和国軍に渡るようにはしない。もし、その恐れが高ければ密かに邪魔をする、というものです」


 「ほう」ジェスター中佐の口のはしがあがった。「いいデスね。そうしてください」


 アンヌ少尉は敬礼すると船室から出て行った。ジェスター中佐はアンヌ少尉を見送ると拡声管の前に立った。周りには数名の兵士が立っていたが、自分の口の前に人差し指を立ててみせる。彼らはもともと無言だったが、口もとを引き締めてひと声も発しない姿勢を見せた。

 ジェスター中佐はうなずいて見せると、拡声管の蓋をあげて自分の耳をそばだてた。


 * * * * * * * * * *


 エドは暗い部屋のなかでひとり、椅子に座っていた。明かりは天井からぶら下がるランタンひとつだけ。窓がなく、どの部屋へ連れてこられたかわからない。不安な気持ちであたりを見渡すだけだ。

 部屋へ連れて行かれる前は目隠しをされていたが、部屋に入ると目隠しは外され、両腕を縛っていたロープからも解放された。さきほどまでの乱暴な扱いと違うことに、戸惑いも感じていた。


 「誰か来る」不安のせいか、ひとり言が漏れる。廊下から複数の足音が近づいてきたのだ。


 扉が開くと3人の男が入ってきた。ふたりは兵士の恰好で、残りはエドが着ているような庶民の服装だ。その男だけ覆面をかぶされていた。誰だかわからないはずだが、エドは思わず立ち上がっていた。「まさか……」


 兵士のひとりが男の覆面を外す。そこから現れた顔は……。


 「トムおじさん!」エドは叫んだ。


 「エド……。エドか……!」トマス・アキナイスも叫び返してエドへ駆け寄った。


 ふたりが駆け寄る間に、兵士たちは部屋から出て行ってカギをかけてしまった。ふたりはそれを気にする間もなく抱き合う。


 「トムおじさん、トムおじさん!」

 「エド! 良かった。お前が無事で……」


 ようやく身体を離すと、ふたりは互いの顔を見やった。

 「エド。お前、ケガはしてないのか?」

 「ううん。おじさんは?」

 「私も無事だ。しかし、お前はどうやって助かった? 大砂波に襲われたとき、砂海に投げ出されたと聞いていたが……」


 「壊れた船の板に乗って、砂海を漂っていたんです。そこを親切なひとに助けてもらって……」

 「そうか。お前が無事で何よりだ。……それで……」

 トマスは声をひそめた。「お前は、あれを今も持っているのか?」


 エドは首をかしげた。「あれって?」


 「ネックレスだ。赤い歪な石がはめられた……」


 エドは数歩下がった。「おじさん……。あれが、どうかしたの?」

 トマスはエドに近寄ると、その両肩をつかんだ。

 「頼む。教えてくれ。あれは、今、どこに?」


 「ごめんなさい、おじさん。あれは、ひとにあげました」


 トマスは大きく目を見開いた。「……あげた……?」


 「ええ。さっきの話の続きになりますが、ぼくを助けてくれた親切なひとは、ぼくたちが遭難した場所まで連れて行ってくれたんです。そこでサンドワームに襲われて……。そのひとの船も壊れてしまいました。このままではあてもなく漂流するところ、掃除屋がやってきたんです。代価を払えば、近くの島まで曳航してやると……」

 「その代価として、あのネックレスを渡したのか?」

 「はい」


 トマスはエドから手を離すと、ふらふらしながら椅子に近寄った。さっきまでエドが座っていた椅子だ。トマスはその椅子にどっかりと座りこみ、頭を抱えた。


 「おじさん……。あのネックレス、そんなに大事なものだったのですね。すみません。遭難したとき、その少し前からの記憶をぼくは失っているんです。もしかしたら、あのネックレスだけは絶対に手放さないよう命じていましたか?」

 「……たしかに、無くさないようにとは言った。それより、エド。ネックレスを渡した掃除屋の名前はわかるのか?」

 「はい。リーダーはレンブラントと名乗っていました」


 トマスは顔をあげた。「レンブラント……。あいつか……」

 エドはトマスにかがみこんだ。「おじさん、あの男を知っているのですか?」


 「知っていると言っても、直接会ったことはない。この大砂海全域で活動している『変わり種』の掃除屋だ」

 「掃除屋に、変わり種とそうでないのとあるのですか?」

 「やつらはそれぞれナワバリを持っているんだ。あんなやくざな商売に競合は不要だからな。しかし、レンブラントは特定のナワバリを持たず、あちこちで『商売』しているんだ。場合によっては同業者と争ったりもしている」


 エドはレンブラントの顔を思い浮かべた。端正な顔立ちだが、油断を見せない鋭さがあった。同業者を出し抜きながら、したたかに生きる男の顔だった。


 「彼に渡したのはまずかったですか?」

 不安そうな顔を見せるエドに、トマスは首を振ってみせた。

 「いいや。こうして囚われの身になるのであれば、あの石が手元になかったのは幸運だったと言える。あれは、帝国にも、連合国にも渡してはいけないものだからな」

 そう言い終えてから、トマスは大きく息を吐く。

 「……まぁ、それも、やつがどちらか側に売りつけるまでのことかもしれんがな」


 「おじさん……。あのネックレスは何なんです? 帝国にも共和国にも渡せないって……、どういうことなんです?」


 「そうだな……。今さら隠しても仕方ないな。あのネックレスは、人間が手にしていいものじゃないんだ。特に、帝国や連合国の者たちには。しかも、簡単に捨てられるものでもない。人間の手では破壊が叶わず、この大砂海の真ん中で投棄するのも危険なのだ。あの石には不思議な力があり、どこへ隠そうとも、必ず誰かに見つけられてしまうからだ。やむをえずだが……、私は、あれをドラゴロスへ持っていくつもりだった」


 「ドラゴロス?」


 「ああ。別名『竜の墓場』。私の役目は、あのネックレスを完全に消し去ることだったのだ……」

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