サドンデスドリンク
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いつものように参加者が集められ、クロノがこちらに微笑みながら、あいさつを始めた。
「選ばれしみなさん、おはようございます。これから、みなさんよくわかっているでしょうが、ゲームを開始します」
ルールが空中に明示された。
一、一から九の番号が書いてあるドリンクがある。
二、ドリンクの中には、一つ毒が入っている。
三、毒に当たった人以外が、再度ドリンクを飲む。
四、三を繰り返す。
五、ドリンクは、飲み干さなくても良い。
六、毒により死ななかった場合も、敗北と見なす。
七、ゲームは途中で棄権することはできない。
八、ドリンクは、早い者勝ちとする。
九、ドリンクを取るタイミングは、ピストル音とする。
ゲーム内容が、よりシリアスに、痛みと苦しみを伴うものになったと感じた。
しばらくすると、ゲームが開始された。私を含めた九人が一列に並ぶ。
そして、その九人の前に、九本のペットボトル、そして、番号札が置かれた。
液体の色や状態は、どれも変化はなく見た目だけで、判断するのは、難しい。だから、法則性を見出すことのできない今は、完全な運という形でしか私にとれる手段はない。
スタートの合図が鳴った。
わたしは、七と書かれた番号札のドリンクを飲んだ。一秒、一分と経過しても体に変化はなかった。はーと安心していると、三番のドリンクを飲んだモジャモジャ頭の青年が泡を吹いて倒れていた。
このゲームの性質上、遅効性の毒よりも、即効性の毒のほうが、ゲームの進行速度を早められるため、即効性だとは、予測していたが、その予測が当たったことを理解した。
クロノが合図する。
「三番を選んだ方は、脱落となります。残り八名」
指をパチンと鳴らすと、モジャモジャ頭は白い光に包まれて消えていった。
二回目も予測することはできない。一回目と、二回目は、完全に運の勝負。ここで負けてしまっても正直仕方がないとすら思った。
ピストルが鳴ると、次は、三番のドリンクを選ぶことにした。
三番のドリンクは、もう選ばれているため、確率としては低いと予測したからである。
三番のドリンクを飲んでもさっきと同様で、身体に異常はなかった。
一番のドリンクを飲んだ中年小太りのおばさんが頭から倒れた。
クロノが指をパチンとすると再び消えて行く。
「一番を選んだ方はは、脱落となります。残り七名」
残酷にもそう告げた。
三の次は、一と来たことはわかったが、まだ、法則性とまでいくようなものは構築できていない。
金髪ロングヘラー青い目をした女が自信たっぷりに宣言した。
「きっと、このゲームは、円周率の数に毒が入っているに違いないわ。だから、一番以外を飲めれば安全よ」
それを聞いた参加者は戸惑いと納得の両方の反応を見せた。私としては、まだ、法則性を見出せていないし、他人の意見を無条件に信用することもしない。
三度目のピストルが鳴った。女は、なぜか動かなかった。
ゆっくりと残ったペットボトルのうちの四番に近づいていった。
九番のドリンクを私は飲んだ。体調に特段異常はない。だが、この調子で飲んでいくと、尿意わ催し、途中、辞退の可能性が出てしまう。
六番のドリンクを飲んだ純朴そうな青年が思い切り倒れた。
つまるところ、女の説は間違っていたのである。
「なに、嘘ついてんだよ!」
喧嘩っ早そうな男が女を睨みつけた。
だが、そんな態度に女は意に介さず。
ただ、「あら、円周率だと思ったのだけれど、違ったようね」と飄々とした態度をしていた。悪いことをしたという感覚は、この女にはないのだ。
一見、この女の説が間違っていたことにより、振り出しに戻ったように見える。
しかし、私は法則性を発見した。私の目は猛獣のごとく爛漫と輝き、鋭さを増すばかりだった。
四回目のピストルの合図の前にクロノがルールの追加を申し出た。
「スケジュール上、このままだと時間が大幅にかかってしまうので、これより、ルール十、ランダムで、ペットボトルを数本抜くを追加します。抜くペットボトルの本数は、人数が減るごとに増えていくのでご了承ください」
と丁寧に頭を下げた。
ペットボトルのうち、一番、五番、八番が抜かれた。つまり、全員助かる可能性はゼロである。
ピストルが鳴り、まっさきに九番を取った。それを今までで一番勢いのある飲み方で飲み干した。
二番のドリンクを飲んだ理知そうなメガネをかけた男が倒れ、落下の衝撃でメガネが割れた。
「二番を飲んだ人は、脱落とします。残り、五人」
わたしは、見つけた法則どおりに、ドリンクを選んでいき、最後は、あのロングヘアの女との一騎打ちとなった。
女が話しかけてくる。
「あなた、強いわね。見た目だと、そこまで強そうじゃないのに。たぶん、運が良かったんでしょう」
幸いなことに、今は女に転生していて、かつ、低身長なため、たぶん自分の美貌によっぽど自信があると思われる女からは、弱そうに見えるのだ。
最後のピストルが鳴った。
女が、わたしの靴を自分の体で外からは見えないように遮りながら踏み、足止めしようとしてくる。
だが、この女がどれだけ卑怯であるかは、ある程度予想は、ついていたので、女の脚を避けて、思い切りスライディングして、ペットボトルを取った。
女は、私の取ったペットボトルを見て、膝から崩れ落ちた。
「なんで、私があんたみたいな、ブサイクな女に負けなきゃいけないのよ」
不服をもらしている。だが、もう結果は変えられない。
「あなた、来ないの。ゲームの棄権は、禁止されている。まだ、結果は、わからないでしょう」
「この期に及んで、まだしらを切るつもり?」
女の声は、怒気を含んだものに変わっていった。
「私がしらを切っているにしろ、そうでないにしろ、あなたは、このドリンクを飲まなければいけない。なんなら、私が飲ましてあげましょうか?」
挑発するように、女を見下ろした。
「飲みたくないわ。苦しみたくない。痛いのはイヤ」
女は、耳を手で塞ぎ、さっきまでの威勢はどこかへと吹き飛んでいった。
クロノが近寄ってくる。
「アンさん、このゲームでは、途中で下りることは禁止されています。わたしは、主催ですので、あなたを如何様にもできるんですよ」
口調は、丁寧だったが、クロノからは、静かな怒気が漏れ出ていた。
アンは仕方ないというように、少しずつペットボトルに口を近づけた。そして、液体が彼女の体の中に入り、しばらく経つと、彼女は白目をむいて痙攣し、やがて、それも治った。
私は、勢いよくドリンクを身体に流し込んだ。味は変わらないのだが、気に入らない相手を出し抜くことができたという爽快感があった。
このゲームの法則性とは、円周率ではなく√10を少数で表した数である。それを三回戦目に確信した。
あの女は、法則性に見当がついていながら、わざと円周率だと叫び、参加者を脱落させたのだ。違反行為ではないものの、とても気に入らなかった。
でも、結局勝ち星を取ることができたのでよしとしよう。
クロノは、私に向かって終了の挨拶をした。
「ゲームはこれにて終了です。お疲れ様でした」
空気が澱み、意識が薄れていく。ルーズは、今頃なにしているんだろうなと思いを巡らせた。




