初めての生まれ変わり
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目覚めたのは、水の中だった。意識がだんだんとはっきりしてくる。今の自分の状態を確認しようとするが上手くいかない。なぜか周りには黒い生き物が泳いでいる。自分と同じくらいの大きさのようだ。
――ある可能性に行き当たった。
それは、ゲームのルールでは、転生し続けると書いてあったが、人間とは書いていなかったのだ。おそらく自分は、オタマジャクシとかそのあたりに転生したのだろう。
時間を一時間、一秒とて無駄にするわけには、いかない。頑張って、泳いでいくと、陸地が見えた。陸地に向かって、思い切り跳ねる。
ピチピチと跳ねながら、どんどん息が、苦しくなっていくのがわかった。早く水の中に戻ってエラ呼吸をしたくなった。ただ、耐える。じきに、窒息で死ねるはずだ。
これかれも、こんなようなことを続けなくては行けないと思うと、気が重かった。
やがて、呼吸が続かなくなり、オタマジャクシとしての私は、死んだ。
目覚めると、また、草原の上に大の字で寝そべっていた。オタマジャクシの体ではなく、一番最初の体であることを確認した。
ルーズがこちらを見て、「早かったわね」と感嘆したように言った。
「なあ、これからも人間として転生できないのか?」
不安に思った。これでは、ゲームどころではない。
ルーズは頬を歪めて、
「一回、人間として転生できれば、あとは、人間にしか転生できないわ。それにしても、自殺をするなんて、生き返るとわかっていても、そうそうできる真似じゃない。わたしは、クロノに最初から人間に転生できるようにしたほうがいいと言ったんだけどね。それじゃあ面白くないって、最初の何生かは、違う生き物に転生することにしたの。大丈夫きっと、そのうち人間に転生できるわ」
世界がまた揺らいだ。意識が遠のく。
目覚めたのは、木の上だった。
はぁとため息をつく。再び人間に転生できなかったのか。
高い木を見つけて、そこから飛び降りた。しかし、骨の折れた感触はあったが、死ぬことはなかった。
動くことができなかった。一時間が経ち、一日が経ち、一週間が経ち、ようやく、餓死で死んだ。なぜか、思いの外、体が丈夫だった。
オットセイ、ツバメ、キジ、ワニ、イヌあらゆる生き物に次々と転生した。だが、なかなか人間に転生することはできなかった。
自分がなんのためにここまでして苦痛を耐え続けなくてはいけないのかわからなかった。もうゲームなど放っておいて、のんびりアニマルライフでも楽しもうかと思った。
人類の滅亡なども、別に興味がなく、もう一度、あの男、レイと勝負して勝ちたかった。
仕方なく、もうやけになってもう一度自殺した。
ルーズが、楽器を奏でていた。美しい音色に反応してか、花が咲いていく。そういえば、ルーズとその夫、クロノは、おそらく人間でないことは間違いないだろうが、一体なんの目的でこのゲームを始めたのだろう。
楽器を奏でる横顔は、いつか見た女神に似ていたが、私が見た女神は、彫刻でしかなかったためそれより断然美しかった。
私の心を読み取ったのか、楽器を奏でる手を一度止め「わたしは、人間だわ。クロノも」と何かを思い出すように思い詰めた顔をした。
ルーズのそんな顔を見るのはその時が初めてだった。
何回かわからないが世界が再び揺れた。
人間の声がした。期待はまだしていない。これでやっと自殺し続けて、2163回目の生。これまでも幾度か、人間の声が聞こえたことがあった。けれど、飼われている犬や、金魚でしかなく、声が聞こえただけで、期待するのは辞めようとその時々で誓ったのである。
徐々にその目を開ける。目を完全に開くと、ぼんやりとだが、夫婦らしき男と女がこちらに語りかけている。
耳が完全に機能していないので、周りを見ると、木の柵があり、そして、鏡があった。
鏡には、自分と思しき人物が写っている。茶髪の赤ん坊、それが私だった。
うっすらとだが、耳が聞こえるようになってくる。
「あれ、泣かないわね。大丈夫かしら?」私を産んだと思われる母親と思しき人物が、心配そうに私を見ている。
私の父親と思しき人物が、「大丈夫さ。レオ家の血を継いでいるんだ。きっと他の子と違って冷静に周りを見ているに違いない。わたしたちの言葉もひょっとしたら理解しているかも」
赤ん坊は、産声の有無で、健康かそうでないか、判断すると聞いたことがある。仕方がないと割り切り、私は泣き始めた。
「あら、気のせいだったみたいね」と私を抱きかかえてよしよし言いながらなだめ始めた。
生まれてからおよそ十年が経過した。ここは、どうやら、ファルムン王国というらしく、私は、貴族の子として、カージンス・レオという名前を賜った。
ファルムン王国では、十一歳になると、アカデミーというところに入学するのが義務付けられ、二十歳に卒業できるそうだ。
アカデミー入学まで、残り一年、アカデミーに入学するには、入学試験で、七割以上の点数を取る必要がある。
入学試験は、主に、実技試験と、筆記試験の二つがある。筆記試験では、五科目の必修科目と、二科目の選択科目合わせて七科目を受けなくてはならなかった。
実技試験では、十項目で採点をする。日々の鍛錬の成果がここに如実に現れるのは言うまでもないだろう。
今は、家の近くの草原でのんびり昼寝をしていた。それにしても、ゲームはいつ始まるのだろう。ゲームのルールには、日程に関するものはなかった。
王立図書館などで、レイや、クロノ、ルーズのことを調べたが、何も出なかった。
もう一つ最初の自分のことも調べてみた。すると、思いの外、出てきた。
花王歴42年、当時、ゲームのチャンピオンであったルイス・ビントンが敗北し、ゲーム終了直後、謎の光に包まれて、対戦者もろとも姿を消した。そう書かれていた。
ルイス・ビントンはもちろん私のことで、花王歴というのは、花王という偉大の王が死んだ年をゼロとして、それからどれくらい経過したかを年で表したものである。
ちなみに現在は、花王歴235年。随分な勢いで自殺し続けたはずだが、意外と経っていたのである。手の甲には、数字が刻まれていた。これは、ゲームの参加者の数字ということは覚えているが、まだまだ一億人には、到達しそうもない。今は、気長に、カージンス・レオとしての人生を歩むしかないと感じていた。
昼寝を続けていると、誰かが近づいてくる気配があった。この気配には、覚えがある。いつも私の心地よい眠りを妨げてくる――。
「坊ちゃん、入学試験まで、残り一年ですよ。辛いとは、思いますが、ここが踏ん張りどころです」
気配の正体は、毎日、私の指南をするガンジス・ミラクレイという男だった。
ガンジスは、やたらと入学試験にこだわっているようで、私が、成長するたびに、無理難題を突きつけ来るのである。
ガンジスとは、かれこれ六年のつきあいだ。最初に会ったのは、四歳の中頃だが、私が、成長するとともに、態度が、貴族に対するそれではなくなっていた。だが、それに対しては何ら咎めなかった。咎める必要がなかった。
ガンジスの万人に対して平等に人を扱う態度は私を心地よくさせた。だが、そろそろ出鼻をくじく必要があるようだ。私の昼寝の時間を邪魔されたくはない。私の唯一の心が安らぐ時間なのだ。
こうして、空を眺めていると、ルーズを思い出す。ルーズの楽器の音色と共に咲く綺麗な花々も。
そうして私は、仕方なくガンジスと共に、稽古をして、そんな毎日を続けて、一年が経ち、入学試験本番になった。
アカデミーには、カラフルな外観、立派な彫像とが飾ってあるのが見えた。アカデミーの中に入ろうとしたとき、不意に頭の中に声が響いた。
――これよりゲームを開始する――
そうして私は、入学試験を受けられず、人々がある一人の男に注目しているのがわかった。




