教祖に転生
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目を開けると、ルーズが、大きな木の下で、舞っている花びらを見ていた。きっと、自分で、生やしたものだろう。
「ルーズ、このゲームでは、その花びらのように命は、散っているが、ゲームに参加したが、途中で抜けだしたいというやつはいなかったのか?」
「それはもちろんたくさんいるわよ。大抵が、気分を紛らわすために、薬に手を染める。どうにか現実を受け入れないようにする。でも、死んだら、薬の効果は、リセットして、転生するから、もう無意味だと感じていると思うけれど」
薬か。そんなものを摂取したいと考えたことがなかった。なぜなら、リスクとリターンが合わないからだ。
仮初の快楽を手にしたところで何にもならない。正体の見えない薬という支配者のうえで踊らされていいようにされるだけで、不快感しか憶えない。
いつもと同じ不快な感覚が押し寄せてきた。これも一種の麻薬かも知れないなと思いながら目を瞑った。
目を開けると、白装束の老若男女が私の方を向いて、合掌していた。まるで石化でもしたかのように動きが感じられない。
記憶が押し寄せた。宗教を開いたこと。その宗教で、教祖になったこと。今は、定期的な教義を説く時間であること。
「教祖様、教祖様、教祖様。どうかお救いください。どうか導きの言葉をください」
懇願するようなまっすぐとした眼差しがほとんどの人間から発せられた。記憶が戻る前の自分がやったことにせよ、気持ちが悪かった。
仕方がないので、導きの言葉なるものを唱える。
「汝らは、今日も、努めている。精一杯生きている。この世界のため、平和のために。汝らは、報われる。なぜなら、それに値する行いをしてきたからだ。これからも祈りを欠かさず行うようにせよ。されば、汝らには、幸がじきに訪れるであろう」
「ありがとうございます。ありがとうございます。ありがたき御言葉、しかと胸に刻みます」
涙を流して、多くのものが感謝の情を向けてきた。宗教は麻薬であると言った人がいることを思い出した。恋もそうなのかもしれない。いずれも、判断能力を鈍らせて、正常な判断をできないようにさせる。この状況には、うってつけの言葉だ。この愚かな連中が何を思い、何を考えているのかは、わからないが、私という奇跡を深く信じているということは、共通しているとわかった。
適当に頭の中で作った教義内容を身振り手振りを添えて、感情を言葉に乗せて、続けると、信者たちの腰は、低くなるばかりだった。
数日が経ち、あることを思い出した。それは、カップの中に入っている、もしくは、入っていないものを当てるゲームで、苦戦した相手であるカシンが言っていた宗教団体のことである。
ゲームを辞めたいがやめられないプレイヤーによって構成されているとだけ言っていた。この際、もらった地図に書かれている場所は、覚えているので行ってみることにした。
記憶を頼りに近くに行くと、普通の繁華街を通り、長い路地を抜けた古びた屋敷が現存していた。
ドアを押すと、ギィーと軋んだ。変な雰囲気が出ている。
一人の男が誰かを待ち構えているかのように、仁王立ちしている。
「合言葉は?」そう尋ねられた。もちろん、知るわけがない。
何も言わず、黙っていると、怪訝な顔になっていった。明らかに警戒している。
為す術がないまま、そのままオラオラしていると、後ろから、さらにもう一人の男が来た。
「悪い。そいつは、俺の連れだ。俺が勝手に連れてきたから、合言葉は、まだ知らないんだ」
そう言って男は、私の肩に腕を回して、そのまま連れていった。
この男は、何者だろうか。なぜ自分のことを知らないのに、知っていると嘘を吐いたのか。
警戒している眼差しを気づかないぐらいの間隙で送った。
「あんた、あのときのゲームのやつだろう?」
あのときのゲーム? あっ、と理解した。
「もしかして、あなたは、カシンですか?」
「そうだよ。まさか本当に来るとはな」
鼻を下を擦りながら、自分の誘いに乗ってくれて嬉しいという様子を隠そうともしなかった。
「どうして、あのときのプレイヤーが私だと気づいたんですか? 転生して、顔も名前もまったく違うじゃないですか」
とても疑問に思った。
「まず、ここに入るためには、合言葉が必要。これまで、合言葉を忘れる奴も、わからない奴もいなかった。そして、今回、合言葉がわからない奴が現れた。合言葉がわからなくて、ここに用がありそうなやつといえばあなたしかいないと思って」
凄い分析力だ。そんな情報で、私と過去対戦したプレイヤーとを重ね合わせるとは。
一通り話し終えると、再び足並みを揃えて歩き始めた。
「と言うことは、私以降は、誘わなかったってことですか?」
「まぁ、最近は、ゲームをやるというよりこっちの活動を活発にやっていますからね」
階段が伸びていて、影が薄気味悪さを暗示していた。
いろいろな人がいる。男から女。子供、老人。
カシンは、ポツリと自然に漏らす。
「ここにいる奴らは、全員。あの三人に騙されたんだ。甘い言葉に乗せられて。そんな上手い話なんてあるはずがないのに」
とても後悔したことがあるように感じた。
ピタリと立ち入り禁止と貼ってある扉の前で止まった。
「あなたを信頼して、本来は、秘密であることを伝えておきたいと思います。引き返すなら今しかありませんが、どうしますか?」
「愚問だな。私は、勿論、引き返さない」
私の返答を聞き、重厚そうな立ち入り禁止の貼ってある扉を少しずつ開けた。
中では、白衣を来た連中が、実験などをしているようだ。
カシンは、説明する。
「ここでは、爆弾や、地雷などを開発しています。あの三人を倒すためには、もっと強力な兵器が必要になりますが、それは、今後の研究を通して作っていきたいと思っています」
あの三人は、普通の人間ではない。例え、高威力の爆弾を作れたとしても、通じないような気がする。
「無駄な努力だと思いますか? わたしは、たとえそうだとしても、この因縁を断ち切る必要が無理矢理にでもあると思っています。人類滅亡というバッドエンドではなくてね」
左の手の甲を見ると、参加者は、270万人に到達していた。
それからも、いろいろ説明があったが、特に記憶に残るような特別なものは無かった。
私は、寝て、起きて、食べて、救済するというようなルーティンをこなすようになった。人が人を救済することができないというように言われるが、それは事実である。
私の今やっているのと同じく、教えを広げるものは、救われたと錯覚させることで、信者を増やしている。人が人を救うのは、傲慢である。だから、本来は、こういう行いは、本質的ではない。けれど、苦しんでいる人間を偽善でもいいから少しでも痛みを和らげる効果があるならば、それもまた本質的である。困っている人間を救う。当たり前のこと。
人間は、弱く、脆い枯葉のような敏感な神経を持っている。だから宗教は、必要なのだ。
ある日、いつも通り集会を開き、教義を話していると、クロノの声が頭に響いた。
——これからゲームを開始します——。
私は、目を閉じて、奇跡の成就を願った。




