剣士に転生
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目を開けると、ルーズが、雲の上で寝そべっていた。
雲は、濁りひとつなく、白く輝いていた。そして、フワフワとした感触がこちらにも伝わってくる。
「ルーズ、きみは、ゲームは、強いのかい?」
ゆっくりと上体をルーズは起こして答える。
「いやぁ、わたしは、そんなに……。だからレイが、ゲームマスターとして君臨しているわけだし。わたしは、ここで、転生する人を待つだけだし」
なんとなく楽そうだと、昼寝を再び始めたルーズを見て思った。
気づいたら、剣を握っていた。相手が、斬りかかってくる。かろうじて、それを躱す。
「ドミシル、またボーッとしていただろ。剣に集中しろ」
記憶が徐々に戻ってきた。この男、レジーナに弟子入りして、私は、剣の腕を磨いている途中だということを。
レジーナは、この国でも屈指の剣の使い手で、若い頃には、戦場で、怪物と言われ恐れられていたようである。
そして、たった今、剣の鍛錬中で、不甲斐ない私を鍛えてくれているのであった。
剣を振るうが、すべてを避けられて、逆に頭に大きな一撃をもらった。手も足も出ない。
記憶を取り戻した私に待っていたのは、ツラい辛い修行の日々だった。
剣の素振りは、指の皮が剥がれても続けて、体力トレーニングのため、近くにある山を全力疾走で走らされた。
さらに、少しずつ慣れてくると大岩を運びながら、走らなければならなかった。
何度も、挫けそうになったが、続けた。いつかは、ゲームが開始するだろう。
剣には、いろいろな工夫が必要だった。例えば、相手が大振りになるときには、あえて、距離を詰めて、相手の攻撃が届く前に、相手に一撃を与えたり、回転しながら、遠心力を使い斬るというものだと様々であった。
レジーナは、本当に多彩で、私が技を覚えても覚えても、キリがなかった。それが、怪物と呼ばれる所以の一つだろう。
記憶を取り戻して、二年が経った頃、レジーナから出される課題以外にも取り組むことにした。少しずつ、ほんの少しずつだが、余裕が生まれてきたのである。精神的な余裕と、時間的な余裕。そして、肉体的な余裕が。
隙間時間で、精神統一。つまりは、瞑想をして、雑念を排して、腕立て伏せ。腹筋運動などをした。
六ヶ月も経つと、はっきりと自分の体が引き締まり、筋肉がついてきているとわかった。
いつもと同じように、剣を持ち、レジーナと対戦稽古をした。
当然、防戦一方を強いられる。強くなったかもしれないが、それは、基本的な体力や、筋力などの骨組みであって、応用的なものなどは、ほとんど素人に近かった。
レジーナに、攻撃を当てるには、隙を狙うしかない。だが、攻撃は、断続的に続くので、僅かな隙を見つけて、尚且つ、そこから、切り崩していかなければならない。最終的には、この男にも勝つ勝つ必要がある。
左から攻撃が来る。それも、本命の技。本命のものは、威力が高い分、次の攻撃動作に移るための時間がかかる。数秒だが、それは、攻撃を当てるのには、十分だ。
私は、あえて、そのまま反応できてないようなフリをして、ギリギリまで攻撃を待ち、避けた。
そして、空いた肩に向かって、思い切り、一撃を叩き込んだ。そう思っていたが、体を捻って躱された。
そして、剣を使わずに蹴りで吹っ飛ばされた。
「今のは、なかなか良かった。危ない。一撃をもらうところだった」
褒めているようだが、結局、当たらないことには、変わらなかった。
さらに、修行は、続いた。
そして、弟子卒業の時期に差し掛かった。認められれば、それなりの剣士として、認めてもらえたことになる。
剣を手に取った。まだ相手の気配に気押されてしまう。相手に攻撃が一度も当たらないという事実と、歴戦の戦士の出す独特のオーラ。そして、本能的な防衛本能とが、相手をより強大な敵へと見せる。
「行きます!」
先手を打ち、飛び込んだ。レジーナもそれに応える。剣がぶつかり火花が散る。やはり、一撃一撃が、とても重いそして、風のように軽やかに次々と攻撃がくる。
だが、負けられない。ここで、剣を習得することが、生きることへの近道だからだ。
一瞬、押されるが、途端に立て直す。一進一退の攻防が、一時間以上も続いた。体力には、問題ないが、有効打が一度も打てていない。
そして、相手も余裕そうな顔をしている。
今まで成功しなかったあの技をやるしかないと決心した。
距離を取る。だが、取った距離もすぐ詰められそうになる。だが、それこそがこの技の要。
下半身と、上半身を別方向に動かす。柔軟性となにより、威力があまりないので、タイミングが重要だ。
不意をつかれて、レジーナは、飛ばされる。そして、攻撃を畳み掛けた。そして、できた隙に、一撃、また一撃と叩き込んでいき、そして、最後に必殺技をお見舞いした。
十六年。やっと、勝つことができた。
私は、天空に向かって拳を突き出した。
そして、クロノの声が響いた。
——これより、ゲームを開始します——
最高の気分のまま私は、目を閉じた。




