教師に転生
カクヨムでも投稿をしています。
目が覚めると、ルーズが綺麗な歌声をそこら中に響かせていた。
ルーズは、一通り歌ったあと、私に尋ねた。
「あなた、なんで、私をモデルにしたお菓子を作っていたの?」
「……」
「まあ、いいわ。それより今の所ゲームは順調なようね。何よりだわ」
それで会話は、気まずいまま終わった。
次は、どんな人間に転生しているだろうか。それを考えて、気分を紛らわさせた。
目を開けると、雑多に並んだ机と、子供たち、少し霞んだ壁などが特徴の部屋にいた。
「先生、早く授業を始めてください!」
瞬間的に、ここは、学校の教室の中で、私は、教師に転生したことがわかった。
生徒たちが机に置いているのは、歴史の教科書だった。歴史は、今まで幾度も転生してきた私には、とても好都合な科目だ。
チョークを持ち、ところどころ説明も入れ、訊かれた質問には、必ず答えた。子供というのは、無邪気なので、大人と比べて、失敗を恐れず何度も質問するような傾向がある。
チャレンジ精神が、あるのだ。全員とは、言わないが、子供の方が意欲的に物事に取り組む力が秀でていると、授業を通して感じた。
その日は、なんだかんだどうにかなって、職員の集まる部屋に戻る時、私の噂話が聞こえた。
「なんか、今日の先生の授業、いつもより難しかったよね?」
「うん、でも、その分面白い話もあったじゃん。ほら、あの、英雄が死んだ原因が、サケの骨が喉に刺さって、どうにか取り出そうともがいていたら、短剣を間違って取っちゃって自分で刺しちゃったとか。本来は、そんなんで死ぬはずないけど、発見が遅れちゃったって言ってたね」
生徒たちが、楽しんでくれたのは、素直に喜ばしい。ただ、専門性が高すぎたところもあったと思うので、これから、改善していきたい。
職員たちの集まる部屋に入ると、真っ先に記憶にある自分の席に座った。
席に座り、明日の授業の準備を整えていると、声を掛けられた。
「すいません、バッツ先生。お守り見てないですか? 赤いやつなんですけど……」
「赤いお守りですか……。見てないですね」
「そうですか……。ありがとうございます」
本当にどこにいったんだろうと、独り言を呟きながら、声を掛けた主は、離れていった。
声を掛けたのは、語学担当のシュナル先生で、結構な頻度で、物を失くしている。所謂天然キャラなのだ。だから、きっとお守りが見つかるのも時間の問題だろう。
専門性を排して、面白さ、理解度の深まる授業にできるように、有名なキャラ、面白い経歴を持つ人物をピックアップした。やるならば、手を抜かず精一杯自分の力を尽くす。それが私のモットーだ。
学校のいろいろなものの配置が記憶と一致するか確認するため、私は、職員も生徒もみんなが、去った頃に、学校の見回りをした。
「研究室に、調理室、地理室かぁ……」
無数に部屋が存在して、結構記憶とのすり合わせには、苦労した。
そして、それが一通り終了した後、私は、家に帰ることにした。
廊下を通っていると、一筋の光が目に映った。こんな時間に光が照射されるということは、何か如何わしいことでもしようと企んでいるに違いない。
光の跡を追っていると、そこは、生徒から貰ったお金などを一時的に管理する金庫室という部屋だった。
隙間から覗くと、オーラル先生がいた。学校では、数学の担当をしている。
ガチャンッという音と共に、「よしっ」という気合いのこもった声が聞こえた。
そのまましばらく見ていると、物音を立ててしまった。
「誰だ?」
オーラル先生が後ろを振り返る。そして、金庫室のドアを開けた。
私は、死角になる位置に隠れた。目撃者がいたはずなのに、見つけられないため、「気のせいか?」と言って去っていった。
私は、バレることのないように慎重に離れようとしたが、また、足音が聞こえた。
「やっぱり気のせいなんかじゃないよな」
ドアを開けてこちらを覗き込む。
私は、わざと、物を落とした。逃げる方向とは、反対の方向に。
「あれ、これ、あの女のお守りじゃん」
実は、学校を散策中に見つけたのだが、ずっとポケットに入れていたのである。
きっと今頃オーラルという卑しい男は、シュナル先生が今の光景を見ていたと思うだろう。申し訳なさがあったが、致し方ないと感じた。
翌日、学校に来ると、案の定二人の教師が物陰で口論していた。
「昨日の夜、私のこと見てましたよね」
「見てませんって、それより、お守り返してください」
「認めたら、返すよ」
まるで、ガキがするイタズラの応酬のような喧嘩だ。
放送が鳴った。
「至急、オーラル先生は、校長室に帰宅ださい。繰り返します。至急、オーラル先生は、校長室に来てください」
狙い通りの結果となった。私は、隠れて撮影し、校長室に一部始終の写った写真を置いたのである。校長室の鍵は、職員室に置いてあるので誰でも取ることは可能だ。ちなみに、カメラを持っていたのは、授業で使えるかもしれないと思っただけで、もとから持ち歩いているわけではない。
きっと、オーラルは、即刻解雇のうえ、学校から訴えもあるだろう。
オーラルが青い顔をして走っていくのが見えた。
そうして、オーラルが学校を去った後も、私は、日夜授業をよりよくする工夫を施した。
そして、学校終了時刻から一時間経過した時、頭に声が響いた。
——これから、ゲームを開始しますと。
教師の仕事は、思いの外楽しかったが、本番であるゲームの前戯として考えよう。
そして、気合いを入れるため、頬を叩いた。




