戦イノ前ニ腹ゴシラエ
おむすびはとても美味しいもの。
それはどの国、どの世界でも共通なのだろう。
軍服の少女はさっきからもぐもぐと美味しそうにそれを食べている。
……食べてるだけで一向に話す気配がない。返答待ちなのだろうか。
先程から彼女を見つめてはおむすびをパクっと食べている。
というかおむすびが大きい。両手で抱えるほどでかいだなんて。
(……何か、喋らないと。)
こんな状況の中じっとはしてられない。
相手は風吹を殺そうとした人物。誰なのかも分からない。
情報を吐き出さないと殺されるかもしれないし、
吐き出した後、用済みと言って殺すかもしれない。
風吹ならさっきみたいにこの状況をなんとかしてくれるはず。
そう思い、創はとりあえず少女に話をふっかける。
「あの……あなたは、どちら様で……?」
「む? ふぇーいすでふ。ひご、おみひりおひほ。」
「ふぇ、ふぇーいすさん?」
「(おむすびを飲み込む) フェーリスです。ふぅ、よろしくね。」
創は冷や汗を垂らす。
なんというか、風吹を殺そうとしていた割にマイペースすぎないだろうか。
のほほんとしすぎというか、全然殺意とかそういうのを感じない。
でも、普通に接しようとしたら急に不意を突かれそう。
創は警戒しながら、なんで風吹さんを殺そうとしたんですかと、そう訊ねる。
「うーん……、『オーナー』に殺せと言われたからだけど、
できれば一騎討ちで戦いたいと思ってるよ。あれは力量をはかっただーけ。」
「さっき一騎討ちの状態でやられてましたけど……?」
「びっくりだよ。まさか自己紹介をしている時に不意打ちだなんて。
武士って戦うとき名乗りを上げるって聞いたんだけど……、違ったかな……?」
「合ってはいますけど、戦う前に不意打ちしてたら意味なくないですか……?」
そう言うとフェーリスは一瞬、ポカンとした。
そして彼女は恥ずかしそうな表情を浮かべ、目を泳がせはじめた。
……なんでそんな表情をしているのかは創は分からなかった。
そうだったのか、って気づける頭があるなら最初からそうすればいいのに。
仮に、油断を引き付けるためにしている演技だとしてもだよ、
油断しなかったら ただのアホの子 という印象が付いちゃうよ。
「……それで、その『オーナー』って誰なんです?」
そう言うと彼女はハッと落ち着き、咳払いをしてこう言う。
「世界を収束し、この世界の秩序を守る者……だね。」
「……はい?」
「その人の座右の銘、なのかな。
オーナーとは誰か。 そう聞かれたらそう答えるように言われてるんだ。」
要は答える気はないと。
愁であればこんなのに対して容易に情報を引き出せるんだろうけれど。
「……」
「……それで、風吹はどこにいますか?」
ズシン、ズシン。ピチュンピチュンという音が後ろから聞こえてくる。
後ろの状況を確認したいのはやまやま、風吹と合流したいのもある。
だが目の前の『アホの子っぽい』存在をまずどうにかしないといけない。
「風吹に会ってどうするつもりなんですか?」
「決闘を申し込みたい。この状況じゃ全力だせなさそうだからね。」
「……本当に? そう言って殺したりしませんよね?」
疑い深く彼女の眼を見る。
すると彼女はにこっと微笑みながら創の近くに近寄ってきた。
鞘からレイピアを抜きながら。ゆっくりと。
創は警戒しながら後ろに下がり、彼女とかなりの距離を置く。
「こっちに来た方がいい。そこにいては危険だ。」
「あの、じゃあそれをしまって……」
フェーリスは創の疑う表情を見て間を置き、こう言った。
「君、今の状況で何か違和感を感じないかい?」
創は首を少し傾げ、その言葉の意味を考え……て……?
巨人や、なんか飛んでる奴とフェーリスにすっかり気を取られていた。
さっきまであれだけ悲鳴が聞こえていたというのに、静かすぎる。
今の状況においてそうそう悲鳴が聞こえなくなる、なんてことはないはずだ。
避難先の丘からも聞こえてきたのに、こんなに静かになるのはおかしすぎる。
フェーリスに言われた通り違和感を感じた創は彼女に問いかける。
「あの。今私たち、どうなってるんですか……?」
「影に囲まれている。気を付けた方がいいよ。」
「影……?」
フェーリスはレイピアを持ち、周囲を見渡している。
自分達の近くに何かいるのかと、今度は目で今の状況を確認する。
(……なんか、いる。)
意外と影はすんなり見つかった。
路地の道の足元に黒い靴下みたいなものが……? あれって……?
(に、忍者?)
それを見ていた時、フェーリスはいつの間にか創の背後でレイピアを構えていた。
気配もなく接近してきたことに対して驚いた後、冷静に落ち着き彼女に話しかける。
「なんで私たち囲まれてるんです……?」
「……なるほど、狙いは君みたいだね。」
「わ、私……?」
質問には答えず、彼女は周囲を警戒しながらそう言った。
「私が君を守る。だから離れちゃだめだよ。」
「え、あっ、はい……!?」
その返事を聞いた彼女はこっくりと頷き、巨人の方へと走り始めた。
離れちゃダメってそういうことかっ!? と驚きながらも、
創はフェーリスと共について行った。
それと同時に、彼女らの周りにいた『影』も移動を開始。
また、遠くで見ていた紫髪の少女も移動を始めた。




