イブンカコウリュウ
丘を降り、江戸にたどり着いた彼女ら。
辺りには荷物を持って、あの大きな巨人から逃げている人が大勢いた。
黒い鞘が左腰に浮いている斉藤 創は、とりあえず彼らを避難させようと、
巨人からできるだけ離れるように、彼女らが居た丘の方に誘導させる。
ただ誘導させるなら楽なのだが、彼らはパニック状態になっているため、
あたふたしたり巨人の威圧に圧倒され足がすくんだりしている人が多い。
そのため彼女が手を差し伸べたり、心を強く持たせなければならない。
彼女自身、とりあえず避難! と思い行動しているため気づいてはいないが、
創はこんな状況でなぜか冷静、かつ迅速に行動ができていた。
正体不明の巨人が近くにいる中、確実に死人が出ている状況より、
あの時、図書館で起きた事よりはましだと思っているのか、それとも……?
「ぉお願いだぁ、助けてくれぇぇ……!! なんなんだあいつらはぁ…‥!!」
頭を怪我し、血を流している男がふらつきながら創の肩を掴んできた。
「__っ、ごめんなさい、私はあれには……」
彼女は男から目線をそらし、うつむきながらそう答える。
出来る限り助けたい、そう思っている。
でも、私たちじゃ巨人に太刀打ちできない。
魔法を撃とうとしたけど何故だか撃てやしない。
あの黒い刀も置いてきちゃったし。
あの人たちに加勢するのも、なかなか難しいだろうし、
あの人に渡されたアレを使いたいけど使えない。
彼女が謝ると、男はとぼとぼと避難先に向かっていった。
その姿を横目で見ながらもう一度「ごめんなさい」、そう噛み締めて、
あの恐ろしい巨人から逃げてきた人を避難させようと、ひたすらに人々に呼びかける。
「丘の方に逃げてください」と、とにかく避難場所だけを言って。
一方、神堕 風吹。彼女も創と共に避難誘導をしているのだが、
主に彼女は民家にまだ人が残っていないかどうかの確認をしていた。
さすがにあの騒ぎで家にいるのはおかしいとは思うのだが、念のため。
一つ一つの民家を覗いているうちに、彼女は愚か者を発見する。
「貴様、何をやっている?」
家主が避難していることをいいことに盗みを働くクソ野郎。
タンスをごそごそ漁っている最中、急に入ってきた彼女にビクッと驚いた。
しかも罵倒するような眼、ゴミを見るような眼で見られて動揺。
タンスに手を突っ込みながらおどおどし始めた。
「な、何って、避難する準備だぁ!」
「……どうやら、ならずものは江戸にもいるようだな。
まぁいいだろう、早くここから逃げるがいい。私が人を呼ぶ前に。」
「へ、へぇい!!」
空き巣が彼女の横を横切ろうとしたとき、
彼女は音速の速さで刀を抜刀、その者の裾を少しだけ斬る。
そのまま刀をしまい、彼女は斬られたことに気づかない空き巣を見送る。
すこし口元をニヤつかせて。
「後で後悔するがいい……」
そうつぶやいた後、民家から出てふと巨人の方を見る。
「奴等、あの巨人をいともたやすく……」
謎の飛行物体が巨人に対し光の光線を放っている。
確実にこの時代の物じゃないし……、なんだあれ。
一応、味方ではあるようだし、巨人を抑えようとしているのだが……。
<>
時はさかのぼり一時間前。
丘に降りる際中、空に謎の飛行物体を確認し、彼女らは警戒する。
「……!? なんだあれは!?」
「と、飛んでる?! なんで!?」
白い飛行アーマーを付けた人間たちが宙を舞っている。
変にかっこいい。いやそうじゃない。なぜあんなものがここに。
縦横無尽に飛ぶ彼らを茫然と見ていると、その一機がこちらの方に飛んできた。
すると風吹は無言で創の頭を手で掴み、無理やり地面につかせて伏せさせる。
飛んできた一機は、彼女らの目の前で減速してその場で浮遊し始める。
そして頭のアーマーが自動着脱し、乗っていた人物が彼女らに顔を見せた。
「こんにちは! あなたが創さんですね!」
風吹は目をパチパチさせる。
彼はハジメではなく私を見ているため、勘違いをしているのだろう。
そう思い、創の頭を離すと彼女はふらふらと起き上がり、頭を抱えて返事をする。
「は、はい……そうですけど。」
「ん? ああ、あなたでしたか。すいません。
GPSだけを頼りに探していたので、顔はわからなかったんです。」
そう言って彼は小づちを打つかのように頭を下げる。
「……それで、あなたは?」
「そうでした。僕は異端世界秩序、Gチーム隊長の『サノン』といいます。」
「!! てことはロゼさんの!?」
ロゼが仕向けたというのであればこの状況も何とかなるはず。
そう思い、サノンに近づく創。だがそれを言った後の彼の表情はおかしかった。
「うーん……ロゼではなないんですけど、江戸を防衛しろと言われてですね……」
「え、それじゃぁ誰が……」
「とりあえず、創さんに渡すものがあってですね……っと。」
そう言いながら彼は、
アーマーの横についていた小さなコンテナからある物を創に渡す。
それは彼女にとっては大分(数か月ぐらい)お世話になったものであった。
「じ、GWEじゃないですか!?」
一瞬、そのGWEがロゼの物だと思ったが、
それを彼から受け取った瞬間、これが自分のものだと理解した。
なんで自分のものだと分かったのかは理解できなかったが。
何故今これを渡すのか。考えるうちにもしやと思い、GWEの起動ボタンを押す。
「……え、なんで渡したんですか?」
「それでは~、私はあの巨人を止めに行きますので~。」
「って!? 待ってください!?」
起動できやしない。本当になんで渡したんだろう。
なんかカイロみたいにあったかいだけじゃないですか。
渡した理由を聞くがために空へと飛んで行ったサノンを呼ぶが、
彼は既に遥か上空に飛び立っており、巨人の方へと飛んで行ってしまっていた。
「……ハジメ、なんだったのだ、あれは……」
創がサノンと会話をしている間、
彼女は創らと距離を取り、ただただ話を聞いて立ち尽くしていた。
一度話に入ろうとは思ったが、なんだか気がひけてしまったのは内緒。
「……私にも分かりませんが、味方であることは確かです。
早く行きましょう、みんなを避難しないといけませんし。」
彼女はそう言ってGWEを左ポケットにねじりこみ、江戸の方に走り出した。
もやもやした気持ちが胸の中にいっぱいのまま、優先すべきことをしようと。
<>
とまぁ、今に至るわけだが。
もはや世界がおかしい。
江戸の世界に魔法の世界にいそうな奴が近未来にいそうな奴と戦っている。
そしてそれを眺める制服を着て変な鞘を持った現代人with女侍。
なんだこれ。
「……ふぅ、あとはあの人たちに任せて、私たちも早く逃げないと……。」
あらかた避難が終わり、
辺りを見回した後に風吹の元へ行こうとしたその時。
「あのぅ、ここらで風吹さんを見かけませんでした?」
後ろから声をかけられた。
「ん、風吹さんなら……あ。」
振り返るとそこにはレイピアを持った少女、
フェーリスがおむすびを食べながらニコニコしていた。
次回投稿は 11月18日(水)です。
土・日・月と予定が詰まってしまいまして……




