コウドウハダイジナノダ
風吹はレイピアを手に持つ少女に向けて刀を構える。
あの剣で私の身体を貫き、確実に殺そうとしてきていた。
しかも、背中まで近づけるほど気配を消せる技術を持ち合わせている。
私でなければ容赦なく殺されていただろう。
「貴様、何者だ。」
そう言うと少女はレイピアを腰の鞘にしまい、
礼儀が良いのかお辞儀をしながらこう返事をした。
「はじめまして神堕 風吹。私の名はフェーリス。
わけあってあなたを殺せと命じられた者です。以後、お見知りおぶへっ!?」
風吹はその隙に少女の首に向けて峰打ちを図り、成功。
少女はそのままうつぶせになって倒れる。
油断させておいて不意打ちがあるのではないかと考え、
警戒しながら何歩か下がった。のだが、
周りには敵の気配はないし、少女も起き上がる気配もない。
そして彼女は刀を鞘にしまい、顔に手を付け、ため息を吐いた。
「殺す気でくるというのなら、何かあると思ったのだが……」
その様子を遠くで見ていた創は目元をピクピクさせながら首を傾げていた。
近くで吐き気を催していた少年も、真顔でその様子を見て首を傾げていた。
そして風吹は少女の服を漁る。
下着以外を一度脱がせてみたが、おむすびとレイピアしか持っていない。
「身軽ではあるが……」
とりあえず風吹はレイピアを奪い、
少女の脱がせた服で手足を縛り、創の元に戻った。
「……とりあえず、これを持っておいてくれないだろうか。」
「は、はい…… えっと、あの人は……」
「気にするな、ただの未熟者だ。」
レイピアを創に渡すと、彼女はそれを抱えるように両手で持った。
なんだこれ、みたいな表情をしながらレイピア全体を目で見ながら。
風吹はそのまま座り込み、少年の頭を撫でながらやさしい笑顔になる。
「お前の父を必ず救って見せる。だから、あとちょっとだけ待っていてくれ。」
「う、うん……」
少年は目をキョロキョロさせながらゆっくりと頷いた。
風吹は立ち上がり、創にかっこいい笑みをしながら少年の父の方を向く。
そしてゆっくりと歩み寄り、少年の父に近づいて鎧を剥ぎ始めた。
……やはり、鎧そのものが紫のオーラを放つ原因のようだ。
父親の体からは汗臭い匂いしか放っていない。うっ、意外とキツイ。
しかも血や汗だけじゃない、酒や煙草、大勢の女の匂いがする……
私がはぎ取った鎧にも匂いが移っているようだ……。なんだコイツは。
「……固まっちゃいましたね。」
「おねぇちゃん……」
鎧をはぎ取る作業の中、何故か彼女は鎧の一部を持って固まってしまった。
その様子を二人がじーっと見ていると、風吹は急にこちらの方に振り返った。
見るからにとても嫌そうな顔をしており、
こっちに来いと言わんとばかりにこちらを凝視している。
「どうします? 行きますか?」
「……うん、動かなさそうだし。」
創は少年の手を掴みながら風吹に近づこうとすると、
彼女は少し嬉しそうにしながらこっくりと頷いた。
分かりやすいなぁ、と思いながら、創は愛想笑いでこっくりと頷く。
「……すまない、一人では妙に不安でな。」
「そうですか……、うっ……、なんですかこの臭い……」
「だろう? 心が乱れる。
悪いが近くにいてくれ、さすがの私でもこれはつらい。」
そう言い、風吹は臭いに耐えながらゆっくりと鎧を外していく。
創と少年は鼻をつまみながらその様子を見守り始めた。
この世の物とは思えないほどキツイ臭いだ。見てるだけでも臭う。
そればかり見てはだめだと、彼女は視線をそこから離した。
そしてその先に、風吹に峰打ちされ倒れてしまっている少女が居た。
顔とか服はまぁまぁ可愛いのに、風吹さんを殺そうとするなんて。
現状、見るからに気絶してますけど。自業自得としか言えないんですけどね。
なんてことを思いながら、今抱えているレイピアを改めて見る。
創視点ではレイピアではなく、フェンシングのアレとして見ているが。
軽そうで突きやすそう。こういうのが扱いやすかったりするのかも。
そう思い、少年から少し離れ、創はレイピアで抜刀の構えをする。
すると創はある事に気づく。
構えようとした際、レイピアに何かがこつんと当たる感触があった。
何が当たっているのかを見ると、そこには先ほどまで持っていた黒い鞘が。
風吹のように帯をつけてもいないし、ベルトもつけていない。
それなのになぜかそこに鞘があった。しかも。浮いてる。
「ふ、風吹さん、私の鞘、浮いてるんですけど……」
「神から貰ったのだから、それぐらいは普通だろう。」
彼女は特に驚きもせず、鎧を剥ぐことに集中していた。
いや、そこまで時間がかかるのだろうかそれは。
臭いのせいなのか、いちいち彼女の手が止まってしまっている。
速く剥ぎ取れば臭いなんて気にせずすぐ終われるのに。
何故か急にじれったくなった創はレイピアを地面に置き、
風吹の横に寄り添って、鎧を一瞬にして剥ぎ取った。
「……な、い、いともたやすく……」
何故だか彼女はプルプルと驚きながら創を見ていた。
さっきまで頑張って剥ぎ取っていたのに。
臭いを頑張って耐えながらひたすらやっていたのに。
悔しくもあり、手伝ってくれた感謝だのが彼女の頭でごっちゃになる。
そんな中、創は目を虚ろにして剥ぎ取った鎧を一か所にまとめていた。
臭いとか鎧に付いてる血とかなんて気にしちゃいない。キニシテモナイ。
「ふぅ、お父さん、これで元に戻りますかね?」
「……あ、ああ。戻るといいな。」
何時しか彼女は後ろに下がり、創の行動を見守っていた。
いろいろ考えたが、ここは彼女に任せた方がいいと結論が出たからだ。
別に、臭いに耐える鍛練としてやってもよかったのだけれど。
「……おねぇちゃん、ありがとね。」
少年はうつむきながら礼をした。
創は少しばかり照れくさくなりながらも、こう返事をする。
「まぁ、止めてくれたのは風吹ちゃんですし……」
「だから、ちゃんはやめろといってるだろう。」
ジト目で創を睨む彼女。
少年はその言葉を聞いて、同様に礼をした。
すると風吹は恥ずかしそうにしながらそっぽをむいた。
その様子を見て創は微笑み、少年の走ってきた道を見る。
「あっちに江戸があるんですかね?」
「そうだけど……、おねぇちゃんたち、江戸に行くの?」
「うん。風吹さんが江戸に用があるんだっ___」
その言葉を言い切る前に、
少年が走った来た道の先から爆発音が聞こえてきた。
「___なっ!?」
「いくぞ、ハジメ!」
風吹は颯爽走り始め、爆発がしたところへと向かい始めた。
創と少年は唐突な出来事で焦りながらも、すぐに行動に移った。
「そ、それじゃぁまた!!」
「う、うん……気をつけてね……!!」
少年は風吹についていく創を手を振りながら見送り、
父親に近づき、様子を見ながらその場に座り込む。
ふと彼女らが進んでいる道の先を見ると、黒い煙が上がっていた。
「お父さん……おねぇちゃん、大丈夫かな……」
心配。それが少年の心の中で一番強かった。
一瞬にして崩れ去った日常。これからどうすればいいのか。
何とかなるような問題じゃないし、
自分達が住んでいた江戸も危なそうだし。
でも、今何かを考えるような気力はない。少年は余韻に浸る。
徐々に彼女らは江戸の街並みが見えてくる。
その景色は創の想像通りではあった。ある異物を除いてはだが____
「____なんですかあれ」
黒い煙の中心地。
紫のオーラを放った巨人が、火を噴きながら江戸を襲っていた。




