Dream:2 表裏
「えぁ~……カフェ……オレ、おぃしぃ……ん? え?」
目が覚めたとき、白い床がそこにあった。
寝ぼけながらゆっくりと体を起こし、周りを見てみる。
……何もない、真っ白な空間だ。
GWEで世界を造り始める前の時と同じように真っ白。
ぼーっとしながら立ち上がって、今何が起きているかを考える。
……夢を見ているんでしょうか。
カフェオレを飲んだ後、しばらく寝ようとベットで横になった憶えがある。
とはいってもしばらく眠れずにぼーっとしていた。
そして、何故かここに居る。
夢にしては感覚がはっきりしており、視界のぼんやりさもない。
手足もはっきり動くし息もはっきりとできる。
ふと、頬をつねってみた。むにゅんとした感覚の後に若干の痛みを感じた。
だからどうしたというのだろう。
真っ白な空間の中、夢か現実かをはっきりさせようとも
この状況がおかしなものであると言う事は確かだ。
だからといっても特にやる事もなく、とりあえず歩き始めた。
純粋にその場で立ち止まるのが嫌で、
特になにもやることがないのが嫌で、
私は真っ白な空間をひたすら歩き続けた。
歩いていくうちに、自分がどこにいてどこへ向かっていくのか分からなくなる。
真っ白な景色が続いて、もう何分ほど経ったのだろう。
いや、もしかしたら一時間ほど歩いているのかもしれない。
そう考えていると自然とため息が出た。
同じような景色が続くこの空間に対しての不満も、そのため息に含まれていた。
「いやぁ、私たちは一体どこへ向かおうとしているんだろうね。」
そんな自分の声が聞こえてきた。
ふとした瞬間、私はかつて通っていた山藤小学校のグラウンドに立っていた。
なつかしさの前に、唐突な景色の変わりように驚いてしまった。
「憶えてるかい? 卒業式の日に起きた事件のことを。」
……事件? 卒業式の日に?
「憶えてないのが当然だよ。
だって、その時私は変わってしまったんだからさ。」
……
「爆破、殺人、そして誘拐事件。
君はその時にすべてを投げ出した。投げ出したときに私が生まれたんだよ。」
……何を言っているのか全く分からない。
爆破? 誘拐? 殺人? 卒業式でそんなことが?
まったく憶えがない。そもそも卒業式って何したっけ。
「ま、投げ出したと言っても、私の心の片隅にいたわけだけどさ。
それで記憶が変になってたり、一人ぼっちと感じていたんだろうけど。」
一人、ぼっち……
いや、そんなことはない。愁ちゃんが傍にいてくれた。
決して一人ではない。というか、さっきから何を言っているんだ。
「それじゃ、始めようか。自分を取り戻すために、
私が君に寄り添えるようにするために、もう一度あの日を経験してもらう。」
____あぅ
どこかで鳴り響いた指パッチンの音と主に、自分の意識が途絶えた。
<>
あれ? 私は何を……
って、ここ山藤中学校の教室じゃないですか。
夕方ぁ……え、でもなんでここに?
さっきまでカフェオレを飲んでいた気がするんですけど……
「やぁ、もう一人の私。」
後ろから私の声がっ!? ……へっ!?
そこにいたのは創であった。
鏡で見た自分そのもの。姿は完全一致であったが、
さきほどの呼び声の口調が創の口調と違っていた。
「えっ、えっと……あなたは……」
「心の隅でずぅっと見ていた君の別側面さ。
そうだなぁ……君の裏の顔って言えばいいのかな?」
「私の……裏の顔?」
そうつぶやいた時、もう一人の創は右手で指パッチンをした。
><
「いや、まずその前に確認をさせてくれ。
小学生の卒業式のこと、今でも憶えているかい?」
……あの時の事ですか。
「小学生の頃の卒業式って言うと、あの事件の事ですよね……」
そう、あの日、卒業式が終わった直後の事でした。
校門を通り過ぎようとしていた私たちの卒業生の眼に、
校舎が爆発し、黒い煙が上がっている光景が入りました。
そして、校門の目の前、ある男が日本刀を持って立っていました。
その犯人は、生徒を狙わずある先生だけをめがけて日本刀で襲い始めました。
そのある先生とは『藤村 政宗』という、
体育の先生でおもに剣道が得意な先生でした。
滝の修行をしていたり半裸で剣を振っていたりしていた先生で、
生徒と教師の間では『平成のサムライ』だなんて言われていたりしていました。
政宗先生は犯人の日本刀の攻撃にも素早く対応していました。
身をひるがえして剣をよけつつ、背後を取り、剣を奪い取ろうとしていました。
その時、ある言葉を聞いた途端、政宗先生は抵抗もせずに固まってしまいました。
『お前の娘をこの世から消した』と。
そして……そのまま政宗先生は真正面から切られて……
その後は……倒れた政宗先生を日本刀で刺し続けて……血が……
……そこからのことは、あまり憶えていません……
「あの後、君はどうなったんだっけ。」
優しい表情で創を見つめ、話を続させる。
気づいた時には、私は病院で事件のことを話していました……
何をどう話したのかは覚えていませんが、
お母さん曰く、恐怖で体が震えていたそうです……
あの後、私はあの事件のことが気になってパソコンで調べていました。
政宗先生を狙った犯人の名前は『宮本 正志』。
その犯人の知人曰く、過去に剣技で政宗先生に負けてしまい、
屈辱感と敗北感を抱いていたそうです。
だからと言って生後間もない政宗先生の娘さんを誘拐したり、
学校を爆破して政宗先生を殺すのは、どうかと思いますけど……
「そうだよねぇ、学校と娘さんは何も悪くない。
んで、その子は結局消息不明で死亡扱い。
まぁ当の本人が『お前の娘をこの世から消した』とか言ったらねぇ?」
事件の後、犯人はすぐさま逃亡したそうですが、すぐに警察に捕まったそうです。
ですがその後、刑務所で自分の首をかっ切って、自殺したそうです……
「よぉし、ちゃんと頭に叩き込んでるね。
耐性もついたし、トラウマも若干克服したし問題ないね。」
そう言うと彼女は再び右手で指パッチンをする。
すると、創の中から回想をしていたという記憶が消える。
><
……
彼女はうつむき、ぼーっとしながらもう一人の自分を見つめる。
「おーい? 大丈夫? もう一人の自分を見て混乱しちゃった?
大丈夫、安心してくれ。 私は君の傍にずぅーっといたからさ……」
私の……傍に……?
その言葉を考えているうちに、
彼女は創の目の前に立ち、創の後ろ首、背中を手に添え抱きかかえた瞬間、
もう一人の創が創の口元に近づきディープキスをし始める。
数秒間、創はもだえた。よく分からない感覚におぼれながらも、必死に。
両手を使って抱きかかえる手をどかそうとしても動かない。
性格が違えど自分であるが故、キスをされている状況であるが故、
彼女は、もう一人の自分に押し負けてしまった。
……む……はぁ……
しばらくして、もう一人の創は抱きかかえるのやめ、彼女の顔を見る。
「いやぁ……もう一人の自分って、なんか興奮するんだよね。
しかも、かわいい素振りしてますし、何もわかってない感じが……良い……」
「あぅ……いや……その……」
少し恥ずかしそうにしながら、もう一人の自分の顔をそらし口元を触る。
そこから垂れていた唾液を手の甲で吹いて後ろを向く。
もう一人の私ってあんなんだったんですか!?
急にキスしてきましたよ!? なんなんですか私って!?
再び彼女の方を振り向くと、怪しい笑みを見せてきた。
あ、悪役みたいな表情ですよねあれ!?
もしかして、あれがGWEの人格だったりするんですか!?
創は咳ばらいをして、もう一人の自分の方を向く。
すこし恥ずかしそうに、さっきのアレを引きずりながら。
「それで、あの……私は何でここに居るんです?
というか、なんで裏の私と私で会話できているんです?」
「え? 夢を見ているから。」
「ゆ、夢……? でも、さっきのアレは……」
やけにリアルだったね。舌と舌が絡まって変な感覚感じまくってたからね。
「夢だよ、頭の中だからこうして会えているんだ。
いやな夢だね。もう一人の自分にキスされるだなんて。私は快感だったけど。」
「や、やめてください……思い出したくないので……」
口元を手のひらで覆って恥ずかしそうにする。
「あははは。起きたら忘れているから安心してよ。
……っと、噂をすれば起きそうだね。誰かに揺さぶられてらぁ。」
明後日の方向を向いて腰に手を当てる。
「誰かって……愁ちゃんですかね……?」
「それは起きてからのお楽しみとしてだよ。
ちなみに、GWEの人格ではないことは保証しよう。
もしそうであれば、とっくの昔にロゼが私を分離しているからね。」
そう言いながら人差し指を頬に近づけあざといポーズをする。
創は若干の疑いの目をしながら彼女を茫然と見る。
「まぁ、それは人格云々は後でロゼに聞くとしてだよ。
ちょっと、頑張る私を応援しようとアドバイスをしようと思う。」
「あ、アドバイス? でも夢だったら忘れちゃうんじゃ___」
言葉を発しようとした思えば、すぐさまその上から言葉をかぶせられた。
「現状私たちは流されるままにある。
そこにある物だけに流されて自分は何もできちゃいない。
だから……そうだなぁ、決められた道を脱線し、新しい道を作るんだ。」
「新しい道って……一体何を……」
「裏の私の意見を言うとだね。コンビニで見つけたあの紙あるだろう?
あれを頼りに『冒険を役立てるもの』とやらを探せばいいと思う。 」
「……そういえば、そんな紙ありましたね。」
「君忘れてたのかい……? あれ結構重要そうなのに?」
苦い顔をしつつ、創から離れてこめかみを指で掻く。
その様子を見ていると、全身からぐらっとしためまいが襲ってきた。
「ま、あの紙について指摘すりゃぁ、ロゼも動くでしょうに。
それじゃ、またいつかの夢で会おう。もう一人のワ、タ、シ♡」
「ひっ…‥」
その発言でぞくっとした後、もう一人の創が可愛らしくウィンクをし、
懐から素早く鉄砲を取り出し創の額めがけて発砲。
……すると、彼女はゆっくりと目を覚ました。
ピンク髪のエメラルドグリーンの眼をした誰かに揺さぶられながら。
「えっ……誰です?」
四章 完
今後の予定:断章 → 短編 → 五章




