謎の店員は何者なのだろうか。
城の敷地前の円形の道路、城の敷地入り口付近にて
道路には彼女以外の人影はおらず、すこし寂しい雰囲気であった。
「はぁ……はぁ……」
麻央に無理やり手を引っ張られながらここまで連れてこられた創は、
息をぜいぜいと吐きながら後ろに手をつき座り込んでいた。
「いやぁごめんね?なんせ急用だったもんで。」
麻央は城の入り口の兵士の様子をこっそりと見ている。
兵士達は入り口付近に立ちながら入り口を守っているようだ。
「うーん……城までってあったけど中まで行くのかな……?」
麻央はなにかぼそぼそとつぶやいているようだ。
「あ、あの……結局なんで城まで連れてきたんです……?
確かにあの時危なそうな雰囲気でしたが……」
彼女はあの時何が起こったか分からず考えがまとまらなかった。
今になってあれは危ない状況だったと言うのは理解できたのだが、
ここまで連れてくるのは理解ができなかった。
もし逃げるとすればどこでもいいはずなのに。と彼女は思っていた。
「ここに連れてこいって言う命令があったからね。
しかも報酬としてスマホとくっつけられるドローンが貰えるらしいから!」
彼女は創の方を向いて笑顔で答える。
「命令って……誰に命令されたんですか……?」
創は少々不安げに彼女に聞こうとする。
「匿名を希望をしているので教えませーん!
私ちゃあんとそこらへんは守るタイプなんだよね~」
その返事に創は目元をぴくっとさせる。
なぜそこで言いとどまるのかと。
彼女は深呼吸をし呼吸を整え、麻央にいくつかの質問を投げかける。
「じゃぁあの……聞きたいことその1です。
繁華街でみんながみんな苦しんでたのは何でですかね……」
そう聞こうとすると麻央は急に態度を変える。
「えーっとね~命令してきた人曰く、
デスパイラルシンドロームって言っててぇ~
死んだ恐怖感がもう一度きてね?その恐怖が頭に上って
強烈な頭痛とか葛藤や不安感とか変な感じになるやばい状態になるの。」
(デススパイラルシンドローム……?デスパイラルですか。
ていうかなんでしょう……麻央さん、さっきと違って急におチャラけた感じに……)
「でね?そのやばい状態が続くと『サンチ』?が減って、
自分を見失っちゃう狂気状態に陥るんだって~怖ーい!」
「自分を見失う……ですか……」
創は麻央から目をそらし落ち込んだような顔をする。
そして彼女は苦しんでいた人たちの表情を思い返す。
彼らはとても苦痛そうであった。
頭を抱え飢えるかのように叫ぶ様は今思うととても怖かった。
なぜ彼女はそんな恐ろしい物を作ったのだろう。そう思った。
創は気持ちを切り替え麻央の方を向く。
「ちなみにそれって対策ってありますか?」
「自分の意識を自分で保ち続けたらいいらしいね。要は気合かな?」
「なるほど……聞きたいことその2です。その命令してきた人は何者ですか?」
そう言うと彼女は腕を組みながら真顔で空を見る。
そしてしばらくして創の方を向き笑顔でこう言う。
「えーっとね!なんか生きてる私の彼氏!」
「な、なんか?彼氏……?」
「うーん……1年前に死んじゃった彼がなんかこの世界にもいるんだよね~
なーんで同じ世界にいるんだろう?他にも世界があるのに?」
疑問気にそう喋り、そのまま彼女は考え続けた。
同様に創も考える。
(一年前に死んだ人がここに……ですか……
転生したり転移する人って時間とか関係ないんでしょうか……
死んだ直後じゃなくて時間差……?
うーん……マニュアルをもうちょっと見ておけばよかったですね……)
彼女はいつか読んでいたあのマニュアルの内容の記憶があいまいになっていた。
(とゆうか、ほかにもたくさん異世界があるにもかかわらず再会ですか……
それが運命ってやつなんでしょう。たぶん。)
「聞きたいことその3……彼氏と言う事は分かったんですが……
その……なんでデスパイラルシンドロームだったり知ってるんです?
しかも命令ってどうやって……?」
そう聞くと麻央は真顔でこう言った。
「彼氏はねぇ、スパイなの。」
「……はい?」
その発言に創は首をかしげる。スパイ? どゆこと?
「いやね?彼氏一回ここに入っていろいろ模索してたんだって。
そしたらこの世界の資料室みたいなの見つけて知識旺盛なの~
だからいろいろ知ってるわ、け!」
城の方を指さし、にやにやしながらそう言う。
「いやスパイでも……侵入ですか……あの城を……
いやいやいやいや……あの城、かなり厳重に防犯システム組んでましたよ?」
創は立ち上がり、冷や汗を垂らしながら手を前に出し横に振る。
彼女が城を作る際、特にどうという防犯システムはなかったのだが、
いつぞやの忍者襲撃でロゼが、
『ここまでしねぇとカイングちゃん死んじまうぞ……?』
とかなんとか言って透明な監視カメラだの透明な地雷だのを設置していた。
しかもその地雷だのは侵入者に対してしか作動しないとも言っていた。
創はその時カイングちゃんを守るのであればとロゼに任せていた。
結果とんでもない量の侵入者用透明トラップが錯乱してしまったのだが。
『っへっへっへ……インポッシボゥーのようにうまくいくと思うなよ……?』
(とか言ってた割には侵入されてるじゃないですかロゼさん……
まぁ資料室まで作りこまれているとすれば行ってみたいですね……
どういう世界になっているか知れますでしょうし……)
「それで……彼氏がスパイってどうゆう……」
「聞きたい?そうだね~?スパイって気になっちゃうよね~?
そう、それは私がまだ中学生だった時……」
「え?出会いから?」
彼女は自慢げに語り始めた。
「彼は私が通っていた学校の地下にある研究所に忍び込んでいた……
その時私はその研究所にいてね?クソ教師になんか培養槽に入れられてました。
んでそれから助け出してくれたのが彼。
私はそこから彼に連れ出されて彼と暮らすようになったんだよね。
なにせ『僕には君が必要だ。』だなんて言われちゃったからねぇ?
ぞっこんですよ。それで付き合い始めた。OK?」
創は訳が分からないと言う表情をして首をかしげる。
「いや……あの……彼氏がスパイってなんでって話なんですけど……
ていうか研究所って…?麻央さん一体何されてたんですか……?」
「まぁスパイって言ってもみんな信じないからね~
あと私に関しては恥ずかしいから言わない。ていうか言えない。
言ったらどこぞの国に狙われちゃうもの~
権力とか言う変な力を持ってる悪ーい輩にねぇ?」
「規模がすごいんですけど!?国レベルですか!?
ま、まぁ深堀はしませんけど!?嘘だと認識しておきますけど!?」
嘘だとしてもそう言う系の話に興味を持ってしまう創なのであった。
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「そんでもって彼氏はスパイ活動で死んじゃってね。
この世界でもう一度会ってうれしくって一回泣いちゃったよ……」
麻央は少ししんみりした表情で背伸びをする。
「まぁそんなスパイな彼氏経由でいろいろ情報が来ている訳なのさ。
命令もこのスマホで情報が来ている。」
(あっ、さっきみたいな口調に戻った。切り替え早いですね……)
「は、はぁ……ちなみにそのスマホって……」
「見せられないよ~機密情報も入ってるからね~」
何故か彼女は小悪魔的表情をしていた。
「いやまぁ、言うと思いましたけど……
武器屋の店員であることも命令されてですか……?」
「そうだね。あの変態の動向を探るために監視をね。」
「変……態……?」
創は首を傾げ冷や汗を垂らす。
「あの変態、どこぞの組織の幹部なんだよね……
それで私はコンビニ店員になりすまして接触しようとしたんだけど……
なんか……トラックにひかれて死んじゃった。」
彼女は笑いをこらえながらそう言う。
「そんな軽く言わなくても……ていうかなんで変態なんです……?」
「少女誘拐事件だの、ちょっとアレな事をしてたからね。
しかも自分の欲で。上からの命令でもなく。」
それを聞いた創は店主の事を思い返す。
「そういえば……なんであの時連れ込まれたんでしょう……まさか……」
一瞬変なことを考えてしまったが彼女はすぐにその考えを抹消した。
深く考えるとたぶんデスパイラルシンドロームなしで狂気状態になりそう。
創は頭を抱えながらすこし口元をぴくつかせる。
「なんというか……身近に犯罪者っているもんですね……」
「おお~!魔法の絨毯!」
「え……?麻央さん?」
創が彼女の方を見ると、
彼女は目をキラキラさせながら空を見上げ、
懐からスマホを出し空にカメラを向けていた。
その様子を見て創も空を見上げてみると……
「うぇ!?アラビアン!?」
高速で空を駆ける白い絨毯が飛んでいるのを見かける……
様子を見るにそれは城の付近をぐるぐると飛び回っているようだ。
そしてその絨毯の上に誰かが乗ってるようにみえるが、
遠すぎてさすがに誰かは分からなかった。
(そうだ、千里眼スキルを付与されてたんでしたっけ……
目を凝らしてみればみえるかな?)
創は絨毯の方を目を凝らして見始めた。
彼女は凝らしすぎて変な目になってしまっている。
(うーん?全然見えないんですけど?)
目を凝らしてみても景色は何も変わらない。
だんだん目が痛くなってきて眼をこする。
(千里眼……そうだ、スキル一覧で説明的な何かないんですかね……)
そう思い彼女はパラメータビジョンを開き【スキル一覧】を見る。
その開く際の手を叩く音で麻央は創の方をちらっと見る。
「ん?え?なにそれ?」
そう言ったが創は気づいていない。
その画面を見てすこし驚いていたからだ。
【スキル一覧】の画面は、
右側にスキル名、左側にそれに関するスキルの詳細があるのだが……
(……千里眼以外にもなんかある……)
『千里眼スキル:A』と言うスキル以外に別のスキルがあった。
『言語自動翻訳:EX』 『状態異常無効:B』 『主人公補正:ロゼ』
(主人公補正……ランク:ロゼですか……すごい気になりますが……)
創はとりあえずそれに関しては置いといて左側を見る。
現在左側には『千里眼スキル:A』についての詳細が書かれている。
『【双眼鏡、望遠鏡のような役割を果たす千里眼スキル。
壁がなければランクごとの範囲ならどこまでも見れる。
現在のスキルランクはA。効果範囲:50km
発動条件:対象を見ようとする意志を高めること。
アドバイス:目に力を入れるのではなく対象をじっと見つめること。
自然な感じで力を抜けば見れるかも。
進化条件:冒険を進めるごとに進化
】』
(アドバイスもちゃんと書かれてますね……要望通りです。)
そう言ってパラメータビジョンを閉じ、絨毯の方を普通に見始めた。
麻央は創の様子を静かにうかがっている。すこし不思議そうに。
彼女はしばらく絨毯の方を見ていると……
「はい!?なにしてるんですか?!」
創は絨毯の近くまで見ることができた。
その際声を出して驚いてしまい、麻央はその声で一瞬ビクッとなってしまう。
絨毯を千里眼で見るに武器屋の前にいたいかつい男と
繁華街で会ったサラリーマンが抱き合って、
両者阿鼻叫喚の表情をしてカタカタ震えているのが見える。
「なんであの人たちが絨毯に……めっちゃ怖がってるじゃないですか……」
「え?見えるの?この距離で?」
その声に反応した創はすこしドヤりながら麻央の方を向き、
すこし自慢げにこう言い始めた。
「ええ。なんと私千里眼を持ってるんですよ!
それであそこまで見えるわ<<ピュウイーン!ドゴォ!……>>け、で……」
なんか変な音がした。片方は城の方から。片方は絨毯の方から。
それと同時に眩い光が彼女らの顔に差し、暴風が辺りに吹き荒れる。
創は顔をひきつりながら絨毯の方をゆっくりと見ると___
「……え?」
空で何かが爆発していた。それのせいか辺りに真っ赤な光が差す。
絨毯が飛んでいたところを中心に。
たぶん、城から誰かが絨毯に向けて撃ったのだろう。
いかつい男とサラリーマンに危険が迫る……?
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