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いつもの定例会。惰性で呼ばれてフレイヤと出席したが、私の肩身は回を追うごとにどんどん狭くなっていく。
「タラスでは疫病患者が23人ほど見られた。すぐに俺がいって拡大は防いだが……下水処理が不十分な地域だ。このままでは水質汚染が懸念される」
「下水処理の整備はこっちも必要だ」
「分かった。衛生環境は食糧確保の次に大事にしたいところだ。何とか予算を回そう」
「私のところの領は下水処理の整備が粗方終わりました。工事に関わった者の腕は良かったので、今回の人をそちらの工事に向かわせるよう交渉してみましょうか?」
「いや、公共工事は現地の人間の雇用促進にもなるからな。俺の領は結構だ」
「タラスは早急に工事に取り掛かってもらいたいから、オリーのところの者を回すべきだろう」
国は安定していても細かい問題は日々発生しているようで、皆が忙しなく自身のもつ課題を提示したり、その課題に対する意見を述べたりしている。対する私は、皆の議論をしっかりと聞いてはいるが、一言も口を挟めないでいる。私のいたたまれない気持ちが身体症状として表れているのか、胃のあたりがムカムカしたり、下腹部がチクチク痛んだりしてきた。今日は帰ったら早く横になろう。
「どこもそうであろうが、住宅が増えて木材が不足している。どこから輸入するのが良いだろうか?」
「リュシオ国からはだいぶ融通を利かせてもらったから、これ以上は無理だな。となると……ルード国あたりか?」
「ルードと、ラシュアンにも交渉をしてみましょう。あそこも森林の面積が大きいし、ここからの距離を考えると輸送コストもあまりかかりません」
私が住んでいた森に潤沢な木材があり、私に頼めば転移魔法で即その問題が解決できることをレイは知っているが、この議論中に彼は私に目線すら向けない。
レイだけでなく、皆がそうだ。各自が持ち込んできた課題は、私に依頼すればその場で解決できるものがほとんであるのに、私に一言も相談しようともしない。
皆が私に悪意をもって無視しているのではないことを十分に承知している。皆、私のチートに頼らず、自分たちで興した国を自分たちの力でより良いものにしようとしているだけなのだ。ここで私が『魔法で全部解決します!』と言うのは、彼らの自立を阻害させるありがた迷惑以外の何者でもない。アレンの件で私は学んだ。
私はもう不要な存在なのだ。建国に関わったから皆は私の存在を尊重する意思を見せてくれるが、もう私に与えられる役割は何もない。私がしたことといえば、食糧供給とちょっとした見張りだ。大したことでもないのに過去の業績を詳らかしてこの国での地位を要求するつもりもない。
でも、いつ完全に出ていこう……? 全てを一気に捨て去るには名残惜しいものばかりだ。
だが、中途半端に関わるのもこの国のためにはならない。
「では、これで会議を閉めよう」
結局私はぐるぐると思考だけはしていたが、一言も発しなかったまま会議が終わった。リカルドが終了を告げたと同時に各々が忙しなく立ち上がり出口へと向かう。彼らはまた山積みの仕事を片付けに行くのだろう。
「ま、魔女様!? 大丈夫ですか!?」
「ん? 何が…?」
ステラが私に向かって急に叫んだ。ステラの目線が私の臀部の方を向いていたので、自然と私も振り向いて下半身を覗き込むと――そこには、私のお尻部分を中心に、そこ全体を覆うように赤い液体が滲んだ痕があった。
「へっ!?」
周辺の人間も私の臀部や座っていた椅子を見て
「魔女殿、呪いを受けたのか!?」
「まさか、ご病気になられたのか!?」
とざわつく人と、何だか見てはいけないものを見てしまったという渋い表情をして黙っている人で二分されていたが、私はそんなものが全く目に入らないほど動揺していた。
下腹部の鈍痛。そして下半身からの出血。これは……これは――
「あ、主! なんだこの血は!? まさか病気にでもなったのか!?」
「しょ……」
フレイヤが血相を変えて私に掴みかかってきた。
「主、いやだ! 私をおいて逝くなんて、絶対に許さないからな!! おい、レイ! 主を早急に治癒しろ!!」
「初潮ーーーー!!!!」
第二次成長を迎えると、自然と女性に起こりうる現象。前世では毎月起こりうる事態に備えてこんな失態は絶対に起こさなかったのだが、13年間もご無沙汰しているし、あまりに目まぐるしい日々を過ごしていたこともあったため、その現象自体を本当に記憶からすっぽり抹消していた。転生しても女性の身体自体は前世とほとんど変化していないにも関わらず、周りにそれを教育してくれる人がいなかったのだから仕方ない! と言い訳をしたが、もう遅い。
「フレイヤーー!! そろそろ私も初潮を迎える時期だから備えるようにって何で教えてくれなかったの!! 私完全に油断していたわ! って言うかそんなことがあったことも忘れていたのですけれど!?」
「は? え? 主! すまん! 私にはそんな現象がないのだ! というか、初潮ってなんだ!?」
え、そうなの。思わず私の一番身近にいたフレイヤに八つ当たりをしてしまったけれどそれならば彼女には完全に非がないではないか。
「……あ」
気が付くと、完全に周りの人間はあまりの気まずさにそっぽを向いていた。穴があったら入りたいとはこのことだ。いっそ掘りたい。あまりの羞恥に顔が真っ赤に染め上がっていることだろう。みんなにも見えてないけど。
「い……いやあああああああああああ!!!!!!」
「主ぃ!?」
フレイヤの腕を掴むと、私は窓を突き破ってそのまま文字通り飛んで逃げた。その前に私が座っていた椅子も羞恥の塊であるので、即跡形もなく爆破しておいた。破損したガラスと椅子の料金はアレンに請求してくれ。アレン、師匠の尻拭いを頼んだ。
言い訳をするもの、顔を合わすのも、目を合わすのももうできない。醜いものを見せてごめんなさいと謝罪をしたいけどもう彼らと会話をするライフも私にはない。
恥ずかしさで人は死ねない。それを学んだ1日だった。
急遽森の家に飛び戻ってきた私たちは、瞬く間に簡易に荷物をまとめた。
「主……何をしている?」
「逃げる。とりあえず遠い国外に行く」
「え? なぜだ?」
「恥ずかしいからよおおおおおお!!!! もうみんなに合わせる顔がないわあああああ!!!!」
「ええええ……」
どうやらフレイヤにはその感性が分からないようだ。そこまでする? と言いたげだが、そこまでするしか今の私には選択肢がない。
ここには結界が張ってはいるが、ラシアスやアレンには通用しない可能性がある。アレンがこの出来事を耳にして私に何と声をかけてくるか……想像しただけで全身が茹で上がりそうになる。
「アレンは置いていくわ。フレイヤ、あなたはどうする? この国に残る?」
「いいや、私は何があっても主に着いて行く」
「よし、じゃあ行きましょう!」
ちょうど迷っていたところなのだ、私がこれ以上エルラン国にいるべきかさっぱりと去るべきか。
良いタイミングで去る理由ができたではないか。悲しすぎる理由ではあるが。
「そうだ、主。初潮ってなんだ?」
「……あのね、フレイヤ。人間の女性は赤ちゃんを産める身体になるとね……」
夜逃げの準備をしながら保健の授業をフレイヤ相手に開催することになるとは。今は全く触れたくない話題なのに、フレイヤを放置して勝手に間違った知識を仕入れられても困る。私はたまに今日の黒歴史をフッと想起して悶えながらもフレイヤへの授業を最後まで懇切丁寧に行った。




