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彼らとの再会は、想像以上に早かった。
「え? ほぼ不戦勝?」
戦が終わると、彼らはすぐに領に戻り、領民たちに勝利したことを高らかに宣言した。それに皆は歓喜の声を上げる。私は夢の中にいるようで、実感が伴わないままボーッとその歓声を聞いていた。
勝利を実感したのは、やはり仲間との再会だった。ファリス家の1室でラシアスたちと共に待機をしている中で、仲間が次々と帰ってくる姿を見ると胸が熱くなった。
レイが入ってきた直後、主役であるリカルドが入ってきて全員が揃う。
「魔女殿、約束を果たしてくれてありがとう」
速やかにリカルドがまっすぐ私に近づいて、礼を述べる。
最初こそ、王派の貴族が私兵を差し向けることがあったらしいが、すぐにこちらの勢いに恐れをなして戦闘らしい戦闘にはならなかったようだ。途中でリカルドに賛同する人間がどんどん増えていき、王都に到着したときにはその噂を聞いていた王派の貴族、王族、騎士のほとんどが既に逃亡した後だったらしい。
「王城もほとんど空っぽだった。というか俺たちが来る前に警備がないのをいいことにかなりの部分が民に壊されていたよ。スケープゴートにされた哀れな人間しか残っていなかった。王は逃げ足だけは早かった……が、捕まるのも時間の問題だろうよ」
今まで散々民を蹂躙してきた王だ。世界のほぼ全てを敵に回している状態だろう。逃亡した方が気が狂いそうな不安との戦いになるだろうに。
「じゃあ、今夜は宴ね! 今日ぐらいは贅沢をしても良いでしょう!? みんなが帰ってくるから、アレンが準備してくれていたのよ!」
それに皆が賛同の声を上げる。
「明日から戦後処理が待っているからな! 俺にこき使われる地獄の日々が始まるから今日だけは好きに楽しんでくれ!」
リカルドの宣言に部屋が笑いに包まれた。
アレンが用意してくれたのは、ワイナール国の料理だった。密かにファリス領の人々やここに流れてきた人々から様々なレシピを収集していたらしい。
各々が懐かしい味に舌鼓を打ちながら、ここを発ってからの話や、勝利を収めた瞬間の話などの武勇伝に花を咲かせている。私は浴びるように酒を飲みつつも全く様子が変わっていないリカルドに近づき、興味があった疑問について尋ねてみた。
「リカルド。王国の名前の“エルラン”の由来を聞いても良い?」
「あ、俺も気になっていた!」
私と同様に国名の由来が皆気になっていたようだ。ワクワクしながらリカルドの話に耳を傾ける。
「ああ。“エル”はエルリーナ様から、“ラン”は俺の故郷で幸せという意味がある言葉から。それで“エルラン”」
「なっ!?」
何気なく話を聞いていたレイがリカルドの返答を聞くと立ち上がって驚愕している。どうやら、彼も由来を知らなかったようだ。
「リカルドは母を知っていたのか!?」
「まー、今まで特に言う必要がなかったし、レイにとっては聞きたくもないかと思って言ってなかったけど……俺の故郷はミティアだ。シュリアやステラ、ラークも同郷だ」
「ミティア……」
レイが含みのある表情で呟く。
「俺の両親はミティアで大流行した病で死んだ。それで、俺と妹のリナが残されて……何とか妹だけは育てようとがむしゃらに働きまくったんだが、妹も感染してしまった」
彼は酒をあおりながら、全く悲惨さを感じさせないいつものトーンで続きを話す。
「栄養状態も良くなかったから、あっという間に医者に匙を投げられたよ。患者は膨大な数いたしな。例の疫病のせいで……リナの身体はひどい状態になった。唯一の肉親である俺ですら目を覆いたくなるようなほど」
「……」
彼と同郷であると言われた仲間は疫病の死者をたくさん目にしているのだろうか。そのときのことを思い出したように顔を苦痛に耐えるように歪めていた。
「あのときのミティアは疫病の感染者が多すぎて治せる見込みのない者はすぐに放り投げられていた。だから、リナがどれだけ苦しんでいても治療を試みる医師も処方される薬も何もなかった。エルリーナ様だけが、末期患者の苦痛緩和に動いてくれた」
「お母様が……」
「全身に膿疱があった酷い姿のリナに対しても健康な人間とまるで変わらないように話しかけてくれて、痛みを少しでも和らげようとしてくれた。あのときのエルリーナ様は俺たちには神様に見えたよ」
リカルドは変わらずに飄々と話しているが、皆が真剣にリカルドの話を聞いていた。
「リナを亡くしてから呆然として、目的もなくフラフラ生きていたところで同じような天涯孤独な仲間を作って、王家への反発のように、困窮する地域の脱税や所得隠しの手助けをしていた。王紋が浮かび上がったときに一番に力になってもらいたい相手として思いついたのが、エルリーナ様が話していた息子のレイだった」
「お母様が、リカルドをここまで導いてくださったのか……」
全てが終わった今になって明かされる、レイの母と、王紋をもつリカルド、そしてリカルドを全面的に支援し続けたレイの密かな繋がり。それぞれの出会いがまるで必然的なものであったかのように感じた。
「よし、せっかくの祝賀会だから、辛気臭い話はこれで終わりにしよう……って!おい!ラシアス!!」
リカルドの視線の先にいるラシアスはその眼から大量の涙を滝のように流していた。
「エルリーナは……エルリーナはほとんど強制的にミティアに派遣されたのだが、そこで、良い人物と巡り会え、治癒師としてこれほどに活躍することができたのだな……」
「ああ。少なくとも、俺たちが会ったエルリーナ様は無理やり働かされていたような悲観さはなかった。皆の治療が終わったら、『息子の元に帰る』って明るく言っていた」
「良かった。エルリーナのことだから、きっと最期まで気丈に振舞っていたと思っていた……思ってはいたが、生き証人にそう言ってもらえて、本当に良かった。エルリーナは不幸なまま亡くなったのではないのだな」
そのままラシアスはワッと男泣きしてしまう。そんなラシアスをレイは慰めるように背を撫でていた。
「レイ。黙っていて悪かったな。だが、俺はもうこれで隠し事はないぞ。……エルリーナ様の命を奪った俺たちを、ミティアの人間を恨んでいるか?」
リカルドの問いかけに、レイは静かに首を横にふった。
「ミティアの人間を恨む理由は何もない。それに、俺が恨むべく人間は……この戦いでもういなくなった」
レイの答えに、リカルド達はほっとしたようだった。
「ねえ、ミティアは今どうなっているの……?」
「病気を恐れてほとんどの人間が逃げ出したから、廃墟が広がっている。だが、せっかく王になったからには、またあの地に足を踏み入れて、村としてやっていける程度の環境にはしたいところだなあ」
リカルドがなぜ“衛生的な環境”を作ることに固執していたかが分かった。
「ほぼ不戦勝だったから分からないかもしれないけれど、レイはすごい魔力の持ち主よ。彼がいたら、この国で病気なんて流行らせないと思うわ。だから、きっとミティアも再生するわよ」
「そう、魔女殿。一体レイはどうしたのだ? レイが戦士たちを見たこともない速さで治癒していた。それで恐れをなして敵が逃亡していったこともあったほどだ。レイが数日姿をくらましていた時に魔女殿が何かしたのだろう?」
レイを鍛えただけの成果は得られたようだ。だが、その方法はあまり口外したくない。簡単に誰かに挑戦してもらいたくない。強い魔力をもった人間を作るために誰かが意図的にああいった行為を他人に強要するような最悪な事態は想像もしたくない。
「まあ、私が絡んでいることは認めるけど後は秘密」
「魔女殿! 禁断の人体実験に手を出したのか! 俺のレイが魔女殿に改造された……」
「レイはリカルドのものじゃないから! みんなの“白銀の天使”だから!」
最後は彼らしいいつもの軽い口調で締めくくられた。




