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リカルドが宣言した通り、あれから彼らはまた忙しなく働くことになった。
国を維持していくにはそうしても税を徴収することが必要だが、重税の苦しみを知っている彼らは平民の負担にならない程度のものを要求する。それが当たり前の姿なのだが、今まで酷い環境にいた者たちは大幅な減税にリカルドをより強く支持するようになった。
国のトップが変わったことにより、一部荒れた地域もあったようだが、リカルドの的確な指示により、それもすぐに鎮圧されていく。そうして皆はまたリカルドの行いに感動し熱狂していく者がどんどん増えていった。
信者が増えているのはリカルドだけではない。“白銀の天使”レイも、治癒師として自領だけでなく、国中全体を回って人々の病気や怪我を治癒したり、治癒師に指南をしたりしているらしい。治癒を施すことで、どうしても患者との物理的距離は近くなるため、レイの美しさに魅了され我を忘れて彼を熱望する人間が後を絶たないらしい。本人にそのつもりはなくとも、何とも罪作りな人である。
たまにそんな彼からの呼び出しでファリス領にお邪魔した際、国中の様子を報告してくれるが、話を聞くたびに国全体が良い方向に向かっている。リカルドの理想である、誰も飢えず、誰も生命や財を脅かされず、衛生的な環境で暮らせる国作りが進んでいることが分かった。
私たちは、というと忙しい彼らに対して申し訳なくなるほど退屈な日々を過ごしている。
今まで過労死ラインを大幅に超えるほど働いていたのに、一気に無職になってしまった気分だ。フレイヤやアレンも同様な感想をもっていた。
「なんか、やることがないって……落ち着きません」
「私もだ。耕すのが今までの5分の1で良いと言われても、何だか物足りない」
「いやいや、私たち働きすぎたのだから、その分しっかり休みましょう! 今までの異常な日々はリセットして、正常な感覚を取り戻しましょう!」
定期的に開かれていた会議も緊急性がほとんどないため、2ヶ月に1回行われるようになった。私は、時間に余裕ができたアレンとフレイヤを伴ってそれに参加するようになった。
そこで今回は、リカルドは誰にどのような爵位を与え、どこの地を任せるのかを発表する予定だ。
これまでの功績や国民からの根強い支持により、レイのファリス家は公爵の位を叙されることとなり、与えられた領地も今までと比べ物にならないほどの広さを誇る。名実ともにファリス家は筆頭公爵家である。
「公爵……。責任重大ですね」
「おう。俺が爵位や領を与えるってことは俺の多大な期待に応えてもらう義務も追うからな。位が高いほど、俺の馬車馬ってことだ」
リカルドはそう言って茶化す。彼は次々に貴族となる人間の名を読み上げていくが、どれも納得の人選であった。人を見る目があるのも王紋をもつ者故だろうか。
「それで、次はアレンだな」
「えっ!? 僕!?」
「アレンも公爵。治めてもらう土地は北の方にあるルインダだ」
急に名前を呼ばれたアレンだが、私の予想に反してその顔は怪訝な表情を顕にしていた。
「それは……本当にリカルドさんが決めたことですか?」
アレンは立ち上がると、リカルドを真っ直ぐに見つめた。
「……? 当然、そうだが?」
「リカルドさんは……リカルドさんの交友関係やこれまでの貢献度によって与える領地を決めるのではなく、本人が領や民を治める資質があるかどうかで決めると聞いています。僕が、本当にそれだけのことができる人間だとリカルドさん本人が認めたのですか?」
「あー……」
今回のアレンに爵位を叙する行為は、間違いなく私が以前報酬として請求したものだ。アレン本人に自分の意思ではないと断言するのも憚るようで、リカルドは(どうする?)とアイコンタクトを私に送ってくる。
「アレン。私がリカルドに頼んでいたの。皆が王都に向かっている間、ファリスの領を守る代わりに、アレンに相応の地位を与えて欲しいと」
「師匠……」
アレンは私の方を振り返ると、立腹していることを隠そうともしないで私に感情をぶつけてきた。
「僕はリカルドさんに地位を与えてもらわないと、自分で立っていけないような男だと師匠は思っていたのですか?」
「違うわ! 私はアレンから恩を十分返してもらったもの。今回、リカルドたちを助けると決めたのは完全に私情だから。それに2年近くもずっとアレンは付き合ってくれた。だから、私の家を出ていくとき……少しでもアレンの目の前にある道がたくさんあった方が良いと思ったの」
「違いません。それは、僕に対する甘やかしです。僕はリカルドさんたちの、自分たちの道を自分たちで切り開く姿を見て感銘を受けました。僕もそうでありたいと思うほどに。だから、自分の生きる道は自分で決めていきます。師匠が用意をしてくれなくても、僕の前には無限の可能性が広がっているのですから、自分の足で歩いていきます」
「アレン……」
出会ったばかりのころ、小動物を彷彿させるような無邪気で少し世間知らずであった少年ではなく、知見を広め成長していこうとしている逞しい青年が目の前にいた。
「ごめんなさい。あなたの気持ちを無視して、先走りすぎてしまったわ」
「いえ、こっちも師匠相手に大きな声を出してすみません。僕が師匠に危なっかしいと判断させるのがいけませんでした。……でも、師匠を安心させますね」
「え? 安心?」
「リカルドさん! 僕に爵位を云々の話は完全に流れましたね?」
「ああ。でも今のアレンなら、俺の意思として、子爵ぐらいを叙して領を任せてみたいと思えるぞ」
「いいえ、結構です。僕は師匠の元から独り立ちをして、自分の食い扶持は自分で見つけます。早速ですが、僕を宮廷料理人として雇っていただけませんか? もちろん、師匠の口添えは無しなので、僕の実力が不足していると思ったら契約しなくて結構です」
「大歓迎だ」
本当にあなたはアレンなの? と尋ねたくなるほど流暢にリカルド相手に交渉をしているアレンを呆然と見つめていた。彼との契約を結んだ瞬間、ワッと周囲も歓喜に沸いた。皆、アレンの絶品料理をこれからも食べることができると思うと嬉しいのだろう。私は寂しいが。
「師匠、今までありがとうございました。僕は料理人という天職を見つけたので、これから僕の故郷の料理とかこの地の料理、あとは師匠の国の料理をもっと勉強して……食を通して人同士のつながりができるよう、精進していこうと思います」
「アレン……! 分かったわ」
アレンの巣立ちを思い切り応援しないといけない。だが、3年以上一緒に暮らしたアレンとの別れが突然すぎて、話の流れに乗ることができなかった。でも、師匠として彼を気持ちよく送り出さないといけない。
「アレン、寂しいけれど、あなたの門出を応援するわ……。元気に暮らしてね」
「え?」
「え?」
お互いに相手は何を言っているのだ状態にまた陥ったようだ。
「師匠! 僕を追い出すつもりなのですか!?」
「え、独り立ちってことは私たちの家からも出て行くってことじゃないの!?」
「嫌ですよ! 王宮で働きますが、僕を家に置いておいてください!」
「……さっきの感動を返してほしいわ」
アレンの完全独立はもう少し先の話になりそうだ。




